この記事の要点
- クレアチンと筋力トレーニングを組み合わせると、閉経後女性の骨密度は守られるのか。カナダとブラジルで行われた4つの試験を一次資料で読みます。
- ①33人が完遂した12か月の試験では、クレアチン群のほうが大腿骨頸部の骨密度の低下がゆるやかでした(-1.2% vs -3.9%)。
- ②同じ研究グループが237人・2年間に規模を広げて追試したところ、骨密度そのものには差がありませんでした。ただし骨の「曲げ強度」を示す形状の指標は維持されました。
- ③ブラジルの別の研究グループが200人・2年間で行った試験でも、骨密度・骨マーカー・転倒骨折数のいずれにも差はありませんでした。
- ④70人・1年間の試験では、骨密度(骨のミネラル量)ではなく骨の面積にクレアチンの効果が見られましたが、性別で結果が分かれました。
- 4試験を並べると、「骨密度そのものを増やす」という主張は大規模試験では裏づけられていません。
クレアチンは「筋肉に働きかけるサプリメント」として広く知られていますが、「骨にも良い」という主張を見かけることがあります。田園生活ではこれまで記憶力への効果と筋トレ効果への上乗せを一次資料で読んできました。今回は「骨密度」という角度から、閉経後の女性を対象にカナダとブラジルで行われた4つの試験を確認します。閉経後は骨量が急速に減りやすい時期で、筋力トレーニングにクレアチンを足すことでその流れに抵抗できるのか、という実践的な問いです。
読む一次資料
| 資料 | 対象・期間 | 検証した論点 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| ① Chilibeck PD, Candow DG, Landeryou T, Kaviani M, Paus-Jenssen L. Med Sci Sports Exerc 2015;47(8). カナダ・サスカチュワン大学+リージャイナ大学 | 閉経後女性47人登録(33人完遂)・12か月 | クレアチン+筋トレで骨密度の低下を抑えられるか(予備的な小規模試験) | 有料(要旨のみ) |
| ② Chilibeck PD, Candow DG, Gordon JJ, Duff WRD, Mason R, Shaw K, Taylor-Gjevre R, Nair B, Zello GA. Med Sci Sports Exerc 2023;55(10). カナダ・サスカチュワン大学+リージャイナ大学 | 閉経後女性237人・2年間 | ①と同じ研究グループが規模を拡大して行った追試 | 無料(全文公開) |
| ③ Sales LP, Pinto AJ, Rodrigues SF, Alvarenga JC, Gonçalves N, Sampaio-Barros MM, Benatti FB, Gualano B, Rodrigues Pereira RM. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2020;75(5). ブラジル・サンパウロ大学 | 骨減少症のある閉経後女性200人・2年間 | ①②とは別の独立した研究グループによる検証 | 有料(要旨のみ) |
| ④ Candow DG, Chilibeck PD, Gordon JJ, Kontulainen S. Med Sci Sports Exerc 2021;53(11). カナダ・リージャイナ大学+サスカチュワン大学 | 高齢者70人(男性39人・女性31人)・1年間 | 骨密度ではなく骨の面積・形状にクレアチンが与える影響、性差の有無 | 有料(要旨のみ) |
①②④はカナダ・サスカチュワン大学とリージャイナ大学のPhilip Chilibeck博士とDarren Candow博士の研究グループによるもので、共著者が重なっています。③はブラジル・サンパウロ大学のLucas Sales博士らによる、まったく別の独立した研究グループの試験です。②のみ全文が無料公開されており、それ以外は要旨に明記された数値のみを扱います。
設計=すべて筋力トレーニングをしたうえでクレアチンの有無を比べる
4試験に共通するのは、全員が筋力トレーニングを行ったうえで、クレアチンかプラセボかを二重盲検で比較するという設計です。「クレアチンを飲むだけで骨が強くなるか」を調べたものではありません。
| 試験 | 用量 | 運動内容 | 期間 |
|---|---|---|---|
| ①(2015) | 0.1g/kg/日 | 週3回の筋トレ | 12か月 |
| ②(2023) | 0.14g/kg/日 | 週3回の筋トレ+週6回のウォーキング | 2年間 |
| ③(2020) | 3g/日(固定量) | 記載なし(要旨レベルでは運動内容の詳細不明) | 2年間 |
| ④(2021) | 0.1g/kg/日 | 週3回の全身筋トレ | 1年間 |
⚠️用量が試験ごとに異なり(体重比0.1g/kg/日・0.14g/kg/日・固定3g/日)、③は要旨からは運動プログラムの詳細まで確認できません。単純に「同じ条件を試験ごとに繰り返した」わけではない点に注意が必要です。
結果① 12か月・33人の予備的な試験では骨密度の低下がゆるやかだった
もっとも早い時期に行われたこの試験では、47人が登録され、12か月後に33人(クレアチン群15人・プラセボ群18人)が解析されました。
| 指標 | クレアチン群 | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 大腿骨頸部の骨密度の変化率 | -1.2% | -3.9%(P<0.05) |
| 大腿骨幹の骨膜下幅(曲げ強度の予測因子) | 増加 | 減少(P<0.05) |
| ベンチプレスの相対筋力の伸び | +64% | +34%(P<0.05) |
| その他の指標(全身骨密度・除脂肪量など) | 両群に差なし | |
クレアチン群は骨密度が「増えた」わけではなく、減り方がプラセボ群よりゆるやかだったという結果です。肝機能・腎機能の異常は両群とも報告されていません。ただしこの試験は登録47人中14人が脱落し、解析対象は33人と少人数です。
結果② 同じ研究グループが237人・2年間で追試すると、骨密度そのものには差がなかった
①を行ったChilibeck博士とCandow博士の研究グループは、自ら規模を大きくして追試を行いました。237人が登録され、週3回の筋トレに加えて週6回のウォーキングを組み合わせた2年間の試験です。
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 大腿骨頸部・大腿骨全体・腰椎の骨密度 | いずれもクレアチン群とプラセボ群で差なし |
| 断面係数(骨の曲げ強度の予測指標) | クレアチン群のほうが有意に維持(P=0.0011) |
| 座屈比(圧縮荷重に対する強さの指標) | クレアチン群のほうが有意に良好(P=0.011) |
| 80m歩行時間 | クレアチン群で有意に短縮(P=0.0008) |
| ベンチプレス・ハックスクワットの1RM | 差なし |
| 除脂肪量 | 全体では差なし。試験を完遂した人だけのサブ解析では有意差あり(P=0.046) |
| 転倒(3年間の累計) | クレアチン群30件・プラセボ群19件(P=0.24=有意差なし) |
| 骨折(3年間の累計) | 両群とも4件ずつ。運動介入との関連は認められず |
①では骨密度の低下がゆるやかになりましたが、237人・2年間という大規模な追試では、骨密度そのものへの効果は再現されませんでした。一方で、骨密度の数値には表れない「骨の形状・強度」を示す指標(断面係数・座屈比)には差がついています。研究チームはこれを「骨密度という単一の指標だけでは骨の変化を捉えきれない可能性がある」と位置づけています。腎臓に関連する有害事象は20件(15人)報告されましたが、いずれも治験担当医により通常のフォローの範囲内と判断されています。
結果③ ブラジルの独立した研究グループは、骨密度にも骨マーカーにも差を見出せなかった
①②とは別の研究チームが、骨減少症のある閉経後女性200人を対象に、3g/日という固定用量で2年間の試験を行いました。
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 腰椎・大腿骨頸部・大腿骨全体の骨密度 | 時間とともにいずれも減少したが、クレアチンとプラセボの間に交互作用なし(すべてP>0.05) |
| 骨代謝マーカー・骨の微細構造 | 変化なし |
| 転倒・骨折の件数 | 変化なし |
| 除脂肪量・四肢骨格筋量 | 両群とも増加したが、クレアチンによる上乗せなし(P=0.731・P=0.397) |
この論文の結論は明確で、「2年を超えるクレアチン補給は、骨減少症のある高齢の閉経後女性において骨の健康を改善せず、除脂肪量や筋機能にも影響しなかった。これは、このサプリメント単独に骨形成・同化作用があるという長年の通念を覆すものである」と述べています。①②とは異なる国・異なる研究グループによる大規模試験で、より否定的な結論が出た形です。
結果④ 骨密度ではなく「骨の面積」に着目すると、性別で結果が分かれた
4つ目の試験は、骨密度(ミネラルの量)ではなく骨の面積・形状に着目し、末梢部位用のCT(pQCT)で測定したものです。男女70人(男性39人・女性31人)が参加しました。
| 指標 | クレアチン群 | プラセボ群 |
|---|---|---|
| 遠位脛骨の全骨面積 | +17±27mm² | -1±22mm²(P=0.031) |
| 脛骨骨幹の骨面積 | 0±9mm² | -5±7mm²(P=0.032) |
| 橈骨(前腕の骨) | 両群に変化なし | |
| 下腿の筋密度 | +0.83±1.15mg/cm³ | -0.16±1.56mg/cm³(P=0.016) |
⚠️男女別に見ると結果はさらに込み入っています。男性のクレアチン群では海綿骨面積が有意に増加(+28±31mm²・P<0.001)しましたが、男性のプラセボ群では海綿骨の「密度」が有意に増加(+2±2mg/cm³・P<0.01)しており、クレアチン群では見られませんでした。同じ骨でも「面積が増える」経路と「密度が増える」経路が群によって分かれたという、単純に「クレアチンが勝った」とは言えない結果です。
4試験を並べて見えること
| 試験 | 人数・期間 | 骨密度への効果 | 骨の形状・面積への効果 |
|---|---|---|---|
| ①2015(予備的) | 33人完遂・12か月 | 低下がゆるやかに | 骨膜下幅が増加 |
| ②2023(同グループの追試) | 237人・2年 | 差なし | 断面係数・座屈比は維持 |
| ③2020(独立グループ) | 200人・2年 | 差なし | 測定なし(微細構造も差なし) |
| ④2021(性差検討) | 70人・1年 | 測定なし(面積・密度を個別に測定) | 面積は増加、密度は男性で群間に差 |
並べて見えるのは、小規模な予備的試験(①)で見られた良い兆候が、同じ研究グループの大規模な追試(②)でも、まったく別の独立した研究グループの試験(③)でも、骨密度そのものについては再現されなかったという流れです。一方で、骨密度という単一の数値には表れない骨の「形状」や「面積」の指標には、複数の試験で部分的な効果が見られています。「クレアチンは骨密度を増やす」と言い切ることはできませんが、「骨に何の影響もない」と言い切ることもできない、という中間的な状況です。
この研究が言えないこと
1. 4試験は直接比較試験ではない
用量(0.1g/kg/日・0.14g/kg/日・3g/日固定)、運動プログラム、期間(1〜2年)がそれぞれ異なる、独立した4つの試験です。同一の条件で再現性を検証したものではありません。
2. 骨密度そのものへの効果は、規模の大きい2試験(②③)で確認されなかった
合計437人分のデータで、骨密度への上乗せ効果は見出されていません。①の良い結果は33人という少人数の予備的な段階のものでした。
3. 骨の形状・面積の指標が改善しても、骨折リスクが下がるとは限らない
断面係数や骨面積は骨折リスクの「予測因子」として研究で使われていますが、これらの指標の変化が実際の骨折件数の減少につながるかどうかは、今回の4試験のどれも直接には証明していません。②の骨折件数は両群とも4件ずつで、差を検出できるだけの症例数ではありません。
4. 対象はすべて海外の閉経後女性(④のみ男女混合)
カナダとブラジルで行われた試験であり、日本人集団のデータではありません。食習慣・体格・骨密度の基準値が異なる可能性があります。
5. 転倒・骨折の実数が少なく、統計的な検出力が乏しい
②の転倒はクレアチン群30件・プラセボ群19件で差が出ていますが、P=0.24と有意差はありません。母数が少ないため、実際に差があるのかどうかをこの試験だけで判断することはできません。
6. ③はクレアチンを製造する企業から研究助成を受けている
③の資金源には、ブラジルの公的研究助成機関に加えて、クレアチン製造企業のAlzChem社が名を連ねています。論文自身がこの点を開示したうえで、それでも骨への効果を認めない結論を出しています。開示されていること自体は不正ではありませんが、記事としては明記しておきます。
7. ①③④は要旨のみが公開されており、詳細な統計手法までは確認できない
本文が有料であるため、群間差の検定方法や欠測データの扱いなど、要旨に書かれていない詳細は確認できていません。
8. いずれも中〜高齢の閉経後の集団であり、若い女性や閉経前の集団への一般化はできない
骨密度が急速に減少しやすい閉経後という時期に限定した結果です。異なる年代・性別で同じ結果になるとは限りません。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- 4試験を並べると、「クレアチンを飲めば骨密度が増える」という単純な主張は、規模の大きい試験では裏づけられていません。予備的な小規模試験の良い結果が、追試で再現されないというのは薬理・栄養学の研究ではよくあることで、今回もその典型例に見えます。
- それでも骨の「形状」に関する指標(断面係数・骨面積など)には、複数の試験で部分的な変化が見られています。骨密度という一つの数字だけで「効果なし」と断定するのも、逆に言い過ぎかもしれません。
- いずれの試験も、クレアチン単独ではなく筋力トレーニングを行ったうえでの比較です。骨の健康を考えるなら、まず土台となるのは筋トレそのものであり、クレアチンはその上に乗せるかどうかを検討する位置づけと言えそうです。
- 閉経後の骨密度管理は医学的な判断が必要な領域です。骨粗しょう症のリスクがある方は、サプリメントの使用を含めて医療機関に相談することをおすすめします。
まとめ
クレアチンと筋力トレーニングを組み合わせた場合の骨への効果を検証した4つの試験を読みました。もっとも早い予備的な試験(33人・12か月)では骨密度の低下がゆるやかになりましたが、同じ研究グループが237人・2年間で行った追試でも、ブラジルの独立した研究グループが200人・2年間で行った試験でも、骨密度そのものへの効果は確認されませんでした。一方で、骨の「形状」や「面積」を示す指標には、複数の試験で部分的な変化が見られています。骨密度という単一の指標だけを見れば「効果は再現されなかった」というのが、現時点でもっとも誠実なまとめ方だと考えます。
出典(一次資料)
- Chilibeck PD, Candow DG, Landeryou T, Kaviani M, Paus-Jenssen L. "Effects of Creatine and Resistance Training on Bone Health in Postmenopausal Women." Med Sci Sports Exerc 2015;47(8):1587-1595. europepmc.org/article/MED/25386713
- Chilibeck PD, Candow DG, Gordon JJ, Duff WRD, Mason R, Shaw K, Taylor-Gjevre R, Nair B, Zello GA. "A 2-yr Randomized Controlled Trial on Creatine Supplementation during Exercise for Postmenopausal Bone Health." Med Sci Sports Exerc 2023;55(10):1750-1760. pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10487398
- Sales LP, Pinto AJ, Rodrigues SF, Alvarenga JC, Gonçalves N, Sampaio-Barros MM, Benatti FB, Gualano B, Rodrigues Pereira RM. "Creatine Supplementation (3 g/d) and Bone Health in Older Women: A 2-Year, Randomized, Placebo-Controlled Trial." J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2020;75(5):931-938. europepmc.org/article/MED/31257405
- Candow DG, Chilibeck PD, Gordon JJ, Kontulainen S. "Efficacy of Creatine Supplementation and Resistance Training on Area and Density of Bone and Muscle in Older Adults." Med Sci Sports Exerc 2021;53(11):2388-2395. europepmc.org/article/MED/34107512
※①③④は本文が有料で、要旨に明記されている範囲の数値のみを扱っています。②のみ全文が無料公開されています。②の資金はカナダ保健研究機構(CIHR、助成番号130235)。③の資金はブラジルの公的研究助成機関に加え、クレアチン製造企業のAlzChem社が名を連ねています。①④は要旨レベルでは資金源の記載を確認できませんでした。