「ジムに通う人が明らかに減った気がする」「お気に入りの筋トレYouTuberの再生数が、以前の半分以下になっている」——もしかして、あなたもそんな変化を肌で感じていませんか?
一時期、日本中を熱狂させた「筋トレバブル」は、静かに、しかし確実に終わりを迎えました。高須幹弥氏が指摘するように、ハードなジムの倒産や筋肉系コンテンツの低迷は一時的な現象ではなく、構造そのものが変わったのです。ただ、これは単なる「ブームの終焉」ではありません。言うなれば、日本全土を巻き込んで行われた「筋肉特殊部隊の選抜コース」が幕を閉じた、ということなのです。
この過酷な選抜において、流行に乗っただけの人たちは次々と脱落していきました。一方で、筋トレを歯磨きと同じように「日常の生活習慣」として血肉化させた本物の求道者だけが、今も静かにトレーニングを続けています。今回は、このブームの裏側にある、少しシニカルな真実を見ていきましょう。
1. 筋トレブームは「特殊部隊の選抜訓練」だった
米海軍特殊部隊「NAVY SEALs」の選抜訓練には、「ヘルウィーク(地獄の週間)」と呼ばれるフェーズがあります。睡眠を奪われ、極限まで肉体を追い詰められた志願者の大半は、自ら鐘を鳴らしてリタイアしていきます。
振り返ってみれば、ここ数年の日本の筋トレブームは、この「ヘルウィーク」を一般社会で再現したようなものでした。ライザップの衝撃的なCMから始まり、コロナ禍の自粛ストレスが燃料となって爆発した筋肉信仰。「仕事ができる人は筋トレしている」「貯金より貯筋」といったキャッチコピーに背中を押され、多くの人が過酷な選抜コースへと志願していったのです。
週5日ジムに通い、鶏むね肉とブロッコリーを食べ続け、プロテインを水で流し込む生活。これを数年間続けた結果、何が起きたでしょうか。志願者たちの前に立ちはだかったのは、教官よりも冷酷な「コスパ・タイパの壁」と「遺伝子の限界」という現実でした。
2. 脱落した人たちが直面した現実:コスパの悪さに気づいた瞬間
ブームに乗って、SNSで「#筋トレ男子」「#ワークアウト」とハッシュタグを連投していた人たち。その多くが、静かにフェードアウトしていきました。
彼らが筋トレを始めた動機は、実は健康のためでも肉体の探求でもなく、「他者からの承認」と「自己顕示欲」だったのかもしれません。最初の1〜2年は、いわゆる「初心者ボーナス」によって、効率の良くないトレーニングでもみるみる筋肉がつき、重量も伸びていきます。そうですよね、あの頃は「このまま行けば理想の体になれる」と期待に胸が膨らんだものです。
しかし、選抜コースは甘くありません。3年目に入ると成長はピタリと止まります。そこからさらに1cm腕を太くするには、これまでの数倍の努力と、緻密な食事管理、そして何より「遺伝子の壁」を超えなければなりません。おまけに、憧れていたトップYouTuberの中には、実はステロイドという薬物を使っていた人がいた、という事実も明らかになってきました。
ここで、承認欲求だけで動いていた人たちの思考が変わります。
「待てよ。これだけ苦しい思いをして、お金をかけて、もし1ヶ月サボったら元に戻るって、めちゃくちゃコスパ悪くない?」
語学やIT資格の勉強なら、一度得た知識は簡単には消えない「資産」になります。でも筋肉は、維持費(トレーニングと食事代)を払い続けなければ一瞬で失われてしまう、ある意味「借金」のようなもの。このタイパ・コスパの厳しさに気づいた瞬間、表面的なモチベーションは霧散しました。ジムの鏡の前で自撮りを繰り返していた新参者たちは、こうして静かに選抜コースから去っていったのです。
3. 生き残った「特殊部隊員」たち:筋トレを日常のインフラにした人々
一方で、この選抜試験をパスし、今もなお淡々とジムに通い、あるいは自宅で汗を流している人たちがいます。彼らこそが、選抜を生き残った真の「筋肉特殊部隊員」と呼べるでしょう。
彼らにとって、筋トレはもはや盛り上がるイベントでもなければ、SNSで自慢するためのツールでもありません。朝起きて顔を洗い、夜に歯を磨くのと同じ、人生の「インフラ(生活習慣)」として完全に組み込まれているのです。
彼らは「過度なハードトレーニングは活性酸素を増やし、免疫力を下げ、むしろ寿命を縮める可能性がある」という科学的知見も冷静に受け入れています。だからこそ、ステロイドに手を染めて自己破壊的な体を目指すようなことはしません。週に2〜3回、1回30分程度、自分の健康と動ける体を維持するために、淡々と適切な負荷をかけていきます。
ブームが去り、ガチ勢向けの高級ジムが経営難に陥ろうが、筋肉系YouTuberがネタ切れでバラエティ企画に走ろうが、彼らの日常には何の影響もありません。なぜなら、彼らは「他人の視線」ではなく、「自分自身の体との対話」のために動いているからです。派手なゴールドジムから、チョコザップのような手軽な24時間ジム、あるいは近所の公園の鉄棒へと場所を移し、スマートに最適化されたフィットネスを続けています。
総括:バブルが弾けて、ようやく本物の時代がやってきた
あらゆる流行にはサイクルがあります。タピオカ、サウナ、高級食パン。大衆が群がり、市場が異常に肥大化し、やがて飽きられて適正規模へと縮小する。今回の筋トレバブルの崩壊も、それらと同じステップを踏んだに過ぎません。
ただ、このバブル崩壊は決して悲観すべきことではないと思います。むしろ、ジムで大声を出して騒ぎ、撮影のためにマシンを長時間占有していた「承認欲求モンスター」たちが一掃されたことで、日本のフィットネス環境は劇的に健全化しました。
もしあなたが、ブームに乗って始めたけれど途中で離れてしまったなら。そして今、鏡に映る自分の体を見て、わずかでも後ろめたさを感じるなら、それはあなたが「他人の流行」に依存していた証拠かもしれません。
特殊部隊の選抜試験は終わりました。これからは、見栄を捨て、他人の目を排除し、ただ「自分の生活習慣」として静かに体をマネジメントできる本物の大人だけが、健康という最大のリターンを享受する時代なのです。

