この記事の要点
- 1988〜1990年に40〜79歳だった日本人4万8479人を、中央値で約19年追いかけた大規模な追跡調査(JACC研究)のデータを、三重大学などのグループが分析した論文です。
- 米・みそ汁・漬物・緑黄色野菜・海藻・魚・緑茶をよく摂り、牛肉・豚肉が少ない食べ方に点数をつけた「和食度」(0〜8点)が最も高い群は、最も低い群より、全死亡が約7%、心臓や血管の病気による死亡が約14%低いと報告されています。
- この傾向は、都市部・平地・山間部・海沿いのどの居住地域でも同じ向きでした。ただし地域ごとの数字は「参考値」の扱いです。
- 食べ方と死亡の「関連」を見た観察研究です。和食にすれば寿命が延びると証明したものではありません。差も小さく(7%)、計算の前提を変えると信頼区間が1にかかる分析もあります。
「和食は健康にいい」とよく言われますが、その根拠として何が示されているのでしょうか。今回読むのは、日本人4万8千人あまりを約19年追いかけた追跡調査を使い、和食に近い食べ方をしている人ほど亡くなるリスクが低いかを調べた2026年の論文です。特徴は、住んでいる場所(海沿い・都市部・山間部など)が違っても同じ傾向が見えるかまで確かめている点です。数字の大きさと、この研究が言えないことを整理して読みます。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Shimizu A, Tomata Y, Miyazaki J, Kimura T, Wakai K, Momosaki R; JACC Study Group. "Japanese Dietary Pattern and All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality Across Diverse Topographical Settings: The Japan Collaborative Cohort Study." Geriatrics & Gerontology International. 2026;26(8):e70810. doi:10.1111/ggi.70810 |
| 実施機関 | 三重大学大学院医学系研究科(リハビリテーション医学)、神奈川県立保健福祉大学、国立循環器病研究センター、国立環境研究所、名古屋大学大学院医学系研究科(予防医学)ほか(JACC研究グループ) |
| 研究の種類 | 前向きコホート研究(=大勢の人を最初に調べたあと、長期間そのまま追いかけて、亡くなった人を数える調査) |
| 入手性 | オープンアクセス(全文無料)。PubMed Central 掲載ページで全文を確認しました。 |
著者は全員ローマ字表記のみで漢字が確認できないため、本文では個人名を出しません。JACC研究は、全国各地の市町村で1988〜1990年から住民の生活習慣を調べ、死亡の記録と結びつけて追跡してきた調査です。
設計──「和食度」を0〜8点で採点し、約19年追いかける
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 1988〜1990年の調査時点で40〜79歳。食事データのある8万365人のうち、エネルギー摂取量が極端(1日500kcal未満または3500kcal超)・採点に必要な情報が足りない・心血管病の既往がある人を除いた4万8479人(除外は約3万2千人) |
| 食事の調べ方 | 自分で記入する食物摂取頻度調査(約40項目)。85人で、1年後の再調査と12日間の食事記録との一致度を確かめてあります |
| 和食度の点数(JDI-8) | 米・みそ汁・漬物・緑黄色野菜・海藻・魚・緑茶は「男女別の中央値以上」で各1点、牛肉・豚肉は「中央値未満」で1点。合計0〜8点 |
| 追跡期間 | 中央値19.2年。この間に全死亡9304人、心臓や血管の病気による死亡2685人(対象4万8479人の約19%と約6%) |
| 比べ方 | 点数で4群に分け(人数は均等ではありません)、最も低い群(Q1)を基準に最も高い群(Q4)を比較。年齢、性別、エネルギー摂取量、体格、喫煙、飲酒、睡眠時間、学歴、運動、歩く時間、ストレス、既往症など多数を統計的に揃えた |
| 結果の表し方 | ハザード比(HR)=基準の群と比べた、ある時点での死亡の起こりやすさの比。1より小さいほど死亡が少ない。「95%信頼区間」が1をまたぐと、偶然の範囲を超えたとは言いにくい |
なお、点数の区切りは調査対象者の男女別の中央値なので、「みそ汁を毎日飲むか」といった絶対的な基準ではなく、この集団の中でどちらが多いか少ないかで採点されています。
結果① 和食度の高い群は、全死亡も心臓・血管の病気による死亡も低い
| 比較(Q4 vs Q1) | ハザード比 | 95%信頼区間 | 傾向のP値 |
|---|---|---|---|
| 全死亡 | 0.929 | 0.872〜0.990 | 0.034 |
| 心臓・血管の病気による死亡 | 0.862 | 0.766〜0.970 | 0.023 |
Q1は和食度が最も低い群(点数の中央値3)、Q4は最も高い群(同7)。Q2・Q3の数値は本文に無く図のみのため、この表には載せていません。
数字だけを見ると、全死亡は約7%、心臓や血管の病気による死亡は約14%低いという大きさです。ただし、これは「食べ方の点数の高い群と低い群を比べたときの比」であり、点数を1点上げると個人の寿命が何年延びる、という意味ではありません。信頼区間の上限も0.990、0.970と1に近く、「はっきり大差がついた」というより「小さいが一貫した差が見えた」という程度の結果です。 また、点数の高い群と低い群は、食事以外の点でも違っていました。
| 調査開始時の特徴 | 点数が最も低い群(Q1) | 点数が最も高い群(Q4) |
|---|---|---|
| 人数 | 17,390人 | 9,027人 |
| 平均年齢 | 54.5歳 | 57.8歳 |
| 現在喫煙している人 | 26.6% | 23.1% |
| 強いストレスがある人 | 24.5% | 18.8% |
| 週5時間以上スポーツをする人 | 4.7% | 7.1% |
| 1日1時間以上歩く人 | 11.9% | 7.7% |
| 1日のエネルギー摂取量(平均) | 1,379kcal | 1,797kcal |
論文Table 1より(多重補完後の推定値)。
点数の高い群は、喫煙やストレスが少なく、スポーツをする人が多い一方、歩く時間は短めで、年齢はやや高い、というように向きがそろっていません。論文はこうした違いを統計的に揃えたうえで上の数字を出していますが、測っていない要因が残る可能性は否定できません(後述)。
結果② 計算の前提を変えても、向きは変わらない(ただし幅は広がる)
| 分析の条件 | 全死亡(HR) | 心臓・血管の病気による死亡(HR) |
|---|---|---|
| 基本の分析 | 0.929(0.872〜0.990) | 0.862(0.766〜0.970) |
| 食事を1回しか調べていない誤差を補正 | 0.918(0.853〜0.989)〜0.840(0.722〜0.977) | 0.841(0.734〜0.965)〜0.702(0.530〜0.930) |
| 推定塩分摂取量もさらに調整 | 0.919(0.861〜0.982) | 0.833(0.738〜0.940) |
| 体格・糖尿病・高血圧を調整から外す | 0.939(0.881〜1.001) | 0.889(0.790〜1.000) |
| 追跡中に転居した1,664人を除く | 0.926(0.869〜0.986) | 0.858(0.763〜0.966) |
| 転居を別の要因として扱う保守的な計算 | 0.948(0.891〜1.009) | 0.907(0.807〜1.020) |
論文本文の記載から作成。誤差補正の範囲は、食事調査の再現性(0.86〜0.42)をどう仮定するかによる幅。
「みそ汁と漬物は塩分が多いのに、和食度が高いと死亡が少ないのはなぜか」という疑問には、推定した塩分摂取量を追加で調整しても数字はほぼ変わらなかった(表の3行目)と論文は述べています。ただし、塩分も食事調査(食物摂取頻度調査)からの推定値なので、正確に測った塩分ではありません。
一方、表の下の2行は見方が分かれます。体格・糖尿病・高血圧を調整から外した分析では、全死亡の信頼区間の上限が1.001、心臓・血管の病気による死亡では1.000と、ちょうど「差なし」の線にかかります。また、転居を別の要因として扱う保守的な計算では、どちらも信頼区間が1をまたぎます。著者らも、この計算は「方向は同じだが、差が小さくなる」と書いています。基本の結果は、分析の置き方によっては、統計的にははっきりしなくなる程度の差だと読むのが妥当です。
結果③ 海沿いでも山間部でも都市部でも、同じ向き。ただし中身は地域で違う
| 項目 | 都市部の内陸 | 平地・中間地の内陸 |
|---|---|---|
| 和食度の平均点 | 4.58点 | 5.47点 |
| 最も低い群(Q1)に入る割合 | 47.0% | 25.1% |
| みそ汁を中央値以上摂る人 | 52.8% | 87.7% |
| ごはんを中央値以上摂る人 | 63.0% | 79.2% |
| 魚を中央値以上摂る人 | 49.4% | 61.2% |
論文本文の記載より。居住地は海沿い/都市部の内陸/平地・中間地の内陸/山間部の内陸の4区分(33市町村)。海沿いの人は魚、山間部の人は漬物の摂取が多いと報告されています(漬物の中央値以上:山間部64.9%、海沿い51.0%)。
居住地域によって和食度と死亡の関連が変わるかを統計的に検定したところ、地域による違いは有意ではありませんでした(全死亡P=0.246、心臓・血管の病気による死亡P=0.185)。地域別に切って見ると、最も関連が強く見えたのは都市部の内陸で、心臓・血管の病気による死亡のハザード比は0.614(0.459〜0.822)でした。ただし論文は、この地域別の数字を「仮説をつくるための参考値」と明記しています。都市部は点数のばらつきが大きく(変動係数36.7%)、差が検出されやすかった可能性や、他の地域では人数・死亡数が少なく推定が不安定な可能性が挙げられています。
もう一つの見どころは、同じ点数でも中身が地域で違うことです。都市部ではみそ汁・ごはん・魚の摂取が少なく、海沿いは魚、山間部は漬物が多い、という具合に、点数の合計が似ていても「何を食べて点数を稼いでいるか」は地域で異なります。論文は、和食の勧め方に地域の食材や暮らしを考慮する余地があると述べています。
資金と利益相反
- 資金は、文部科学省の科学研究費補助金(がん・がん疫学に関する重点領域研究などの複数課題)と、日本学術振興会の科研費(23K16799)です。
- 論文は利益相反なしと明記しています。企業からの資金提供の記載は確認できませんでした。
この研究が言えないこと
- 観察研究であり、和食に近い食べ方をすれば死亡が減る、という因果関係を証明したものではありません。和食度の高い人は、喫煙やストレスが少なく、スポーツをする人が多いなど、生活全般が違っていました。多くの要因は統計的に揃えられていますが、測っていない要因(経済状況、医療へのかかりやすさ、食事の質以外の生活習慣など)が残る可能性を論文自身も認めています。
- 差は小さいです。全死亡で約7%、心臓・血管の病気による死亡で約14%の差であり、個人に当てはめて「この食べ方で何年長生きする」とは言えません。
- 食事を調べたのは調査開始時の1回だけです。その後約19年のあいだ食べ方が変わった人は多いはずで、変化は反映されていません(論文は、この誤差のせいで差が実際より小さく見えている=結果は控えめな可能性があると考えていますが、これは補正の前提を置いた試算です)。また、この食事調査は食べ物の順位をつける用途には向くものの、摂取量を正確に測るものではありません(栄養素との相関は0.20〜0.46と論文に記載)。
- 和食度の点数は、この集団の中央値で区切ったものです。他の集団と点数どうしを直接比べられず、また「みそ汁を1日何杯飲めばよい」といった具体的な量の基準は、この研究からは出てきません。
- 調査は1988〜1990年に始まっています。現在の食生活や食品流通は当時と大きく違います。今の40〜70代に同じ数字が当てはまるとは限りません。
- 対象は日本人の成人で、心血管病の既往がない人に限られます。外国人や、心臓や血管の病気の既往がある人には当てはまるとは限りません。
- 地域別の結果は参考値です。「都市部で最も関連が強い」という結果は、地域による違いを示した検定が有意でなかったため、確かな差とは言えません。
- Table 1の4群の人数を足すと4万8033人になり、本文の4万8479人と446人食い違います。理由は本文からは確認できません(表の数値は補完後の推定値とされています)。本記事では、ハザード比と信頼区間は本文の記載を、群ごとの特徴はTable 1を引用しており、人数の食い違いが結論を変えるかどうかは判断できません。
- 塩分の影響を取り除けたかどうかは確認しきれません。塩分を追加で調整した分析は、食事調査から推定した塩分量を使っており、尿中の塩分や血圧を実際に測ったものではありません。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
この論文は、和食を食べれば長生きできる、という宣伝文句の根拠にはなりません。読み取れるのは、日本人が普段からごはん・みそ汁・野菜・海藻・魚・緑茶を組み合わせ、肉類は控えめにしていた人たちで、その後の死亡が少し少なかったという関連です。しかも差は小さく、計算の前提によっては幅が広がります。
実践面で参考になるのは、論文の考察にもある「有益とされる食品を保ちつつ、塩分は控えめに」という考え方です。みそ汁や漬物を全部やめる必要はなく、魚・野菜・海藻・緑茶の側を増やす、という方向であれば、この結果とは矛盾しません。また、和食度の点数が近くても中身が地域で違うことから、自分の住む地域で手に入りやすい魚や野菜を中心に組み立てるほうが現実的です。
筋トレをしている人にとっては、これはタンパク質や運動量の話ではなく、あくまで日々の食事全体の傾向を見た研究です。筋肉をつけるための食事設計には、別の研究(本サイトの他の記事)を合わせて読む必要があります。
まとめ
- 日本人4万8479人を約19年追跡したJACC研究の分析で、和食度が最も高い群は、最も低い群より全死亡が約7%、心臓・血管の病気による死亡が約14%低いと報告されています。
- この傾向は都市部・平地・山間部・海沿いのどこでも同じ向きで、地域による違いを示す統計的な証拠はありませんでした。
- 推定塩分を追加調整しても結果はほぼ変わりませんが、調整の置き方によっては信頼区間が1にかかるなど、差は小さく頑健とまでは言い切れません。
- 観察研究であり、因果関係の証明ではありません。食事は開始時の1回のみ調査で、調査開始も1988〜1990年です。
出典(一次資料)
- Shimizu A, Tomata Y, Miyazaki J, Kimura T, Wakai K, Momosaki R; JACC Study Group. Japanese Dietary Pattern and All-Cause and Cardiovascular Disease Mortality Across Diverse Topographical Settings: The Japan Collaborative Cohort Study. Geriatr Gerontol Int. 2026;26(8):e70810. doi:10.1111/ggi.70810(PubMed Central 全文)