研究ノート · 栄養と食生活

「マーガリンは健康的」とされた時代からの転換――トランス脂肪酸をめぐる整理

公開日: 2026-08-15 · 約7分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • マーガリンは20世紀後半に「動物性脂肪より健康的」というイメージで広く受け入れられ、家庭用・業務用ともに大きな市場を持ちました
  • 部分水素添加油に由来する工業由来のトランス脂肪酸が、LDLコレステロールを上げHDLを下げ、心疾患リスクを高めうるとする研究が1990〜2000年代に積み上がりました
  • 米国FDAは2015年に部分水素添加油の食品への使用を段階的に禁止する方針を発表し、多くの国が同様の規制・表示義務を導入しました
  • 日本では法的義務としてのトランス脂肪酸表示はありませんが、食品メーカーが自主的に再配合を進め、現在の家庭用マーガリンのトランス脂肪酸含有量は以前より大幅に減っています。ただし飽和脂肪酸を含めた脂質全体のバランスは引き続き重要とされています

「バターより健康的」というイメージで受け入れられてきたマーガリンは、20世紀を通じて世界中の食卓に広まりました。しかし2000年代以降、部分水素添加油に由来する工業由来のトランス脂肪酸の健康影響が繰り返し指摘され、多くの国で規制や再配合が進む転換が起きました。本記事では、この流れを旧説を断罪せず中立的に整理します。

特定の商品を推奨・否定するものではなく、あくまで研究情報の紹介です。脂質異常症などで治療中の方は、食品選択について医療機関・管理栄養士にご相談ください。

📄 背景(公表情報に基づく)
マーガリンは19世紀後半にフランスで発明され、20世紀にかけて世界中に広まりました。植物油に水素を添加して固形化する製造法(部分水素添加)が普及し、常温で固く保存性の高いマーガリンやショートニングが大量生産可能になりました。しかし1990〜2000年代に、部分水素添加油に多く含まれる工業由来のトランス脂肪酸が心血管疾患リスクを高めうるとする観察研究とメタ分析が積み上がり、WHOは摂取量の削減を各国に推奨しました。米国FDAは2013年に「一般に安全と認められる(GRAS)」認定を取り消し、2015年に段階的禁止を発表しました。多くの国で規制・表示義務が導入され、食品メーカーは自主的な再配合を進めました。

「マーガリンは健康的」とされた背景

20世紀後半、動物性脂肪と心疾患の関連が疫学研究で指摘され、飽和脂肪酸を減らすことが公衆衛生上のメッセージとして広まりました。マーガリンは植物油を原料とし、飽和脂肪酸の含有量が動物性のバターより低い(当時の製法において)ことから、「動物性より植物性のほうが健康的」という文脈で受け入れられていきました。

加えて、部分水素添加により常温で固形を保ちやすく、保存性が高く、低コストで生産できることから、家庭用のほか、パン・菓子・揚げ物などの業務用途でも大きな市場を持ちました。当時の指導は、飽和脂肪酸の削減という当時のエビデンスに照らせば妥当なもので、マーガリンはその選択肢として位置づけられていました。

トランス脂肪酸の健康影響が指摘される

1990年代以降、部分水素添加油に多く含まれる工業由来のトランス脂肪酸について、健康影響を検討する研究が積み上がりました。介入研究では、トランス脂肪酸の摂取がLDLコレステロールを上げ、HDLコレステロールを下げる方向に働きうることが繰り返し報告されました。大規模な観察研究(ハーバードの看護師健康調査など)でも、トランス脂肪酸の摂取量が多いほど心血管疾患の発症リスクが高い方向の関連が示され、飽和脂肪酸よりも心疾患リスクへの影響が大きい可能性が議論されました。

WHOはトランス脂肪酸の摂取を総エネルギーの1%未満に抑えることを推奨し、部分水素添加油の食品供給からの排除を各国に呼びかけました。米国FDAは2013年に部分水素添加油の「一般に安全と認められる(GRAS)」認定を取り消し、2015年に食品への使用を段階的に禁止する方針を発表しました。デンマークをはじめ多くの国が規制を導入し、食品業界は自主的に再配合を進めていきました。

日本の状況:法的表示義務はないが自主削減が進む

日本では、トランス脂肪酸について法的な表示義務はありません。消費者庁は「日本人のトランス脂肪酸摂取量は総エネルギーの平均で1%未満と推定され、通常の食生活で健康影響が問題になる可能性は低い」との見解を示しつつ、事業者に対して情報開示(含有量の自主表示)を促してきました。

これを受け、多くの食品メーカーが原材料の見直しや製造法の変更(インターエステリフィケーションなど)を進めた結果、日本国内の家庭用マーガリン・ショートニングのトランス脂肪酸含有量は以前より大幅に減少しました。多くの商品で1食あたり0.1〜0.5g程度以下、または実質的にごく少量にまで削減されているとされています。ただし業務用途で使われる油脂や輸入食品では、含有量が高い場合もあると指摘されています。

また、トランス脂肪酸が減ったマーガリンでも、飽和脂肪酸を含む脂質全体のバランスは引き続き重要とされます。「トランスを減らしたから安心」ではなく、脂質の質と量、食事全体のパターンで見るという考え方が主流になっています。

「バター vs マーガリン」を単純比較できない理由

「バターとマーガリン、結局どちらが健康的か」という問いは、消費者にとって分かりやすい一方で、単純に答えるのが難しい問いでもあります。バターは飽和脂肪酸を多く含み、マーガリン(旧配合)は工業由来のトランス脂肪酸を多く含むことが問題でした。現在の日本の家庭用マーガリンではトランス脂肪酸が大幅に削減されていますが、飽和脂肪酸の量やその他の成分は商品によって異なります。

栄養学の一般的な整理では、「飽和脂肪酸・トランス脂肪酸をどちらも過剰に摂らず、不飽和脂肪酸を含む多様な食品と組み合わせる」という方向が示されています。特定の食品を「良い/悪い」と二分するより、食事全体のパターンで評価する視点が推奨されています。栄養成分表示を確認し、脂質の内訳と1日の総摂取量のなかで判断するのが実用的な考え方といえます。

「定説の見直し」から学べること

「マーガリンはバターより健康的」というシンプルな図式は、飽和脂肪酸削減という当時のエビデンスと、植物性・動物性という直感的な二分法が組み合わさって広まりました。工業由来のトランス脂肪酸の健康影響が示され、規制・再配合が進んだ結果、「単純な二分ではなく、脂質の種類ごとの影響と食事全体で評価する」という理解に更新された、というのが実情に近い見方といえます。

この事例が示しているのは、食品加工技術の変化と栄養学の進展のずれです。ある製造法が広く普及した後に、その副産物の健康影響が長期の研究で明らかになる、というパターンは他の食品にも起こりうることです。特定の食品を丸ごと否定するのではなく、成分の内訳と規制・自主基準の変化を追う視点が、健康情報と付き合ううえで役立つと考えられます。

本記事も現時点で公表されている情報に基づく整理であり、今後さらに研究が進めば理解が更新される可能性があります。脂質異常症などで治療中の方は、食品選択について医療機関・管理栄養士にご相談ください。

※本記事は公表されている栄養学・規制情報を、健康情報リテラシーの観点から中立的に紹介するものです。特定の食品が病気を予防・治療することを示すものではありません。

よくある質問

今売っているマーガリンは食べても大丈夫ですか?

日本国内の多くの家庭用マーガリンは、以前と比べてトランス脂肪酸含有量が大幅に削減されています。栄養成分表示を確認し、脂質の内訳と1日の総摂取量のなかで判断するのが実用的な考え方です。飽和脂肪酸を含む脂質全体のバランスも重要で、「トランス脂肪酸が減ったから無制限に食べてよい」という意味ではありません。

バターに戻したほうがよいですか?

「どちらが絶対に良い」という単純な答えはありません。バターは飽和脂肪酸を多く含み、マーガリン(現行配合)はトランス脂肪酸が大幅に削減されていますが、飽和脂肪酸の量は商品によって異なります。栄養学の一般的な整理では、単一食品を選ぶより、不飽和脂肪酸を含む多様な食品と食事全体のパターンで評価する方向が示されています。

外食や加工食品のトランス脂肪酸はどうなっていますか?

業務用途で使われる油脂や輸入食品では、家庭用と比べてトランス脂肪酸の含有量が高い場合もあると指摘されています。ただし日本人の平均的な摂取量は総エネルギーの1%未満と推定されており、通常の食生活で健康影響が問題になる可能性は低いとされています。頻回に揚げ物や特定の加工食品を大量摂取するような偏った食生活は、脂質全体の観点からも避けるのが一般的な考え方です。

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