研究ノート · 筋力とフレイル

中年期の欠食と高齢期のフレイル──日本人5,063人の調査を一次資料で読む

公開日: 2026-08-11 · 約11分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • 国立長寿医療研究センターが2025年10月15日に公表した調査です。愛知県知多市に住む65歳以上の5,063名が対象で、日本人だけを対象にしたデータです
  • 「1日2食以下」を欠食と定義したとき、中年期(45〜64歳)の欠食が高齢期の身体的フレイルと関連していました
  • 一方、壮年期(25〜44歳)だけの欠食では、統計的に意味のある関連は見られませんでした
  • 中年期に欠食していた人は、その後に欠食をやめていてもオッズ比2.96(95%信頼区間 1.50〜6.18)という値を示しました
  • ただし高齢期に10食品群を幅広く食べていた人では、この関連は統計的に有意ではなくなりました(オッズ比1.35、95%信頼区間 0.52〜3.54)
  • 過去の食習慣を本人の記憶にさかのぼって尋ねた研究であり、因果関係を証明したものではありません

運動や食事の話題では、海外の大規模研究がそのまま引用されることがよくあります。ただ、体格も食文化も医療制度も違う集団のデータを、日本に住む人がそのまま自分に当てはめられるとは限りません。この連載では、日本の研究機関が日本人を対象に行った調査を一次資料で確認していきます。

今回取り上げるのは、国立長寿医療研究センターが2025年10月に公表した、過去の欠食習慣と高齢期の身体的フレイルの関連についての調査です。

📄 裏どりの概要
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センターが2025年(令和7年)10月15日付で公表したプレスリリース「高齢期の身体的フレイルと過去の欠食習慣(1日2食以下)との関連についての調査研究」の本文および配布PDF(5ページ)を確認しました。オッズ比の数値は本文中には記載されておらず、PDFの図2〜図4にのみ示されているため、図から読み取っています。フレイルの判定基準は、同センター フレイル研究部が公開している「2020年改定 日本版CHS基準(J-CHS基準)」の資料で確認しました。

なぜ「日本人のデータ」で読む必要があるのか

フレイルという言葉は、加齢によって心身の予備能力が低下し、要介護に近づいた状態を指します。この判定に世界共通の物差しがあるわけではありません。

今回の研究が使っているのは「2020年改定 日本版CHS基準(J-CHS基準)」です。もとになっているのは米国で開発されたCHS基準ですが、日本人の体格や測定データに合わせて基準値が引き直されています。中身は次の5項目です。

項目評価基準
体重減少6か月で、2kg以上の(意図しない)体重減少
筋力低下握力:男性 28kg未満、女性 18kg未満
疲労感(ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする
歩行速度通常歩行速度 1.0m/秒未満
身体活動「軽い運動・体操をしていますか?」「定期的な運動・スポーツをしていますか?」のいずれも「週に1回もしていない」と回答

判定は、3項目以上に該当すればフレイル、1〜2項目でプレフレイル、該当なしでロバスト(健常)とされています。

注目したいのは握力の基準値です。男性28kg・女性18kgという線は、日本人の測定データをもとに引かれたものです。同じ「筋力低下」という言葉でも、どこに線を引くかは対象集団によって変わります。海外の基準をそのまま持ち込むと、該当する人の割合が実態とずれてしまう。日本人のデータを日本人向けの物差しで測った研究に価値があるのは、こうした理由からです。

また、5項目のうち2つ(筋力低下・身体活動)が体を動かすことに直結している点も、トレーニングを続けている読者には見逃せないところだと思います。

どんな調査だったのか

調査を行ったのは、国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センター 予防老年学研究部の西島千陽研究員、島田裕之センター長らのグループです。

対象は、愛知県知多市で実施された大規模コホート研究NCGG-SGS(National Center for Geriatrics and Gerontology-Study of Geriatric Syndromes)の参加者のうち、65歳以上で、認知症や認知機能低下のある人を除いた5,063名です。平均年齢は73.7±5.5歳、女性が54.8%を占めます。

認知機能に問題のある人をあらかじめ除外しているのは、この調査が過去の食習慣を本人に思い出してもらう形式だからです。回答の正確さを保つための配慮といえます。

年代の区切りは、リリースの註に明記されています。

  • 壮年期:25〜44歳
  • 中年期:45〜64歳
  • 高齢期:65歳以上

それぞれの年代について食事の回数を尋ね、「1日2食以下」を欠食ありと定義しています。朝食だけを聞いたのではなく、1日の食事回数そのものを聞いている点は押さえておきたいところです。

実際に「欠食あり」と回答した人の割合は、壮年期3.6%、中年期2.8%、高齢期4.1%でした。いずれも数%にとどまります。そして「身体的フレイルあり」(フレイルまたはプレフレイル)と判定された人は53.8%と、半数を超えていました。

結果① 分岐点は「中年期」にあった

まず、壮年期から中年期にかけての欠食のしかたで対象者を4つに分け、高齢期の身体的フレイルとの関連が調べられました。各世代を通して欠食のなかった人を基準(1.00)としたときの値が、次の表です。

欠食のパターンオッズ比(95%信頼区間)統計的な関連
各世代を通して欠食なし1.00(基準)
① 壮年期のみ欠食1.10(0.70〜1.75)認められず
中年期のみ欠食2.18(1.07〜4.71)あり
壮年期から中年期にかけて欠食2.35(1.53〜3.70)あり

この研究では、95%信頼区間の下限が1より大きいときに「統計的に意味のある関連がある」と判断しています。①は信頼区間が0.70〜1.75で1をまたいでいるため、関連は認められませんでした。

つまり、20〜40代だけの欠食では差が見えず、45〜64歳の欠食で差が現れたということになります。同じ「食事を抜く習慣」でも、いつの時期のものかで結果が分かれたわけです。

もうひとつ重要なのが、この分析で何を統計的に揃えたかです。調整変数には、性別・年齢・教育年数に加えて「壮年期・中年期の運動習慣」と「壮年期・中年期の体格指数(BMI)」が含まれています。運動習慣や体格の違いを考慮したうえでなお、欠食との関連が残ったという読み方になります。

結果② 欠食をやめた後も関連が残っていた

次に研究グループは、高齢期には欠食していない人だけを取り出して、中年期の欠食の有無との関連を調べました。「今は3食食べている人」に絞った分析です。

高齢期に欠食なしの人のうちオッズ比(95%信頼区間)
中年期に欠食なし1.00(基準)
中年期に欠食あり2.96(1.50〜6.18)

リリースはこの結果について、「中年期に欠食していた人では、その後に欠食をやめても身体的フレイルを発症するリスクが高い可能性が示されました」と記しています。

ただし信頼区間が1.50〜6.18とかなり広い点には注意が必要です。中年期の欠食者が全体の2.8%と少数であるため、推定の幅が大きくなっています。

結果③ 高齢期の「食べ方の幅」で結果が分かれた

最後に、高齢期の食品摂取多様性スコアで対象者を2つに分けた分析が行われています。

このスコアは、次の10食品群それぞれについて毎日食べていれば1点、それ以外は0点として、10点満点で評価する指標です。

  • 肉類 / 魚介類 / 卵類 / 牛乳・乳製品 / 大豆製品
  • 緑黄色野菜類 / 果物 / 海藻類 / いも類 / 油脂類
高齢期の食品摂取多様性中年期に欠食ありのオッズ比(95%信頼区間)統計的な関連
低い(スコア 6点未満)2.54(1.47〜4.51)あり
高い(スコア 6点以上)1.35(0.52〜3.54)認められず

リリースはこれを「中年期に欠食をしていた人でも、その後に食品摂取の多様性が高い食事をしていれば身体的フレイル発症のリスクを抑えられる可能性が示されました」とまとめています。

ここは希望の持てる結果ですが、読み方には慎重さが要ります。「統計的に有意でなくなった」ことと「リスクがなくなった」ことは同じではありません。多様性が高い群のオッズ比は1.35で、点推定値そのものは1を上回っています。信頼区間が0.52〜3.54と広いのは、この群に該当する欠食者の人数がさらに少なくなったためと考えられます。人数が減れば推定の幅は広がり、関連があっても「有意」と判定されにくくなります。

この研究が言えないこと

数字が印象的な研究ほど、限界の確認が大事になります。公表資料から読み取れる範囲で、5つ挙げておきます。

1. 過去の食習慣は「記憶」に頼っている

論文の副題にあるとおり、これはretrospective cohort study(後ろ向きコホート研究)です。70代の人に、20〜40年前の食事回数を思い出して答えてもらっています。現在フレイルの傾向がある人ほど過去の生活を否定的に振り返りやすい、といった記憶の偏りが入り込む余地は残ります。

2. 欠食していた人はごく少数だった

欠食ありと回答したのは各年代で2.8〜4.1%です。5,063名という全体の規模は大きいものの、比較の一方は150名前後の規模になります。信頼区間の広さはここに由来します。

3. オッズ比は「◯倍」とそのまま読めない

これは見落とされやすい点です。オッズ比は、対象となる状態の頻度が低いときにはリスク比(何倍起こりやすいか)に近づきますが、頻度が高いときにはリスク比より大きな値になります。この研究で「身体的フレイルあり」と判定された人は53.8%と、半数を超えています。したがってオッズ比2.96を「フレイルになる人が約3倍」と読み替えるのは正確ではありません。あくまで関連の強さを示す指標として受け取るのが妥当です。

4. 「身体的フレイルあり」にはプレフレイルが含まれる

この研究は、J-CHS基準で3項目以上に該当するフレイルだけでなく、1〜2項目のプレフレイルも含めて「身体的フレイルあり」としています。53.8%という高い割合はこのためです。要介護に近い状態の人が半数いた、という意味ではありません。

5. 因果関係は示されていない

欠食する背景には、不規則な勤務形態、経済的な事情、そのときの健康状態など、さまざまな要因があります。リリース自身も「欠食の要因には、不規則な生活習慣の他、痩身願望や経済的な事情など様々あると言われています」と述べています。欠食そのものではなく、その背後にある事情が高齢期の体に影響していた可能性は否定できません。

トレーニングを続けている人にとっての読みどころ

この研究を「運動より食事が大事」という話として受け取るのは、たぶん正確ではありません。

先ほど触れたとおり、運動習慣はこの分析で「調整変数」として扱われています。調整変数というのは、その影響を統計的に取り除いて比較するために揃える条件のことです。つまり運動習慣は検証の対象ではなく、条件として揃えられた側です。この研究から運動の効果について何かを結論づけることはできませんし、逆に否定することもできません。

読み取れるのはこういうことだと考えられます。運動習慣の違いを考慮に入れてもなお、中年期の欠食と高齢期のフレイルの間に関連が残った。言い換えれば、運動しているかどうかとは別の経路で、食事の回数が関わっていた可能性があるということです。

そしてJ-CHS基準の5項目のうち、握力と身体活動という2つは、日々の運動習慣が直接関わる項目でもあります。トレーニングを続けることと、1日3食を確保することは、対立する話ではなく別々の入口だと整理するのが素直な読み方でしょう。

手元で確認できること

この研究から、今日すぐ実行できる特効薬のようなものが出てくるわけではありません。ただ、自分の状態を確認する材料にはなります。

10食品群を数えてみる

肉類・魚介類・卵類・牛乳乳製品・大豆製品・緑黄色野菜類・果物・海藻類・いも類・油脂類のうち、毎日食べているものがいくつあるかを数えてみてください。この研究で境目になっていたのは6点です。海藻類・いも類・果物あたりが抜け落ちやすいのではないかと思います。

握力を測ってみる

J-CHS基準の筋力低下は、男性28kg未満・女性18kg未満という具体的な数字です。握力計は家庭用のものが手に入りますし、自治体の健康診断や測定会で測れる場合もあります。数字で把握しておくと、変化に気づきやすくなります。

食事の「回数」に目を向ける

この研究が見ていたのは、栄養素の量ではなく1日に何回食べたかでした。忙しさで昼を抜く、夜が遅いので朝を抜く、といった習慣が続いている場合は、内容を吟味する前にまず回数を確認する余地があります。

なお、体調や持病の関係で食事の回数や内容に制限がある場合は、自己判断で変えずにかかりつけの医師や管理栄養士に相談してください。減量目的で意図的に食事回数を減らしている場合も、期間や体重の変化について専門家の意見を聞いておくと安心です。

まとめ

国立長寿医療研究センターの調査が示したのは、次の3点でした。

  • 中年期(45〜64歳)の欠食は、高齢期の身体的フレイルと関連していた(オッズ比 2.18〜2.35)。壮年期だけの欠食では関連は認められなかった
  • 中年期に欠食していた人は、その後やめていても関連が残っていた(オッズ比 2.96)
  • ただし高齢期に10食品群を幅広く食べていた人では、その関連は統計的に有意ではなくなった(オッズ比 1.35)

リリースのまとめは「高齢期の身体的フレイルの予防には、中年期からの欠食習慣の改善が重要である可能性が明らかになりました」という表現で締められています。「可能性」という言葉が使われていることも含めて、そのまま受け取っておくのがよさそうです。

後ろ向きの調査であること、欠食者が少数であること、オッズ比の読み方に注意が要ること。これらを踏まえたうえでも、いま45〜64歳の年代にいる人にとって、1日の食事回数を確認しておく理由にはなる研究だと思います。

出典(一次資料)

この記事で扱った数値は、すべて下記の公表資料で確認したものです。オッズ比は本文には記載がなく、PDFの図2〜図4に示された値を読み取っています。

本記事は公表された研究結果を紹介するものであり、診断や治療を目的としたものではありません。体調や持病に関わる判断は、かかりつけの医師にご相談ください。

よくある質問

この研究は「1日2食は体に悪い」と証明したのですか?

証明はしていません。この研究は後ろ向きコホート研究といって、現在65歳以上の方に過去の食習慣を思い出して答えてもらう形式です。統計的な関連は示されましたが、因果関係を確かめる設計にはなっていません。また欠食していた人は全体の2.8〜4.1%と少数で、推定の幅(95%信頼区間)も広めに出ています。リリース自身も「示唆された」「可能性」という表現を使っています。

オッズ比2.96は「フレイルになる人が約3倍」という意味ですか?

そのようには読めません。オッズ比は、対象となる状態の頻度が低い場合にはリスク比(何倍起こりやすいか)に近い値になりますが、頻度が高い場合にはリスク比より大きな値になります。この研究では「身体的フレイルあり」と判定された人が53.8%と半数を超えているため、オッズ比をそのまま倍率として読み替えるのは正確ではありません。関連の強さを示す指標として受け取るのが妥当です。

中年期を過ぎてしまった場合、もう手遅れということでしょうか?

この研究はむしろ逆の可能性を示しています。高齢期に食品摂取多様性スコアが高かった(10食品群のうち6つ以上を毎日食べていた)人では、中年期の欠食と身体的フレイルの間に統計的に有意な関連が認められませんでした。ただしオッズ比の点推定値は1.35で1を上回っており、該当者が少ないため信頼区間も広くなっています。「関連が消えた」と断定できる結果ではない点は押さえておく必要があります。

運動していれば食事回数は気にしなくてよいのでしょうか?

この研究からはそう言えません。分析では壮年期・中年期の運動習慣が「調整変数」として扱われており、運動習慣の違いを統計的に揃えたうえでなお欠食との関連が残っています。運動習慣は検証された対象ではなく条件として揃えられた側なので、運動の効果を肯定も否定もできない設計です。トレーニングと食事回数は、別々に確認しておく項目と考えるのが素直だと思います。

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