この記事の要点
- 「腹筋運動をすればお腹の脂肪から落ちる」という考え方は、運動科学では局所的脂肪減少(いわゆる部分痩せ)と呼ばれ、半世紀にわたって議論が続いています。
- 古典的な3つの試験(腹部だけ・片脚だけ・片腕だけを鍛える設計)では、鍛えた部位の脂肪だけが特別に減ることはありませんでした。
- ところが近年、全文が無料で公開されている2つの試験が「局所的に減った」と報告しています。イタリア・パドヴァ大学の8週間の試験と、ノルウェーの10週間の試験です。
- もっとも重要なのは、同じ104人のデータでも、皮下脂肪厚計(キャリパー)では「減った」、MRI(磁気を使った断層撮影)では「減っていない」と結論が分かれたという報告があることです。答えは測り方に左右されます。
- 肯定側の2試験はいずれも参加者が7人×2群・8人×2群と非常に小さく、うち1つは比較した2群が同じ種目をやっており、違うのは順番だけでした。
- すべて海外の試験で、日本人集団のデータではありません。
「お腹の脂肪が気になるから、腹筋を毎日やっています」。よく聞く言葉です。田園生活でもこれまで、脂肪燃焼の記事や腹筋・背筋の記事で「部分痩せは否定されている」と一行で書いてきました。
ただ、そう書くたびに引っかかっていたことがあります。本当に決着はついているのか、という点です。今回はその一行の裏づけを取りにいきました。結論から言えば、教科書的な説明ほど単純ではありませんでした。
読む一次資料
| 資料 | 対象・期間 | 測定 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| ① Vispute SS, Smith JD, LeCheminant JD, Hurley KS. J Strength Cond Res 2011;25(9):2559-64. 南イリノイ大学エドワーズビル校(米国) | 18〜40歳の男女24人・6週間 | 体組成測定(要旨に機器の記載なし)、皮下脂肪厚、腹囲 | 有料(要旨のみ) |
| ② Ramírez-Campillo R ら J Strength Cond Res 2013;27(8):2219-24. ロス・ラゴス大学(チリ) | 23±1歳の男女11人・12週間 | エックス線を使った体組成測定 | 有料(要旨のみ) |
| ③ Kostek MA ら Med Sci Sports Exerc 2007;39(7):1177-85. コネチカット大学(米国) | 男女104人・12週間 | MRIと皮下脂肪厚計の両方 | 有料(要旨のみ) |
| ④ Paoli A, Casolo A, Saoncella M ら Int J Environ Res Public Health 2021;18(7):3845. パドヴァ大学(イタリア) | 健康な成人14人・8週間 | 超音波、皮下脂肪厚計、体組成計 | 全文無料 |
| ⑤ Brobakken MF, Krogsaeter I, Helgerud J, Wang E, Hoff J. Physiol Rep 2023;11(22):e15853. モルデ大学カレッジ/ノルウェー科学技術大学(ノルウェー) | 太りぎみの男性16人・10週間 | エックス線を使った体組成測定 | 全文無料 |
①②③は本文が有料で、公開されているのは要旨だけです。以下の数値は要旨に明記された範囲に限っています。④⑤は全文が読めるので、要旨ではなく本文の表から数値を取りました。
結果① 「鍛えた部位だけが減る」ことはなかった──古典的な3試験
腹部だけを6週間鍛えた試験(24人)
運動習慣のない18〜40歳の男女24人を、腹部運動を行う群と何もしない対照群に無作為に分けました。運動群は腹部種目7つを2セット×10回、週5日、6週間。食事は摂取カロリーを変えないよう管理されています。
| 測定項目 | 結果 |
|---|---|
| 体重 | 有意な変化なし |
| 体脂肪率 | 有意な変化なし |
| 腹部(体幹型領域)の脂肪量・脂肪率 | 有意な変化なし |
| 腹囲 | 有意な変化なし |
| 腹部・腸骨上部の皮下脂肪厚 | 有意な変化なし |
| 腹筋の持久力(カールアップ回数) | 47±13回(対照群は32±9回)で有意に向上 |
腹筋の持久力ははっきり向上しているのに、その真上にある脂肪はまったく動きませんでした。
片脚だけを12週間鍛えた試験(11人)
23±1歳の男女11人が、利き脚ではないほうの脚だけを12週間、週3回鍛えました。1セットあたり960〜1,200回という極端な高回数のレッグプレスを、最大挙上重量(1RM)の10〜30%という軽い負荷で行っています。
| 部位 | 脂肪量の変化 |
|---|---|
| 全身 | 5.1%減少(13.5±6.3 kg → 12.8±5.4 kg、p<0.05) |
| 鍛えた脚 | 有意な変化なし |
| 鍛えていない脚 | 有意な変化なし |
| 上肢 | 10.2%減少(p<0.05) |
| 体幹 | 6.9%減少(p<0.05) |
この結果は直感に反します。脂肪が減ったのは、まったく鍛えていない上半身のほうでした。
片腕だけを12週間鍛えた試験(104人)
男女104人が、利き腕ではないほうの腕だけを12週間鍛えた試験です。この試験の重要な点は、MRI(磁気を使った断層撮影)と皮下脂肪厚計という2種類の方法で、同じ人の同じ腕を測ったことにあります。
| 測定方法 | 男性 | 女性 | 全体 |
|---|---|---|---|
| 皮下脂肪厚計(キャリパー) | 鍛えた腕でのみ減少(p<0.01) | 差なし(p>0.05) | 差なし(p>0.05) |
| MRI | 両腕に差なし(p>0.05) | 両腕に差なし(p>0.05) | 両腕に差なし(p>0.05) |
同じ試験の、同じ人の、同じ腕です。それでも測る道具を変えると結論が反対になりました。著者らは、キャリパーは筋腹の1点しか測らないのに対し、MRIは上腕全体の変化を捉えるため個人差が大きく出て、両腕の差が統計的に検出されにくくなったと説明しています。
この一点だけでも、「部分痩せは科学的に否定されている」という言い切りが雑であることが分かります。否定の根拠として引かれるこの試験自体が、測り方によって答えが割れているのです。
結果② 近年、「局所的に減った」と報告した2試験
パドヴァ大学の8週間の試験(14人)
健康な成人14人を7人ずつの2群に無作為に分け、8週間・週3回のトレーニングを行いました。ここで注意が必要なのは2群の中身の違いです。
| 群 | やったこと |
|---|---|
| 局所減少群(7人) | 有酸素5分 → クランチ20回 → 上腕三頭筋の種目15回、をサーキットで4巡(有酸素は計25分・クランチ計4×20回・三頭筋計4×15回)。その後に胸・背中・肩・腕・脚の筋トレ |
| 通常群(7人) | 先に有酸素をまとめて25分、後半に胸・背中・肩・腕・脚の筋トレ、最後にクランチ4×20回と上腕三頭筋4×15回 |
論文自身が「種目・強度・量は同等で、違うのは実施順序」と明記しています。実際、表2を数えるとクランチは両群とも4×20回、上腕三頭筋の種目は両群とも4×15回、有酸素は両群とも計25分で完全に同じです。違うのは並べ方だけでした。この点は後で改めて触れます。
| 測定部位(超音波) | 局所減少群 | 通常群 |
|---|---|---|
| 上腹部 | 15.09 → 12.35 mm(有意に減少) | 19.43 → 18.13 mm(有意でない) |
| 下腹部 | 17.88 → 17.30 mm(有意でない) | 22.99 → 22.33 mm(有意でない) |
| 脊柱起立筋部 | 9.96 → 7.79 mm(有意に減少) | 10.77 → 9.31 mm(有意でない) |
| 上腕三頭筋遠位部 | 5.40 → 6.21 mm(有意でない) | 5.72 → 5.19 mm(有意でない) |
| 大腿前面 | 8.46 → 9.40 mm(有意に増加) | 11.56 → 12.40 mm(有意の印なし) |
腹部が薄くなった一方で、鍛えていない大腿前面の皮下脂肪はむしろ厚くなっています。この点は論文の結論部分では強調されていませんが、表にはそのまま出ています。
なお上腕三頭筋については、局所減少群でも有意な減少は見られませんでした。「鍛えた部位の脂肪が減る」という筋書きであれば、腹部と同じく三頭筋でも減っているはずですが、そうはなっていません。
資金・利益相反については、論文に「外部資金なし」「利益相反なし」と明記されています。
ノルウェーの10週間の試験(16人)
この試験は設計が丁寧です。運動中のエネルギー消費量をそろえたうえで、腹部を使う運動と使わない運動を比べています。
| 項目 | 腹部運動群(8人) | 対照群(8人) |
|---|---|---|
| 内容 | トレッドミル走27分+体幹回旋・腹部クランチ 4×4分(最大挙上重量の30〜40%) | トレッドミル走45分のみ |
| 強度 | どちらも最大心拍数の70% | |
| 頻度・期間 | 週4回・10週間 | |
| 年齢・体格 | 43±9歳・BMI 29.8±3.3の男性 | |
結果です(数値は本文の表2から取りました)。
| 項目 | 腹部運動群 | 対照群 |
|---|---|---|
| 体幹の脂肪量 | 16,312 → 15,141 g(約7%減・有意) | 12,185 → 11,711 g(有意でない) |
| 全身の脂肪量 | 29,946 → 28,241 g(6%減・有意) | 23,156 → 22,022 g(5%減・有意) |
| 体重 | 103.1 → 101.5 kg | 92.7 → 90.0 kg |
| 腹囲 | 113 → 107 cm(有意) | 103 → 99 cm(有意) |
体幹の脂肪は腹部運動群のほうが群間で697 g(3%)多く減りました(p<0.05)。しかし体重は対照群のほうが多く減っています。「どこが減るか」と「どれだけ減るか」は別の話だ、ということがそのまま数字に出ています。
利益相反は「なし」と明記され、臨床試験登録(NCT05794854)も済んでいます。
読み取りに注意が必要な箇所:要旨では体重の減少が腹部運動群1.2 kg・対照群2.3 kgと書かれていますが、表2の平均値どうしの引き算では1.6 kgと2.7 kgになります。個人ごとの変化量を平均した値と、平均値の差との違い、あるいは丸めによるものと思われます。どちらの読み方でも「対照群のほうが体重は多く減った」という向きは変わりません。
結果③ なぜ結論が割れるのか
5つの試験を並べると、ある傾向が見えてきます。
| 試験 | 測定方法 | 局所的な減少 |
|---|---|---|
| ① 腹部6週間 | 体組成測定(機器の記載なし) | なし |
| ② 片脚12週間 | エックス線を使った体組成測定 | なし(むしろ上半身が減った) |
| ③ 片腕12週間 | 皮下脂肪厚計 | あり(男性のみ) |
| ③ 片腕12週間 | MRI | なし |
| ④ パドヴァ8週間 | 超音波・皮下脂肪厚計 | あり |
| ⑤ ノルウェー10週間 | エックス線を使った体組成測定 | あり |
体表面の1点を測る方法(皮下脂肪厚計・超音波)では局所的な減少が出やすく、部位全体をまとめて測る方法では出にくい、という傾向が読み取れます。ただし⑤はエックス線を使った測定で差を検出しているので、測定方法だけですべてを説明できるわけではありません。⑤は他の試験と違い、運動中のエネルギー消費量をそろえたうえで比較しているという設計上の違いもあります。
この研究が言えないこと
- 日本人集団のデータではありません。米国・チリ・イタリア・ノルウェーで行われた試験です。体脂肪の分布や生活習慣が異なる集団に、そのまま当てはめることはできません。
- 肯定側の2試験は人数が非常に少ないです。7人×2群、8人×2群です。この規模では、たまたま生じた差を拾っている可能性を排除できません。
- パドヴァ試験は「部分痩せの検証」になっていない可能性があります。比較された2群は同じ種目・同じ強度・同じ量をこなしており、違うのは実施順序だけです。通常群もクランチを4×20回、上腕三頭筋の種目を4×15回行っています。したがってこの試験が示したのは「腹部を鍛えると腹部が減る」ではなく、「有酸素と筋トレを交互に組むと腹部が減りやすい」かもしれない、という別の話である可能性があります。論文の結論は「局所的に腹部の皮下脂肪を減らす有効な戦略になりうる」とされていますが、この設計から言えることを超えていると考えます。
- パドヴァ試験では、鍛えていない大腿前面の脂肪厚がむしろ増えました。局所的に減らせるという主張と同じ表の中に、局所的に増えた部位が並んでいます。
- ノルウェー試験は太りぎみの中年男性のみが対象です。女性・若年者・標準体重の人に同じことが起きるかは分かりません。また2群のベースラインがそろっておらず、体幹の脂肪量は腹部運動群16,312 g・対照群12,185 gと最初から4 kg以上の差がありました。減りやすさが元の量に影響される可能性は残ります。
- 皮下脂肪の話であって、内臓脂肪の話ではありません。今回の5試験が測っているのは主に皮膚の下の脂肪です。健康リスクとの関連が強いとされる内臓脂肪については、これらの試験からは何も言えません。
- 古典的な3試験は本文が非公開です。要旨に書かれた範囲しか読めていません。資金源や利益相反も要旨からは確認できませんでした。
- 「局所的に減る」が事実だとしても、量はごくわずかです。ノルウェー試験の群間差は10週間で697 gでした。同じ期間に全身の脂肪は両群とも1〜1.7 kg減っています。体脂肪を減らす主役は依然として総消費量と食事であり、部位の選択ではありません。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- 「腹筋運動をすればお腹の脂肪が優先的に落ちる」という期待は、少なくとも腹部運動だけを6週間行った試験では支持されませんでした。腹筋の持久力は上がりましたが、脂肪は動いていません。ここは押さえておきたい点です。
- 一方で、「部分痩せは科学的に完全に否定されている」という言い方も正確ではありませんでした。全文が公開されている近年の2試験は、条件つきながら局所的な減少を報告しています。議論はまだ続いている、というのが今の位置だと考えます。
- 実務的な結論はほとんど変わりません。局所的な差が仮にあったとしても10週間で700 g程度です。同じ期間に全身では1 kg以上動いています。総消費量の積み上げと食事を整えるほうが、はるかに大きく効いてくると考えられます。
- 腹部の種目には、脂肪を減らす以外の意味があります。今回の試験でも腹筋の持久力や最大挙上重量ははっきり伸びていました。「お腹を凹ませるため」ではなく「体幹を支える力をつけるため」に位置づけ直すほうが、期待と結果のずれが小さくなりそうです。
- 反応には個人差があります。③の試験では男性と女性で結論が分かれており、⑤の試験も男性のみが対象でした。性別による違いはまだ整理されていません。
まとめ
「腹筋運動でお腹の脂肪は落ちるのか」を、5つの試験で確認しました。腹部だけ・片脚だけ・片腕だけを鍛えた古典的な試験では、鍛えた部位の脂肪だけが特別に減ることはありませんでした。片脚の試験にいたっては、減ったのは鍛えていない上半身のほうでした。
一方、全文が公開されている近年の2試験は、局所的な減少を報告しています。ただし参加者は7人×2群と8人×2群、うち1つは比較した2群が同じ種目をやっており違いは順番だけ、もう1つでは体幹の脂肪は多く減ったのに体重は対照群のほうが多く減っていました。
そして最も示唆的なのは、104人を対象にした試験で皮下脂肪厚計と断層撮影とで結論が反対になったことです。この論争が半世紀続いている理由の一端は、ここにあるのだと思います。
「部分痩せは嘘」でも「部分痩せは本当」でもなく、「測り方と条件によって答えが変わる程度の、小さな現象」というのが、一次資料を読んだ範囲での率直な受け止めです。体脂肪を減らしたいときにまず動かすべきレバーが総消費量と食事であることは、この5つの試験のどれを読んでも変わりませんでした。
出典(一次資料)
- Vispute SS, Smith JD, LeCheminant JD, Hurley KS. “The effect of abdominal exercise on abdominal fat.” J Strength Cond Res 2011;25(9):2559-64. europepmc.org/article/MED/21804427
- Ramírez-Campillo R, Andrade DC, Campos-Jara C, Henríquez-Olguín C, Alvarez-Lepín C, Izquierdo M. “Regional fat changes induced by localized muscle endurance resistance training.” J Strength Cond Res 2013;27(8):2219-24. europepmc.org/article/MED/23222084
- Kostek MA, Pescatello LS, Seip RL, Angelopoulos TJ, Clarkson PM, Gordon PM, Moyna NM, Visich PS. “Subcutaneous fat alterations resulting from an upper-body resistance training program.” Med Sci Sports Exerc 2007;39(7):1177-85. europepmc.org/article/MED/17596787
- Paoli A, Casolo A, Saoncella M, Bertaggia C, Fantin M, Bianco A, Marcolin G, Moro T. “Effect of an Endurance and Strength Mixed Circuit Training on Regional Fat Thickness: The Quest for the ‘Spot Reduction’.” Int J Environ Res Public Health 2021;18(7):3845.(全文無料)PMC8038840
- Brobakken MF, Krogsaeter I, Helgerud J, Wang E, Hoff J. “Abdominal aerobic endurance exercise reveals spot reduction exists: A randomized controlled trial.” Physiol Rep 2023;11(22):e15853.(全文無料)PMC10680576
※①②③は本文が有料で、要旨のみ公開されています。④⑤は全文が無料で公開されており、本記事の数値は論文本文の表から取りました。④⑤はいずれも「外部資金なし/利益相反なし」と論文に明記されています。①②③については、要旨からは資金源・利益相反を確認できませんでした。