この記事の要点
- 「筋トレのあとにお酒を飲むと筋肉がつきにくくなる」という話を、海外の一次資料5本(人を対象にした実験4本と、それらをまとめた総説1本)で確かめました。
- オーストラリアの実験では、運動後に体重1kgあたり1.5gのアルコール(体重70kgならビール中瓶5本分ほど)を飲むと、プロテインを一緒にとっても、筋肉をつくる速さがプロテインだけのときより24%低くなりました。
- 一方、筋トレ後の飲酒で翌日・翌々日のジャンプ力や筋肉痛は変わらなかった実験もあり、結果は割れています。筋肉の合成にかかわる体内の信号が弱まったのは男性だけで、女性では見られなかった実験もあります。
- いずれも8〜19人の1回だけの実験で、量は「深酒」に近い多さです。筋トレ後の飲酒を何か月も続けて筋肉の増え方を比べた人の試験は、まだありません。
「筋トレのあとのビールは格別」という人は多いでしょう。一方で、「せっかく鍛えても、飲んだら筋肉がつかない」という話もよく聞きます。部活の打ち上げや、ジム帰りの一杯が気になっている人もいるはずです。
今回は、筋トレの直後にお酒を飲むと、筋肉の合成や回復に何が起きるのかを、人を対象にした海外の実験4本と、それらを整理した総説1本で確かめます。
読む一次資料
| 年 | 論文(掲載誌) | 対象と飲んだ量 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| ①2014 | Parr EB, et al. "Alcohol Ingestion Impairs Maximal Post-Exercise Rates of Myofibrillar Protein Synthesis following a Single Bout of Concurrent Training." PLoS One 9(2):e88384 | 運動習慣のある男性8人・体重1kgあたり1.5g | 全文無料(PMC3922864) |
| ②2010 | Barnes MJ, Mündel T, Stannard SR. "Acute alcohol consumption aggravates the decline in muscle performance following strenuous eccentric exercise." J Sci Med Sport 13(1):189-193 | 健康な男性11人・体重1kgあたり1g | 有料(抄録のみ) |
| ③2017 | Duplanty AA, et al. "Effect of Acute Alcohol Ingestion on Resistance Exercise-Induced mTORC1 Signaling in Human Muscle." J Strength Cond Res 31(1):54-61 | 筋トレ経験のある男性10人・女性9人 | 有料(抄録のみ) |
| ④2020 | Levitt DE, et al. "Alcohol After Resistance Exercise Does Not Affect Muscle Power Recovery." J Strength Cond Res 34(7):1938-1944 | 筋トレ経験のある男性10人 | 有料(抄録のみ) |
| ⑤2022 | Levitt DE, Luk HY, Vingren JL. "Alcohol, Resistance Exercise, and mTOR Pathway Signaling: An Evidence-Based Narrative Review." Biomolecules 13(1):2 | ①〜④を含む研究の総説 | 全文無料(PMC9855961) |
①はオーストラリアのRMIT大学を中心とするグループで、資金の一部はオーストラリアスポーツ委員会からです。②はニュージーランドのマッシー大学、③④⑤は米国の研究者による研究で、③④⑤には同じ研究者が共著者として加わっています(⑤は米テキサス工科大学、利益相反なし)。
設計──「筋肉の合成」と「力の回復」を分けて読む
筋トレ後の飲酒で気になるのは、大きく2つです。
- 筋肉をつくる働きが弱まるか(①③):太ももの筋肉を少し採取し、筋肉のたんぱく質がつくられる速さや、合成のスイッチ役となる体内の信号(mTORと呼ばれる経路)を調べる。
- 翌日以降の力の回復が遅れるか(②④):筋肉痛が出るような運動のあと、筋力やジャンプ力が元に戻るまでを比べる。
どの実験も、同じ人が「お酒あり」と「お酒なし」の両方を体験して比べる方式です。量の目安として、ビール中瓶1本(500mL・5%)に含まれるアルコールは約20gです。
結果① 大量の飲酒で、筋肉をつくる速さが24〜37%低かった(2014年)
①の参加者は、週3回以上運動している男性8人(平均21.4歳)です。脚の筋トレ(脚を伸ばすマシンで最大の80%の重さを5回×8セット)のあと、自転車こぎ30分と短いダッシュ10本を行い、次の3つの条件を2週間あけて試しました。
- プロテインのみ:運動直後と4時間後にホエイプロテイン25gずつ
- お酒+プロテイン:同じプロテインに加え、運動1時間後から3時間かけてウォッカのオレンジジュース割りを飲む(体重1kgあたりアルコール1.5g=標準的な飲み物12杯前後)
- お酒+炭水化物:同じ量のお酒と、プロテインの代わりに同じカロリーの炭水化物
| 条件 | 運動後2〜8時間の筋肉の合成速度(%/時) | プロテインのみとの比較 |
|---|---|---|
| 安静時 | 0.025 | ― |
| プロテインのみ | 0.052(安静時の約2.1倍) | ― |
| お酒+プロテイン | 0.039 | 24%低い(有意差あり) |
| お酒+炭水化物 | 0.032 | 37%低い(有意差あり) |
※論文本文の平均値。血中アルコール濃度は運動4時間後に最も高く、0.056〜0.059g/100mLでした(オーストラリアの運転の基準0.05を上回る水準)。
大事なのは、お酒を飲んでも、筋肉の合成速度は安静時よりは上がっていた点です。運動の効果が消えたわけではなく、「プロテインだけのときほどは上がらなかった」という結果です。ただし、プロテインを一緒にとっても下がり幅は残りました。
結果② 飲酒で、翌々日までの筋力の落ち込みが大きくなった(2010年)
②は、健康な男性11人が片脚で太ももの筋肉を伸ばしながら力を出す運動(強い筋肉痛が出やすい動き)を300回行い、そのあとにアルコール体重1kgあたり1g(体重70kgならビール中瓶3.5本分ほど)を飲んだ場合と、オレンジジュースだけの場合を、左右の脚で比べたものです。
| 36時間後の最大筋力の低下 | オレンジジュース | お酒 |
|---|---|---|
| 関節を止めたまま押す力 | −12% | −34% |
| 縮みながら出す力 | −28% | −40% |
| 伸ばされながら出す力 | −19% | −34% |
※抄録の値。お酒の条件のほうが落ち込みが有意に大きかったと報告されています。
一方で、筋肉の損傷の目安となる血液の値(CK)と筋肉痛の感じ方は、2つの条件で差がありませんでした。著者らは「中程度の量の飲酒でも、筋力の落ち込みが大きくなる」と結論づけています。
結果③ 合成の信号が弱まったのは男性だけ(2017年)
③は、筋トレ経験のある男性10人・女性9人が、スミスマシンのスクワット6セットのあとにお酒または偽の飲み物(プラセボ)を飲み、3時間後と5時間後に筋肉を採取して調べました。
- 男性:3時間後の時点で、筋肉の合成にかかわる信号(mTORとS6K1)が、プラセボよりお酒のほうが弱かった。
- 女性:筋トレによる信号の上昇は見られたが、お酒による違いは見られなかった。
⑤の総説によると、③で飲んだ量は脂肪を除いた体重1kgあたり1.09gを10分間で、血中アルコール濃度は最高で約0.11g/100mLでした。また、5時間後にはお酒による差は有意でなくなっていたとまとめられています。この実験は筋肉の合成速度そのものではなく、その手前の信号を測ったものです。
結果④ 翌日・翌々日のジャンプ力や筋肉痛は変わらなかった(2020年)
④は、筋トレ経験のある男性10人が、重いバーベルをゆっくり下ろすスクワット(最大重量の110%で10回×4セット)を行い、そのあと③と同じ量のお酒、または水に置き換えた飲み物を飲んで、1週間あけて比べたものです。
運動の翌日にはジャンプの最大パワーや高さが下がり、筋肉痛も出ましたが、お酒を飲んでも飲まなくても、ジャンプ力、方向転換の速さ、短距離ダッシュ、筋肉痛のどれにも差はありませんでした。著者らは、事前に同じ運動を一度経験させて筋肉を慣らしたうえで測っていること(慣れた運動のあとであること)を条件として挙げています。
⑤の総説は、これらの結果が割れている理由として、運動の内容、飲んだ量とタイミング、一緒にとった食べ物、性別の違いを挙げています。たとえば③と同じ研究グループが、プロテインを一緒にとった条件で行った未発表の実験では、お酒による信号の低下が見られなかったとも紹介されています。
この研究が言えないこと
- 筋トレ後の飲酒を何週間も続けて、筋肉の増え方を比べた人の試験はありません。⑤の総説も「通常の筋トレで、継続的な飲酒が筋肥大を妨げるかを人で調べた研究はまだない」と明記しています。今回の結果はすべて、1回の運動のあと数時間〜数日の変化です。
- 量は「深酒」に近い多さです。①は体重1kgあたり1.5g、②は1g、③④は脂肪を除いた体重1kgあたり1.09gでした。晩酌の1〜2杯で同じことが起きるかは、これらの実験からは分かりません。
- どの実験も8〜19人と少人数です。①は男性8人だけで、②③④は抄録しか読めていないため、細かい数値や条件は確認できていません。
- ①の運動は筋トレだけではありません。脚の筋トレのあとに自転車こぎとダッシュを組み合わせており、チームスポーツの練習を想定した内容です。また「運動だけで何も飲まない」条件はありません。
- 筋肉の合成が一時的に下がることと、長期的に筋肉が減ることは同じではありません。①でも合成速度は安静時より上がっていました。
- 女性のデータは③の9人だけです。しかもその実験では女性に飲酒の影響が見られず、男女で同じことが言えるかは分かっていません。
- 日本人集団のデータではありません。対象はオーストラリア・ニュージーランド・米国の若い男女です。お酒に弱い体質の人が多い日本人では、同じ量でも体への影響が違う可能性があります。
- 飲み物の種類による違いは調べられていません。⑤の総説も、ビール・ワイン・蒸留酒で違いがあるかは今後の課題としています。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
5本を並べると、「筋トレ直後に大量に飲むと、その数時間の筋肉の合成は下がりうる」ところまでは人の実験で示されています。プロテインを一緒にとっても、下がり幅は残りました。一方で、翌日以降のジャンプ力や筋肉痛には影響が出なかった実験もあり、「1回飲んだら筋トレが無駄になる」と言える根拠はありません。
読み取れるのは、問題になりやすいのは「量」と「直後」だということです。どの実験も、運動の直後から数時間のうちにかなりの量を飲んでいました。筋肉をつけたい時期に、トレーニング後の大量の飲酒を習慣にするのは、これらの資料に照らせば避けたほうが無難でしょう。飲むなら、まず食事とたんぱく質をとり、量を控えめにする、というのが資料と矛盾しない考え方だと思います。
なお、飲酒そのものの健康への影響は筋肉とは別の問題で、当サイトの飲酒量の記事でも扱っています。影響には個人差があるとされています。
まとめ
- 運動後に体重1kgあたり1.5gのアルコールを飲むと、プロテインを一緒にとっても、筋肉をつくる速さがプロテインだけのときより24%低かったと報告されています。
- 飲酒で36時間後の筋力の落ち込みが大きくなった実験がある一方、ジャンプ力や筋肉痛は変わらなかった実験もあり、結果は割れています。
- 合成の信号の低下は男性でだけ見られた実験もあります。
- すべて少人数・1回だけの実験で、量は深酒に近く、日本人のデータでもありません。続けた場合の筋肉の増え方を比べた人の試験はまだありません。
出典(一次資料)
- Parr EB, Camera DM, Areta JL, Burke LM, Phillips SM, Hawley JA, Coffey VG. Alcohol Ingestion Impairs Maximal Post-Exercise Rates of Myofibrillar Protein Synthesis following a Single Bout of Concurrent Training. PLoS One. 2014;9(2):e88384. doi:10.1371/journal.pone.0088384 全文(PMC3922864)
- Barnes MJ, Mündel T, Stannard SR. Acute alcohol consumption aggravates the decline in muscle performance following strenuous eccentric exercise. J Sci Med Sport. 2010;13(1):189-193. doi:10.1016/j.jsams.2008.12.627(PMID 19230764)
- Duplanty AA, Budnar RG, Luk HY, Levitt DE, Hill DW, McFarlin BK, Huggett DB, Vingren JL. Effect of Acute Alcohol Ingestion on Resistance Exercise-Induced mTORC1 Signaling in Human Muscle. J Strength Cond Res. 2017;31(1):54-61. doi:10.1519/JSC.0000000000001468(PMID 27135475)
- Levitt DE, Idemudia NO, Cregar CM, Duplanty AA, Hill DW, Vingren JL. Alcohol After Resistance Exercise Does Not Affect Muscle Power Recovery. J Strength Cond Res. 2020;34(7):1938-1944. doi:10.1519/JSC.0000000000002455(PMID 29385007)
- Levitt DE, Luk HY, Vingren JL. Alcohol, Resistance Exercise, and mTOR Pathway Signaling: An Evidence-Based Narrative Review. Biomolecules. 2022;13(1):2. doi:10.3390/biom13010002 全文(PMC9855961)