この記事の要点
- 筋トレのサプリとして知られるクレアチンが、うつ症状を軽くするかを調べた試験が積み重なってきました。2025年には11試験・1,093人をまとめた統合分析が出ています。
- 統合分析の結論は慎重です。プラセボ(見た目が同じ偽物)と比べて症状の点数はやや低かったものの、その差は医師が面接でつける点数に換算して約2.2点で、「患者が違いを実感できる」とされる3点に届きませんでした。証拠の確かさは4段階で最も低い「非常に低い」と判定されています。
- いちばん目立つ結果を出したのは、韓国の女性52人の8週間の試験です。抗うつ薬にクレアチンを足した群では、8週時点で症状がほぼなくなった人が52.0%(プラセボ群25.9%)でした。ただしクレアチン群は途中でやめた人が3割以上いました。
- インドの100人の試験では、認知行動療法(考え方の癖を整える心理療法)に足したときに症状の質問票の点数が差をつけて下がりましたが、著者自身が「仮説を立てるための予備的な試験」と位置づけています。
- いずれも治療を受けている人に「足した」試験です。クレアチン単独でうつに向き合えるという話ではありません。双極性障害の人では躁状態の報告、腎臓病の人では腎機能への注意が総説で挙げられています。
⚠️ 先にお伝えしておくこと
この記事は研究の紹介であり、治療の案内ではありません。抗うつ薬などを飲んでいる方は、自己判断で薬を減らしたり止めたりせず、クレアチンを試す場合も主治医に相談してください。気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない、食べられないといった状態があれば、まず医療機関に相談することが勧められています。
クレアチンについて、田園生活ではこれまで筋トレとの組み合わせ、記憶力、睡眠、骨密度の研究を読んできました。今回は筋肉から最も離れたテーマ、気分の落ち込み・うつ症状です。
「脳もエネルギーを大量に使う臓器なので、エネルギーの再生を助けるクレアチンが脳でも役に立つのではないか」という発想から、精神医学の分野で試験が行われてきました。どこまで分かっていて、どこからが分かっていないのかを、一次資料で確認します。
読む一次資料
| 資料 | 内容 | 入手性 |
|---|---|---|
| ① Eckert I, Lima J, Dariva AA. Br J Nutr 2025;134(11):947-959. リオグランデ・ド・スル連邦大学ほか(ブラジル) | 11試験・1,093人の統合分析 | 有料(要旨のみ) |
| ② Lyoo IK, Yoon S, Kim TS ら Am J Psychiatry 2012;169(9):937-945. ソウル大学ほか(韓国)/ユタ大学(米国) | うつ病の女性52人・8週間の試験 | 全文無料 |
| ③ Sherpa NN, De Giorgi R, Ostinelli EG ら Eur Neuropsychopharmacol 2025;90:28-35. オックスフォード大学ほか(英国)/試験の実施はインド | うつ症状のある100人・8週間の試験 | 有料(要旨のみ) |
| ④ Ostojic SM, Baltic S, Zanini D. Nutr Neurosci 2026;29(2):239-247. アグデル大学(ノルウェー)ほか | 韓国の国民健康栄養調査5,257人の分析 | 有料(要旨のみ) |
②は全文が読めるので、数値は本文の表から取りました。①③④は要旨に書かれた範囲に限っています。
結果① 11試験をまとめると「差はあるが小さく、確かさは非常に低い」
まず全体像です。2025年に発表された統合分析は、クレアチンとプラセボを比べた試験を2025年2月までさかのぼって集め、11試験・1,093人のデータをまとめました。うつ病と診断された人の試験と、そうでない人の試験の両方を含んでいます。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| うつ症状の差(効果の大きさを示す指標) | −0.34(95%信頼区間 −0.68〜−0.00)=クレアチン側がやや低い |
| 医師が面接でつける点数(17項目のハミルトンうつ病評価尺度)に換算すると | 約2.2点 |
| 患者が違いを実感できるとされる最小の差 | 3.0点 → 届いていない |
| 試験ごとのばらつき | 大きい(異質性71.3%) |
| 証拠の確かさ(4段階評価) | 非常に低い(最も低い段階) |
| 寛解(症状がほぼなくなった状態) | 3試験で差あり(オッズ比3.60) |
| 治療反応(点数が半分以下になった状態) | 2試験で差なし(オッズ比0.72) |
著者らは、うつ病と診断された人のほうが効果は大きく見えたとしつつ、追加の解析ではクレアチンに有利な方向の偏りが大きいことが示されたと書いています。そのうえで結論を「うつのある人に小〜中程度の利益があるかもしれないが、平均的な効果は臨床的に意味のある大きさではなく、本当の効果はごく小さいか、ゼロである可能性もある」とまとめています。
寛解では差が出たのに治療反応では差が出ないという、向きのそろわない結果も並んでいます。どちらも2〜3試験だけの結果なので、ここから強い結論は引き出せません。
結果② 抗うつ薬にクレアチンを足した韓国の試験(52人)
効果を示す根拠として最もよく引かれるのが、この試験です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | うつ病と診断された韓国の女性 52人(平均年齢はクレアチン群45.7歳・プラセボ群47.5歳) |
| 割り付け | くじ引きで2群に分け、本人も医師もどちらか分からない形(二重盲検) |
| 全員に共通 | 抗うつ薬エスシタロプラム(SSRIと呼ばれる種類) |
| クレアチン群(25人) | 最初の1週は1日3g、その後7週は1日5g |
| プラセボ群(27人) | 見た目が同じカプセル(中身はでんぷん由来の粉) |
| 期間 | 8週間 |
| 主な評価 | ハミルトンうつ病評価尺度(医師が面接で点数をつける。点数が高いほど重い) |
結果です(本文の表2から)。
| 時点 | クレアチン群の点数 | プラセボ群の点数 |
|---|---|---|
| 開始時 | 26.9(25人) | 26.7(27人) |
| 1週後 | 22.8(23人) | 23.5(25人) |
| 2週後 | 14.7(19人) | 20.3(24人) |
| 4週後 | 9.4(19人) | 15.1(23人) |
| 8週後 | 5.4(17人) | 9.8(22人) |
2週目から差が開き、4週・8週でも差が続きました。8週時点で寛解(点数7点以下)に至った人はクレアチン群52.0%(13人)、プラセボ群25.9%(7人)で、差は統計的に有意でした。
一方で、点数が半分以下になった人(治療反応)の割合は、2週・4週では差がありましたが、8週時点では有意な差がありませんでした。
読み取りに注意が必要な箇所:表の括弧内の人数を見てください。クレアチン群は25人で始まり、8週時点で残っていたのは17人です。途中でやめた人はクレアチン群8人(32.0%)、プラセボ群5人(18.5%)で、論文はこの差を「有意ではない」としています。ただ、3人に1人が抜けた群の最終時点の平均点は、残った人たちだけの点数です。論文は、寛解率などについては欠けた値を補った解析でも有意なままだったと書いていますが、点数の推移そのものはこの点を差し引いて読む必要があります。
副作用として報告された件数は、クレアチン群36件、プラセボ群45件でした。
資金と利益相反:研究費は米国の精神疾患研究財団(NARSAD)、韓国の研究助成、米国立薬物乱用研究所・国立精神衛生研究所から出ており、「資金提供者は試験の設計・解析・論文作成に関与していない」と明記されています。一方で、著者のうち1人は複数の製薬企業の顧問を務め、関連する特許出願の発明者であることを開示しています(この著者は参加者の評価には関わっていないとされています)。筆頭著者も製薬企業数社から研究支援を受けたと開示しています。
結果③ 認知行動療法に足したインドの試験(100人)
2025年に発表された、新しい試験です。インド北部の医療資源が乏しい地域で行われました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | うつ症状のある 100人(女性50人・平均年齢30.4歳) |
| 比較 | 認知行動療法+クレアチン(50人) vs 認知行動療法+プラセボ(50人) |
| 期間 | 8週間 |
| 主な評価 | 自分で答える9問の質問票(PHQ-9。27点満点で、高いほど重い)。開始時の平均は17.6点 |
| 結果 | 両群とも下がったが、クレアチン群のほうが平均5.12点多く下がった |
| 途中でやめた人・副作用 | 両群で同程度 |
数字だけ見れば大きな差ですが、著者ら自身がこの試験を「実施可能性を確かめるための予備的な試験」「仮説を生み出すための試験」と位置づけ、より長く大規模な試験が必要だとしています。要旨にはクレアチンの用量が書かれていません。
掲載誌には、この試験について「クレアチンは認知行動療法の補助として有用か?」と題したブラジルの研究者のレターが載り、著者側は「予備的な証拠は予備的なものとして扱うべきだ」と題した返信を出しています。
研究資金はインドの非政府組織から出ており、筆頭著者はその組織の所属も兼ねています。
結果④ 普段の食事からの摂取量とうつ(韓国の5,257人)
サプリではなく、肉や魚から自然にとっているクレアチンの量と、心の健康との関係を見た調査です。韓国の2022年国民健康栄養調査のデータが使われています。
| 食事からのクレアチン摂取量 | うつの割合 |
|---|---|
| 最も少ない4分の1 | 6.9% |
| 2番目 | 3.3% |
| 3番目 | 4.3% |
| 最も多い4分の1 | 3.6% |
摂取量が最も少ない群でうつの割合が高く、自殺念慮なども多かったと報告されています。ただし、摂取量が多いほど段階的に下がる形にはなっていません。また不安との関連は、生活習慣の違いを考慮すると消えてしまいました。
この調査は一時点を切り取った横断調査なので、「クレアチンが少ないからうつになる」のか、「うつで食欲が落ちて肉や魚を食べなくなる」のか、方向は分かりません。
この研究が言えないこと
- 日本人集団のデータではありません。韓国とインドの試験、韓国の調査、ブラジルの研究者による統合分析です。韓国のデータはアジア人ではありますが、日本人を対象にしたものではありません。
- 「クレアチンだけでうつが軽くなる」とは言えません。最も結果が目立った2試験は、いずれも抗うつ薬または認知行動療法を受けている人に足した試験です。治療の代わりとしての効果は検証されていません。
- 平均的な差は、患者が実感できる大きさに届いていません。11試験をまとめた差は約2.2点で、最小の意味のある差とされる3点を下回りました。
- 証拠の確かさは「非常に低い」です。試験ごとのばらつきが大きく、クレアチンに有利な方向の偏りが大きいと、統合分析の著者自身が書いています。
- 韓国の試験は途中でやめた人が多いです。クレアチン群は25人中8人(32.0%)が脱落しました。8週時点の点数は残った17人の値です。
- 韓国の試験は女性のみ、インドの試験は予備的な試験です。男性や高齢者、重いうつの人に同じことが言えるかは分かりません。
- 食事の調査は因果関係を示しません。一時点の調査なので、どちらが原因かは分かりません。
- 安全面の注意があります。2024年の総説は、双極性障害の人で躁状態が起きる可能性と、腎臓の病気がある人での腎機能への影響に注意が必要だと述べています。健康な人の筋トレ研究での安全性を、そのままこうした人に当てはめることはできません。
- 利益相反が完全に切り離されているわけではありません。韓国の試験では著者の1人が関連する特許出願の発明者でした。インドの試験は、筆頭著者が所属する組織が資金を出しています。統合分析と食事調査については、要旨から資金源を確認できませんでした。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- 気分の落ち込みにクレアチンを勧める、という結論にはなりませんでした。最も確かな「まとめ」の研究が、平均的な効果は臨床的に意味のある大きさではないと言っているからです。
- 一方で、治療中の人に足したときに結果が良かった試験があるのも事実です。研究者のあいだで「もっと大きな試験で確かめる価値がある」とされている段階、というのが現在の位置だと考えます。
- 筋トレ目的ですでにクレアチンを飲んでいる方にとって、今回の資料から言えるのは「気分の落ち込みへの効果は、まだ確かではない」ということです。ただし双極性障害の診断を受けている方は、躁状態の報告があるので主治医に確認してください。
- サプリを足すかどうかより前に、治療を続けること、睡眠や日中の活動量を整えることが土台になると考えます。同じ「気分の落ち込み」をテーマにしたサプリの研究としては、オメガ3やサフランの記事も読んできましたが、どれも「決め手」と言える段階にはありませんでした。
- 反応には個人差があります。服薬中の方は、自己判断で薬を減らしたり止めたりしないでください。
まとめ
「クレアチンでうつ症状は軽くなるか」を、4つの一次資料で確認しました。11試験・1,093人をまとめた2025年の統合分析では、クレアチン側で症状がやや低かったものの、その差は約2.2点で、患者が実感できるとされる3点に届かず、証拠の確かさは「非常に低い」と判定されています。
目立つ結果を出した韓国の試験(抗うつ薬に追加・8週で寛解52.0%対25.9%)とインドの試験(認知行動療法に追加・5.12点多く低下)は、どちらも治療を受けている人に足したもので、前者は脱落が多く、後者は著者自身が予備的な試験と位置づけています。
「脳のエネルギー」という理屈は魅力的ですが、現時点では「期待されて検証が進んでいる段階」であって、治療の選択肢として勧められる段階ではない、というのが一次資料を読んだ範囲での受け止めです。
出典(一次資料)
- Eckert I, Lima J, Dariva AA. “Creatine supplementation for treating symptoms of depression: a systematic review and meta-analysis.” Br J Nutr 2025;134(11):947-959. europepmc.org/article/MED/41189312
- Lyoo IK, Yoon S, Kim TS, Hwang J, Kim JE, Won W, Bae S, Renshaw PF. “A randomized, double-blind placebo-controlled trial of oral creatine monohydrate augmentation for enhanced response to a selective serotonin reuptake inhibitor in women with major depressive disorder.” Am J Psychiatry 2012;169(9):937-945.(全文無料)PMC4624319
- Sherpa NN, De Giorgi R, Ostinelli EG, Choudhury A, Dolma T, Dorjee S. “Efficacy and safety profile of oral creatine monohydrate in add-on to cognitive-behavioural therapy in depression.” Eur Neuropsychopharmacol 2025;90:28-35. europepmc.org/article/MED/39488067
- Ostojic SM, Baltic S, Zanini D. “Dietary creatine intake and mental health among the Korean population.” Nutr Neurosci 2026;29(2):239-247. europepmc.org/article/MED/40962503
- (安全面の注意の出典)“Creatine Supplementation in Depression: A Review of Mechanisms, Efficacy, Clinical Outcomes, and Future Directions.” Cureus 2024.(全文無料)PMC11567172
※②は全文が無料で公開されており、本記事の数値は論文本文の表から取りました。①③④は本文が有料で、要旨に書かれた範囲に限っています。