研究ノート・ケトジェニックダイエットの安全性

糖質制限は誰にでも合うのか|注意が必要な薬と持病

公開日: 2026-09-09 · 約12分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • 精神科医のジョージア・エデ氏(米国・独立系)を含む10人の国際研究チームが2026年に発表した総説「The ketogenic diet is not for everyone(ケトジェニックダイエットは万人向けではない)」を一次資料で読みます。
  • 絶対にやってはいけない人は、先天性の脂肪代謝異常症など、ごく稀な病気を持つ人に限られます。
  • 一方、「特に注意が必要な人」の範囲はかなり広いです。糖尿病の薬・血圧の薬・気分安定薬(リチウム)・利尿薬などを服用中の人、妊娠中や授乳中の人、胆石がある人、激しい運動をする人などが該当します。
  • 副作用(いわゆる「ケトフル」)は開始後数日に多く、2〜4週間で治まることが多いとされますが、3つの調査を比べると報告された頻度にはかなりの幅がありました。

糖質制限やケトジェニックダイエットは、糖尿病や肥満の改善に関する研究が積み重なる一方、「体質や持病によっては向かない人がいる」という話も見聞きします。今回読むのは、まさにその「向かない人・注意が必要な人」を正面から整理した総説です。以前この田園生活で紹介した日本人を対象にした糖質制限の一次資料5本とは違う角度から、糖質制限そのものの安全性を掘り下げます。

読む一次資料

資料形式著者・所属入手性
Dyńka D, Rodzeń Ł, Rodzeń M, Łojko D, Karakuła-Juchnowicz H, Ede G, Grzywacz Ż, Antosik K, Sethi S, Unwin D.
Ann Med 2026;58(1):2603016.
doi:10.1080/07853890.2025.2603016
ナラティブレビュー(系統的レビューではない総説) ポーランド・米国・英国の研究者10人
責任著者(corresponding author)=Damian Dyńka(ポーランド・シェドルツェ大学)
全文無料(PMC12777878)

全文が無料で読めるため、以下の数値・記述はすべて論文本文(Discussion・Table 1・Table 2)から確認したものです。

この総説はどんな研究か

まず押さえておきたいのは、これは新しい実験やデータ収集を行った研究ではなく、既存の文献を専門家が選んで整理した「ナラティブレビュー」だという点です。論文自身が方法の章で明記しているとおり、対象とした証拠(診療ガイドライン・機序研究・総説・症例報告・観察研究・専門家の推奨など)の性質がバラバラなため、系統的レビューのような定型的な統合手法は使わなかったとしています。

検索はPubMedとGoogle Scholarで行い、「ケトジェニックダイエット」「ケトーシス」といった広い語に加え、「絶対禁忌」「相対禁忌」「薬物相互作用」「副作用」などの安全性関連語を組み合わせました。個々の論文で特定の禁忌(急性膵炎・原発性カルニチン欠乏症・胆石症・SGLT2阻害薬など)が見つかるたびに、その病名・薬剤名を使った追加検索を行い、対象を広げていったと書かれています。

結果① 絶対にやってはいけない人(ごく稀な先天性代謝異常症)

論文がまず整理しているのは「絶対禁忌」、つまり原則としてケトジェニックダイエットを行うべきではない人です。ここに含まれるのは、いずれも生まれつきの脂肪代謝の異常で、多くは乳幼児期に診断される非常に稀な病気です。

病名頻度(論文記載)理由
ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症25万人に1人糖新生ができないため、糖質を絶つと代謝性アシドーシスが悪化する
原発性カルニチン欠乏症など脂肪酸のβ酸化異常症原発性カルニチン欠乏症は10万人に1人脂肪を主なエネルギー源にする代謝経路そのものが働かない
ポルフィリン症(頻度の記載なし)糖質制限で症状が誘発・悪化しうる

いずれも一般的な健康診断で見つかるような病気ではなく、多くは乳幼児期に診断がついています。したがって、成人が「自分は絶対禁忌に該当するかもしれない」と日常的に心配する必要がある病気ではありません。論文もこれらを「稀だが重要」と位置づけています。

結果② 特に注意が必要な人(薬を服用中の人・持病がある人・ライフステージ)

この総説の核心は、むしろここからの「相対禁忌」と「特に注意が必要な状況」です。絶対禁忌と違い、こちらは「やってはいけない」のではなく「医師の管理のもとで慎重に行うべき」という位置づけで、該当しうる人の範囲はかなり広くなります。

薬を服用中の人

服用中の薬論文が指摘するリスク
インスリン・SU薬(スルホニル尿素系)などの糖尿病治療薬糖質制限自体の血糖降下作用が強いため、薬の量を減らさないと低血糖を起こしうる
SGLT2阻害薬糖質制限との併用で、血糖値が正常でもケトアシドーシスを起こす「正常血糖ケトアシドーシス」の症例報告あり。米臨床内分泌学会は開始前の中止を提案
降圧薬糖質制限自体に血圧を下げる作用があるため、薬を減らさないと低血圧を起こしうる
リチウム(気分安定薬)糖質制限で体からナトリウムと水分が失われやすくなるが、リチウムは腎臓でナトリウムと似た扱いを受けるため血中濃度が変動しうる。治療域が狭い薬なのでモニタリングが必要
利尿薬糖質制限の開始初期はもともと水分・電解質が失われやすく、利尿薬と作用が重なる
抗てんかん薬(トピラマート・ゾニサミドなど)代謝性アシドーシスのリスクが高まりうる。バルプロ酸・カルバマゼピン・ラモトリギンなどは血中濃度が下がる報告があり、クロバザムは42%低下したという報告もある
スタチン・一部の抗うつ薬・抗精神病薬など「脂溶性の薬」高脂肪食との相性で吸収が高まり、血中濃度が上がる可能性

いずれも「だから糖質制限をしてはいけない」という話ではなく、薬の量を医師の管理のもとで調整する必要があるという趣旨です。実際、論文自身が2型糖尿病について「糖質制限で薬を減量・中止でき、寛解に至った例もある」と紹介しており、糖尿病治療薬を服用していること自体はむしろ糖質制限が有効な場面として扱われています。

持病がある人

ライフステージ・生活状況

結果③ 副作用の実データ(3つの調査を比べる)

いわゆる「ケトフル」と呼ばれる初期の不調について、論文は複数の調査結果を紹介しています。調査の方法によって数字にかなりの幅があります。

調査対象主な報告
後ろ向き観察研究糖質制限を行った226人めまい(軽度39.8%・中等度27.4%・重度11.5%)、多尿72.1%、倦怠感69.7%、吐き気(軽度29.2%・中等度16.4%・重度5.8%)。ただし90.3%が糖質制限に満足し、81.9%が他人に勧めると回答
オンラインフォーラムの投稿分析利用者300人風邪のような症状44.6%、頭痛24.8%、倦怠感17.8%、吐き気15.8%、めまい14.9%、頭がぼんやりする10.9%など。症状のピークは開始1週目で、4週間後には減少
国際専門家調査神経疾患の成人患者2,000人以上を診療する20施設便秘・体重減少・脂質異常・こむら返り・(妊娠可能年齢の女性の)月経不順・吐き気・嘔吐の順に多い

ただし論文自身が、後の2つの調査には限界があると明記しています。オンラインフォーラムの分析は「主観的な意見の分析であり、科学的な価値は限定的」、専門家調査は「主に神経疾患の患者を対象にしており、一般人口にそのまま当てはめられない」としています。体重減少は一般の人にとっては目的(利益)ですが、神経疾患の治療という文脈では副作用として扱われている点も、数字を読むときの注意点です。

2025年に発表された系統的レビュー(89の研究を対象)では、成人でよく見られる症状として便秘(1〜68%)・吐き気(8〜16%)・嘔吐(1%)・下痢(2〜23%)・倦怠感(18〜25%)などが挙げられており、多くは開始後2〜4週間で治まるとしています。

この研究が言えないこと

1. ナラティブレビューであり、系統的レビューではない

論文自身が「限界」の章で明記しているとおり、文献の選定は定められた手順に従ったものではなく、著者の判断による部分があります。系統的レビューに比べて選択バイアスが入り込みやすい手法です。

2. 資金提供者と著者2人が同じ財団の共同創設者

論文の資金提供はポーランドのRodzen Brothers Foundationからで、著者10人のうちŁukasz RodzeńとMateusz Rodzeńの2人がこの財団の共同創設者であると開示されています。開示されていること自体は健全な手続きですが、事実として記しておきます。

3. 副作用データの3調査はいずれも代表性に限界がある

226人の後ろ向き研究は単一施設の可能性があり、300人のオンラインフォーラム分析は論文自身が「科学的価値は限定的」と述べ、専門家調査は神経疾患の患者が対象です。一般的な健康増進・減量目的で糖質制限を行う人に、そのまま数字を当てはめることはできません。

4. 日本人集団のデータではない

著者はポーランド・米国・英国の研究者で、引用されている個別の研究の対象者も欧米が中心です。体格・食習慣・薬の処方状況が異なる日本人にそのまま当てはまるとは限りません。

5. 引用された証拠の質が一律ではない

ランダム化比較試験もあれば、症例報告1〜2件だけを根拠にしている項目もあります(プロポフォールの相互作用は、致死的な合併症を起こした10歳の男児の症例報告1件が根拠の一つです)。すべての項目が同じ強さの証拠に支えられているわけではありません。

6. 「相対禁忌」は将来変わりうる、予防的な位置づけ

論文は相対禁忌について「研究や臨床経験が不足しているため、安全側に倒して慎重に扱っている」項目が多いと明記しています。今後研究が進めば、注意の程度が変わる可能性があります。

7. 薬物相互作用のリストは代表例であり網羅的ではない

論文自身が「取り上げた薬剤の種類・作用機序は非常に多く、以下は起こりうる相互作用のすべてではない」と明記しています。ここに載っていない薬を服用中でも、影響がないとは限りません。

8. Georgia Ede氏は大学に所属しない独立系の精神科医

著者の一人であるジョージア・エデ氏の所属は、論文中で「独立研究者」とのみ記載されています。大学の研究者としての肩書きは持っていません。

実践の視点から

筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。

まとめ

ジョージア・エデ氏らの研究チームが2026年に発表した総説「ケトジェニックダイエットは万人向けではない」を読みました。絶対にやってはいけない人はごく稀な先天性代謝異常症に限られますが、糖尿病薬・降圧薬・リチウム・利尿薬・抗てんかん薬などを服用中の人、妊娠中や授乳中の人、胆石がある人、激しい運動をする人など「特に注意が必要な人」の範囲は広いことが整理されていました。副作用(ケトフル)は開始後数日に集中し多くは2〜4週間で治まるとされますが、調査によって報告された頻度にはかなりの幅がありました。

この総説はナラティブレビューであり選択バイアスの可能性がある点、資金提供財団と著者2人の関係、そして日本人のデータではない点は差し引いて読む必要がありますが、「向いている・向いていない」を一律に語るのではなく、条件ごとに整理して示している点は、実践者として参考になる内容でした。

出典(一次資料)

  1. Dyńka D, Rodzeń Ł, Rodzeń M, Łojko D, Karakuła-Juchnowicz H, Ede G, Grzywacz Ż, Antosik K, Sethi S, Unwin D. "The ketogenic diet is not for everyone: contraindications, side effects, and drug interactions." Ann Med 2026;58(1):2603016. doi:10.1080/07853890.2025.2603016(全文無料)PMC12777878

※本記事はナラティブレビュー(系統的レビューではない総説)1本を一次資料として読んだものです。資金提供元はRodzen Brothers Foundation(ポーランド)で、著者のうち2人(Ł. Rodzeń・M. Rodzeń)が同財団の共同創設者であることが論文中に開示されています。

よくある質問

糖質制限をしてはいけない人はどのくらいいますか?

論文が挙げる「絶対禁忌」は、ピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症(25万人に1人)や原発性カルニチン欠乏症(10万人に1人)など、いずれも生まれつきの稀な代謝異常症に限られます。多くは乳幼児期に診断がついており、成人が日常的に心配する対象ではありません。

糖尿病や高血圧の薬を飲んでいても糖質制限はできますか?

論文は『やってはいけない』ではなく『医師の管理のもとで薬の量を調整する必要がある』と整理しています。糖質制限自体に血糖値・血圧を下げる作用があるため、薬の量をそのままにすると低血糖・低血圧を起こす可能性があるという趣旨です。

妊娠中や授乳中に糖質制限をしても大丈夫ですか?

論文は安全性を確立するにはデータがまだ不十分としています。妊娠中に新しく始めるのは適応期のストレスが重なるため避け、妊娠前から移行しておくほうが安全だとしています。

ケトフルと呼ばれる副作用はどのくらいの人に出ますか?

調査によって数字に幅があります。226人の後ろ向き研究ではめまい・多尿・倦怠感・吐き気が多く報告され、300人のオンラインフォーラム分析では風邪のような症状が44.6%で最多でした。多くの症状は開始後2〜4週間で治まるとされています。

筋トレをしている人が糖質制限をするときの注意点はありますか?

論文は、低〜中強度の運動には向く一方、高強度の運動への効果には研究者の間でも意見の相違があるとしています。適応には数週間かかるとされ、運動中の水分・電解質の喪失にも注意が必要だとしています。

この研究は日本人を対象にしていますか?

いいえ。著者はポーランド・米国・英国の研究者で、引用されている個別研究の対象者も主に欧米です。体格・食習慣・薬の処方状況が異なる日本人にそのまま当てはまるとは限りません。

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