研究ノート · 糖質制限

日本人にとって糖質制限はどうなのか──結論が割れている一次資料5本をそのまま読む

公開日: 2026-08-24 · 約20分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • 京都府立医科大学のグループが、東アジアの2型糖尿病患者を対象にしたランダム化比較試験6本(計400人)をメタ解析すると、低炭水化物食はHbA1cを標準化平均差 −0.55(95%CI −0.77〜−0.33)下げていた。ただし6本中5本は6か月以内の短期試験。
  • ところが北海道大学が北海道の一般住民348人を調べた横断研究では方向が逆で、低炭水化物食スコアが高い人ほどHbA1cが高かった(四分位ごとの幾何平均 5.35 → 5.44 → 5.40 → 5.52、p-trend<0.001)。
  • 東京農業大学と北里研究所病院が糖尿病外来335人の食事を調べると、利用可能炭水化物は中央値34.6%E。糖質の割合が低い人ほど脂質・動物性タンパク質・飽和脂肪酸・食塩がそろって高かった
  • 57,851人を中央値19.4年追跡したJACC研究では、低炭水化物スコアは総死亡と逆相関(最小 HR 0.85)。ただし魚の脂質でつくったスコアはU字だった。※この1本だけ有料論文のため、本文は未確認・抄録の範囲のみ。
  • 糖質50g/日(ケトーシス)と120g/日(ゆるやか)を2か月比べた朝日生命成人病研究所のRCTでは、体重・体脂肪の減りに有意差なし。有意に差がついたのはケトン体だけだった。
  • 5本とも日本または東アジアのデータなのに結論がそろわない。「短期の血糖」と「長期の食習慣」を同じ言葉で語ると必ず矛盾する──そこがこの5本を並べていちばん見えてくるところ。

裏どりに使った資料

  • 【オープンアクセス・本文確認済】Hironaka J, Hamaguchi M, Ichikawa T, Nakajima H, Okamura T, Majima S, Senmaru T, Okada H, Ushigome E, Nakanishi N, Joo E, Shide K, Fukui M. “Efficacy of low-carbohydrate diets in East Asian patients with type 2 diabetes mellitus: A systematic review and meta-analysis.” Journal of Diabetes Investigation 2024. doi:10.1111/jdi.14326PMC11615700
  • 【抄録のみ確認・本文は有料】Yaegashi A, Kimura T, Okada E, Nakamura K, Ukawa S, Nakagawa T, Imae A, Nakamura A, Tamakoshi A. “Association between low-carbohydrate diet scores and glucose metabolism markers among Japanese adults: results from the DOSANCO health study.” Diabetology International 2026. doi:10.1007/s13340-026-00896-4
  • 【オープンアクセス・本文確認済】Inaba S, Shirai T, Sanada M, Miyashita H, Inoue G, Nagahisa T, Wakana N, Homma K, Fukuyama N, Yamada S. “Dietary Intake of Japanese Patients with Type 2 Diabetes Mellitus Practicing a Low-Carbohydrate Diet.” Nutrients 2024;16(11):1658. doi:10.3390/nu16111658PMC11174919
  • 【抄録のみ確認・本文は有料】Sasakabe T, Wakai K, Kawai S, Lin Y, Hishida A, Iso H, Kikuchi S, Tamakoshi A, JACC Study Group. “Low-Carbohydrate Diet Score and Risk of Mortality: The Japan Collaborative Cohort Study.” The Journal of Nutrition 2025. doi:10.1016/j.tjnut.2025.02.001Europe PMC
  • 【オープンアクセス・本文確認済】Kikuchi T, Kushiyama A, Yanai M, Kashiwado C, Seto T, Kasuga M. “Comparison of Low-Carbohydrate and Very-Low-Carbohydrate Diets for Weight Reduction: A Randomized Trial.” Nutrients 2023;15(6):1342. doi:10.3390/nu15061342PMC10052897

なぜこの5本を選んだか

「ケトーシスダイエットの研究はないのか」という問いから調べはじめて、最初に分かったのは日本人を対象にした本格的なケトジェニック食のランダム化比較試験は、実質的に存在しないということでした。日本でケトン食が研究されているのはてんかんやがんの補助療法という文脈がほとんどで、減量や血糖のための研究は「ケトジェニック」ではなく低炭水化物食(LCD)ロカボ(ゆるやかな糖質制限)という枠で行われています。

そこで枠を広げて日本の一次資料を集めたところ、もっと面白いことが見えてきました。同じ「糖質を減らす」を扱っているのに、研究どうしで結論の向きが逆になっているのです。しかも一方が海外の研究で一方が日本、という話ではありません。どちらも日本人のデータです。

この記事では、都合のいい1本を選んで「糖質制限は効く/効かない」と断言する代わりに、結論が割れている5本をそのまま並べて、なぜ割れるのかを読むことにします。5本のうち3本はオープンアクセスなので本文と表を直接確認しました。残り2本は有料論文なので、抄録に書かれている範囲だけを使い、本文は未確認であることをその都度明記します

その前に──「糖質制限」と「ケトジェニック」は同じものではない

混同されやすいので先に整理しておきます。今回読む研究のなかでも、「低炭水化物食」と呼ばれているものの中身はバラバラです。京都府立医科大学のメタ解析に入った6本のRCTでも、低炭水化物食の定義は次のように分かれていました。

その研究が使った「低炭水化物食」の定義本数
1日50g未満2本
1日70〜130g2本
1日90g未満1本
1日130g未満1本

ケトーシス(体が糖の代わりにケトン体を主なエネルギー源として使う状態)に入るにはおおむね1日50g以下まで落とす必要があるとされますから、上の6本のうち「ケトジェニック」と呼べるのはせいぜい2本です。残りは「糖質をやや控えめにした食事」であって、まったく別物と考えたほうがいい。この記事で「糖質制限」と書くときも、どのレベルの話をしているのかを毎回添えるようにします。

①効いていた側:東アジアの2型糖尿病患者・RCT6本のメタ解析(京都府立医科大学)

京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学の福井道明(ふくい・みちあき)先生らのグループが2024年に発表した系統的レビュー/メタ解析です。東アジア人に絞ったのがこの研究の狙いで、理由は明快です。欧米人と比べて東アジア人はもともと炭水化物の摂取比率が高く、体脂肪率のわりにBMIが低く、インスリン分泌能が低い傾向がある。だから欧米のメタ解析の結果をそのまま持ってくるのは危ない、という問題意識です。

項目内容
デザイン系統的レビュー+メタ解析(ランダム化比較試験のみ)
実施機関京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学/京都大学医学部附属病院 疾患栄養治療部
事前登録PROSPERO CRD42023453007(2023年8月26日登録)
組み入れ6本のRCT・計400人(中国2本=134人・56人/台湾1本=92人/日本3本=28人・66人・24人)
期間3〜18か月。うち5本は6か月以内、長期は1本のみ
掲載誌Journal of Diabetes Investigation(2024年)

結果

アウトカム標準化平均差(95%CI)本数異質性
HbA1c(主要評価項目)−0.55(−0.77〜−0.33)6本I²=0%
HbA1c(6か月以内に限定)−0.56(−0.80〜−0.32)5本
BMI−0.41(−0.65〜−0.17)4本I²=0%
空腹時血糖−0.40(−0.65〜−0.15)3本
収縮期・拡張期血圧、中性脂肪、HDL-C、LDL-Cいずれも対照食に対して有意な差なし

読みどころは2つあります。ひとつは異質性I²が0%だったこと。6本の結果がきれいにそろっていて、「たまたま外れ値が引っぱった」という形ではありません。もうひとつは脂質と血圧はまったく動いていないこと。糖質制限をめぐる議論では「脂質が増えるからLDLが上がるのでは」という心配と「中性脂肪が下がる」という期待が両方語られますが、この6本の範囲ではどちらも起きていません。

バイアスリスクの評価は低リスク2本/いくつか懸念あり4本。懸念の中身は、ブロックランダム化を使っている2本、脱落理由の報告が不明確な1本、事前のプロトコルが確認できず主要評価項目が後づけでないと確かめきれない3本、というものでした。

②方向が逆だった側:北海道の一般住民348人(北海道大学)

北海道大学大学院医学研究院 社会医学分野 公衆衛生学教室の玉腰暁子(たまこし・あきこ)先生らが参加するDOSANCO健康調査から、2026年に発表された横断研究です。①とはっきり逆の向きの結果が出ています。

項目内容
デザイン横断研究(2015年・北海道)
対象35〜79歳の住民348人
除外糖尿病と診断されている人、治療中の人、HbA1c 6.5%以上、空腹時血糖126mg/dL以上
食事評価妥当性が検証された食物摂取頻度調査票
指標炭水化物・タンパク質・脂質のエネルギー比から算出する低炭水化物食スコア3種(通常・動物性・植物性)

低炭水化物食スコアが高い=糖質の比率が低く、タンパク質と脂質の比率が高い食べ方をしている、という意味です。そのスコアの四分位ごとにHbA1cの幾何平均を出すと──

低炭水化物食スコア第1四分位第2四分位第3四分位第4四分位傾向性
HbA1c(幾何平均)5.355.445.405.52p-trend<0.001

スコアが高い人ほどHbA1cが高い。しかも動物性スコアでも植物性スコアでも同じ向きの傾向が出ました。①のメタ解析は「糖質を減らすとHbA1cが下がる」でしたから、真逆です。

著者らが抄録で挙げている説明はこうです。近年の日本人の食事は肉が増え魚が減る方向にシフトしており、「糖質の比率が低い食べ方」の中身そのものが昔と変わってしまっている。だから低炭水化物食スコアが持つ代謝上の意味も、地域や時代によって違いうる、と。ただし著者ら自身が「横断データでは時間的前後関係も因果も示せない」と明記しています。

③そもそも日本人は糖質を減らすとき何を増やしているのか(東京農業大学×北里研究所病院)

②の説明が正しいのかを確かめるのに、ちょうど良い研究があります。東京農業大学と北里大学北里研究所病院の共同研究で、責任著者は北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟(やまだ・さとる)先生。「ロカボ(ゆるやかな糖質制限)」を提唱してきた方です。

項目内容
デザイン観察研究(横断)
実施施設北里大学北里研究所病院(東京都港区)
対象30歳超の2型糖尿病外来患者335人
期間2022年2月〜2023年2月
倫理北里研究所病院研究倫理委員会 承認番号21047
食事評価簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)

335人全体の食事(中央値・四分位範囲)

項目中央値(IQR)
年齢68(60〜74)歳
HbA1c49(45〜55)mmol/mol=6.7(6.3〜7.2)%
BMI24.0(21.8〜26.7)
エネルギー1457(1153〜1786)kcal/日
タンパク質18.6(15.7〜21.4)%E
脂質36.8(31.6〜43.2)%E
利用可能炭水化物34.6(26.0〜42.4)%E
食物繊維7.1(5.6〜8.4)g/1000kcal
食塩6.5(5.6〜7.5)g/1000kcal

まずここが驚きどころです。日本人の食事摂取基準が示す炭水化物の目標量は50〜65%Eですが、この外来患者集団の中央値は34.6%E。半数以上がすでに「かなりの低炭水化物食」を実践しているということになります。

糖質の割合で4つに分けると、何が入れ替わるか

項目(中央値)Q1(最も低糖質)Q2Q3Q4(最も高糖質)p
利用可能炭水化物 %E21.230.238.546.9
脂質 %E45.541.535.430.1<0.001
タンパク質 %E22.220.118.015.9<0.001
動物性タンパク質 %E15.913.611.19.5<0.001
飽和脂肪酸 %E10.610.39.48.5<0.001
食塩 g/1000kcal7.26.56.46.0<0.001
年齢686668720.002
BMI23.623.824.624.20.041
HbA1c(mmol/mol)474852510.002
eGFR71.1372.7868.3962.510.002

糖質を減らしている人ほど、脂質も、タンパク質も、動物性タンパク質も、飽和脂肪酸も、そして食塩も、そろって高い。これは②の北海道大学の解釈──「低炭水化物スコアが高い食べ方の中身が問題なのではないか」──と整合します。糖質を減らすというのは、必ず何かを増やすことなのだ、という当たり前の事実が数字で見えます。

HbA1cのペアワイズ比較で有意だったのはQ1対Q3とQ2対Q3で、Q4は最高値ではありません。eGFRはQ4がQ1・Q2より低いという結果です。ただしこれは横断データの群間比較であり、しかも年齢がQ4で高い(中央値72歳)ため、eGFRの差が食事によるものか年齢によるものかはこの表からは分けられません。

④長期に追跡したらどうなるか──JACC研究・19.4年

この論文は有料のため、本文と表は未確認です。以下は抄録に書かれている範囲のみを紹介します。

日本の多施設共同コホート研究(JACC Study)のデータを使い、2025年に The Journal of Nutrition に発表されたものです。ここまでの3本が「血糖」を見ていたのに対し、この研究が見ているのは死亡です。

項目内容
対象ベースライン40〜79歳の男性22,659人・女性35,192人(計57,851人)
追跡中央値19.4年
死亡10,835人(男性5,835人・女性5,000人)
指標食物摂取頻度調査票から算出した低炭水化物食スコア。脂質の由来別に動物性・魚・植物性の3種も算出
結果(抄録より)内容
全体の低炭水化物スコアと総死亡逆相関。最も低いハザード比は第8十分位で 0.85(0.78〜0.93)、P-linear trend=0.03
魚の脂質でつくったスコアと総死亡U字型(P-nonlinear trend=0.01)
心血管疾患死亡全体スコア(P-trend=0.04)・魚脂質スコア(P-trend=0.04)とも逆相関
女性全体スコアと総死亡が逆相関。魚脂質スコアはU字

ここで注意深く読みたいのは、いちばん低いハザード比が「第10十分位」ではなく「第8十分位」だったという書き方です。つまり抄録の記述から素直に読めば、糖質を減らせば減らすほど良い、という形ではない。著者らも結論で「moderate(中等度の)低炭水化物スコアが低い総死亡と関連していた」と書いています。そしてU字型が出たのが魚由来の脂質のスコアだった、というのも示唆的です。

⑤ケトーシスまで落とすと上乗せはあるのか(朝日生命成人病研究所のRCT)

日本人を対象に、ゆるやかな糖質制限とケトジェニックに近い糖質制限を直接ぶつけた数少ないRCTです。日本人でケトーシスの是非を語るなら、いまのところこれがいちばん近い一次資料になります。

項目内容
デザイン単施設・2か月・2群並行・ランダム化・オープンラベル試験
実施朝日生命成人病研究所(東京)/実施期間 2017年7〜11月
倫理朝日生命成人病研究所倫理委員会 承認番号08902
対象20〜65歳・BMI 25以上35未満・代謝異常を1つ以上持つ42人(各群21人・全員完遂)
特徴試験食をすべて支給し、スマートフォンアプリで毎食の写真を提出させて遵守率を担保
糖質炭水化物 %Eタンパク質 %E脂質 %E
LCD(ゆるやか)120g/日262747
VLCD(ケトジェニック寄り)50g/日122761

2か月後に起きたこと

アウトカム(変化量)LCD(120g)VLCD(50g)群間差
体重(kg)−6.74 ± 0.42−7.89 ± 0.51有意差なし
体脂肪量(kg)−3.94 ± 0.44−4.88 ± 0.34有意差なし
BMI−2.38 ± 0.19−2.64 ± 0.15有意差なし
総ケトン体(µmol/L)※中央値[IQR]+140[67〜485.5]+538[187.5〜810.5]p=0.04
3-ヒドロキシ酪酸(µmol/L)※中央値[IQR]+98[49.5〜373.5]+390[142〜608.5]p=0.045

体重・体脂肪量・BMIは平均±標準誤差、ケトン体は中央値[四分位範囲]で報告されています。指標によって代表値の種類が違うので、同じ表の中でも読み方を分ける必要があります。

この表がいちばん言いたいことを言っています。ケトーシスは確かに起きた(ケトン体が有意に上がった)。しかし体重も体脂肪も、ゆるやかな群と有意差がつかなかった。両群とも2か月で7kg前後落ちていますが、それは糖質を50gまで落としたからではなく、試験食を管理して食べたからだ、という読み方のほうが素直です。

さらに著者らは質問票の回答を分析し、LCD群のほうが「やりやすい」「ちょうどよい」という評価が多く、続けやすいと結論づけています。VLCD群では飲み物や甘い物の制限が負担として挙がりました。

5本を並べると何が見えるか

研究見ているもの期間結論の向き
①京都府立医科大学(メタ解析・RCT6本400人)糖尿病患者のHbA1c3〜18か月(5本は6か月以内)糖質を減らすと下がる
②北海道大学(横断348人)糖尿病でない人のHbA1cある一時点糖質比率が低い人ほど高い
③東京農大×北里研究所病院(横断335人)糖尿病外来患者が実際に食べているものある一時点糖質が低い人ほど脂質・動物性タンパク質・飽和脂肪酸・食塩が高い
④JACC(コホート57,851人)死亡中央値19.4年中等度がいちばん低リスク(魚脂質はU字)
⑤朝日生命成人病研究所(RCT 42人)減量2か月ケトーシスまで落としても上乗せなし

並べてみると、矛盾しているように見えた①と②が、実は違う質問に答えていることが分かります。

「糖質制限は効くのか」という問いが割れて見えるのは、この3つを同じ言葉でひとくくりにしているからだと思います。少なくとも今回読んだ日本のデータの範囲では、短期の血糖コントロールの手段としては支持され、生涯にわたる食習慣としては極端さが支持されていない、という整理になります。

この研究が言えないこと

1. ①のメタ解析は「短期」の話でしかない

6本のRCTを合わせても計400人、しかも5本は6か月以内です。著者ら自身が「試験期間はばらばらで、長期の試験は1本しかなかった」と限界に挙げています。数年単位で続けたときに何が起きるかは、この解析からは何も言えません。

2. ①は「やせた日本人」には当てはまらないと著者自身が書いている

組み入れられた6本のベースラインBMIは24.5〜30.7でした。著者らは「アジア人としては比較的高い」とし、やせ型の東アジア人2型糖尿病患者における低炭水化物食の効果は不明と明記しています。日本の2型糖尿病患者にはBMIが低い人が少なくないので、これは小さくない限界です。

3. ②③は横断研究=因果の向きが決まらない

②の著者らは抄録の結論で「横断データでは時間的前後関係も因果も確立できないので慎重に解釈すべき」と自ら書いています。「糖質を減らしたからHbA1cが上がった」のか「もともとHbA1cが高い傾向の人が糖質を減らしていた」のかを、この研究は区別できません。③も同じです。

4. 「低炭水化物食スコア」と「1日◯g」は別の物差し

①のRCTが測っているのは1日の糖質グラム数、②④が使っているのは三大栄養素のエネルギー比を十分位に置き換えて足し合わせたスコアです。後者は絶対量ではなく集団内の相対順位なので、集団が変われば同じスコアが指す食事も変わります。同じ「低炭水化物」という日本語で呼ばれていても、比較可能な量ではありません。

5. 食事調査そのものの精度

②③④はいずれも食物摂取頻度調査票による自己申告です。③の著者らは「食物摂取頻度法で行ったため食事を定量的に評価できていない」「単施設である」「記憶に依存するリコールバイアスがある」「30〜40代の参加者が少ない」を限界に挙げています。

6. 利益相反は無視できない水準にある

ここは正直に書いておきます。

7. ④は本文を確認していない

JACC研究の論文は有料で、この記事で紹介した数値はすべて抄録に書かれている範囲のものです。十分位の切り方、調整した交絡因子の一覧、感度分析の結果などは確認していません。「第8十分位が最小」という記述の解釈も、抄録の書きぶりから読めることに限っています。

8. どれも「集団の平均」であって、あなたの話ではない

①のSMD −0.55も、②の5.35→5.52も、⑤の−6.74kgと−7.89kgも、すべて群の代表値です。同じ食事をして真逆に動く人が群の中にいても、平均には現れません。

それでも読む価値があると思ったところ

ひとつめは、③の「糖質を減らす=何かを増やす」という当たり前が、数字で見えたことです。Q1(糖質21.2%E)の人たちは脂質45.5%E、動物性タンパク質15.9%E、飽和脂肪酸10.6%E、食塩7.2g/1000kcal。糖質制限の議論はどうしても「糖質を減らすか減らさないか」の1軸になりがちですが、実際に起きているのは置き換えであって、評価すべきは「何に置き換えたか」のほうです。②の北海道大学が言う「近年の日本人は肉が増え魚が減った」という指摘も、④で魚の脂質のスコアだけがU字になったことも、同じ方向を指しています。

ふたつめは、⑤で「ケトーシスは起きたのに、上乗せは起きなかった」こと。ケトン体という代謝の指標がちゃんと動いたことを測ったうえで、それでも体重・体脂肪に差がつかなかったと報告している。ここまで厳しく管理された条件でこの結果なら、「もっと糖質を減らせばもっと痩せる」という発想には、少なくとも日本人42人・2か月の範囲では根拠がないことになります。

みっつめは、①のバイアスリスク評価と異質性が正直に書かれていたこと。I²=0%とだけ書けば効果を強く見せられるのに、「6本中4本にいくつか懸念あり」「長期試験は1本だけ」「やせ型には不明」と自分から書いています。こういう論文は数字を信用しやすい。

自分の身体に当てはめて考えるなら

5本を読んだうえで、いま自分の頭の中に残っているのは次のようなことです。

私自身は約40年トレーニングを続けてきましたが、トレーニング指導に関する公的資格は保有していません。ここに書いたのは資格にもとづく専門的な助言ではなく、一人の実践者として一次資料を読んだ記録です。

糖尿病や腎機能の問題を抱えている方、薬を使っている方は、食事の内容を大きく変える前に必ず主治医と管理栄養士に相談してください。とくに③でeGFRが糖質の少ない群と多い群で差があったことが示すように、糖質を減らす食べ方はタンパク質の摂取量にも直結します。血糖降下薬やインスリンを使っている状態で糖質だけを急に減らせば低血糖の危険もあります。この記事は診断や治療の助言ではありません。

よくある質問

結局、日本人にとって糖質制限は効くのですか、効かないのですか。

今回読んだ5本の範囲では「短期の血糖コントロールとしては効くという結果があり、生涯の食習慣としては極端さを支持する結果がない」という整理になります。京都府立医科大学のメタ解析は東アジアの2型糖尿病患者を対象にしたRCT6本・計400人で、HbA1cが標準化平均差 −0.55(95%CI −0.77〜−0.33)改善していました。ただし6本中5本は6か月以内です。一方で北海道大学が糖尿病でない住民348人を調べた横断研究では、低炭水化物食スコアが高い人ほどHbA1cが高いという逆の結果でした。両者は「介入」と「習慣」という別の質問に答えているので、どちらかが間違いというより、まとめて語ってはいけないというのが読みどころです。

日本人を対象にしたケトジェニックダイエットの研究はあるのですか。

減量や血糖を目的とした本格的なケトジェニック食のランダム化比較試験は、日本人ではほとんど見つかりませんでした。日本でケトン食が研究されているのは、てんかんやがんの補助療法という文脈が中心です。今回いちばん近かったのが朝日生命成人病研究所の試験で、糖質50g/日(ケトジェニック寄り)と120g/日(ゆるやか)を42人で2か月比べています。ケトン体は50g群で有意に上がった(総ケトン体 +538 vs +140 µmol/L、p=0.04)ものの、体重・体脂肪の減りに有意差はありませんでした。

糖質を減らせば減らすほど良いのでしょうか。

今回の資料はそれを支持していません。57,851人を中央値19.4年追跡したJACC研究では、低炭水化物食スコアと総死亡の関係で最も低いハザード比が0.85(0.78〜0.93)で、それが出たのは最上位の第10十分位ではなく第8十分位でした。著者らも結論で「中等度の」低炭水化物スコアと書いています。また魚の脂質でつくったスコアはU字型(P-nonlinear trend=0.01)でした。なおこの論文は有料のため、本文と表は未確認で、抄録の記述のみを根拠にしています。

糖質を減らすとき、いちばん気をつけるべきことは何ですか。

今回の資料からは「減らした分を何に置き換えているか」です。東京農業大学と北里研究所病院が糖尿病外来335人を調べた研究では、糖質のエネルギー比が最も低い群(21.2%E)は、脂質45.5%E、動物性タンパク質15.9%E、飽和脂肪酸10.6%E、食塩7.2g/1000kcalと、いずれも最も高い値でした。糖質を減らすことは必ず何かを増やすことなので、塩分と飽和脂肪酸が一緒に増えていないかを見るのが現実的だと思います。ただしこれは横断研究であり、因果を示すものではありません。

これらの研究に利益相反はありますか。

あります。しかもいずれも論文中に開示されています。京都府立医科大学のメタ解析は複数の著者が製薬企業から講演料や研究費を受けており、寄附講座への資金提供も開示されています。東京農業大学と北里研究所病院の研究は、責任著者がLOCABO®社の株式を保有していることを開示しています。朝日生命成人病研究所の試験は「利益相反なし」と記載されていますが、著者の所属にRIZAP GROUP, Inc.が含まれ、試験食とアプリもRIZAPが提供しています。開示されているからこそ読み手が割り引いて読める、という順序で受け取るのが妥当だと考えます。

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