研究ノート · 筋トレと血管

筋トレは動脈を硬くするのか──日本人高齢女性93人・12週のRCTを一次資料で読む

公開日: 2026-08-16 · 約13分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

ボディメイク・筋力トレーニング/体組成分析/減量・栄養・睡眠を、科学的エビデンスと実体験から発信。

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この記事の要点

  • 立命館大学と早稲田大学の研究グループが、滋賀県在住の高齢女性93名を4つの群に分けたランダム化比較試験を行い、2025年に報告しました。「筋トレをすると動脈が硬くなる」という以前から知られていた困った現象を、鶏むね肉で打ち消せるかを調べたものです。
  • 12週間の中~高強度レジスタンストレーニング(70%1RMのレッグエクステンションとレッグカール、3セット×10回、週3回)だけを行った群では、筋肉の量・力・質の指標はいずれも良い方向に動いた一方で、動脈の硬さの指標は上がっていました
  • 同じトレーニングに蒸し鶏むね肉(週3回・1回あたりタンパク質22.5g)を加えた群では、筋肉の改善はそのままで、動脈の硬さの指標は対照群と差がありませんでした
  • その接点として測られていたのが血中のアンジオテンシンIIです。トレーニング単独群では平均で約95%増えており、その変化量が動脈の硬さの変化量と相関していました(r=0.438)。
  • ただしこの研究は、筋肉の指標に関しては鶏むね肉の上乗せ効果を示していません。筋力(1RM)の伸びは、鶏むね肉を足しても足さなくても差がありませんでした。
  • 対象は閉経後の高齢女性だけで、論文自身が「男性の高齢者での検討が必要」と書いています。期間も12週間で、心筋梗塞や脳卒中といった実際の出来事は一切観察されていません。

裏どりに使った資料

論文はオープンアクセス(CC BY)で全文が読めます。本文・図表・資金源・利益相反の記載まで原文で確認しました。数値は要旨ではなく本文中の表(Table 1〜4)から取っています。

Fujie S, Horii N, Kajimoto H, Yamazaki H, Inoue K, Iemitsu K, et al. Impact of resistance training and chicken intake on vascular and muscle health in elderly women. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle. 2025;16(1). doi:10.1002/jcsm.13572(Europe PMC

なぜこの研究を選んだか

この研究ノートでは、日本の研究機関が日本人を対象に行った研究を、一次資料まで下りて読む方針をとっています。今回の一本を選んだ理由は3つあります。

1つめは、介入がレジスタンストレーニングそのものだからです。歩数や「運動習慣の有無」ではなく、レッグエクステンションを70%1RMで3セット×10回、というところまで決まっている。自分のトレーニングと突き合わせて読めます。

2つめは、扱っている話題が筋トレをやっている人にとって都合の悪い側の知見だからです。「筋トレは血管を硬くする方向に働くことがある」という報告は以前からあります。都合の良い研究だけを並べても、自分の身体の役には立ちません。

3つめは、対策として持ち出されたのがサプリメントではなく鶏むね肉だという点です。台所で完結する話なので、読んで終わりになりにくいと考えました。

「筋トレで動脈が硬くなる」とはどういう話か

動脈スティフネス(動脈の硬さ)は、血管がどれだけしなやかに膨らむかを表す指標です。心臓が血液を送り出すたび、しなやかな動脈は一度膨らんで衝撃を受け止め、そのあとゆっくり縮んで血液を先へ送ります。硬くなると、この緩衝がきかなくなります。

測り方はいくつかありますが、この研究では2つが使われました。ひとつは頸大腿脈波伝播速度(cfPWV)で、首の動脈と脚の付け根の動脈のあいだを脈の波が伝わる速さです。血管が硬いほど波は速く伝わるので、数値が大きいほど硬いことになります。もうひとつは頸動脈β-stiffnessで、血圧の変化に対して頸動脈の直径がどれだけ変わるかから計算します。

論文が引用している先行研究には、若年成人で80%1RMの高強度レジスタンストレーニングを数か月続けると動脈のコンプライアンス(しなやかさ)が下がったという報告や、高齢者で12週かけて強度を段階的に上げると動脈スティフネスが上がったという報告があります。一方で、中強度に限ったメタ解析では上がらなかったとも書かれています。つまり強度が分かれ目になっている可能性が、この研究の出発点です。

どんな研究か

項目内容
デザイン並行群間ランダム化比較試験(割付比1:1:1:1)。本体試験の二次解析
実施機関立命館大学スポーツ健康科学部、早稲田大学スポーツ科学学術院ほか
倫理・登録立命館大学倫理委員会 BKC-2018-060/UMIN-CTR UMIN000038253
募集方法滋賀県大津市・草津市・栗東市の新聞広告
対象閉経後の高齢女性。103名の応募のうち10名が除外基準・同意なしで除かれ93名を割付
年齢平均67.2±5.3歳。閉経からの平均年数は16.9±9.2年
もとの運動習慣約50%が習慣的に運動(1日30分以上・週2日以上を1年以上)。ただしレジスタンス運動を毎日行っていた人は5%未満
解析対象12名が期間中に脱落し、81名(対照21・鶏肉のみ22・筋トレのみ20・筋トレ+鶏肉18)
期間12週間
掲載誌Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle 2025年16巻1号(オープンアクセス CC BY)

除外基準は、60歳未満、副腎疾患・心疾患・婦人科疾患・関節疾患・精神疾患・重度の肝機能障害・肝硬変・重度の腎機能障害による二次性肥満、整形外科に通院中または運動に制限がある人、でした。測定と解析は群の割付を知らされていない研究者が行っています。

4つの群

ここは読み飛ばしやすいところですが、大事な設計です。対照群と筋トレのみ群も「何も食べない」のではなく、鶏むね肉と同じカロリーの糖質中心の食品を同じ回数だけ食べています。だから比較しているのは「食べるか食べないか」ではなく「タンパク質か糖質か」です。

トレーニングの中身

項目内容
種目シーテッド・レッグエクステンションとレッグカール(ウエイトスタック式マシン、Life Fitness)
強度各自の1RMの70%(中~高強度)
3セット×10回。セット間の休息2分
頻度週3回、1日おき、12週間(計36回)
前後トレッドミル歩行3分+下肢ストレッチ5分でウォームアップ、5分のストレッチでクールダウン
負荷の更新2週間ごとに1RMを再測定し、70%になるよう重量を上げ直す
指導経験のあるトレーナーが全セッションを監督
アドヒアランス36回のうち参加率が90%以下だった人は「低アドヒアランス」として解析から除外

下半身の2種目だけ、というのは物足りなく見えるかもしれません。ですが2週ごとに1RMを測り直して重量を上げ続けている点、トレーナーが全回ついている点、参加率90%未満を切り捨てている点を合わせると、「やったことにする」余地をかなり削った設計です。

鶏むね肉の中身

使われたのは市販の蒸し鶏むね肉(伊藤ハム株式会社、兵庫県)で、1個あたり164kcal・タンパク質22.5gです。摂取は週3回・1日おきで、毎日ではありません。筋トレを行う2群は各トレーニング終了後30分以内に、運動しない2群は昼食と夕食のあいだの間食として食べています。こちらも90%以下の摂取率だった人は解析から外されました。参加者全員が、それ以外の食習慣は期間中変えないよう指示されています。

筋肉に起きたこと

まず筋肉側の結果です。数値は12週間での変化率(%)で、平均±標準偏差です。

指標対照鶏肉のみ筋トレのみ筋トレ+鶏肉
大腿前面の筋厚−3.0±8.2−4.1±8.2+13.7±13.6+14.4±15.1
大腿後面の筋厚−2.0±3.7+1.8±4.8+7.7±6.0+7.7±5.5
大腿四頭筋の断面積+1.3±4.2+1.9±2.6+3.6±1.8+6.6±5.7
大腿直筋のエコー輝度+10.1±21.9+3.2±17.9−11.4±12.8−7.6±11.5
外側広筋のエコー輝度+9.0±11.1+2.7±13.8−8.1±11.2−7.9±17.1
大腿四頭筋のエコー輝度+8.7±12.5+2.6±12.9−10.6±8.8−4.7±20.2

エコー輝度は聞き慣れない言葉かもしれません。超音波で筋肉を写したときの「白さ」です。筋肉のあいだに脂肪や線維化した組織が入り込むほど白く写るので、数値が下がるほど筋肉の中身が締まっていると読みます。筋肉の「量」ではなく「質」の指標です。

表を横に見ると、はっきりした線が引けます。筋厚もエコー輝度も、筋トレをした2群だけが動いていて、鶏むね肉を足したかどうかでは変わっていません。対照群と鶏肉のみ群では、大腿前面の筋厚がむしろ12週間で3〜4%減っています。何もしなければ減る、という当たり前のことが数字で出ている形です。

4群のあいだで差がついたのは大腿四頭筋の断面積だけでした。筋トレ+鶏肉群(+6.6%)が、対照・鶏肉のみ・筋トレのみのすべてを上回っています。筋トレのみ群(+3.6%)と対照群の差は有意には届いていません(P=0.09)。

筋力は「上乗せ」されなかった

筋力は1RMで2週おきに測られています。開始時点のレッグエクステンションの1RMは筋トレのみ群が45.5±11.2kg、筋トレ+鶏肉群が44.9±7.6kgで、差はありませんでした。

12週後の結果は、群と時間の交互作用が認められませんでした(レッグエクステンション:交互作用 P=0.9829、レッグカール:P=0.9704)。時間の主効果は明確で(いずれもP=0.0001)、両群とも1RMは有意に増えています。

言い換えると、筋力の伸び方は、鶏むね肉を週3回足しても足さなくても同じだったということです。ここは見出しになりにくい結果ですが、大事なところなので後でもう一度触れます。

血管に起きたこと

ここからが、この研究の中心です。

指標(変化率%)対照鶏肉のみ筋トレのみ筋トレ+鶏肉
頸大腿脈波伝播速度(cfPWV)−2.5±5.9+4.9±12.7−2.4±9.3
頸動脈β-stiffness+0.2±8.1+13.8±13.5+2.4±10.3
血中アンジオテンシンII+21.2±79.3+94.9±132.7−5.7±29.6

※ 鶏肉のみ群の数値を「—」としたのは、この3項目が論文では図3・図4のグラフとしてのみ示されており、本文・表に数値が記載されていないためです。対照群・筋トレのみ群・筋トレ+鶏肉群の数値は要旨に記載があるものを使いました。

cfPWVでもβ-stiffnessでも、筋トレのみ群だけが、対照群・鶏肉のみ群・筋トレ+鶏肉群のすべてに対して有意に大きく上がっていました。一方で筋トレ+鶏肉群は、対照群と有意な差がありません。

開始時点のcfPWVは4群とも1,044〜1,137cm/sの範囲で差がなく、心拍数・収縮期血圧・拡張期血圧の変化率も4群で差はありませんでした。つまり血圧が動いたせいで見かけ上そうなった、という説明はしにくい形です。

接点として測られたアンジオテンシンII

アンジオテンシンIIは血管を収縮させるペプチドホルモンです。この研究では、筋トレのみ群で平均約95%増えていました。対照群も+21%と幅がありますが、群間比較では筋トレのみ群が他の3群より有意に高くなっています。筋トレ+鶏肉群は−5.7%で、増えていません。

そして、介入によるアンジオテンシンIIの変化率と、動脈の硬さの変化率のあいだに相関が見られました。

一方、同じく血管を収縮させるエンドセリン-1については、群間で変化率に差がなく、動脈の硬さとの相関も見られませんでした。総コレステロール・HDLコレステロール・中性脂肪・クレアチニン・血漿レニン活性も、4群で有意差はありません。

論文は、乳タンパクやそのペプチドがアンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを抑えたという試験管内・動物実験の報告を引きながら、「鶏むね肉に含まれる成分がアンジオテンシンIIの産生を抑えた可能性がある」という筋道を示しています。ただしこれはこの研究の中で確かめられた仕組みではなく、他の研究から引いてきた説明です。相関係数0.438は、方向として同じ向きに動いていたことは示しますが、どちらが原因かは示しません。

C1q ── 筋肉側で下がっていた指標

もうひとつ、C1q(補体第1成分q)という血中の指標が測られています。研究グループはこれまでの研究で、C1qが筋肉の線維化に関わる指標になりうると報告してきました。

今回、C1qは筋トレをした2群で、対照群・鶏肉のみ群より有意に下がっていました。そしてC1qの変化率は、大腿前面の筋厚の変化率と負の相関(r=−0.427、P=0.0001)、大腿直筋・外側広筋・大腿四頭筋のエコー輝度の変化率と正の相関(それぞれr=0.270、0.302、0.356)を示しています。C1qが下がった人ほど筋肉が厚くなり、エコー輝度が下がっていた、という関係です。

ここでも、鶏むね肉の上乗せはありませんでした。C1qを動かしたのはトレーニングのほうです。

この研究が言えないこと

ここが本題です。順に見ていきます。

1. 対象は閉経後の高齢女性だけ

平均67.2歳、閉経から平均16.9年経った女性81名の結果です。論文自身が「高齢男性における高タンパク食とレジスタンストレーニングの効果を調べるには、さらなる研究が必要である」と明記しています。男性、若年層、閉経前の女性に当てはめられる保証はありません。

また参加者はサルコペニアではない人たちでした。論文は、相乗効果が見られなかった理由のひとつとして「参加者がサルコペニアではなく、運動強度も先行研究より高かったため」という見立てを述べています。裏を返せば、すでに筋肉が落ちている人では話が変わりうるということです。

2. 「鶏むね肉の何が働いたのか」は分かっていない

論文はこう書いています。「蒸し鶏むね肉が、レジスタンストレーニングによる動脈スティフネスの上昇を打ち消した。しかし蒸し鶏むね肉に含まれるどの栄養素がこの効果に寄与したのかは不明である」。

そして候補として、ヒスチジン、グルタミン酸、ロイシン、チロシン、葉酸、ビタミンK、ビタミンE、ビタミンA、ビタミンB群を挙げています。9つ並んでいるということは、絞り込めていないということです。「タンパク質だから」という説明すら、この研究では確かめられていません。プロテインパウダーで代用できるかどうかも、当然この研究の外側です。

3. 筋肉への上乗せ効果は示されなかった

見出しに使われがちなのは「鶏肉で筋肉が改善」のほうですが、一次資料を読むと、筋厚・エコー輝度・1RM・C1qのいずれも、筋トレのみ群と筋トレ+鶏肉群のあいだに有意差はありません。差がついたのは大腿四頭筋の断面積だけです。

論文の結論部分も「言うまでもなく、筋肉の量・力・質は、規則的な高タンパク食の摂取の有無にかかわらず、レジスタンストレーニングによって改善した」という書き方をしています。筋肉を変えたのはトレーニングで、鶏むね肉が担当したのは血管側、というのがこの論文の構図です。

4. 動脈スティフネスは代替指標であって、出来事ではない

12週間で観察されたのは、脈波の伝わる速さと血管の直径変化と血中のホルモン濃度です。心筋梗塞も脳卒中も死亡も、この研究では一件も数えられていません。動脈スティフネスは心血管疾患のリスク指標として広く使われていますが、指標が動いたことと、将来その人に何かが起きるかどうかは別の話です。

期間も12週間です。13週目以降どうなるか、トレーニングをやめたら戻るのか、鶏むね肉をやめたら戻るのかは分かりません。

5. 規模は小さく、脱落もある

93名を割り付けて、解析されたのは81名です。12名が期間中に離脱しました。群別では筋トレ+鶏肉群が24名→18名で、離脱がいちばん多くなっています。

研究グループはG*Powerで必要人数を48名(各群12名)と計算しており、その基準は満たしています。ただし各群18〜22名という規模で、標準偏差が平均値より大きい項目も複数あります(たとえばアンジオテンシンIIの筋トレのみ群は+94.9に対して±132.7)。個人差がとても大きいことは、数字の見た目から読み取っておくべきところです。

6. 本体試験の二次解析である

論文は方法の冒頭で「臨床試験の詳細は既に別途公表されており、本研究はそのRCTの二次解析として実施された」と述べています。動脈スティフネスと血中マーカーの比較が、本体試験で最初に設定された主要評価項目だったのかどうかは、この論文の記述からは確定できません。二次解析は仮説を作るには適していますが、確かめる段階のものとしては一段割り引いて読むのが通例です。

7. 資金源と使用製品

論文の記載をそのまま書きます。資金は伊藤記念財団(東京、#134)と、文部科学省科学研究費補助金(KAKENHI 22H03487)です。著者らは「利益相反はない」と申告したうえで、家光素行氏が伊藤記念財団から資金を受けたことを明記しています。伊藤記念財団は1981年に農林水産大臣の許可で設立され、食肉に関する研究への助成を行っている公益財団法人です。そして介入に使われた蒸し鶏むね肉は伊藤ハム株式会社の製品です。

これは不正を意味するものではありませんし、資金源と製品を論文中に開示すること自体が正しい手続きです。ただ読み手として知っておいてよい情報なので、そのまま書きました。

それでも読む価値があると思ったところ

言えないことを並べたうえで、この研究の見どころを3つ挙げます。

ひとつめは、都合の悪い結果をそのまま出していることです。筋トレのみ群で動脈スティフネスが上がったという結果は、運動を勧める立場からすれば書きにくいものです。それを4群比較の真ん中に置いています。

ふたつめは、鶏むね肉の量が現実的なことです。1回164kcal・タンパク質22.5g、それを週3回。1日あたりに均せば10g足らずの上乗せです。特別な機能性食品ではなく、コンビニでも買える蒸し鶏です。この規模で血管側の指標に差がついたのだとすれば、それ自体が興味深い話です。

みっつめは、腎機能を確認していることです。高タンパク食は腎臓への負担がしばしば議論になります。この研究では血漿レニン活性と血清クレアチニンに4群間で有意な差がなく、論文は「本研究における高タンパク食は、通常のタンパク質摂取量の範囲内であった」と述べています。もちろん12週間・健康な高齢女性・週3回という条件付きの話であって、腎疾患のある方に一般化できる話ではありません。

自分の身体に当てはめて考えるなら

ここからは研究の記述ではなく、読んだうえでの整理です。

この研究から直接引き出せることは、実はそう多くありません。対象が閉経後の高齢女性で、種目は下半身の2つだけ、期間は12週間です。「筋トレをしたら鶏むね肉を食べるべき」という結論を、この一本だけから出すことはできません

そのうえで、頭に置いておく価値がありそうなのは次の点です。

いずれも「かもしれない」の段階です。この研究ノートで繰り返し書いていることですが、研究一本で行動を変える必要はありません。同じ方向を向いた研究が積み重なってきたときに、はじめて動かす価値が出てきます。

持病がある方、腎機能に指摘を受けたことがある方、薬を飲んでいる方は、タンパク質摂取量や運動強度について、必ずかかりつけの医師にご相談ください。この記事は研究内容の紹介であって、個別の指導ではありません。

よくある質問

筋トレをすると動脈硬化になるということですか?

この研究はそこまで言っていません。測られたのは動脈スティフネス(脈波伝播速度と頸動脈β-stiffness)という指標の12週間での変化であって、動脈硬化症という病気の診断でも、心筋梗塞や脳卒中といった出来事でもありません。また上昇が見られたのは70%1RMという中~高強度でトレーニングを行った群で、論文が引用しているメタ解析では中強度では上昇が見られなかったとされています。対象は閉経後の高齢女性81名で、男性や若年層に当てはまるかは分かっていません。

鶏むね肉を食べれば筋肉がつきやすくなりますか?

この研究では、そうはなりませんでした。筋厚・エコー輝度・1RM・C1qのいずれも、筋トレのみの群と筋トレ+鶏むね肉の群のあいだに有意な差はありません。差がついたのは大腿四頭筋の断面積だけです。筋肉の指標を動かしたのはトレーニングのほうで、鶏むね肉に差が出たのは動脈の硬さとアンジオテンシンIIという血管側の指標でした。

プロテインパウダーでも同じことが起きますか?

分かりません。この研究で使われたのは市販の蒸し鶏むね肉(1個164kcal・タンパク質22.5g)だけです。論文自身が「蒸し鶏むね肉に含まれるどの栄養素がこの効果に寄与したのかは不明である」と書いており、候補としてヒスチジン、グルタミン酸、ロイシン、チロシン、葉酸、ビタミンK・E・A・B群の9つを挙げています。タンパク質そのものが働いたのかどうかも、この研究では確かめられていません。

どのくらいの量を食べていたのですか?

蒸し鶏むね肉1個(164kcal・タンパク質22.5g)を、週3回・1日おきに12週間です。毎日ではありません。トレーニングを行う群は各セッション終了後30分以内に、運動しない群は昼食と夕食のあいだの間食として食べていました。なお対照群と筋トレのみ群も、同じカロリーの糖質中心の食品を同じ回数だけ食べています。

この研究はどこが行ったものですか?

立命館大学スポーツ健康科学部と早稲田大学スポーツ科学学術院などの研究グループです。参加者は滋賀県の大津市・草津市・栗東市で新聞広告により募集されました。立命館大学の倫理委員会の承認(BKC-2018-060)を受け、UMIN臨床試験登録システムに登録されています(UMIN000038253)。資金は伊藤記念財団と文部科学省科学研究費補助金(22H03487)で、使用された蒸し鶏むね肉は伊藤ハム株式会社の製品です。

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