この記事の要点
- 国立長寿医療研究センターが2024年7月に「中高年者の筋力維持にタウリンの摂取が関連することを初めて報告」と発表しました。愛知県大府市・東浦町の住民を追う日本人コホート(NILS-LSA)の解析です。
- 食事からのタウリン摂取量が多い群ほど、8年後の膝伸展筋力(脚の筋力)が保たれていました。ただし群間の差は約1.0kgfで、ベースラインの平均34.2kgfに対して約3%にあたります。
- 測った体力指標は4つ(膝伸展筋力・長座位前屈・閉眼片足立ち・最大歩行速度)ですが、関連が出たのは膝伸展筋力の1つだけでした。
- さらに、対象1,254人の78%を占める40〜64歳では有意な関連が出ていません(p=0.150)。有意だったのは40歳以上の全体と、65歳以上(273人)です。
- この研究は大正製薬株式会社との共同研究で、共同研究費の提供を受け、著者8名のうち3名が同社の社員です。論文にその旨が明記されています。
- そして重要な点として、タウリン摂取量の推計からサプリメント・医薬品・医薬部外品は除外されています。栄養ドリンクの話ではありません。
裏どりに使った資料
プレスリリース「中高年者の筋力維持にタウリンの摂取が関連することを初めて報告」(2024年7月25日)と、その元になった論文本体を確認しました。論文はオープンアクセスで全文が読めます(Frontiers in Nutrition, 2024;11:1337738)。この記事の数値は、断りのない限り論文の表2・表3から読み取ったものです。
なぜこの研究を選んだか
このブログの研究ノートでは、日本の研究機関が日本人を対象に行った研究を一次資料で読む、という方針をとっています。海外の研究は体格も食習慣も違う集団のデータなので、そのまま自分に当てはめる前に一段階置きたいからです。
タウリンは、2023年に「タウリン欠乏が老化を駆動する」という論文がScienceに載って以来、注目されている成分です。ただしそれはマウスとサルの実験でした。人間の、しかも日常の食事から摂るタウリンと体力の関係を調べた報告は、それまでほとんどありませんでした。今回の研究はそこに日本人のデータで踏み込んだものです。
どんな研究か
使われたのはNILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)です。愛知県大府市と東浦町の地域住民から、性別・年代別に層化無作為抽出された40歳以上の中高年者を追跡しているコホート研究です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ベースライン | 第3次調査(2002〜2004年) |
| 追跡後 | 第7次調査(2010〜2012年)=約8年後 |
| 解析対象 | 両調査で食事記録と体力測定がある40歳以上 1,454名 |
| うち膝伸展筋力の記録あり | 1,254名 |
| 平均年齢 | 56.8 ± 10.3歳(男性49.4%) |
| ベースライン膝伸展筋力 | 34.2 ± 11.0 kgf |
| ベースライン総エネルギー摂取量 | 2,161.7 ± 415.4 kcal/日 |
| タウリン摂取量(平均) | 207.5 ± 145.6 mg/日 |
食事調査の方法は、思い出して答えてもらうアンケートではありません。3日間(平日2日+休日1日)の秤量記録です。参加者は1kgのキッチンスケールと使い捨てカメラを渡され、調味料まで含めてすべて計量し、食事の前後を撮影します。返却されたフィルムを現像して、管理栄養士が写真を見ながら記録の抜けを補う、という手間のかかったやり方です。
タウリンは日本食品標準成分表に収載されていないため、研究グループは2010年版成分表の1,878品目のうち751品目(海藻類・魚介類・肉類・卵類・牛乳乳製品)について暫定的なタウリン含量表を自作し、それを使って摂取量を推計しています。
結果①:4つの指標のうち、動いたのは膝伸展筋力だけ
タウリン摂取量で3等分(三分位)し、8年間の体力の変化量を比べています。数値は調整後の平均±標準誤差、単位はkgfです。Model 1は性別・年齢・体重・身長・喫煙・自覚的健康度・教育歴・既往歴(高血圧/心疾患/脳卒中/脂質異常症/糖尿病)・抑うつ症状で調整、Model 2はそこにベースラインの体力値を加えたものです。
この三分位が実際にはどれくらいの量なのかは、プレスリリースの本文には書かれておらず、添付された図の中にだけ示されています。摂取量の中央値はT1(低)が約91mg/日、T2(中)が約173mg/日、T3(高)が約363mg/日。集団全体の平均は207.5±145.6mg/日でした。いちばん多く摂っていた群でも、1日あたり363mg程度という水準です。
| 膝伸展筋力の変化量 | T1(低) | T2(中) | T3(高) | p値 | 傾向性p値 |
|---|---|---|---|---|---|
| Model 1 | +1.0 ± 1.0 | +1.5 ± 1.0 | +1.8 ± 1.0 | 0.023 | 0.044 |
| Model 2 | +0.1 ± 0.9 | +0.8 ± 0.9 | +1.1 ± 1.0 | 0.014 | 0.022 |
摂取量が多い群ほど筋力の変化量が大きい、という並びになっています。では残りの3指標はどうだったか。こちらは有意な関連が出ていません。
| 指標(Model 2) | T1 | T2 | T3 | p値 | 傾向性p値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 長座位前屈(cm) | −2.0 | −1.8 | −1.7 | 0.087 | 0.211 |
| 閉眼片足立ち(秒) | −7.4 | −7.4 | −7.1 | 0.614 | 0.759 |
| 最大歩行速度(m/分) | −2.9 | −3.9 | −3.3 | 0.373 | 0.472 |
論文の本文にも「残り3つの体力要素との関係は認められなかった」とはっきり書かれています。4つ測って1つ当たった、という構図です。
結果②:65歳以上では「増える」のではなく「減り方が小さい」
65歳以上に絞ると、どの群でも膝伸展筋力は8年間で低下していました。ただし低下幅に差があります。
| 65歳以上(n=273) | T1(低) | T2(中) | T3(高) | p値 | 傾向性p値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 8年間の変化(kgf) | −1.9 | −1.7 | −0.4 | 0.013 | 0.042 |
ここは読み方を間違えやすいところです。高齢期については「タウリンを多く摂ると筋力が上がった」ではなく、「下がり方が小さかった」という結果です。プレスリリースも「減少幅が小さく」「維持される傾向」という書き方をしています。
結果③:人数の多い40〜64歳では、有意な関連が出ていない
ここが、プレスリリースの見出しだけでは分からない部分です。対象1,254人のうち981人=約8割を占めるのは40〜64歳ですが、この層だけを取り出すと結果はこうなります。
| 40〜64歳(n=981) | T1(低) | T2(中) | T3(高) | p値 | 傾向性p値 |
|---|---|---|---|---|---|
| 8年間の変化(kgf) | +0.8 | +1.5 | +1.5 | 0.150 | 0.157 |
数字の並びだけを見るとT1よりT2・T3のほうが大きいのですが、統計的に有意とは言えない水準にとどまっています(p=0.150、傾向性p=0.157)。有意差がついているのは全体(40歳以上)と65歳以上のほうで、人数としては多数派である中年層では確認できていません。
誤解のないように書き添えると、これは「中年期には関係ないと分かった」という意味ではありません。有意でない結果は無関係であることの証明ではなく、この研究では確認できなかったというだけです。とはいえ、40代・50代の方がこの研究を自分の話として読むには、根拠がまだ足りないということにはなります。
この研究が言えないこと
ここからが、この記事で一番書きたかった部分です。
1. 差はおよそ1kgfで、決して大きくない
Model 2でT3とT1の差は1.1 − 0.1 = 約1.0kgfです。ベースラインの膝伸展筋力の平均が34.2kgfですから、8年かけて約3%分の違いということになります。統計的に有意であることと、体感できるほど大きいことは別の話です。
2. 「よく食べている人」との切り分けが読者には確かめられない
これは論文の表2を見ると気になります。タウリン摂取量は、海藻類・魚介類だけでなく、穀類・いも類・淡色野菜・きのこ類、そして総エネルギー摂取量とも有意に関連していました。つまりタウリン摂取量が多い群は、単純に「よく食べている群」でもあります。
主解析(Model 1・Model 2)の調整変数リストには、総エネルギー摂取量もたんぱく質摂取量も入っていません。エネルギーについては本文に「エネルギーを調整しても同様の結果が得られた」という記述がありますが、その数値は論文に載っていません(data not shown)。著者がそう述べている、という以上のことは読者には確認できません。たんぱく質については、その旨の言及自体がありません。
食事から摂るタウリンは魚介類が供給源の大半を占めます。「タウリンを多く摂っている人」と「魚をよく食べる人」の区別がどこまでついているのかは、公表されている数値だけからは判断できない、というのが正確なところです。
3. 運動習慣・身体活動量も調整されていない
調整変数に身体活動量や運動習慣は含まれていません。「魚をよく食べる人は生活全体が活動的」という可能性を、この解析は除外できていません。Model 2でベースラインの体力値を調整しているので部分的には補われますが、8年間の運動習慣そのものは考慮されていません。
4. 資金と著者の所属(利益相反)
論文のFundingとConflict of interestの欄に、次のように記載されています。
- 本研究は大正製薬株式会社からの共同研究費と、国立長寿医療研究センターの研究費(大塚礼、21-18)によって実施された
- 著者のうち3名(TD、KK、YO)は大正製薬株式会社の社員である
- 倫理審査は国立長寿医療研究センターと大正製薬株式会社の両方の倫理委員会で承認された
これは隠されていた事実ではなく、論文に明記されている情報です。企業が資金を出した研究がすべて信用できない、という話でもありません。ただ、その企業がタウリンを主成分とする製品を扱っていることは、結果を読むときに知っておいてよい前提だと考えます。当ブログでは企業が資金を出した健康食品研究の読み方を別記事でも扱っています。
5. 著者は「因果関係の根拠」と書いているが、設計上そこまでは言えない
論文の「強み」の節に、8年以上の追跡が「タウリン摂取と筋力の因果関係の根拠を提供した」という趣旨の記述があります。しかしこれは介入試験ではなく観察研究です。誰にタウリンを多く摂らせるかを研究者が割り付けたわけではありません。時間的な前後関係が確認できることは因果の必要条件のひとつですが、それだけで因果が示されるわけではありません。この点は、結論部が「may contribute(寄与するかもしれない)」と控えめな表現に戻していることと、やや温度差があります。
6. 摂取量の推計そのものに幅がある
著者自身が限界として挙げているのは主にこの点です。暫定タウリン含量表は666品目のうち469品目を類似食品の値で埋めており、タウリン含量は季節や産地で大きく変わります。また3日間の記録が習慣的な食生活を代表しているかは不明で、解析に使ったのはベースライン時点の摂取量だけです。8年の間に食生活が変わった人のことは考慮されていません。
見落としやすい前提:栄養ドリンクとサプリは入っていない
論文の方法の項に、タウリン摂取量の推計は「サプリメント・医薬品・医薬部外品は含まない」と明記されています。つまりこの研究が扱っているのは、あくまで日常の食事に含まれるタウリンです。
タウリンという言葉から栄養ドリンクを連想する方は多いと思います。しかしこの研究の結果は、栄養ドリンクや錠剤で同じことが起きるかどうかについて、何も述べていません。摂取源も量も投与のされ方も違うからです。
量の感覚をつかむために並べておきます。この研究で観察されたのは食事由来の1日およそ91〜363mgという範囲でした。一方、大正製薬の製品情報によればリポビタンD(100mL)にはタウリンが1000mg配合されています(指定医薬部外品)。ドリンク1本で、この研究の最高摂取群の1日分の約3倍にあたる計算です。桁が違う量について調べた研究ではない、ということは押さえておきたいところです。
そしてプレスリリースによれば、この集団で摂っていた食事由来タウリンの約80%は魚介類からでした。研究が示しているのは、突き詰めれば「魚介類を含む食事をしていた人たちの、8年後の脚の筋力」の話です。
トレーニングをしている人への読みどころ
筋トレをしている立場からこの研究を読むと、受け取り方はかなり限定的になります。
まず、この研究にはトレーニングの介入がありません。参加者は地域住民であって、筋トレをしている集団ではありません。したがって「トレーニングに加えてタウリンを摂れば筋力が伸びる」という話には、この研究からは進めません。
次に、8年で約1kgfという差は、トレーニングによる筋力の変化と比べればごく小さなものです。脚の筋力を維持したいなら、まず取り組むべきはレジスタンストレーニングとたんぱく質の確保であって、その順序が変わる結果ではありません。この点はサルコペニアの予防は「食事×筋トレ」が両輪で整理しています。
そのうえで、この研究から穏当に取り出せることがあるとすれば、「魚介類を食事に入れておくことにはマイナスが見当たらない」という程度でしょうか。日本では魚介類の摂取量が減り続けており、それに伴ってタウリン摂取量も低下傾向にある、とプレスリリースは指摘しています。
手元で確認できること
- プレスリリースの数値は、国立長寿医療研究センターのページでそのまま読めます。解析対象者数・統計モデル・調整変数まで公開されています。
- 論文はオープンアクセスなので、表3の全数値と利益相反の記載を誰でも確認できます。有料の壁はありません。
- 膝伸展筋力は専用の測定器(T.K.K.1281a)を使い、椅子座位で膝と股関節を90度に曲げて3回測り、最大値の左右平均を採用しています。家庭で同じ値を測ることはできません。
まとめ
日本人の中高年1,254名を8年追った結果、食事からのタウリン摂取量が多い群ほど脚の筋力が保たれていた、という報告でした。日本人集団のデータで、食事調査の精度も高く、読む価値のある研究だと思います。
一方で、差は約1kgf、4指標中1指標のみ、人数の多い40〜64歳では有意でない、主解析ではエネルギーもたんぱく質も運動習慣も調整されておらず(エネルギーは「調整しても同様」とあるが数値は非掲載)、そして製薬企業との共同研究である、という前提が揃っています。「タウリンを摂れば筋力が落ちない」と読むには、まだ距離があるというのが、一次資料まで当たったうえでの受け取り方です。
研究を紹介するときに数値だけを並べると、どうしても実際より強い話になります。この記事では、公表資料に書かれている限界と利益相反を、結果と同じ場所に置いておくことにしました。
出典(一次資料)
この記事の数値は、すべて下記の公表資料で確認したものです。プレスリリースの本文には効果量(何kgfの差か)も摂取量の実数も記載されていないため、群ごとの数値は論文の表と、プレスリリースに添付された図から読み取っています。
- 国立長寿医療研究センター プレスリリース「中高年者の筋力維持にタウリンの摂取が関連することを初めて報告」(2024年7月25日)
https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20240725.html - Domoto T, Kise K, Oyama Y, Furuya K, Kato Y, Nishita Y, Kozakai R, Otsuka R. Association of taurine intake with changes in physical fitness among community-dwelling middle-aged and older Japanese adults: An 8-year longitudinal study. Front Nutr. 2024;11:1337738. doi: 10.3389/fnut.2024.1337738
全文(オープンアクセス) - Singh P, et al. Taurine deficiency as a driver of aging. Science. 2023;380:eabn9257.(プレスリリースが引用しているマウス・サルの研究)
- 大正製薬「リポビタンDについて」(配合量の確認に使用)
https://brand.taisho.co.jp/lipovitan/lipod/about/
本記事は公表された研究結果を紹介するものであり、診断や治療を目的としたものではありません。食事や体調について不安がある場合は医師・管理栄養士にご相談ください。