この記事の要点
- トマトジュースなどを作るカゴメ株式会社の研究チームが、健康な成人にリコピン(トマトなどに含まれる赤い色素成分)を含む食品を摂ってもらった試験6本を集めて、2026年に結果をまとめ直しました(システマティックレビュー・メタ解析=複数の研究結果を1つの数字に計算し直す手法)。
- 7日以上続けて摂った4試験・182人分のデータを統合すると、FMD(血流依存性血管拡張反応=腕の血流を一時的に止めて再開したときに血管がどれだけ広がるかを測る検査で、血管の内側の壁=血管内皮の健康度を映すとされる)が有意に上昇しました(差1.36ポイント、95%信頼区間0.20〜2.51、p=0.02)。
- ところがこの4試験のうち参加者数が最も多く、質も最も高いと評価された1本は、著者ら自身(カゴメ)が実施した研究でした。この1本を除いて計算し直すと、差は統計的に有意でなくなります。
- 著者ら自身が論文の中で「レビューの担当者(著者)が、その研究の実施にも関わっていたことによる意図しない偏りの可能性は否定できない」と明記しています。
「リコピンは血管にいい」という話は、トマトジュースのCMや健康情報番組でよく見かけます。今回読むのは、その主張の土台になりうる2026年のシステマティックレビュー・メタ解析です。実施したのは大学の研究室ではなく、トマトジュースやケチャップを作るカゴメ株式会社の社内研究所でした。一次資料を丁寧に読むと、結論を支える構造がかなり脆いことが分かります。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Yoshida K, Nakazawa Y, Takahashi S. "Effect of Intake of Lycopene-Containing Products on Vascular Endothelial Function in Healthy Adults: A Systematic Review with Meta-Analysis." Nutrients. 2026;18(15):2505. doi:10.3390/nu18152505 |
| 実施機関 | カゴメ株式会社 Diet & Well-Being研究所(栃木県那須塩原市) |
| 研究の種類 | システマティックレビュー・メタ解析。事前登録あり(UMIN臨床試験登録システム UMIN000058348) |
| 入手性 | オープンアクセスで全文閲覧可能(PMC13468585) |
設計──6試験を集め、そのうち4試験・182人を統合
研究チームは、医中誌Web・PubMed・Cochrane・Global Index Medicus(発展途上地域を含む医学文献データベース)の4つの文献データベースと、3つの臨床試験登録サイト、さらに日本の「機能性表示食品」の届出情報を2026年6月30日に検索しました。集まった832件から重複78件を除き、18件の全文を確認したうえで、6つの試験を採用しています。対象は18歳以上の健康な成人(病気のある人・妊娠中や授乳中の人は除外)、比較の対象はリコピンを含まない、またはごく少量しか含まない食品、あるいは無介入です。測定したのは主にFMD、一部の試験ではRH-PAT(反応性充血指尖脈波=指先の血管の反応を調べる検査)でした。
| 試験・実施国 | 人数 | 介入内容 | リコピン量 | 期間 | 測定 |
|---|---|---|---|---|---|
| Burton-Freeman 2012 アメリカ | 介入25人 対照25人 | 高脂肪食+トマトペースト | 27.8mg | 単回摂取 (摂取後210分) | FMD |
| Stangl 2011 ドイツ | 介入19人 対照19人 | トマトピューレ入りパン(70g/日) | 46.2mg | 7日間 | FMD |
| Xaplanteris 2012 ギリシャ | 介入19人 対照19人 | トマトペースト(70g/日) | 33.3mg | 15日間 | FMD |
| Ellis 2021 アメリカ | 介入17人 対照17人 | スイカジュース(360mL×2/日) | 14.4mg | 4週間 | FMD |
| Yoshida 2025 日本(カゴメ自社研究) | 介入①25人 介入②24人 対照23人 | トマトジュース190g/日(通常量・高リコピン品種の2条件) | ①15.0mg ②26.7mg | 12週間 | FMD |
| Kim 2011 韓国 | 介入①41人 介入②37人 対照38人 | リコピンカプセル | ①6mg ②15mg | 8週間 | RH-PAT |
論文Table 1より作成。このうちStangl・Xaplanteris・Ellis・Yoshidaの4試験(7日以上の継続摂取・FMD測定)だけがメタ解析(統合計算)の対象です。Burton-FreemanとKimは、同じ種類の試験が他に1本もなかったため単独記載にとどめています。
結果① 4試験・182人を統合するとFMDは有意に上昇──ただし
| 試験 | FMD(介入群)摂取前→後 | FMD(対照群)摂取前→後 | 群間の差 |
|---|---|---|---|
| Stangl(ドイツ) | 7.8±14.4% → 8.3±11.8% | 7.7±13.9% → 8.2±11.8% | 有意差なし(p>0.05) |
| Xaplanteris(ギリシャ) | 4.2±5.1% → 7.5±3.5% | 5.0±3.5% → 4.5±3.5% | 有意(p=0.03) |
| Ellis(アメリカ) | 8.17±5.68% → 11.02±6.15% | 9.30±5.53% → 11.47±6.96% | 有意差なし(p=0.816) |
| Yoshida(日本・カゴメ自社) | ①4.9±0.6%→6.1±0.5% ②4.9±0.6%→7.0±0.7% | 4.9±0.6%→5.4±0.6% | ①②とも有意(いずれもp<0.001) |
論文Table 1より。4試験のうち有意差が出たのは、実はXaplanteris試験とYoshida試験(カゴメ自社研究)の2本だけです。
この4試験を統合すると、リコピンを含む食品を摂った群のFMDは対照群より1.36ポイント高く(95%信頼区間0.20〜2.51、p=0.02)、統計的に有意という結果でした。試験間のばらつきを示す指標(I²)は24%と低く、「結果が試験ごとにバラバラだったわけではない」とも言えます。
結果② 1本を除くと消える──著者ら自身の研究が要
研究チームは、4試験のうち1本ずつを順番に外して計算し直す「感度分析(leave-one-out analysis)」も行っています。その結果、Stangl・Xaplanteris・Ellisのいずれか1本を除いても、統合結果の有意差は保たれました。ところがYoshida試験(カゴメ自社研究)だけを除くと、統合結果は統計的に有意でなくなりました。
この事実には両面があります。ひとつは、論文が各試験の「バイアス(偏り)のリスク」を13項目でチェックした結果、Yoshida試験だけが唯一「低リスク」と評価され(該当項目2/13)、他の5試験は「中リスク」(該当項目6〜7/13)だったという点です。参加者数も4試験中最多(72人)でした。つまり、統計的な質という基準だけで見れば、Yoshida試験が最も信頼できる設計だったとも言えます。
もうひとつは、そのYoshida試験を実施し、かつ「低リスク」と評価したのが、レビュー論文の著者ら自身(カゴメの研究チーム)だったという点です。論文の考察部分で著者ら自身がこう書いています。「Yoshida試験が結果全体に与える影響は大きいことを認識すべきだが、レビューの担当者(著者)がその試験の実施にも関わっていたことによる、意図しない偏りの可能性は否定できない」。この一文は、著者自身による率直な自己申告として評価できます。
結果③ 量を増やすほど反応が強まるわけではない──残る2試験
メタ解析に含まれなかった残り2試験も、単純な「量が多いほど反応が強い」という話にはなっていません。
- Burton-Freeman試験(アメリカ)=27.8mgのリコピンを含むトマトペーストを高脂肪食と一緒に単回摂取。摂取後210分の時点でFMDに有意差なし(p=0.18)。
- Kim試験(韓国)=リコピンカプセルを8週間摂取してRH-PATを測定。15mg/日の群では有意に改善(p<0.05)でしたが、6mg/日の群では有意差なし(p>0.05)。
継続摂取でFMDが有意だった2試験(Xaplanteris・Yoshida)の量と期間は「33.3mg/15日間」「15.0mg・26.7mg/12週間」で、有意でなかった2試験は「46.2mg/7日間」「14.4mg/4週間」でした。用量が多くても短期間なら有意にならず、量が少なくても長期間なら有意になった試験もある、という一貫しない結果です。
資金と利益相反
- 本研究は全額カゴメ株式会社が資金提供し、外部資金は受けていません。
- 著者3名(Yoshida・Nakazawa・Takahashi)は全員カゴメの社員で、かつ統合された4試験のうち最も影響力の大きかったYoshida試験の実施者でもあります。
- レビューの実施にあたり、東京農業大学の大学教員1名が指導・監修にあたり、論文は謝礼(honorarium)を支払ったと明記しています。査読者としてではなく、手法上の助言者としての関与です。
- 論文の「利益相反」の項目には、この構図がそのまま開示されています。
この研究が言えないこと
- FMDが有意に上がるかどうかは「著者ら自身の研究を含めるか除くか」で結論が変わる、不安定な結果です。統合4試験の中で唯一Yoshida試験だけが結果全体を左右しています。
- 著者3名は全員カゴメの社員であり、しかも統合4試験のうち最も参加者数が多く最高評価だった1試験の実施者でもあります。利益相反の中でもとくに強い形で、著者自身が「意図しない偏りの可能性は否定できない」と明記しています。
- 対象は病気のない健康な成人だけです。高血圧・糖尿病・脂質異常症などがある人でも同じ結果になるかは、この研究からは分かりません。
- 摂取量と効果の関係が一貫していません。15.0mg/12週間・33.3mg/15日間は有意でしたが、14.4mg/4週間・46.2mg/7日間は有意でなく、RH-PATでも15mg/8週間は有意・6mg/8週間は非有意でした。「多く摂るほど効果が出る」とは言えません。
- FMDは動脈硬化などの初期の兆候をとらえる検査の一つにすぎません。実際に心筋梗塞や脳卒中を防いだかどうかを直接調べた試験ではありません。
- 検索した文献データベースにEmbase・Web of Science・Scopusが含まれていません。著者ら自身が、文献の見落としがある可能性を限界として明記しています。
- 統合した4試験のうち3試験は同じ人が条件を入れ替えて両方を試す方式(クロスオーバー)ですが、通常の並行群試験と同じ方法で数値を合算しており、対応のあるデータ(ペアデータ)を使えていません。著者ら自身がこの点を方法上の限界として挙げています。
- 採用された6試験の実施国はアメリカ・ドイツ・ギリシャ・日本・韓国とさまざまです。結果を支えた中心的な研究(Yoshida試験)は日本人対象でしたが、他の5試験は日本人以外が対象です。
- サンプルサイズが小さく(統合しても182人)、試験デザインや摂取方法の違いによる詳しい分析(感度分析)は、事前に計画されていたにもかかわらず実施できなかったと著者ら自身が記しています。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
トマトやトマトジュースを日常の食事の一部として摂ること自体は、今回の研究を含めて害を示す材料はなく、ごく一般的な食習慣の範囲に収まります。一方で、この研究をもって「リコピンで血管が若返る」と言い切るのは早計です。統合した4試験のうち有意差が確認できたのは実質2本で、しかもそのうち影響が最も大きい1本は、著者ら自身が資金を出し、自ら実施した研究でした。第三者による独立した検証がまだ乏しい段階だと捉えるのが妥当です。
血管の健康を気にするなら、リコピンだけに頼るより、田園生活で以前取り上げた筋トレと動脈の硬さの関係や減塩と血圧の関係のように、生活習慣全体を見渡すほうが根拠は厚いといえます。持病(とくに血圧や脂質、腎臓の病気)がある方や、食事内容を大きく変える場合は、自己判断せず医師や管理栄養士に相談してください。
まとめ
- トマトジュースなどを作るカゴメ株式会社の研究チームが、健康な成人を対象にした試験6本をまとめ、うち4試験・182人分を統合したところ、FMD(血管内皮機能の指標)は有意に上昇しました。
- しかしこの結果は、著者ら自身が実施した1本の研究を除くと統計的に有意でなくなる、不安定なものでした。著者自身がこの点を論文中で率直に認めています。
- 摂取量と効果の関係も一貫しておらず、「多く摂るほど反応が強まる」とは言えません。
- 対象は健康な成人のみで、実際の病気(心筋梗塞・脳卒中など)を防いだかどうかを調べた研究でもありません。
出典(一次資料)
- Yoshida K, Nakazawa Y, Takahashi S. Effect of Intake of Lycopene-Containing Products on Vascular Endothelial Function in Healthy Adults: A Systematic Review with Meta-Analysis. Nutrients. 2026;18(15):2505. doi:10.3390/nu18152505 全文(PMC13468585)