この記事の要点
- 「筋トレはやりすぎると寿命が縮む」という話の出どころの一つは、東北大学などの日本の研究チームが2022年に発表した統合分析(=複数の研究の結果をまとめて計算し直す方法)です。その論文と、日本人を対象にした追跡調査・実態調査を一次資料で読みました。
- 筋トレを少しでもしている人は、まったくしない人より、その後の死亡リスクが15%低いという関連が報告されています(7研究・約26万人)。
- 死亡リスクが最も低かったのは週40分前後で、そこから先は時間が増えるほど差が縮み、週140分ほどで「しない人」と区別がつかなくなるという推定でした。この曲線の形が「やりすぎは逆効果」と紹介される根拠です。
- ただし論文自身が「長時間の筋トレの影響ははっきりしない」と書いており、根拠の確かさは「非常に低い」と評価されています。研究の多くは米国のもので、週140分を超えると寿命が縮むと示した結果ではありません。
「筋トレは体にいい。でも、やりすぎると逆に寿命が縮むらしい」──こんな話を聞いたことはないでしょうか。厚生労働省が新たにまとめた「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」には、筋トレを週2〜3日行うことを勧める項目が入りました(後で読む③の論文によると、2013年の旧指針には筋トレについての推奨はありませんでした)。その資料にも「実施時間が長くなりすぎると逆効果である可能性も示されています」という一文があります。
では、その「逆効果」はどんなデータから出てきたのか。何分からが「やりすぎ」なのか。今回は、厚労省の資料が根拠として挙げている論文を一次資料で読み、日本人のデータと合わせて確かめます。
読む一次資料
| 年 | 論文・資料 | 対象 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| ①2022 | Momma H, Kawakami R, Honda T, Sawada SS. "Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies." Br J Sports Med 56(13):755-763 | 18歳以上を長く追いかけた16研究の統合分析(日本の研究は1本) | 全文無料(PMC9209691) |
| ②2015 | Kuwahara K, Honda T, Nakagawa T, et al. "Strength training and risk of type 2 diabetes in a Japanese working population: a cohort study." J Diabetes Investig 6(6):655-661 | 日本の会社員26,630人・平均5.2年の追跡 | 全文無料(PMC4627542) |
| ③2024 | Honda T, Hata J, Shibata M, et al. "Descriptive epidemiology of muscle-strengthening activities in Japanese middle-aged and older adults: the Hisayama Study." BMJ Public Health 2(1):e000186 | 福岡県久山町の40歳以上3,455人 | 全文無料(PMC11812793) |
| ④2023 | 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」INFORMATION 1「筋力トレーニングについて」 | ①を根拠に週2〜3日を推奨 | PDF(厚生労働省) |
①は、東北大学大学院医学系研究科の門間陽樹先生(論文発表時の所属)と、早稲田大学スポーツ科学学術院の川上諒子先生・澤田亨先生らによる研究で、資金は厚生労働省の研究費、利益相反はなしと記載されています。②は国立国際医療研究センター(現・国立健康危機管理研究機構)などの研究チーム(利益相反なし)、③は九州大学の研究チームによる「久山町研究」の一部で、文部科学省・厚生労働省などの公的な研究費で行われています。
設計──「やっているか」と「何分やっているか」を分けて読む
①は新たに実験をしたのではなく、すでに発表されていた追跡調査(=健康な人に生活習慣を尋ね、その後何年も追いかけて、亡くなった人や病気になった人を数える調査)を集めて、結果をまとめ直したものです。対象は18歳以上で、調査開始の時点で重い病気のない人です。
見ているのは、大きく2つです。
- 筋トレを「している人」と「まったくしない人」の比較:その後の死亡や、心臓・血管の病気、がん、糖尿病のなりやすさを比べる。
- 週あたりの時間との関係:週の筋トレ時間が増えるにつれて、リスクがどう変わるかを曲線で推定する。
筋トレの時間は、どの研究も本人の申告(アンケートや聞き取り)です。ここで言う筋トレには、マシンやダンベルを使うものだけでなく、腕立て伏せのような自重の運動も含まれます。また、ウォーキングなどの有酸素運動の量の違いを計算でそろえたうえでの比較になっています。
結果① 少しでも筋トレをしている人は、死亡リスクが15%低かった
「している人」を「まったくしない人」と比べた結果です(①の表1)。数値は「しない人」を1としたときの比で、0.85なら15%低いという意味です。
| 項目 | 研究数 | 対象人数 | しない人を1としたときの比(95%信頼区間) |
|---|---|---|---|
| 死亡(原因を問わず) | 7 | 263,058人 | 0.85(0.79〜0.93) |
| 心臓・血管の病気 | 7 | 257,888人 | 0.83(0.73〜0.93) |
| がん(全体) | 6 | 540,543人 | 0.88(0.80〜0.97) |
| 糖尿病 | 5 | 202,486人 | 0.83(0.77〜0.89) |
| 肺がん | 2 | 248,909人 | 0.90(0.83〜0.98) |
| 大腸・腎臓・膀胱・膵臓のがん | 各2 | 248,909人 | いずれも統計的な差なし |
※95%信頼区間は「本当の値がおそらくこの範囲にある」という幅です。上の端が1を下回っていれば、統計的に差があると判断されます。
死亡については、7研究すべてで「している人」のほうが低い向きでした。一方で、研究ごとの結果のばらつきは大きいと報告されています。また、筋トレと有酸素運動の両方をしている人は、どちらもしない人に比べて死亡リスクが40%低い(比0.60、0.54〜0.67・3研究)という結果も示されています。
結果② いちばん低かったのは週40分前後、週140分ほどで差がなくなった
次に、週あたりの時間との関係です。ここで「J字型」と呼ばれる形が出てきます。J字型とは、少しやるとリスクが下がり、ある時間を超えると再び上がっていく曲線のことです。
| 項目 | 研究数 | リスクが最も低かった時間 | そのときの比 | 「しない人」より低い推定が続いた範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 死亡(原因を問わず) | 6 | 週40分 | 0.83(0.79〜0.86) | 週140分ほどまで |
| 心臓・血管の病気 | 5 | 週60分 | 0.82(0.76〜0.90) | 週130分ほどまで |
| がん(全体) | 4 | 週30分 | 0.91(0.85〜0.97) | 週130分ほどまで |
| 糖尿病 | 3 | J字型ではなく、週60分まで大きく下がり、その先はゆるやかに下がり続ける形(L字型) | ||
つまり、死亡については「週40分前後でリスクが最も低く、そこから時間が増えるほど差が縮み、週140分あたりで『しない人』と同じ水準の推定になる」という形です。厚労省の資料に載っている図も、①の結果をもとにしたものです。
ここで注意したいのは、論文が言っているのは「週140分ほどまではしない人より低い推定だった」までだという点です。それより長い時間について、論文の結論は「長時間の筋トレが死亡などに与える影響ははっきりしない」というものでした。著者らは考察で「週2日以上という現在の推奨は妥当と考えられるが、より多い量には注意が必要かもしれない」と書きつつ、「研究数が少なく、筋トレの頻度そのものは直接調べられていない」と慎重な姿勢を示しています。
厚労省の資料も、Q&Aで「やり過ぎはかえって健康増進効果が得られなくなってしまう可能性がある」としながら、「まだ根拠は十分ではなく、今後の研究が必要」と明記しています(資料中の表現は「エビデンス」)。
結果③ 日本人のデータでは──会社員では糖尿病が少なく、実施者はわずか4〜5%
①に含まれた日本の研究は②の1本だけで、死亡ではなく糖尿病を調べたものです。対象は、糖尿病のない30〜64歳の会社員26,630人(平均45.3歳)。平均5.2年のあいだに1,770人が糖尿病を発症しました。
| 比較 | 筋トレをしていない人を1としたときの比(95%信頼区間) |
|---|---|
| 年齢と性別をそろえた場合 | 0.58(0.42〜0.79) |
| 喫煙・飲酒・睡眠・有酸素運動・仕事の活動量などもそろえた場合 | 0.66(0.48〜0.90) |
| さらに体格(BMI)もそろえた場合 | 0.70(0.51〜0.96) |
| (内訳)女性だけ | 0.99(0.30〜3.24)=統計的な差なし |
※②の表2・表3より。筋トレをしていた女性は113人と少なく、著者らは女性で差が出なかった理由として偶然の可能性を挙げています。
もう一つ目を引くのが、そもそも筋トレをしている人の少なさです。②では筋トレをしていた人は全体の4.1%(1,090人)で、週60分以上は408人でした。③の久山町研究(2017〜2018年、40歳以上3,455人、看護師による聞き取り)でも、
- 週1日以上筋トレをしている人:4.7%(162人)
- 週2日以上(国際的な推奨を満たす人):3.8%(133人)
- 男性5.7%、女性3.9%。糖尿病のある人や喫煙者では、さらに低い割合
という結果でした。③の著者らは、欧州・豪州・米国の大規模調査では週2回以上の人が17.3〜30.2%と報告されていることを紹介しています。なお、日本での実施割合は調査によって3.9%から約40%まで大きく異なり、質問のしかたや対象の選び方で変わると③は指摘しています。
この研究が言えないこと
- 「週140分を超えると寿命が縮む」とは言えません。①が示したのは、週140分あたりで「しない人」と区別がつかなくなる推定までです。それより長い時間については、論文自身が「影響ははっきりしない」と結論しています。
- 筋トレが寿命を延ばすという因果関係は示されていません。①はすべて追跡調査をまとめたもので、筋トレをする人はもともと健康に気をつけている、などの違いを計算で完全に取り除くことはできません。論文も、測られていない要因の影響が残る可能性を限界として挙げています。
- 根拠の確かさは「非常に低い」と評価されています。死亡・心臓や血管の病気・がんについて、国際的な評価基準で最も低い段階でした(糖尿病のみ「低い」)。研究数が少なく、研究ごとの結果のばらつきも大きいとされています。
- 時間は本人の申告です。どの研究も筋トレの時間をアンケートや聞き取りで尋ねており、実際の時間や重さ・強度は分かりません。週40分の「中身」が人によって大きく違う可能性があります。
- 日本人集団のデータはごく一部です。①に含まれた研究の多くは米国で行われ、日本の研究は②の1本(糖尿病)だけです。日本人の死亡と筋トレ時間の関係を示したものではありません。著者らも、米国の研究が多いことを理由に根拠の評価を下げています。
- 筋トレの頻度(週何回か)は直接調べられていません。①が見たのは週あたりの合計時間で、「週2回×20分」と「週1回×40分」の違いは分かりません。厚労省の「週2〜3日」は、筋力や骨への効果を調べた介入試験の多くが週2〜3日だったことを根拠に決められています。
- 発表されやすい結果に偏っていないかを確かめられていません。研究数が少なすぎて検定ができず、著者ら自身が「結果が実際より大きく出ている可能性がある」と書いています。
- 筋肉を大きくしたい人や競技者の量について述べたものではありません。厚労省の資料も、推奨は長期的な健康づくりの目安であり、競技力の向上やボディビルディング、体型づくりなどを目的とする場合は、それぞれの目的に合ったプログラムで行うよう勧めています。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
資料を並べると、いちばんはっきりしているのは「まったくしない」と「少しでもする」の差です。週40分前後、つまり20分を週2回程度で、死亡リスクが最も低い推定になっていました。そして日本では、中高年でその「少し」をしている人が4〜5%しかいないと報告されています。多くの人にとって、心配すべきは「やりすぎ」よりも「まったくしていない」ほうだと読めます。
一方で、週140分を超えるような量を続けている人にとっては、この論文は「安心材料」にも「警告」にもなりません。データが薄く、何が起きるかがまだ分かっていない領域だからです。長く続けてきた身としては、時間の長さそのものよりも、回復が追いつかないまま量を増やしていないか、関節に痛みが出ていないかを確かめるほうが現実的だと感じます。厚労省の資料も、休息日をとることの大切さを強調しています。
筋トレと有酸素運動を組み合わせた人のリスクがさらに低かったことも、見逃せない点です。筋トレだけ、歩くだけと片方に寄せるより、両方を少しずつというのが、今回の資料と矛盾しない考え方だと思います。体調や持病によって適した量には個人差がありますので、不安のある人は医師に相談してください。
まとめ
- 筋トレを少しでもしている人は、まったくしない人より死亡リスクが15%低いという関連が、7研究・約26万人の統合分析で報告されています。
- リスクが最も低かったのは週40分前後で、週140分ほどで「しない人」と区別がつかなくなる推定でした。これが「やりすぎは逆効果」と言われる根拠です。
- ただし、それより長い時間については「はっきりしない」というのが論文自身の結論で、根拠の確かさは「非常に低い」と評価されています。
- 日本の調査では、中高年で筋トレを週1日以上している人は4〜5%にとどまります。会社員の追跡調査では、筋トレをしている人は糖尿病の発症が少なかったと報告されています。
出典(一次資料)
- Momma H, Kawakami R, Honda T, Sawada SS. Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies. Br J Sports Med. 2022;56(13):755-763. doi:10.1136/bjsports-2021-105061 全文(PMC9209691)
- Kuwahara K, Honda T, Nakagawa T, Yamamoto S, Nanri A, Kurotani K, Hayashi T, Mizoue T. Strength training and risk of type 2 diabetes in a Japanese working population: a cohort study. J Diabetes Investig. 2015;6(6):655-661. doi:10.1111/jdi.12347 全文(PMC4627542)
- Honda T, Hata J, Shibata M, Sakata S, Furuta Y, Oishi E, Kitazono T, Ninomiya T. Descriptive epidemiology of muscle-strengthening activities in Japanese middle-aged and older adults: the Hisayama Study. BMJ Public Health. 2024;2(1):e000186. doi:10.1136/bmjph-2023-000186 全文(PMC11812793)
- 厚生労働省. 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 INFORMATION 1「筋力トレーニングについて」. PDF/ガイド全体の掲載ページ
- 門間陽樹, 川上諒子, 山田綾, 澤田亨. “筋トレ”の疫学:Muscle-strengthening exerciseに関するナラティブレビュー. 運動疫学研究. 2021;23(2):129-142. doi:10.24804/ree.2101 J-STAGE