この記事の要点
- 立命館大学の後藤一成先生(スポーツ健康科学部教授)の研究チームが、筋トレ経験者の健康な男性11人に、強度と回数の異なる2種類の筋力トレーニングを行わせ、その夜の睡眠を脳波で調べました。
- 2種類とは、高い重量を少ない回数だけ追い込む「最大筋力トレーニング」と、やや軽い重量を多い回数追い込む「筋肥大トレーニング」です。運動をしなかった日(安静のみ)とあわせて、同じ11人が3つの条件を別々の日に順番を入れ替えながら試しました。
- 結果、総睡眠時間・眠りの効率・寝つくまでの時間など、大部分の指標は運動をしなかった日と差がありませんでした。
- ただし高い重量で追い込んだ日だけ、レム睡眠(夢を見やすい浅い眠り)の時間がわずかに短くなりました。
- 就寝後90分間の胸元の皮膚温度は、どちらの筋トレをした日も、運動をしなかった日より高い状態が続きました。
- 研究チームの結論は「筋トレの種類によらず、1回のトレーニングで睡眠の構造が大きく乱れることはない」というものでした。
筋トレをした日の夜は寝つきが悪い、眠りが浅い気がする──実践者ならそんな感覚を持ったことがあるかもしれません。一方で「運動は睡眠に良い」というイメージも広く知られています。実際のところ、筋力トレーニングは夜の眠りにどう影響するのでしょうか。しかも追い込み方の違い(高重量・低回数か、中重量・高回数か)によって、影響は変わるのでしょうか。
これを検証した、立命館大学の研究チームによる実験を一次資料で読みます。あらかじめお断りしておくと、この実験で筋トレを行ったのは昼過ぎの時間帯(12時30分〜15時30分の間)で、深夜に筋トレをした場合の影響を調べたものではありません。「その日の夜の眠り」への影響を調べた研究、という位置づけで読んでください。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Suzuki M, Natsui T, Matsudo H, Furukawa H, Goto K. "Effects of two different types of resistance exercise on sleep quality and nocturnal physiological responses in young males." Physical Activity and Nutrition. 2026;30(2):136-141. |
| 実施機関 | 立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科(責任著者=後藤一成先生・同大学スポーツ健康科学部教授) |
| 入手性 | オープンアクセス(全文無料公開)。表の数値まですべて確認済み |
| 一次資料 | PMC全文(PMC13358588) |
設計──同じ11人が3つの条件を別日に試す
対象は、1年以上の筋トレ経験がある健康な男性11人(平均22.5±1.7歳、身長175.4±4.9cm、体重68.0±5.3kg)。睡眠に問題がないことも事前のアンケートで確認されています。研究は立命館大学の倫理委員会の承認を受けています。
この11人全員が、以下の3つの条件を、7日以上の間隔をあけた別々の日に、順番を入れ替えながら全員体験する方式で実施しました(同じ人で条件を比べるため、体力や体質の個人差が結果に影響しにくい設計です)。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 最大筋力トレーニング(MST) | 1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の85〜90%の重さで4セット、セット間の休憩3分。各セットとも追い込みまで実施 |
| 筋肥大トレーニング(HYP) | 1RMの70〜80%の重さで3セット、セット間の休憩1分。各セットとも追い込みまで実施 |
| 対照(CON) | 運動をせず60分間座って安静 |
種目はベンチプレス・ショルダープレス・シーテッドロー(上半身3種目)と、レッグプレス・レッグエクステンション・レッグカール(下半身3種目)の計6種目。ウォームアップを含めて1回あたり約60分のセッションで、12時30分〜15時30分の間に実施されました。
2条件の運動量を比べると、「重量×反復回数」で計算した総負荷量は、最大筋力トレーニングで12,191±2,359kg、筋肥大トレーニングで15,465±6,418kgとなり、統計的な差ではありませんでした(P=0.07)。一方、1セットあたりの反復回数(追い込みに至るまでの回数)は最大筋力トレーニングで平均4.4±0.7回、筋肥大トレーニングで平均8.7±2.0回と、有意な差がありました(P<0.01)。あらかじめ設定した強度の違いどおり、少ない回数で追い込む条件と多い回数で追い込む条件になっていたことが確認できます。※論文本文はこの回数を「total(合計)」という語で記載していますが、数値の大きさ(高強度側で4回程度・中強度側で9回弱)から見て、実質的には1セットあたりの平均反復回数を指しているとみられます。表記の読み取りには注意が必要です。
運動後は水以外を口にせず、19時に全員同じ内容の食事(888kcal、タンパク質14%・脂質25%・炭水化物61%)を摂り、20時30分にシャワー、23時から就寝準備を始めて、0時から7時までの7時間を就寝時間として固定しました。睡眠は携帯型の脳波計(2チャンネルの脳波・眼球運動測定機器)で調べ、心拍・心拍変動(自律神経の活動を反映する指標)・皮膚温度(胸元と足の2か所)も夜通し測定しています。
結果①──睡眠時間・効率・寝つきは、ほぼ差がなかった
| 指標 | 最大筋力トレ | 筋肥大トレ | 安静のみ | 統計 |
|---|---|---|---|---|
| 総睡眠時間 | 401±28分 | 401±37分 | 410±9分 | 差なし(P=0.67) |
| 睡眠効率 | 97±1.6% | 98±1.5% | 97±2% | 差なし(P=0.41) |
| 寝つくまでの時間 | 4±2分 | 4±4分 | 5±5分 | 差なし(P=0.67) |
| 中途覚醒の時間 | 5±4分 | 3±3分 | 4±6分 | 差なし(P=0.83) |
| 深いノンレム睡眠(N3) | 102±27分 | 104±26分 | 105±21分 | 差なし(P=0.81) |
総睡眠時間・睡眠効率・寝つくまでの時間・中途覚醒の時間、そして最も深い段階の眠り(ノンレム睡眠N3)まで、いずれも3条件の間で統計的な差は確認されませんでした。「筋トレをすると眠りが浅くなる」という不安をそのまま裏づける結果ではありません。
結果②──レム睡眠だけ、高重量トレーニングの日に短縮
唯一、統計的な差が出たのがレム睡眠(体は休んでいるが脳の活動は活発になっている段階の眠り。夢を見やすいとされます)の絶対時間です。
| 指標 | 最大筋力トレ | 筋肥大トレ | 安静のみ | 統計 |
|---|---|---|---|---|
| レム睡眠(分) | 88±18分 | 94±29分 | 107±25分 | 最大筋力トレのみ安静より有意に短い(P<0.05) |
| レム睡眠(睡眠全体に占める割合) | 21.6±4.0% | 23.3±6.7% | 25.8±6.2% | 差ではない(P=0.08) |
絶対時間で見ると、高い重量で追い込んだ日(最大筋力トレーニング)だけ、安静のみの日よりレム睡眠が約19分短くなっていました。ただし、睡眠全体に占める割合で見ると、統計的な差ではありません(P=0.08)。「絶対時間は減ったが、割合としてはぎりぎり有意差に届かなかった」という、解釈に幅の出る結果です。論文自身も、この点を踏まえて「割合では差が出ていない点には注意が必要」と述べています。
結果③──体温は上がったが、心拍変動には差がなかった
夜間の心拍数や心拍変動(自律神経の緊張度合いを反映する指標)は、一晩を通して見ても、就寝後90分間だけを見ても、3条件の間で統計的な差はありませんでした。
一方で、皮膚温度には違いが見られました。
| 指標(就寝後90分間の平均) | 最大筋力トレ | 筋肥大トレ | 安静のみ | 統計 |
|---|---|---|---|---|
| 胸元(体幹に近い部位)の皮膚温度 | 34.7±0.7℃ | 34.7±0.6℃ | 34.2±0.8℃ | 両トレとも安静より有意に高い(P=0.03)。トレ同士に差はなし |
| 足(体幹から遠い部位)の皮膚温度 | 33.2±1.5℃ | 32.7±1.5℃ | 33.1±1.4℃ | 差なし(P=0.54) |
体幹に近い部位の皮膚温度が上がっているのは、体の中心部の体温がわずかに上がっている状態を反映している可能性がある、と論文は考察しています。ただし体温が上がっていたにもかかわらず、それが睡眠の質そのものを悪化させたようには見えませんでした。「筋トレで深部体温が上がると眠りが妨げられる」という単純な図式では説明がつかない結果です。
この研究が言えないこと
- 参加者は11人と少人数です。統計的に検出できる差が限られており、実際には存在する小さな違いを見逃している可能性があります。
- この実験で筋トレをしたのは昼過ぎ(12時30分〜15時30分)です。就寝直前や深夜に筋トレをした場合に同じ結果になるかは、この研究からは分かりません。
- 参加者は全員、1年以上の筋トレ経験がある健康な20代前半の男性のみです。女性・高齢者・筋トレ未経験者・睡眠に問題を抱える人にそのまま当てはまるかは分かりません(性ホルモンは体温調節に影響することも論文自身が注意点として挙げています)。
- 食事・入浴・照明・室温・就寝時間まで厳密に統制された実験室での結果です。実生活のように就寝時間が日によってばらつく状況で同じ結果になるとは限りません。
- 強度・反復回数・セット間の休憩時間のうち、どの要素が結果に影響したのかは切り分けられていません。2条件は複数の要素が同時に変わる設計になっています。
- 脳波などの客観的な指標のみを測定しており、本人が感じる「眠りの質」や翌日の眠気は測定していません。体感としての眠りの良し悪しは、この研究の範囲外です。
- 1回きりのトレーニングの影響を見た研究です。毎日のように筋トレを続けた場合に、睡眠への影響が積み重なるかどうかは分かりません。
- 論文中に資金源や利益相反の開示は見当たりませんでした。謝辞には参加者と研究室メンバーへの謝意のみが記されています。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
「筋トレをした日は眠りが浅くなる」という不安は、少なくともこの実験の範囲では、大きくは裏づけられませんでした。総睡眠時間や深い眠りの時間はほとんど変わらず、差が出たのはレム睡眠の絶対時間だけで、それも見方によっては差と言い切れない水準です。追い込み方を変えても(高重量・低回数か、中重量・高回数か)、睡眠への影響に大きな違いは見られませんでした。
ただし、この実験の筋トレは昼過ぎに行われたものです。もし就寝直前や深夜に高強度の筋トレを行った場合にどうなるかは、この研究だけでは判断できません。個人的な感覚として「夜遅くの激しい運動は寝つきに響く」という声もよく聞くので、そこは別の研究課題として区別して受け止めるのがよさそうです。
睡眠と筋トレの関係については、以前クレアチンが筋トレの日の睡眠時間を延ばすかを検証した記事もあわせてお読みいただくと、同じ「筋トレをした日の夜」というテーマでも切り口の違いが見えてくると思います。
まとめ
- 立命館大学の研究チームが、筋トレ経験者の男性11人に高重量・低回数の「最大筋力トレーニング」と中重量・高回数の「筋肥大トレーニング」を行わせ、その夜の睡眠を調べました。
- 総睡眠時間・睡眠効率・寝つくまでの時間・深い眠りの時間は、いずれも運動をしなかった日と統計的な差がありませんでした。
- 高重量で追い込んだ日だけ、レム睡眠の絶対時間がやや短くなりましたが、睡眠全体に占める割合では統計的な差ではありませんでした。
- 就寝後90分間の胸元の皮膚温度は、どちらの筋トレをした日も高くなっていましたが、それが眠りの質を悪化させたようには見えませんでした。
- ⚠️実験の筋トレは昼過ぎに行われたもので、深夜の筋トレの影響を調べたものではありません。参加者は健康な男性11人のみという限界もあります。