研究ノート・ACTN3遺伝子と筋損傷

筋肉痛になりやすさは遺伝で決まる?ACTN3の日本人研究

公開日: 2026-09-11 · 約8分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • ACTN3という遺伝子の型(RR型・RX型・XX型)によって、筋トレ未経験者が慣れない負荷をかけた後の筋肉の反応が変わるのかを調べた、日本の2つの研究を一次資料で読みます。
  • ①筋力トレーニング未経験の男性52人を対象にした2018年の研究(東京大学・日本体育大学など)では、遺伝子型による運動後の筋力・関節可動域・筋肉痛の変化に大きな差は見られませんでした(ただし運動前の筋力・柔軟性には差がありました)。
  • ②日本人95人(男女)を対象にした2025年の研究(日本体育大学)では、筋肉痛の感じ方や動きには差が出ませんでしたが、血液検査でみる筋損傷マーカーの変化に遺伝子型による違いが確認されました
  • ACTN3は「スピード遺伝子」として知られていますが、この2つの研究が調べたのは瞬発力ではなく、慣れない運動をした後に筋肉がどう傷み、どう回復するかです。

ACTN3(アルファ・アクチニン3)遺伝子は、速い動きを出す筋線維(速筋線維)で働くタンパク質を作る遺伝子です。この遺伝子にはR577X多型と呼ばれる個人差があり、機能するタンパク質を作れる「R」というタイプと、途中で止まってしまい機能するタンパク質を作れない「X」というタイプがあります。両方Rを持つ人はRR型、両方Xを持つ人はXX型(速筋線維でこのタンパク質を全く作れない)、片方ずつ持つ人はRX型と呼ばれます。ネット上では「スプリント遺伝子」「筋肉遺伝子」としてしばしば紹介されていますが、今回読む2つの日本の研究が調べているのは、短距離走の速さではなく、筋トレなどで筋肉に慣れない負荷をかけたあと、遺伝子型によって痛みや回復の仕方が変わるのかという別の問いです。

読む一次資料

資料対象検証した論点入手性
① Kikuchi N, Tsuchiya Y, Nakazato K, Ishii N, Ochi E.
Int J Sports Med 2018;39(2):148-153.
日本体育大学・帝京平成大学・法政大学・東京大学
筋力トレーニング未経験の男性52人ACTN3遺伝子型でエキセントリック運動後の筋力・可動域・筋肉痛が変わるか有料(要旨のみ)
② Deguchi M, Homma H, de Almeida KY, Kozuma A, Saito M, Tsuchiya Y, Kouzaki K, Ochi E, Okamoto T, Nakazato K, Kikuchi N.
Am J Phys Med Rehabil 2025;104(5):415-421.
日本体育大学・明治学院大学・法政大学
日本人95人(男50・女45、上肢の筋力トレーニング未実施)ACTN3遺伝子型で運動後の筋損傷マーカー(CK)・炎症マーカー(IL-6)が変わるか有料(要旨のみ)

2本とも本文は有料で、公開されているのは要旨のみです。以下の数値・記述は要旨に明記されている範囲に限っています。両論文とも菊池直樹先生(日本体育大学体育学部体育学科・教授)と中里浩一先生(日本体育大学保健医療学部・教授)が共著に名を連ねています。①には石井直方先生(発表当時は東京大学教授、2020年の定年退職後は名誉教授)も共著者として参加しています。他の共著者(Tsuchiya Y・Ochi E・Deguchi M・Homma Hほか)は、②の元になった2023年の日本語学会予稿集(出口実・本間洋樹・齋藤未花・上妻歩夢・鴻崎香里奈・越智英輔・岡本孝信の各氏)で漢字表記を確認できましたが、本文では研究チームとして扱います。

設計 同じ運動プロトコルで2つの日本の研究

2つの研究は、どちらも肘の曲げ伸ばし筋(上腕二頭筋)を対象に、ほぼ同じ運動プロトコルを使っています。

項目内容
運動の種類肘の曲げ伸ばし筋の最大随意等速性エキセントリック収縮(30°/s、90°屈曲位から完全伸展まで)
セット数6回×5セット
対象者の条件普段、上肢の筋力トレーニングを日常的に行っていない人
測定のタイミング運動前・運動直後・1日後・2日後・3日後・5日後

エキセントリック収縮とは、筋肉が引き伸ばされながら力を出す動き(ダンベルカールでいえば「下ろす」動作)のことです。慣れない人がこの動きを繰り返すと、筋肉痛や一時的な筋力低下が起きやすいことが知られています。2つの研究は、この「慣れない負荷への反応」がACTN3遺伝子型によって変わるのかを調べたものです。

研究① 52人の男性・筋力と可動域と筋肉痛を追う

項目内容
対象男性52人(20.8±3.8歳、身長172.5±5.9cm、体重64.7±6.5kg、BMI21.7±1.7)。1年以上、定期的な筋力トレーニングをしていない
遺伝子型の内訳RR型 26.9%(14人)/RX型 50.0%(26人)/XX型 23.1%(12人)
測定した指標最大随意等尺性収縮トルク(MVC)、関節可動域(ROM)、筋肉痛

結果

指標結果
運動後の変化量(3遺伝子型の比較)MVC・ROM・筋肉痛のいずれも3群間に有意差なし
運動前(ベースライン)のMVCRRホモ接合体はXアレル保有者(RX+XXの合計)より有意に高い(p<0.05)
運動前(ベースライン)のROMRRホモ接合体はXアレル保有者より低い
ROMの回復の違いXアレル保有者は運動後3日目まで有意なROM低下が続いたが、RRホモ接合体は運動直後のみ

要旨の結論は「ACTN3のRR遺伝子型は、Xアレル保有者に比べてベースラインで高い筋力と低い柔軟性を持つが、エキセントリック収縮後のこれら2指標への遺伝子型の影響は限定的である」というものです。つまり、運動する前の"素の"筋力や柔軟性には遺伝子型による違いが見えたが、慣れない運動をした後にどれだけ筋力が落ち、どれだけ痛むか、という変化の大きさそのものには、はっきりした遺伝子型の差は確認されなかった、という結果です。

研究② 95人の男女・血液検査まで踏み込む

項目内容
対象日本人95人(男性50人・女性45人、22.2±2.3歳)。日常的に上肢の筋力トレーニングをしていない
遺伝子型の分類「RR型+RX型」(ACTN3が発現するグループ)と「XX型」(ACTN3が発現しないグループ)の2群で比較
運動時間約9分(セット間の休息90秒を含む)
測定した指標MVC、ROM、筋肉痛に加えて、血清クレアチンキナーゼ(CK)血清インターロイキン6(IL-6)

クレアチンキナーゼ(CK)は筋肉が損傷したときに血液中に漏れ出す酵素で、値が高いほど筋損傷が大きいと解釈される指標です。IL-6は炎症反応に関わるサイトカインの一種です。研究①が「本人が感じる痛み」や「測定できる筋力・可動域」を見たのに対し、研究②はそこに血液検査という客観的な指標を加えています。

結果

指標結果
血清CK(時間×遺伝子型群の交互作用)有意(P=0.045)。ACTN3が発現しないXX型でCKの変化がより大きい
血清IL-6交互作用なし
MVC交互作用なし
ROM交互作用なし
筋肉痛交互作用なし

要旨の結論は「ACTN3 R577X多型はエキセントリック運動後のクレアチンキナーゼ活性に交互作用を及ぼし、XX遺伝子型で活性が高い」というものです。本人が感じる筋肉痛や、測定できる筋力・可動域には遺伝子型による違いが出なかった一方で、血液検査でみる筋損傷マーカーには違いが見られた、という結果です。

2つの研究を並べて見えること

研究①と②は対象人数も測定項目も異なりますが、同じ運動プロトコル(肘のエキセントリック収縮、6回×5セット、5日間の追跡)を使っており、著者チームも重なっています。並べると次のような整理ができます。

指標のタイプ研究①(筋力・可動域・筋肉痛)研究②(血液マーカー)
運動後の変化に遺伝子型の影響はあったか明確な差なしCKには差あり/IL-6には差なし

本人が感じる痛みや動きの制限といった「体感できる指標」では、2つの研究とも遺伝子型による大きな違いは見えませんでした。一方で、②が唯一測定した血液検査の指標(CK)だけは、ACTN3が発現しないXX型で変化が大きいという結果が出ています。「筋肉がどれだけ実際にダメージを受けているか」と「本人がどれだけ痛みや不自由さを感じるか」は、必ずしも同じ動き方をしていない可能性がある、という読み方ができそうです。

この研究が言えないこと

1. どちらも一度きりの運動に対する反応を見たもので、長期的なトレーニング効果を比較したものではない

2つの研究とも、単回のエキセントリック運動の後、最大5日間の反応を追ったものです。何週間・何か月も筋トレを続けた場合に、遺伝子型によって筋肥大や筋力向上のペースが変わるかどうかは、この2本からは分かりません。

2. 対象は上腕二頭筋(肘の曲げ伸ばし筋)のみ

下半身の大きな筋群や、他の上肢の筋肉で同じ結果になるとは限りません。

3. いずれも筋力トレーニング未経験者が対象

日常的に筋トレをしている人では、慣れない負荷への反応そのものが違う可能性があり、この結果をそのまま経験者に当てはめることはできません。

4. 遺伝子型の分け方が研究によって異なる

①はRR型・RX型・XX型の3群で比較していますが、②はRR型とRX型をまとめて「RR+RX」とし、XX型と2群で比較しています。分類方法が違うため、2つの研究の結果を単純に足し合わせて一つの結論にすることはできません。

5. ②の血清CKの具体的な変化量(数値)は要旨に記載がない

要旨から分かるのは「時間×群の交互作用が統計的に有意だった」ことだけで、CKが実際に何U/L上がったのか、どの程度の差だったのかという具体的な数値は、公開されている範囲では確認できません。

6. 対象人数と性別構成が研究によって異なる

①は男性52人のみ、②は男女95人(男50・女45)です。②では性別による違いは主要な解析軸として報告されておらず、女性と男性で反応が異なるかどうかは分かりません。

7. 資金源・利益相反の情報は要旨からは確認できない

2本とも本文が有料のため、研究資金の出所や利益相反の開示内容は、公開されている要旨からは分かりません。

8. ACTN3遺伝子は瞬発力との関連で知られる遺伝子だが、この2研究は瞬発力そのものを調べていない

ACTN3のRR型は短距離・パワー系競技の選手に多いという報告が広く知られていますが、今回の2研究が調べたのは筋肉痛・筋損傷への反応であり、走る速さやジャンプ力を測定したものではありません。

実践の視点から

筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。

まとめ

ACTN3遺伝子型と、慣れない筋トレ(エキセントリック運動)への反応を調べた日本の2つの研究を読みました。52人の男性を対象にした2018年の研究では、遺伝子型による運動後の筋力・可動域・筋肉痛の変化に明確な差は見られませんでした(①)。95人の男女を対象にした2025年の研究では、本人が感じる痛みや動きには差が出ませんでしたが、血液検査でみる筋損傷マーカーには遺伝子型による違いが確認されました(②)。2つの研究は分類方法も対象人数も異なり、単純に一つの結論にまとめることはできませんが、「痛みの感じ方」と「実際の筋損傷の大きさ」が必ずしも一致しない可能性を示す材料として読むことができます。

出典(一次資料)

  1. Kikuchi N, Tsuchiya Y, Nakazato K, Ishii N, Ochi E. "Effects of the ACTN3 R577X Genotype on the Muscular Strength and Range of Motion Before and After Eccentric Contractions of the Elbow Flexors." Int J Sports Med 2018;39(2):148-153. europepmc.org/article/MED/29165731
  2. Deguchi M, Homma H, de Almeida KY, Kozuma A, Saito M, Tsuchiya Y, Kouzaki K, Ochi E, Okamoto T, Nakazato K, Kikuchi N. "Effect of the ACTN3 R577X Polymorphism on Serum Creatine Kinase and Interleukin-6 Levels After Maximal Eccentric Exercise." Am J Phys Med Rehabil 2025;104(5):415-421. europepmc.org/article/MED/39331128

※2本とも本文は有料で、要旨のみ公開されています。本記事の数値・記述は要旨に明記されている範囲に限っています。研究資金・利益相反の開示内容は要旨からは確認できませんでした。

よくある質問

ACTN3遺伝子とは何ですか?

速い動きを出す筋線維(速筋線維)で働くタンパク質(アルファ・アクチニン3)を作る遺伝子です。R577X多型と呼ばれる個人差があり、機能するタンパク質を作れる「R」型と、作れない「X」型があります。ネット上では「スプリント遺伝子」として紹介されることが多い遺伝子です。

ACTN3遺伝子型を調べれば、筋肉痛になりやすいかどうか分かりますか?

今回紹介した2つの日本の研究では、本人が感じる筋肉痛や測定できる筋力・可動域の変化に、遺伝子型による明確な差は確認されませんでした。ただし血液検査で見る筋損傷マーカー(CK)には、ACTN3が発現しないXX型で変化が大きいという結果が2025年の研究で出ています。単純に「この型だから痛くなりやすい」と言い切れる段階ではありません。

研究ではどんな運動を対象にしていますか?

2つの研究とも、肘の曲げ伸ばし筋(上腕二頭筋)を対象に、最大随意等速性エキセントリック収縮(筋肉が引き伸ばされながら力を出す動き)を6回×5セット行わせています。ダンベルカールでいえば「下ろす」動作にあたる負荷です。

RR型・RX型・XX型とは何を意味しますか?

ACTN3遺伝子のR577X多型における組み合わせです。両方「R」を持つとRR型、両方「X」を持つとXX型(速筋線維でこのタンパク質を全く作れない)、片方ずつ持つとRX型と呼ばれます。2018年の研究(52人)では、RR型26.9%・RX型50.0%・XX型23.1%という内訳でした。

この研究はACTN3遺伝子と瞬発力の関係を調べたものですか?

いいえ。ACTN3遺伝子はスプリントやパワー系競技との関連で広く知られていますが、今回紹介した2つの研究が調べたのは、慣れない筋トレをした後の筋肉痛・筋損傷への反応であり、走る速さやジャンプ力そのものを測定したものではありません。

これらの研究は日本人を対象にしていますか?

はい。2つの研究とも日本体育大学を中心とした研究チームが、日本人を対象に行ったものです。ただし対象人数は52人・95人と限られており、筋力トレーニング未経験者に限った結果です。

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