この記事の要点
- 同志社大学を中心とする研究チーム(早稲田大学・西九州大学が共同)が、片脚にエキセントリック(伸張性)トレーニング、もう片方の脚にスタティックストレッチを10週間行わせ、同じ人の左右で比較した結果を2026年に発表しました。
- ハムストリングスの「硬さ」は、3つの筋のうち2つで低下し、1つ(半腱様筋)は変わりませんでした。しかもこれは介入の種類によらず同じでした。関節可動域も両脚で同程度に増えています。
- 差がついたのは筋力と筋体積で、こちらはエキセントリック側が上回りました。
- ただし参加者は健康な若年男性11名。中高年でも女性でも検証されていません。
- あわせて、東北大学が2025年に発表した「礼法」の無作為化比較試験も一次資料で確認します。週4日以上・1日5分・3か月で膝伸展筋力が平均25.9%向上(対照群2.5%)。ただし対象は20歳以上65歳未満で、高齢者ではありません。
なぜこの2本を選んだか
「筋トレをすると体が硬くなる」という言い方は、ジムでも家庭でも長く語られてきました。一方で「だから筋トレの後にはストレッチを」という助言もセットで語られます。この2つは、実はどちらも十分に検証されないまま慣習として残ってきた部分があります。
この研究ノートでは、海外のデータではなく日本の研究機関が出した一次資料を読むことにしています。今回はその方針で、柔軟性と筋力の関係を扱った日本発の研究を2本、公表されている範囲まで確認しました。数字はニュース記事の要約ではなく、学術誌の抄録と大学のプレスリリースPDFまで当たっています。
先に断っておくと、どちらの論文も本文はオープンアクセスではありません。この記事で扱えるのは、学術誌が公開している抄録と、大学が公開しているプレスリリースまでの範囲です。図表の細部や統計の詳細までは確認できていません。
研究①:同じ人の左右の脚で、2種類の刺激を比べる
1本目は、学術誌 Journal of Applied Physiology の2026年8月号(141巻2号)に掲載された研究です。タイトルを訳すと「二関節ハムストリングス筋のせん断弾性率は、エキセントリックのみのトレーニングとスタティックストレッチのあとで同様に適応する」となります。
研究チームの所属を一次資料で確認すると、次のとおりでした。
- 筆頭著者・川間遼氏、責任著者・若原卓氏 … 同志社大学スポーツ健康科学部(いずれも早稲田大学の研究拠点を兼任)
- 共著・中村雅俊氏 … 西九州大学リハビリテーション学部
- ほか同志社大学大学院・同大学研究開発推進機構
ネット上ではこの研究が「早稲田大学の研究」と紹介されることがありますが、所属の主体は同志社大学です。細かい点ですが、一次資料に当たると分かることの一つなので書き添えておきます。
デザイン:11名、10週間、左右で別メニュー
参加者は健康な若年男性11名。10週間、週3回のプログラムを行いました。ポイントは、1人の中で左右の脚に別々の介入を割り当てたことです。
| 片方の脚 | もう片方の脚 |
|---|---|
| ECC(エキセントリックのみ) 膝を曲げる動作(レッグカール系)の、伸ばされながら力を出す局面だけを実施。最大エキセントリックトルクの50%の負荷で10回×3セット | SS(スタティックストレッチ) 膝を伸ばした姿勢でのストレッチ。ECC側と同じ時間だけ保持する形で3セット |
この「同一人物の左右で比べる」という設計は、食事・睡眠・遺伝・生活習慣といった個人差の影響をまるごと取り除けるのが強みです。人数が11名と少なくても一定の説得力が出るのは、この設計によるところが大きいと考えられます。
何を測ったか
介入の前後で測定されたのは次の4種類です。
- 関節可動域(ROM) … 最大の可動範囲
- せん断弾性率 … 超音波せん断波エラストグラフィで測る、筋そのものの硬さの指標
- 筋束構造と筋体積 … 拡散テンソル画像(DTI)を用いたMRIで評価
- 膝屈曲の最大随意等尺性トルク … 筋力
ここも一次資料に当たると精度が上がる部分です。「MRIで筋肉の体積を測った」と要約されることがありますが、筋の内部構造の評価に使われたのは拡散テンソル画像(DTI)という、水分子の拡散方向から線維の走行を可視化する手法です。
また「硬さ」は、体を前屈させて指が床に届くかといった見た目の柔軟性ではありません。せん断弾性率は、筋という組織そのものの受動的な硬さを測った値です。前屈の記録が伸びることと、筋組織が柔らかくなることは、同じではないという点は押さえておきたいところです。
結果①:柔らかくなったのは3筋のうち2筋だけ
ここが、この研究でいちばん誤解されやすいところです。抄録の記述はこうです。
大腿二頭筋長頭と半膜様筋の局所せん断弾性率は有意に低下したが、半腱様筋の局所せん断弾性率は変化しなかった。これは介入の種類によらなかった。
ハムストリングスは1つの筋ではなく、複数の筋の集合です。この研究で測られた二関節性のハムストリングス3筋のうち、
- 大腿二頭筋長頭 … 硬さが低下
- 半膜様筋 … 硬さが低下
- 半腱様筋 … 変化なし
という結果でした。つまり「ハムストリングスが柔らかくなった」とひとくくりに言うのは正確ではなく、柔らかくなった筋と、変わらなかった筋があるというのが一次資料の記述です。しかもこれは、ECC側でもSS側でも同じでした。ストレッチをした脚でも、半腱様筋は硬さが変わっていません。
結果②:可動域は、両脚とも同じだけ増えた
もう一つ、要約では落ちがちな結果があります。抄録には「最大関節可動域は、介入の種類にかかわらず同程度に有意に増加した」とあります。
つまり可動域という点でも、エキセントリックトレーニングとストレッチに差はつかなかったということです。「筋トレをしたほうが柔らかくなる」でもなければ「ストレッチのほうが柔らかくなる」でもなく、どちらも同じくらいだった、というのがこの研究の中心的な発見です。
結果③:差がついたのは筋力と筋体積
柔軟性の指標では差がつかなかった一方で、明確に差が出たのが筋力と筋量です。抄録は「最大随意トルクと、二関節ハムストリングス全筋の体積の増加は、SSよりECCのあとで大きかった」と述べています。
整理すると、この研究が示したのは次の構図です。
| 指標 | ECC(エキセントリック) | SS(ストレッチ) |
|---|---|---|
| 大腿二頭筋長頭・半膜様筋の硬さ | どちらも同程度に低下 | |
| 半腱様筋の硬さ | どちらも変化なし | |
| 関節可動域 | どちらも同程度に増加 | |
| 最大随意トルク(筋力) | ECCのほうが大きく増加 | — |
| ハムストリングス筋体積 | ECCのほうが大きく増加 | — |
研究チーム自身の結論も、そこに置かれています。エキセントリックトレーニングは、特定のハムストリングス筋の受動的な硬さを慢性的に下げるという点でストレッチと同程度の可能性を持ちながら、同時に筋力・筋サイズ・関節柔軟性の向上も促すと示唆される、という書き方です。「ストレッチより柔らかくなる」とは言っていません。
この研究が言えないこと
研究ノートの本題はここです。読み手にとっていちばん役に立つのは、見出しではなくこの研究では答えが出ていない範囲のほうだと考えています。
- 参加者は健康な若年男性11名だけ。中高年でどうか、女性でどうか、運動習慣のない人でどうかは、この研究からは分かりません。筋の硬さは加齢でも変わるため、年代をまたいで一般化するのは無理があります。
- 比べたのはハムストリングスだけ。胸や肩、ふくらはぎなど他の部位で同じことが起きるかは検証されていません。
- ストレッチ側の条件は「ECCと同じ時間」に揃えたものです。ストレッチの効果を最大化する条件を探した研究ではありません。「ストレッチは無意味」という読み方はできません。
- 期間は10週間。それより長く続けた場合に差が開くのか、あるいは縮まるのかは分かりません。
- 「硬い=悪い」を証明した研究ではありません。せん断弾性率が下がることが、ケガの減少や日常の動きやすさにつながるかどうかは、この研究の外側の話です。
- エキセントリックのみ、負荷は最大の50%、週3回という具体的な条件での結果です。通常の上げ下げを行う一般的な筋トレでも同じかどうかは、この研究からは言えません。
- ネット上で見かける「筋トレッチング」という呼び名は、論文には登場しません。誰が名付けたのか出所を確認できなかったため、この記事では使わないことにしました。
研究②:東北大学の「礼法」無作為化比較試験
もう1本は、東北大学が2025年9月1日に公表したプレスリリースと、その元論文です。The Tohoku Journal of Experimental Medicine に2025年8月18日付で掲載されました(268巻4号)。
武士が受け継いできた作法である「礼法」では、立つ・座る・歩くといった日常動作を反動をつけずにゆっくり一定の速度で行うことが重視されてきました。これが脚の筋力とどう関係するかを、東北大学産学連携機構の永富良一教授らのチームが検証したものです。
デザインと結果
- 無作為化比較試験(RCT)。礼法の経験がない20歳以上65歳未満の健康な成人34名を、礼法トレーニング群17名と、普段どおりの生活を続けるコントロール群17名にランダムに割り付け
- トレーニング群は1日5分程度、週4日以上、3か月間実施
- 内容は椅子からの立ち座り10回+しゃがんで立ち上がる動作10回。3週目以降は12回に増やす
- いずれも礼法に基づき、上体を大きく前に倒さず、ゆっくり一定の速度で行う
- 結果は3か月後の膝伸展筋力が、礼法群で平均25.9%向上。コントロール群は2.5%
要約では「1日5分を3か月続けたら25%以上向上」と紹介されがちですが、一次資料に当たると「毎日」ではなく「週4日以上」であること、3週目から回数が増えていたこと、そして何もしない対照群と比べた試験であることが分かります。とくに最後の点は重要で、これは礼法と他の運動を比べた研究ではありません。
この研究が言えないこと
- 対象は20歳以上65歳未満です。プレスリリースの見出しは「高齢期の筋力低下を防ぐ効果に期待」ですが、これは研究者の展望であって、高齢者で検証した結果ではありません。本文にも「高齢者になる前から鍛える手段」として位置づけられています。
- 測ったのは膝伸展筋力の1指標だけ。歩行速度、バランス、転倒の実際の発生率までは扱っていません。
- コントロール群は運動をしていません。したがって「礼法が普通のスクワットより優れている」ことは示されていません。示されたのは「何もしないより効果があった」という点です。
- 34名という規模。RCTである点は評価できますが、人数は多くありません。
- 謝辞に「本研究の費用の一部は、NPO法人小笠原流・小笠原教場および有限会社小笠原教場より支援を受けています」と記載があります。礼法を伝承・指導する団体が資金提供者です。これは開示されていること自体が健全で、だから信頼できないという話ではありませんが、読むときの背景として把握しておく情報だと考えられます。
トレーニングをしている人への読みどころ
この2本を並べて読むと、実践者にとって意味がありそうな示唆が2つ見えてきます。あくまで示唆であって、結論ではありません。
1つめ。「筋トレをすると体が硬くなる」という前提は、少なくとも自明ではないということ。研究①では、伸張性収縮を含むトレーニングを10週間行った脚で、ハムストリングス2筋の硬さが下がり、可動域も増えました。しかもその変化はストレッチをした脚と同程度でした。ただし繰り返しになりますが、これは若年男性11名・ハムストリングスに限った話です。
2つめ。「ゆっくり動く」ことが軽視されすぎている可能性。研究②で行われたのは、器具も場所も使わない立ち座りとしゃがみ立ちだけです。それでも何もしない群との間に差が出ました。日常動作のスピードを落とすだけで、脚にかかる時間あたりの負荷は変わります。すでに高重量を扱っている人にとっては、これは主種目の代わりではなく、普段の生活動作の質を上げる補助的な選択肢として読むのが妥当なところだと考えられます。
いずれの研究も、特定のサプリメントや器具の効果を示したものではありません。また効果には個人差があり、痛みや持病がある場合は自己判断で強い負荷をかけず、医療機関に相談することをおすすめします。
手元で確認できること
この記事の内容は、次の手順で誰でも確かめられます。
- 研究①の抄録は、DOI
10.1152/japplphysiol.00026.2026で検索すると学術誌のページに到達します。PubMed の ID は42420772です。本文は購読者向けですが、抄録は無料で読めます。 - 研究②のプレスリリースPDFは東北大学のサイトで公開されています。図1に礼法の動作と一般的なスクワットの比較、図2に介入前後の膝伸展筋力が掲載されています。
- 研究②の論文は J-STAGE に掲載ページがあります。DOI は
10.1620/tjem.2025.J099です。
まとめ
「筋トレか、ストレッチか」という問いに、この研究は終止符を打ってはいません。打ったのはむしろ、「筋トレをすると硬くなるからストレッチで相殺する」という単純な図式のほうだと言えそうです。少なくとも若年男性のハムストリングスにおいては、両者の柔軟性への効果に差はつかず、筋力と筋量ではエキセントリック側が上回りました。
そして東北大学の研究が示したのは、特別な器具も場所も要らない「ゆっくりしゃがんで立つ」動作でも、何もしない場合との間に差が出たということです。ただしこちらも、対象は20歳から64歳の34名でした。
どちらも小さな研究です。だからこそ、見出しの一行ではなく、何人を、どのくらいの期間、どんな条件で測ったのかまで見てから受け取るのがよいと考えています。
出典(一次資料)
- Kawama R, Okuda Y, Takahashi K, Nakamura M, Wakahara T. Similar adaptation in shear moduli of the biarticular hamstring muscles after eccentric-only training and static stretching. J Appl Physiol. 2026;141(2). PubMed(PMID: 42420772)で抄録を読む / DOI: 10.1152/japplphysiol.00026.2026(本文は購読者向け・抄録は無料公開)
- 東北大学プレスリリース「武士の日々の所作で脚力が強化する 1日わずか5分で高齢期の筋力低下を防ぐ効果に期待」(2025年9月1日)PDF / 東北大学医療系メディア〈LIFE〉掲載版
- Ogasawara A, Sato A, Nagatomi R. A Traditional Japanese Samurai Movement Rei-ho as a Knee Extension Strength Training: A Randomized Controlled Study. Tohoku J Exp Med. 2026;268(4).(2025年8月18日オンライン掲載)DOI: 10.1620/tjem.2025.J099(PMID: 40803880)
※本記事の数値・記述は、上記の学術誌抄録および大学公表資料で確認できた範囲に限っています。両論文とも本文はオープンアクセスではないため、図表や統計の詳細までは照合していません。