研究ノート・魚油(EPA)と筋トレの疲労

魚油のEPAは筋トレの疲労を減らすのか|4つの試験

公開日: 2026-09-27 · 約10分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • 法政大学・帝京平成大学などの研究チームが、魚に含まれる油の成分EPA(エイコサペンタエン酸)を8週間摂取すると筋トレの疲労が軽くなるかを調べた試験を、2019年から2026年にかけて4本発表しています。資金は一貫して水産大手・日本水産(ニッスイ)が提供しています。
  • 1本目(2019年・肘の運動)ではEPAをとった群のほうが疲れにくいという結果が出ました。
  • ところが2本目以降、同じチームが膝の運動(疲労困憊まで反復させる方式)で3回試したところ、"何回反復できたか"という肝心の指標には一度も有意な差が出ていません。
  • 2025年の1本は、反復回数そのものには差がないのに、結論では「筋持久力を改善する」と踏み込んで書いています。本文中の他の指標(相関関係など)を根拠にした結論で、読み方に注意が必要です。

魚油のサプリメントには「EPA」「DHA」という成分名がよく書かれています。青魚に多く含まれる油の一種で、血液をさらさらにする、炎症を抑える、といった効果が知られていますが、「筋トレの疲れを軽くする」という主張も一部で見かけます。今回はこの主張の出どころに近い、日本の研究チームによる一次資料4本を読みます。

読む一次資料

年論文入手性
①2019Ochi E, Yanagimoto K, Morishima T, et al. "Eicosapentaenoic Acid-Rich Fish Oil Supplementation Inhibits the Decrease in Concentric Work Output and Muscle Swelling of the Elbow Flexors." J Am Coll Nutr. 2019;38(2):125-131. doi:10.1080/07315724.2018.1470042有料(抄録のみ)
②2020Morishima T, Tsuchiya Y, Ueda H, Ochi E. "Muscular endurance and muscle metabolic responses to 8 weeks of omega-3 polyunsaturated fatty acids supplementation." Physiol Rep. 2020;8(16):e14546. doi:10.14814/phy2.14546全文無料(PMC7435031)
③2025Tsuchiya Y, Ueda H, Shimizu T, et al. "Eicosapentaenoic Acid and Medium-Chain Triacylglycerol Structured Lipid Supplementation Improves Muscular Endurance Exercise Performance and Reduces Muscle Fatigue in Young Healthy Male." J Am Nutr Assoc. 2025;44(3):190-197. doi:10.1080/27697061.2024.2413363有料(抄録のみ)
④2026Shimizu T, Tsuchiya Y, Ueda H, Yokoi K, Yanagimoto K, Ochi E. "Effects of eight weeks of eicosapentaenoic acid and medium-chain triacylglycerol structured lipid intake on EPA/AA ratio and muscle performance in young men." J Int Soc Sports Nutr. 2026;23(1):2658774. doi:10.1080/15502783.2026.2658774全文無料(PMC13094201)

設計──同じ研究室が同じ疑問を4回試している

4本はいずれも法政大学(応用生命科学・スポーツ健康学)の越智英輔先生(教授)の研究室を中心に、帝京平成大学・明治学院大学などが加わった共同研究です。資金はすべて水産大手の日本水産(ニッスイ)が提供しており、うち2本(③④)は同社の社員2名が共著者に入っています(いずれもローマ字表記のみで漢字は未確認のため個人名は伏せます)。②④は論文自身が「利益相反なし」と申告していますが、①③は抄録しか読めず資金源の記載を直接確認できていません。

共通の設計は、健康な20歳前後の男性(16〜28人)を2群に分け、二重盲検(本人にも実験者にも、どちらの群かを分からなくする方式)でEPAを含む油またはプラセボ(見た目が同じ偽物)を8週間毎日摂取させ、その後に筋トレをして疲労や筋力の変化を比べるという流れです。摂取量はどの試験もEPA約600mg・DHA約260mg/日で統一されています。

ただし運動の種目と測り方が試験によって違います。①だけは腕(肘を曲げる運動)で、②③④は脚(膝を伸ばす運動を、体重の40%の負荷で限界まで繰り返す「疲労困憊法」)です。この違いが、後述するように結果の解釈に効いてきます。

結果① 2019年・腕の運動では差が出た

健康な男性16人(EPA群8人・プラセボ群8人)が対象。肘を曲げる運動を5セット×6回行い、各セットの仕事量を比較しました。

指標EPA群プラセボ群結果
5セット目の仕事量(1セット目比)94.0±11.7%82.5±11.7%EPA群が有意に高い(p<0.05)
運動直後の可動域(ROM)EPA群が有意に大きい(p<0.05)EPA群が有利
運動直後の腕の断面積の増加(むくみ)EPA群が有意に小さい(p<0.05)EPA群が有利

この試験だけを見ると、「魚油で筋トレの疲れが軽くなる」という主張を支持する結果です。ただしn=16(各群8人)と小さく、運動も腕の求心性収縮(縮みながら力を出す動き)5セットに限られています。

結果② 2020年・脚の疲労困憊法では差が消えた

健康な男性19人(プラセボ9人・魚油10人)が対象。今度は膝を伸ばす運動を、体重の40%の負荷で限界(疲労困憊)まで反復させる方式に変え、4セット行いました。

指標結果
血中EPA・DHA濃度魚油群で有意に上昇(p<0.05・摂取が効いていることは確認)
各セット・総反復回数両群で有意差なし
主観的運動強度(RPE)有意差なし
筋の酸素飽和度・最大随意収縮力(MVC)・血中乳酸いずれも有意差なし

血中のEPA濃度は確かに上がったのに、疲労困憊までの反復回数や主観的なきつさには反映されませんでした。①とは運動の種類(腕/脚)と負荷のかけ方(セット固定/限界まで反復)が違うため単純比較はできませんが、「EPAをとれば疲れにくくなる」という単純な図式ではなさそうだ、という最初の反証がこの試験です。

結果③ 2025年・反復回数は差がないのに「改善する」と結論

健康な若い男性20人(EPA+MCT群10人・プラセボ群10人)が対象。②とほぼ同じ膝伸展の疲労困憊法(体重40%・4セット)で追試しました。

指標結果
セット1〜4・総反復回数両群で有意差なし(②と同じ)
血中EPA/AA比の上昇と反復回数の減少率EPA+MCT群の中でだけ有意な負の相関(上昇が大きい人ほど、回数の落ち込みが小さい傾向)
運動後の最大随意収縮力(MVC)の低下EPA+MCT群のほうが有意に小さい

⚠️ここが今回いちばん注意が必要な箇所です。論文の結論(Conclusion)は「8週間のEPA/MCT摂取は筋持久力パフォーマンスを改善し、運動後の疲労を軽減する」と書かれています。しかし本文の結果(Results)を読むと、その"筋持久力パフォーマンス"を直接表す反復回数そのものには、有意な差が付いていません。結論を支えているのは、群内だけの相関関係と、MVCという副次的な指標です。相関関係や副次指標に基づく前向きな結論と、主要な評価項目(反復回数)の結果とを、読者が区別できる書き方にはなっていません。

結果④ 2026年・より吸収の良い油でも差は出なかった

健康で筋トレ未経験の男性28人が対象。この最新の試験は、これまでのようにプラセボ(偽物)と比べるのではなく、「化学的に結合させた油(STG)」と「単純に混ぜ合わせただけの油(PM)」という、2種類のEPA入りの油を直接比べた点が新しく、②③と同じ膝伸展の疲労困憊法(体重40%・4セット)を使っています。

指標STG群(化学的に結合)PM群(単純に混合)
血中EPA/AA比の上昇幅STG群のほうが有意に大きい(吸収の良さは確認された)
反復回数・疲労関連の指標(MVC・可動域・周径・筋厚・エコー輝度・筋の硬さ)両群で有意差なし

油の吸収されやすさ(血中EPA/AA比)は確かにSTG群のほうが優れていましたが、それが筋トレの疲労や持久力の指標に結びつくとは示されませんでした。「吸収が良いほど効果も高いはず」という素直な予想は、この試験では裏付けられていません。

この研究が言えないこと

  1. 4試験はすべて同じ研究グループによる小規模な試験(各群8〜15人程度)で、第三者による独立した再現はまだ確認できていません。
  2. 「効果があった」のは腕の運動を使った①(2019年)だけで、脚の疲労困憊法を使った②③④(2020・2025・2026年)では、いずれも主要な反復回数の指標に有意差が出ていません。運動の種類・筋群・負荷のかけ方によって結果が変わりうるという設計上の違いを、単純に「EPAが有効か無効か」の一言にまとめることはできません。
  3. ③(2025年)の結論は、主要評価項目(反復回数)ではなく群内の相関関係と副次指標(MVC)に基づいています。抄録の結論だけを読むと実際より前向きな印象を受けるので、必ず本文の結果と照らし合わせる必要があります。
  4. ①③は抄録しか読めず、資金源・利益相反の記載を本文で直接確認できていません。ただし著者に日本水産(ニッスイ)の社員が含まれる論文があること、②④で同社が資金提供者になっていることから、①③も同様の資金構造である可能性があります。
  5. 資金提供者の日本水産(ニッスイ)は魚油・水産加工品を扱う企業で、②④の論文自身が「資金提供者は研究デザイン・出版判断に関与していない」と明記しています。この開示があること自体は健全ですが、一連の試験がすべて同一の資金提供者によるものである点は踏まえて読む必要があります。
  6. 対象は健康な10代後半〜20代の男性に限られます。女性・中高年・高齢者・持久系アスリートに同じ結果が当てはまるかは、これらの試験からは分かりません。
  7. 摂取量はEPA約600mg・DHA約260mg/日という特定の量・特定の製剤に限った結果です。市販の魚油サプリメント全般や、魚を食べることによる摂取量に一般化はできません。
  8. いずれも8週間という短期間の試験です。より長期に摂取した場合の効果や安全性については、これらの試験からは分かりません。

実践の視点から

筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。

今回読んだ4試験を素直に並べると、「魚油(EPA)を8週間とれば筋トレの疲れが軽くなる」と言い切れる段階にはないというのが実情です。最初の1本(腕の運動)で良い結果が出た後、同じチームが脚の疲労困憊法で3回試していますが、肝心の反復回数という指標には一度も差がついていません。血中のEPA濃度やEPA/AA比は確かに上がるので、体内には届いているはずですが、それが疲労や筋持久力という「体感できる結果」に結びつくかどうかは、まだ一貫していないというのが正確な読み方だと思います。

魚(青魚)を食事に取り入れること自体は、他の生活習慣病予防の観点からも一般的に推奨されている習慣です。ただし「筋トレの疲れを軽くするためにEPAサプリを飲む」という目的に限って言えば、今回の一次資料からは強い根拠は見当たりませんでした。持病がある方や薬を服用中の方がサプリメントの摂取を検討する場合は、自己判断せず医師や管理栄養士に相談してください。

まとめ

出典(一次資料)

  1. Ochi E, Yanagimoto K, Morishima T, et al. Eicosapentaenoic Acid-Rich Fish Oil Supplementation Inhibits the Decrease in Concentric Work Output and Muscle Swelling of the Elbow Flexors. J Am Coll Nutr. 2019;38(2):125-131. doi:10.1080/07315724.2018.1470042
  2. Morishima T, Tsuchiya Y, Ueda H, Ochi E. Muscular endurance and muscle metabolic responses to 8 weeks of omega-3 polyunsaturated fatty acids supplementation. Physiol Rep. 2020;8(16):e14546. doi:10.14814/phy2.14546 全文(PMC7435031)
  3. Tsuchiya Y, Ueda H, Shimizu T, et al. Eicosapentaenoic Acid and Medium-Chain Triacylglycerol Structured Lipid Supplementation Improves Muscular Endurance Exercise Performance and Reduces Muscle Fatigue in Young Healthy Male. J Am Nutr Assoc. 2025;44(3):190-197. doi:10.1080/27697061.2024.2413363
  4. Shimizu T, Tsuchiya Y, Ueda H, Yokoi K, Yanagimoto K, Ochi E. Effects of eight weeks of eicosapentaenoic acid and medium-chain triacylglycerol structured lipid intake on EPA/AA ratio and muscle performance in young men. J Int Soc Sports Nutr. 2026;23(1):2658774. doi:10.1080/15502783.2026.2658774 全文(PMC13094201)

よくある質問

魚油(EPA)を飲めば筋トレの疲れは軽くなりますか?

今回読んだ4試験を見る限り、はっきりそうとは言えません。2019年の腕の運動を使った試験ではEPA群が有利な結果が出ましたが、2020年・2025年・2026年に同じ研究チームが脚の疲労困憊法で試した3本では、いずれも反復回数という主要な指標に有意な差が出ていません。

血中のEPA濃度が上がっても意味がないのですか?

血中のEPA濃度やEPA/AA比が上がること自体は複数の試験で確認されており、摂取した成分がきちんと体に届いていることは分かります。ただしそれが疲労困憊までの反復回数や主観的なきつさという「体感できる結果」に結びつくかどうかは、これらの試験では一貫していません。

2025年の試験は「効果がある」という結論だったのでは?

論文の結論(Conclusion)ではそう書かれていますが、本文の結果(Results)を読むと、主要な指標である反復回数そのものには有意差が出ていません。結論を支えているのは群内だけの相関関係と、MVCという副次的な指標です。結論の文章だけでなく本文の結果を確認することが重要です。

この研究はどこが行ったのですか?

法政大学の越智英輔先生(教授)の研究室を中心に、帝京平成大学・明治学院大学などが加わった共同研究です。資金はすべて水産大手の日本水産(ニッスイ)が提供しており、一部の論文には同社の社員が共著者として名を連ねています。

腕の運動と脚の運動で結果が違うのはなぜですか?

この4試験だけからは理由は特定できません。運動する筋肉の大きさ、収縮の種類、負荷のかけ方(セット数を固定するか、限界まで反復させるか)がそれぞれ違うため、単純に「EPAが有効か無効か」と一言でまとめることはできない、というのがこの記事の立場です。

サプリメントを試す前に注意することはありますか?

今回の試験はいずれも健康な10代後半〜20代の男性が対象で、特定の量・特定の製剤に限った結果です。持病がある方や薬を服用中の方は、自己判断でサプリメントを追加せず、医師や管理栄養士に相談してください。

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