研究ノート・タンパク質と筋肉量

タンパク質だけで筋肉は守れるか|高齢者1766人の調査

公開日: 2026-09-20 · 約10分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

ボディメイク・筋力トレーニング/体組成分析/減量・栄養・睡眠を、科学的エビデンスと実体験から発信。

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この記事の要点

  • 厚生労働省「国民健康・栄養調査」(2017年)のデータを使い、東京農業大学・国立健康・栄養研究所のグループが60歳以上の日本人1766人を対象に、タンパク質摂取量と筋肉量(骨格筋指数)の関係を調べました。
  • タンパク質摂取量が多い人ほど骨格筋指数は高い傾向にあり、この関連は歩数・運動習慣・肉体労働の量で調整しても残ったと報告されています。
  • 一方、「1食あたり体重1kgにつき0.4g以上のタンパク質を頻繁に摂る」ことと筋肉量には関連が見られませんでした。総量が重要で、1回あたりの配分は関係なかった、という結果です。
  • 横断調査(ある一時点の関連を見た調査)であり、タンパク質を増やせば筋肉が増えるという因果関係を証明したものではありません。

「筋肉のためにタンパク質を摂りましょう」という助言はよく聞きますが、運動をしていない人でもタンパク質さえ摂っていれば筋肉は保たれるのでしょうか。それとも運動と組み合わせて初めて意味を持つのでしょうか。今回読むのは、厚生労働省が毎年実施している国民健康・栄養調査の2017年分のデータを使い、東京農業大学と国立健康・栄養研究所の研究者が60歳以上の日本人1766人を分析した論文です。あわせて、この論文と同じ調査年・同じ年齢層を対象に厚生労働省自身が公表している統計表も確認し、実際の数字を見ていきます。

読む一次資料

項目内容
論文Ishikawa-Takata K, Matsumoto M, Takimoto H.
"Are higher protein intake and distribution of protein intake related to higher appendicular muscle mass among an older Japanese population?: A cross-sectional analysis of the National Health and Nutrition Survey 2017."
Geriatrics & Gerontology International. 2024;24(6):634-640. doi:10.1111/ggi.14875
実施機関東京農業大学+国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(国立健康・栄養研究所)
研究の種類横断研究(国の統計調査データの再分析)
入手性非オープンアクセス(出版社サイト・PubMed・Europe PMCのいずれも今回は接続できず、抄録のみで確認)。ただし元になった政府統計表そのものは厚生労働省が無料公開しており、本記事の数値表はすべてそちらから直接確認しました
政府統計の原本政府統計の総合窓口(e-Stat)平成29年国民健康・栄養調査 第63表の2同・第63表の4

責任著者の高田和子先生は、論文発表時(2024年)は東京農業大学応用生物科学部の教授で、2025年4月からは東洋大学健康スポーツ科学部に所属しています。2020年3月までは国立健康・栄養研究所に在籍し、日本人の身体活動量の基準づくりに長く携わってきた研究者です。共著の瀧本秀美先生は、同研究所で栄養疫学・食育研究を率いる立場にあります。もう1人の共著者は下の名前のみローマ字表記(Mai)で漢字が確認できないため、本文では個人名を出さずに扱います。

設計──国の調査データ1766人分を、大学の研究者が独自に分析

項目内容
データの出どころ厚生労働省「国民健康・栄養調査」2017年(平成29年)分
対象栄養摂取状況調査(1日分の食事記録)・身体状況調査(体組成の測定)の両方に回答した60歳以上の日本人1766人
タンパク質摂取量の集計1日分の食事記録から算出した1日あたりの総タンパク質摂取量。男女それぞれで摂取量の少ない順に3等分し、下位群・中位群・上位群に分類
ロイシン摂取量2020年版の日本食品標準成分表に基づき、調査で使われた98の食品分類ごとのアミノ酸組成データから重み付き平均で算出
筋肉量の指標四肢除脂肪量(腕と脚のタンパク質・水分などの重さ)を身長の2乗で割った「骨格筋指数」(単位kg/m²)。生体電気インピーダンス法(体に微弱な電流を流し、電気の流れにくさから筋肉量を推定する測定法)で測定
調整した要因1日の歩数、運動習慣の有無、肉体労働の時間など、身体活動に関する複数の指標

この論文は新しく人を集めて実験をしたものではなく、厚生労働省がすでに集めた統計調査データを、大学の研究者が独自の統計手法で読み直したものです。同じ2017年の調査データは、厚生労働省自身も報告書の統計表として公開しています。次の結果は、その両方を突き合わせて確認したものです。

結果① タンパク質摂取量が多い群ほど骨格筋指数は高い

区分下位群中位群上位群
全体(n=1766)6.82±0.93(n=588)7.06±1.00(n=590)7.17±0.95(n=588)
男性(n=797)7.39±0.91(n=266)7.80±0.94(n=266)7.91±0.84(n=265)
女性(n=969)6.34±0.64(n=322)6.46±0.53(n=324)6.56±0.51(n=323)

数値は骨格筋指数(kg/m²)の平均値±標準偏差。厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査」第63表の2より。タンパク質摂取量の3群の区切りは、男性が1日67.74g未満/67.74〜87.32g未満/87.32g以上、女性が59.90g未満/59.90〜76.15g未満/76.15g以上(男女別に算出)。

全体・男性・女性のいずれでも、タンパク質摂取量の群が上がるほど骨格筋指数の平均値も上がるという単純な傾向が、政府統計の生データの時点ですでに確認できます。論文はこのうえで、年齢や身体活動の量などを揃えた統計的な調整を行い、タンパク質摂取量と骨格筋指数の関連は身体活動の量とは別に(独立して)見られたと結論づけています。

結果② 身体活動が少ない人の中でも、タンパク質摂取量による差は見える

区分下位群中位群上位群
全体(n=1758)6.8±0.9(n=584)7.1±1.0(n=589)7.2±1.0(n=585)
歩いたり立っている時間が1日1時間未満6.6±0.9(n=76)6.9±1.2(n=38)7.5±1.1(n=27)
歩いたり立っている時間が1日3時間以上6.8±0.9(n=315)7.1±1.0(n=354)7.1±0.9(n=366)
肉体労働をしていない6.7±0.9(n=332)6.9±0.9(n=338)7.0±0.9(n=303)
肉体労働の時間が1日1時間以上7.1±0.9(n=89)7.5±1.1(n=106)7.6±1.0(n=112)

数値は骨格筋指数(kg/m²)の平均値±標準偏差。厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査」第63表の4より(総数・男女計)。タンパク質摂取量の3群の区切りはこの表専用に算出されており、結果①の区切りとわずかに異なる(男性67.61g未満/67.61〜87.28g未満/87.28g以上、女性59.90g未満/59.90〜76.18g未満/76.18g以上)。

この表は、年齢などを調整していない単純なクロス集計です。それでも、「肉体労働をしていない」という活動量の少ない人たちの中だけを見ても、タンパク質摂取量が多い群ほど骨格筋指数は高いという同じ向きの傾向が確認できます。「歩いたり立っている時間が1日1時間未満」という最も活動量が少ないグループでは下位群と上位群の差が特に大きく見えますが、上位群はわずか27人しかいないため、この一区分だけで強い結論は出せません。全体としては、論文が主張する「タンパク質摂取量と骨格筋指数の関連は、身体活動の量が少ない人でも見られる」という向きと、政府統計の生データは矛盾していません。

結果③ 「1回の食事あたりの量」では差が出なかった

この論文のもう一つの分析ポイントは、1日の総量ではなく「1回の食事あたりにどれだけ均等にタンパク質を摂っているか」という観点です。近年、「筋肉をつくる働きを効率よく引き出すには、1回の食事で体重1kgあたり0.4g以上のタンパク質を摂るとよい」という助言を見かけることがあります。研究チームはこの目安に沿って、「1食あたり体重1kgにつき0.4g以上のタンパク質を摂る回数が多い人ほど、骨格筋指数が高いか」を調べました

結果は「関連なし」でした。抄録の記載では、この頻度による分類と骨格筋指数のあいだに統計的な関連は確認されなかったとされています。研究チームの結論は、「タンパク質は1日の総摂取量が重要であり、身体活動の量が多いことと組み合わさったときに、骨格筋指数との関連が最も強く見えた」というものです。1食あたりの配分を細かく気にするよりも、まず1日の総量を確保することの方が、このデータでは重要という位置づけになります。

資金と利益相反

この研究が言えないこと

  1. 横断研究であり、タンパク質摂取量と骨格筋指数の「関連」を見たものであって、タンパク質を増やせば筋肉が増えるという因果関係を証明したものではありません。もともと活動的で食欲もあり、筋肉量もタンパク質摂取量も両方多いだけの人たちを見ている可能性が残ります。
  2. 食事の記録は「1日分」のみです。調査当日にたまたま肉や魚を多く食べた人と、普段からタンパク質の多い食生活をしている人を区別できません。習慣的な摂取量を正確に反映しているとは限りません。
  3. 筋肉量の測定は生体電気インピーダンス法という簡易な推定方法です。より精密とされる測定法(骨密度と同時に測れるエックス線を使った方法など)と比べた場合の誤差は、この調査だけでは分かりません。
  4. 抄録の範囲では、1日の総エネルギー摂取量そのものを調整したかどうかが確認できませんでした。タンパク質摂取量が多い人は、食事の量そのものが多いだけという可能性を完全には排除できません。
  5. 「身体活動の量で調整した」とされていますが、抄録レベルでは調整に使った具体的な変数(年齢・持病・経済状況など)の全リストは確認できません。
  6. 本記事で示した政府統計の表(結果①②)は、年齢などを何も調整していない単純な集計です。論文が示した「調整後も関連が残った」という結論とは、数字の性質が異なることに注意してください。
  7. 「1食0.4g/kg以上」という頻度の目安そのものが、この研究で証明された基準ではありません。この目安を使って調べたところ関連が見えなかった、という結果であり、目安自体の妥当性を否定するものでもありません。
  8. 対象は60歳以上の日本人に限られます。若い世代や、他の国・地域の集団に同じ結果が当てはまるとは限りません。

実践の視点から

筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。

この調査からまず読み取れるのは、60歳以上の日本人において、タンパク質摂取量が多い人ほど骨格筋指数が高いという関連が、身体活動が少ない人の中でも見えるということです。運動をしていないからタンパク質を摂っても無駄、というわけではなさそうです。

一方で、「運動をしなくてもタンパク質さえ摂れば筋肉が保たれる」と言い切れる根拠ではありません。論文自身が「タンパク質摂取量と身体活動量の組み合わせが、骨格筋指数との関連が最も強かった」と結論づけている点は重要です。政府統計の表(結果②)でも、肉体労働をしている人たちの骨格筋指数は、していない人たちよりも全体に高い水準にありました。タンパク質と運動は、どちらか一方を選ぶものではなく、両方を積み重ねるものとして読むのが妥当だと感じます。

もう一つ実践的な示唆は、「1食あたりの配分」よりも「1日の総量」を優先してよさそうだという点です。3食で均等に、といった細かい配分を気にしすぎるよりも、まず1日を通じてタンパク質の摂取量そのものを底上げすることの方が、このデータでは筋肉量との関連が強く出ています。

まとめ

出典(一次資料)

  1. Ishikawa-Takata K, Matsumoto M, Takimoto H. Are higher protein intake and distribution of protein intake related to higher appendicular muscle mass among an older Japanese population?: A cross-sectional analysis of the National Health and Nutrition Survey 2017. Geriatr Gerontol Int. 2024;24(6):634-640. doi:10.1111/ggi.14875(非オープンアクセスにつき、出版社サイト・PubMed・Europe PMCとも今回は接続できず、リンクなしの書誌表記のみ)
  2. 厚生労働省 平成29年国民健康・栄養調査 第63表の2(e-Stat 政府統計の総合窓口)
  3. 厚生労働省 平成29年国民健康・栄養調査 第63表の4(e-Stat 政府統計の総合窓口)

よくある質問

運動をしなくても、タンパク質さえ摂れば筋肉は維持できますか?

この調査では、タンパク質摂取量が多いほど骨格筋指数が高いという関連が、身体活動が少ない人の中でも見られました。ただし論文自身が「タンパク質摂取量と身体活動量の組み合わせ」で関連が最も強く出たとしており、運動の代わりになるとまでは言えません。横断研究のため因果関係も証明されていません。

1回の食事でどのくらいタンパク質を摂ればよいですか?

この研究では「1食あたり体重1kgにつき0.4g以上を頻繁に摂る」という配分の目安と骨格筋指数には関連が見られませんでした。1回あたりの配分よりも、1日を通じた総摂取量の方が関連が強く出ています。

骨格筋指数(SMI)とは何ですか?

腕と脚の除脂肪量(脂肪を除いた重さ)を身長の2乗で割った指標で、単位はkg/m2です。筋肉量の多さを身長で補正して比較できるようにしたもので、サルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少)の判定などに使われます。

このデータはどこから来ていますか?

厚生労働省が毎年実施している「国民健康・栄養調査」の2017年(平成29年)分です。東京農業大学と国立健康・栄養研究所の研究者が、60歳以上でこの調査に回答した1766人分のデータを独自に分析しました。本記事では、その元になった政府統計表(厚生労働省が無料公開)も直接確認しています。

高齢者は1日どのくらいタンパク質を摂ればよいですか?

この論文自体は具体的な摂取量の推奨値を示したものではなく、あくまで「多い人ほど骨格筋指数が高い」という関連を報告したものです。摂取量の目標については、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」など公的な基準を参照することをおすすめします。

この研究の結果はどの程度信頼できますか?

対象者数が1766人と比較的多く、公的な統計調査のデータを使っている点は強みです。一方で、横断研究であること、食事記録が1日分のみであること、筋肉量の測定が簡易な方法によることなど、いくつかの限界があります。詳しくは本文の「この研究が言えないこと」をご覧ください。

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