この記事の要点
- 立命館大学と化粧品会社ポーラ化成工業の共同研究です。草津市在住の健康で運動習慣のない中年日本人女性56人(41〜59歳)を、有酸素運動群(26人)と筋力トレーニング群(30人)に分け、週2回・16週間の運動介入をしました。
- 両群とも肌の弾力性と真皮の状態(超音波で測る構造の指標)が有意に良くなったと報告されています。筋トレ群だけ真皮の厚みが増加したともされています。
- ただし真皮の厚みの「増加前後」を単純に比べた検定では、筋トレ群・有酸素運動群のどちらも統計的な有意差は確認できていません。論文の結論は、ベースラインをそろえた別の統計手法(群間の変化量の比較)に基づいており、著者らは通常より緩い基準(p<0.10)も「限界的に有意」として使っています。
- 著者7人のうち3人はポーラ化成工業の社員です。
「筋トレをすると肌がきれいになる」という話を聞いたことがあるかもしれません。今回読むのは、この主張の直接の出どころになった、立命館大学スポーツ健康科学部と化粧品会社ポーラ化成工業の共同研究です。中年女性を対象に、有酸素運動と筋力トレーニングそれぞれの効果を16週間かけて比較し、血液中の成分の変化や皮膚細胞での遺伝子発現まで調べた、かなり手の込んだ研究です。数値を一つずつ確認し、報道で強調された「真皮の厚み」の主張がどこまで統計的に裏付けられているかも見ていきます。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Nishikori S, Yasuda J, Murata K, Takegaki J, Harada Y, Shirai Y, Fujita S. "Resistance training rejuvenates aging skin by reducing circulating inflammatory factors and enhancing dermal extracellular matrices." Scientific Reports 2023;13:10214 |
| 実施機関 | 立命館大学スポーツ健康科学部(滋賀県草津市)+ポーラ化成工業株式会社Frontier Research Center(横浜市) |
| 研究の種類 | ランダム化比較試験(2群並行・16週間) |
| 入手性 | オープンアクセス=全文無料。数値はすべて本文・表から確認しました |
| 一次資料 | PMC10290068(PubMed Central・全文) |
責任著者は立命館大学スポーツ健康科学部教授・藤田聡先生です。筋の代謝・加齢を専門とする研究者で、研究の設計を筆頭著者と共同で担当しました。筆頭著者(研究チームの中心メンバー)は立命館大学スポーツ健康科学部とポーラ化成工業の両方に籍を置く研究者で、共著者のうち2人もポーラ化成工業の所属です。
設計──女性61人を有酸素運動群と筋トレ群に分けて16週間
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 期間 | 2019年2月〜5月の16週間 |
| 対象 | 草津市在住の健康で運動習慣のない中年日本人女性61人(41〜59歳)。有酸素運動群(AT、27人)と筋トレ群(RT、34人)にランダムに割り付け。5人が脱落し、解析対象は56人(AT26人・RT30人) |
| 頻度 | 週2回・全32回。認定トレーナーが毎回監督 |
| 有酸素運動の内容 | 自転車エルゴメーターで最大心拍数の65〜70%の強度を30分(前後にウォームアップ・クールダウン3分ずつ) |
| 筋トレの内容 | レッグカール・レッグエクステンション・アームカール・ローイング・ショルダープレス・チェストプレスの6種目をマシンで各3セット×10回。負荷は最大挙上重量(1RM)の50%から始めて段階的に引き上げ、11回目のセッション以降は75〜80%1RMを維持 |
| 介入中の制限 | 期間中は追加の運動・サプリメント・ホルモン療法・スキンケアの変更を禁止 |
| 測定項目 | 皮膚の弾力性(吸引式の機器)、超音波による真皮の構造・厚み、体組成(DXA法)、有酸素能力・筋力、血液中1,480種類以上の因子(サイトカイン・ホルモン・代謝物)、培養した皮膚線維芽細胞に参加者の血漿を加えたときの遺伝子発現 |
皮膚の測定は、化粧を落として洗顔した後、室温20〜22度・湿度50〜55%の部屋で10分間慣らしてから、左頬の中央1か所を対象に行われました。弾力性は吸引式の機器(カトメーター)で、真皮の構造と厚みは50MHzの超音波スキャナーで測定されています。
結果① 肌の弾力性と真皮の構造は両群とも改善
| 指標 | 群 | 開始前 | 16週間後 | 群内のp値 |
|---|---|---|---|---|
| 皮膚弾力性(Ur/Uf) | AT | 0.32 | 0.36 | <0.001 |
| RT | 0.32 | 0.38 | <0.001 | |
| 上部真皮の状態(LEP、%)※数値が低いほど良好とされる | AT | 27.9 | 15.8 | <0.001 |
| RT | 26.3 | 15.3 | <0.001 |
皮膚の弾力性と、超音波で見た上部真皮の状態(低エコー輝度ピクセルの割合=LEP。数値が下がるほど良好とされる指標)は、有酸素運動群・筋トレ群のどちらでも、開始前と16週間後の比較で統計的に有意な改善(P<0.001)が確認されています。この2つの指標に関しては、運動の種類を問わず効果があったという結果です。
結果② 真皮の厚みは「筋トレ群だけ増加」だが、前後比較そのものは有意ではない
| 指標 | 群 | 開始前 | 16週間後 | 群内のp値 |
|---|---|---|---|---|
| 真皮の厚み(mm) | AT | 1.71 | 1.71 | 0.93 |
| RT | 1.77 | 1.79 | 0.20 |
論文の本文(結果の要約部分)には「筋トレ群で真皮の厚みが増加した」と明記されており、これはこの論文の中心的な主張の一つです。プレスリリースの見出しにも使われました。
ところが論文自身が示した表(上)を見ると、筋トレ群の「開始前→16週間後」の単純な比較では P=0.20で統計的に有意ではなく、有酸素運動群もP=0.93で変化なしです。論文の結論は、この単純な前後比較ではなく、ベースラインの値をそろえたうえで両群の「変化量」そのものを比べる、別の統計手法(共分散分析)に基づいています。その結果を示した図には、統計的な有意水準として「P<0.001」に加えて「P<0.10」という基準も凡例に使われており、論文の統計分析の章には「P値が0.10未満の場合も"限界的に有意"とみなした」と明記されています。真皮の厚みに関する両群の差が、通常使われる有意水準(P<0.05)とこの緩い基準(P<0.10)のどちらで示されたものかは、無料公開されている本文からは確認できませんでした(詳しい数値は補足資料に記載されているとみられますが、今回は入手できませんでした)。
体組成・体力の変化は、狙いどおりの方向に出ています。
| 指標 | 群 | 開始前 | 16週間後 | p値 |
|---|---|---|---|---|
| 体重(kg) | AT | 54.2 | 53.5 | <0.05 |
| 最大酸素摂取量(有酸素能力) | AT | 27.1 | 28.5 | <0.05 |
| 四肢の除脂肪量(kg) | RT | 15.4 | 15.7 | <0.05 |
| チェストプレス1RM(kg) | RT | 11.8 | 17.7 | <0.001 |
| レッグエクステンション1RM(kg) | RT | 70.5 | 84.7 | <0.001 |
有酸素運動群は体重減少・有酸素能力の向上、筋トレ群は除脂肪量の増加・6種目すべての最大挙上重量(1RM)の有意な増加が確認されており、それぞれの運動が意図どおりの生理的効果を起こしていたこと自体は裏付けられています。
結果③ 血中の変化とメカニズムの仮説
参加者の血液からは、サイトカイン・ホルモン・代謝物など1,480種類以上の因子が測定されました。運動介入の前後で、有酸素運動群は28種類の因子が増加(IL-15などの筋由来因子を含む)・41種類が減少(炎症性の因子を含む)、筋トレ群は34種類が増加・27種類が減少し、増減するものの中身は運動の種類によって異なっていました。
研究チームはさらに、参加者の血漿を培養した皮膚線維芽細胞(体外で培養した皮膚の細胞)に加える実験を行い、両群の運動後の血漿でコラーゲンなど真皮の構成成分に関わる複数の遺伝子の発現が増加することを確認しました。加えて、筋トレ群でのみビグリカン(BGN)という遺伝子の発現が増加しており、BGNを持たないマウスは真皮が薄くなることが知られていることから、研究チームは「筋トレ特有の血中変化がBGNを介して真皮の厚みに関わっている可能性がある」という仮説を提示しています。筋トレ群で減少した3つの因子(CCL28・N,N-ジメチルグリシン・CXCL4)を培養細胞に加えるとBGNの発現が抑えられたことも確認されました。
ここで示されたメカニズムは、すべて体外で培養した皮膚細胞への添加実験によるものです。参加者本人の皮膚の中で同じ遺伝子発現の変化が実際に起きていたかどうかは、この研究では直接確認されていません。
資金と利益相反
- 著者7人のうち3人(筆頭著者を含む)はポーラ化成工業株式会社の社員です。研究倫理審査は立命館大学の倫理委員会とポーラ化成工業の倫理委員会の両方で承認されています。
- 研究の模式図(イラスト)は東京のデザイン会社が作成し、著作権はポーラ化成工業に譲渡されていると論文に明記されています。
- 外部の公的研究資金についての記載は本文からは確認できませんでした。
- 研究データはfigshare(研究データ公開サービス)で公開されています。
この研究が言えないこと
- この論文の最大の売り文句である「真皮の厚みの増加」は、単純な前後比較では統計的に有意ではありません(筋トレ群P=0.20、有酸素運動群P=0.93)。論文の結論はベースラインをそろえた別の統計手法に基づいており、その解析では通常より緩い基準(P<0.10)も「限界的に有意」として採用されています。どちらの基準で差が確認されたのかは、無料で読める本文からは特定できませんでした。
- 対象は草津市在住の健康で運動習慣のない中年日本人女性56人(41〜59歳)だけです。男性、高齢者、若い世代、すでに運動習慣がある人、肌の状態が異なる人に同じ結果が当てはまるかは分かりません。
- 運動をしない対照群がありません。有酸素運動と筋トレを比較しただけで、「何も運動しなかった場合」との比較データはありません。
- 各群26〜30人という比較的小さなサンプルサイズです。
- 遺伝子発現に関する結論は、体外で培養した皮膚細胞に血漿を加えた実験によるものです。参加者本人の皮膚の中で同じ変化が実際に起きていたかは、この研究だけでは確認できません。
- 皮膚の測定は左頬の中央1か所だけです。シワの本数や見た目の印象といった主観的な指標は測定されていません。
- 16週間より長く続けた場合や、運動をやめた後にどうなるかは分かりません。
- 著者7人のうち3人が化粧品会社ポーラ化成工業の社員で、研究の模式図の著作権も同社に譲渡されています。ポーラ化成工業は化粧品事業を営む企業であり、美容に関する研究結果は同社の事業に関連し得ます。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
この研究がはっきり示しているのは、「肌の弾力性」と「超音波で見た真皮の状態」については、有酸素運動でも筋トレでも、16週間の継続で改善が見込めるということです。ここは両群ともP<0.001という明確な統計的裏付けがあります。
一方で、報道や記事の見出しで強調されがちな「筋トレだけが真皮を厚くする」という主張は、この論文が示した数値を丁寧に読むと、単純な前後比較では裏付けられていません。統計的な有意差の有無は、どの検定方法を使うかで印象が変わることがあります。「筋トレで肌が若返る」という結論そのものを否定するものではありませんが、「真皮が厚くなった」という一点を強い根拠として受け取るのは慎重であるべき、というのが数値を確認した実感です。
それでも、筋トレを16週間続けたグループで、体力・筋量の向上とあわせて肌の指標にも改善が見られたこと自体は事実として読めます。肌のためだけに筋トレをする必要はありませんが、筋トレを続けている人にとっては、体力づくり以外にもこうした変化が報告されていることは知っておいてよい情報だと思います。
まとめ
- 立命館大学とポーラ化成工業の共同研究で、健康な中年日本人女性56人を有酸素運動群・筋トレ群に分けて16週間介入したところ、両群とも肌の弾力性と真皮の状態(超音波の指標)が有意に改善しました(P<0.001)。
- 論文は筋トレ群だけ真皮の厚みが増加したとも報告していますが、その前後比較そのものは統計的に有意ではなく(P=0.20)、論文の結論はベースラインを調整した別の統計手法に基づいています。
- メカニズムの説明(ビグリカンという遺伝子の関与など)は体外で培養した皮膚細胞への添加実験によるもので、本人の皮膚での確認ではありません。
- 著者7人のうち3人が化粧品会社ポーラ化成工業の社員です。