この記事の要点
- 米国の全国救急受診データベース(NEISS)を使い、2012年から2021年の10年間に発生したウェイトリフティング関連の下肢受傷7,773件(全米推計31万1,842件)を分析した記述的疫学研究(Wright Vら 2024)です。
- 最多の受傷機序は「落下したウェイト」1,785件・22.96%。種目別ではデッドリフトが最多(503件・6.47%)。
- 受傷者の76%が男性、24%が女性。スクワット・デッドリフトなどの複合種目ほど男性比率が高い(各p<0.001)。
- 入院を要した患者は外来で帰宅した患者より有意に高齢(38.0歳 対 31.2歳・p<0.05)。
- これは救急受診数の集計であり、「何人が実施して何人が怪我したか」という発生率ではありません。また、米国のデータです。
ウェイトリフティングは筋力・骨密度・代謝の改善に有効であると多くの研究が示しています。一方で、重い器具を扱うという性質上、適切なフォームや安全への配慮なしには怪我のリスクが生じます。「どんな怪我が多く、誰が怪我しやすいのか」を知ることは、安全なトレーニングを設計するうえで有益です。
今回読む4本の研究は、米国の全国規模の救急受診データ(NEISS)を共通のデータ源とした記述的疫学研究です。同じデータ源を使ながら、①下肢の外傷(主論文・2012〜2021年)、②自重運動とウェイトリフティングの比較(2014〜2023年)、③小児と成人の下肢外傷の比較(2014〜2023年)、④上肢の外傷(2021〜2024年)の角度からそれぞれ分析しており、まとめて読むことで受傷パターンの全体像が見えやすくなります。
📄 読む一次資料(4本)
| 論文 | 期間 | 主な対象 | OA |
|---|---|---|---|
| ① Aceto M, Cassinat J, Ghattas YS, Wright V. Int J Sports Med. 2024. doi:10.1055/a-2335-4304(PMID 38810960) | 2012〜2021 | 下肢の外傷 | 非OA |
| ② Liu J, Ghali M, Aceto M, et al. PMC13295158 2026 | 2014〜2023 | 自重 vs ウェイトリフティング | OA |
| ③ Nishida C, Lee PM, Kim N, et al. PMC12698984 2025 | 2014〜2023 | 小児・成人の下肢外傷 | OA |
| ④ Lee PM, Underhill J, Nishida C, et al. PMC12808581 2026 | 2021〜2024 | 上肢の外傷 | OA |
①の筆頭著者Aceto MらはUCF医学部整形外科、共著のWright V(Vonda Wright)はHughston Clinic Orlando所属の整形外科医でマスターズアスリートの受傷研究を専門とする。①は非OAで抄録のみ確認。②③④はオープンアクセスだが本記事では公表抄録の数値を使用した。
NEISSとはどんなデータか
NEISS(National Electronic Injury Surveillance System)は、米国消費者製品安全委員会(CPSC)が運営する全国規模のデータベースです。全米の病院の救急部門(ED)から抽出した標本から、製品関連の傷害を記録しており、統計的に全国規模の傷害件数を推計できます。
このデータには重要な特徴と限界があります。
- 含まれるもの:救急部門を受診した傷害
- 含まれないもの:クリニックや整形外科で対処した傷害、自宅で処置して終わった軽傷、救急を使わなかった事例
- 分母が存在しない:何人がウェイトリフティングを実施していたかという情報はなく、発生率の算出はできない
「落下したウェイトによる受傷が最多」「デッドリフトが種目別最多」という数値は、あくまで救急を受診した件数の内訳であり、「何%の人が怪我する」という確率を意味しません。
結果① 下肢の受傷パターン(主論文・2012〜2021年)
主論文(PMID 38810960)は2012年1月から2021年12月の10年間、NEISSからウェイトリフティング関連の下肢受傷を抽出しました。7,773件が確認され、全米推計は311,842件となりました。
受傷機序(MOI)の内訳(上位)
| 受傷機序 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 落下したウェイト(dropped weight) | 1,785 | 22.96% |
| その他・不明 | (残り約77%) | — |
主論文は非OAのため、本表は公表された抄録から読み取れる数値のみを記載している。
種目別の内訳(上位)
| 種目 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| デッドリフト(deadlift) | 503 | 6.47% |
| その他・記載なし | (残り約93.5%) | — |
抄録には種目別の詳細な上位リストは公表されておらず、デッドリフトが「最多」とだけ記載されている。
著者は論文の結論で「各動作に必要な強度と技術の要求の高さがウェイトリフティングの受傷リスクにつながる」と述べていますが、デッドリフトが件数最多である具体的な理由は抄録に明示されていません。「実施者数そのものが多い」「扱う重量が大きくなりやすい」「フォームの習得が難しい」などの可能性が考えられますが、この調査データから原因を特定することはできません。
性別の内訳
| 種目・集団 | 男性 | 女性 | p値 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 76% | 24% | <0.001 |
| スクワット | 79.63% | 19.96% | <0.03 |
| デッドリフト | 83.89% | 16.10% | <0.001 |
男女比については、米国の筋トレ実施人口が男性に偏っていることが一因として考えられますが、今回の調査では実施者の性別構成は分かりません。複合的な種目(スクワット・デッドリフト)ほど男性比率が高い点は一貫した傾向です。
受診区分別の年齢:ほぼ全員が外来(outpatient)での対処でしたが、入院を要した患者の平均年齢38.0歳に対し、外来で帰宅した患者の平均年齢は31.2歳で、統計的に有意な差がありました(p<0.05)。同じ下肢外傷でも高齢者ほど重篤化しやすい可能性を示唆していますが、高齢者がそもそも重い負荷で実施する比率が低い可能性など、交絡因子は多く存在します。
結果② 自重 vs ウェイトリフティング(PMC13295158・2014〜2023年)
UCFグループ(Aceto Mらが主論文と重複)による2026年の研究では、同じNEISSを使いウェイトリフティングと自重運動の負担を比較しました。
10年間の全米推計
| 運動種類 | 全米推計件数 |
|---|---|
| ウェイトリフティング | 546,655件 |
| 自重運動(bodyweight exercise) | 108,001件 |
受傷部位の違い
| 運動種類 | 主な受傷部位 | 割合 |
|---|---|---|
| ウェイトリフティング | 体幹(trunk) | 70.1% |
| ウェイトリフティング | 趾骨(phalanges) | 13.7% |
| 自重運動 | 上下肢の外傷 | 20.7% |
| 自重運動 | 関節脱臼(dislocation) | 8.7% |
注目すべき点として、年齢と性別を調整した多変量モデルでは、入院に至るオッズ比は運動種類によって有意差がありませんでした(調整後OR 0.91・95%CI 0.60〜1.38・p=0.666)。「ウェイトリフティングのほうが自重より入院リスクが高い」という結果は出ていません。絶対件数はウェイトリフティングのほうが多いものの、重症化という点では類似した傾向でした。
著者は「ウェイトリフティングでは大きな力が加わるリフトへの適切なフォームを、自重運動では動的動作での安全な関節位置を優先すること、また高齢者への診断的な注意を高めることが予防につながる」とまとめています。
結果③ 小児 vs 成人の下肢外傷(PMC12698984・2014〜2023年)
ハワイ大学グループによる2025年の研究では、2014〜2023年の下肢受傷6,846件(全米推計260,704件)を年齢別に分析しました。平均年齢は32.20±30.71歳、男性が69.9%でした。
受傷診断(全年齢)
| 診断 | 割合 |
|---|---|
| 打撲・擦り傷(contusion/abrasion) | 21.0% |
| 骨折(fracture) | 19.5% |
| 神経傷害(nerve injury) | 5.1% |
年齢群別の受傷部位・機序の違い
| 年齢群 | 多い受傷部位 | 多い機序 |
|---|---|---|
| 小児(18歳未満) | 趾(35.2%)・足(28.7%) | 落下・挟み込み 65.5% |
| 若年成人(18〜39歳) | 下部体幹(腰) 47.0% | 不特定リフティング動作 35.9% |
| 中年(40〜64歳) | 下部体幹(腰) 46.7% | 不特定リフティング動作 40.4% |
| 高齢(65歳以上) | 下部体幹(腰) 33.7% | — |
子どもはウェイトが足元に落ちる事故(65.5%が落下・挟み込み)が圧倒的に多く、趾・足への外傷が目立ちます。一方で成人は腰への外傷が多く、「不特定のリフティング動作」中が主因とされています。著者は小児への監督の強化と保護用フットウェアの重要性、成人には腰への適切なリフティング技術の教育を提唱しています。
結果④ 上肢の外傷(PMC12808581・2021〜2024年)
同じハワイ大学グループによる2026年の研究では、上肢の外傷3,189件(全米推計127,667件)を分析しました。
上肢の外傷(2021〜2024年)
| カテゴリ | 上位の内訳 | 割合 |
|---|---|---|
| 診断 | 捻挫・肉離れ(sprain/strain) | 26.2% |
| 骨折・挫傷・裂離(fracture/crush/avulsion) | 15.8% | |
| 裂傷・穿刺(laceration/puncture) | 7.2% | |
| 受傷部位 | 肩(shoulder) | 33.8% |
| 指(finger) | 28.1% | |
| 上腕(upper arm) | 8.8% | |
| 受傷機序 | 落下・押しつぶし(drop/crush) | 30.1% |
| 引く動作(pulling movements) | 10.5% | |
| 頭上動作(overhead movements) | 8.3% |
年齢群別の特徴(上肢)
| 年齢群 | 特徴 | OR(95%CI) |
|---|---|---|
| 小児(18歳未満) | 指の傷害が2.5倍・落下/挟み込みも2.5倍 | OR 2.536 / 2.484(各p<0.001) |
| 高齢(65歳以上) | 押す動作による傷害が2倍 | OR 2.037(p<0.001) |
上肢でも落下・押しつぶしが最多機序(30.1%)で、下肢と同様の傾向が見られました。著者は高齢者のウェイトリフティング実施率が低いことを「骨粗鬆症に有効なスポーツを十分活用できていない」と指摘しており、高齢者への普及と安全の両立が今後の課題とされています。
この研究が言えないこと
- 発生率(rate)ではない:これらの研究はすべて救急受診の絶対件数を報告しており、「実施者何人のうち何人が怪我したか」という発生率は算出されていません。デッドリフトが件数最多でも、実施者数が最も多いからという理由かもしれません。
- 救急を受診しなかった傷害は含まない:クリニック受診・整形外科の外来・自宅での処置のみで終わった事例は全て除外されています。実際の傷害数はさらに多い可能性があります。
- 日本人・日本の運動文化のデータではない:4本すべてが米国のNEISSに基づいています。日本のジムの器具・利用者層・種目の人気度・監督体制は米国と異なる部分があり、数値をそのまま日本に当てはめることには注意が必要です。
- フォームや経験年数の情報がない:受傷時のフォームが適切だったか、初心者か熟練者かという情報は救急記録には含まれていません。これらの変数が受傷リスクに大きく影響することは考えられますが、今回の調査では評価できません。
- 時系列トレンドが主論文では分析されていない:主論文(2012〜2021年)は10年間の集計ですが、年別の増減トレンドは報告されていません。ウェイトリフティング人口の増加とともに件数が増えている可能性がありますが、この調査からは判断できません。
- 種目の特定は記録の精度に依存する:救急受診時の医療記録にデッドリフト・スクワットと明記されているのは一部です。「特定されない」リフティング動作が最大のカテゴリを占めており、種目別の内訳は完全ではない可能性があります。
- 重症度の定量的な評価がない:入院か外来かという二択での区分はされていますが、入院日数・手術の要否・長期的な後遺症などのアウトカムは評価されていません。
- 日時・場所のデータがない:ジムか自宅か、監督者がいたかどうか、トレーニングのどの段階で起きたかという情報はNEISSには含まれていません。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
この調査で最も注目に値するのは「落下したウェイト」が最多の受傷機序であるという点です。適切なフォームや筋力の問題よりも、器具の取り扱いそのものが危険の源になっているケースが多いことを示唆しています。プレートをバーから外すとき・ダンベルを棚に戻すとき・セット終了時のバーの置き方という、実際のトレーニングの「周辺動作」への注意が重要です。
デッドリフトが種目別最多という点は文脈が重要です。デッドリフトは多関節・高重量になりやすく、フォームの習得に時間がかかる種目ですが、それ自体が「特別に危険」というわけではなく、実施者数や扱う重量の絶対値が多いことが反映されている可能性があります。「危険だからやめる」よりも「フォームを習得してから重量を増やす」という段階的なアプローチのほうが文献的な根拠と整合しています。
高齢者の受傷が重篤化しやすいという傾向は、年齢とともに骨密度・軟部組織の修復力が低下することと一致しています。一方で、高齢者のウェイトリフティング実施が少ないことを「骨粗鬆症の予防に有効なスポーツが活用されていない」と指摘する著者の見方は、安全と普及の両立という重要な問題を提起しています。
まとめ
Aceto Mら(セントラルフロリダ大学医学部整形外科)とVonda Wright(Hughston Clinic Orlando)が中心となった主論文と、関連する3本のNEISSデータ分析をあわせて読みました。
- 下肢の受傷は10年間で全米推計31万件超。最多機序は落下したウェイト(22.96%)、種目別最多はデッドリフト(6.47%)。
- 受傷者の76%が男性で、複合的な種目ほど男性比率が高い。入院者は外来者より平均約7歳高齢(38.0 vs 31.2歳)。
- 自重運動との比較では入院リスクに有意差なし(調整後OR 0.91)。子どもは落下・挟み込みが多く、成人は腰(下部体幹)の受傷が多い。
- 上肢では肩・指の外傷が多く、落下・押しつぶし(30.1%)が最多機序。高齢者の利用率が低い点は「予防的なスポーツとして活用されていない」として問題提起されている。
繰り返しになりますが、これらはすべて救急受診数の集計であり、発生率ではありません。また米国のデータです。「デッドリフトは危険か」という問いへの答えとしてではなく、「どんな場面でどんな外傷が多いか」の傾向を把握する参考資料として読むことが適切です。
※本記事は公表されている研究情報を、健康情報リテラシーの観点から中立的に紹介するものです。特定の運動が傷害を完全に防ぐことを保証するものではありません。持病のある方は医療機関にご相談ください。