この記事の要点
- 「スロートレーニング」の正式名称は筋発揮張力維持法(LST)。ゆっくり動かすこと自体ではなく、反復の間に力を抜く局面を作らないことが設計の中心にあります。
- 59〜76歳の男女35人を対象にしたランダム化比較試験では、50%1RMという軽い負荷でも、スロー群は大腿の筋厚と筋力の両方が増加しました。ただしこの論文は有料で、公開されているのは抄録だけです。
- 同じ研究グループが、LSTには望ましくない側面もあることを自ら報告しています。13週間のLSTスクワット後、自転車ペダリング中の筋活動と踏力のばらつきが約2割減り、動作が「持続的・平坦」に変化しました。
- 2026年に発表された日本の最新研究では、スクワットに1秒の休止を入れるだけで反復回数が約2.1倍になりました。同じ「スロースクワット」でも中身が別物になります。
「軽い重量でもゆっくり動かせば筋肉は増える」——スロートレーニング、いわゆる「スロトレ」の説明としてよく目にする言い方です。この方法を体系化したのが、東京大学名誉教授の石井直方氏(1955年3月15日〜2024年8月20日)を中心とする研究グループでした。石井氏自身、ミスター日本を2度(1981年・1983年)制した実践者でもあります。
今回は、この一連の研究のうち日本の研究機関が日本人を対象に行ったものを、原著論文と日本語の学術誌から直接読みます。海外の総説やまとめサイトの要約ではなく、論文本文の数値を拾っていきます。
この記事で読む一次資料
| 資料 | 対象 | 形式 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| Watanabe Y ほか, J Aging Phys Act 2013;21(1) (最終著者=石井直方) | 59〜76歳の男女35人 | ランダム化比較試験・12週 | 有料(抄録のみ) |
| 谷本道哉「スロートレーニング」 体力科学 60(1):30, 2011 | (総説) | シンポジウム講演 | 無料・日本語全文 |
| Tanimoto M ほか, J Strength Cond Res 2009;23(8) (最終著者=石井直方) | 若年男性24人 | ランダム化比較試験・13週 | 有料(抄録のみ) |
| Takenami E ほか, J Diabetes Investig 2019;10(2) (最終著者=石井直方) | 2型糖尿病の高齢者10人 | 対照群なし・16週 | 無料・全文 |
| 緒方雄介・町田修一 体力科学 75(3):155, 2026 | 若年男性7人 | クロスオーバー・単回 | 無料・日本語全文 |
5本のうち3本は本文が有料で、抄録しか読めません。この記事ではどの数値がどの資料から来たのかを明示します。抄録にしか根拠がない部分は、そう書きます。
スロートレーニングとは何か──定義を一次資料で確認する
谷本道哉氏(当時・近畿大学生物理工学部)が体力科学誌に寄せた2011年の講演記録に、定義がそのまま書かれています。
筋発揮張力維持法(Low-intensity resistance training with Slow movement and Tonic force generation 通称スロートレーニング:以下LSTと表記)は50% 1RM程度の比較的軽負荷を用いながらも、持続的な筋発揮張力を維持することで大きな筋肥大・筋力増強効果を得られるトレーニング法である。
(谷本道哉, 体力科学 60(1):30, 2011)
名称に3つの要素が入っています。低強度(Low-intensity)、ゆっくりした動作(Slow movement)、持続的な張力発揮(Tonic force generation)。日本語の正式名称は「筋発揮張力維持法」で、張力を維持することが名前の中心にあります。
なぜ50%1RMなのか
この負荷設定には理由が書かれています。同じ講演記録から数値を拾うと——
- 筋力発揮に伴う筋血流量は、等尺性収縮では40%MVC程度から大きく制限され始めるとされる
- これは動的な運動における50%1RM程度に相当する
- LSTの動作で8回程度を反復できる重量を設定すると、この50%1RM程度の負荷になる
つまり50%という数字は「軽ければ何でもいい」ではなく、自分の筋力で自分の血流を制限できる下限として選ばれています。ゆっくり動かして力を抜かないことで、筋肉の中を通る血流が絞られ、酸素が届きにくい状態が作られる、という設計です。
実際に何が起きているか
同じ資料に、若年男性を対象にした急性反応の記述があります。LSTによる膝伸展運動を8回×3セット行ったところ——
- 運動中の筋酸素化レベルが大きく低下
- 血中乳酸濃度と血漿成長ホルモン濃度が大きく増加
- その程度は通常の80%1RMの負荷を用いた方法と同程度だった
50%1RMという軽い重量なのに、血液の反応は80%1RMと同じくらい大きかった、ということです。谷本氏は、この変化が外的な圧迫で血流を制限する加圧トレーニングと同様のものだったとも書いています。
高齢者35人のランダム化比較試験(2013年)
本題の一本です。Watanabe Y, Tanimoto M, Ohgane A, Sanada K, Miyachi M, Ishii N による Journal of Aging and Physical Activity 2013年21巻1号の論文(PMID 22832536)です。
先にお断りしておきます。この論文は有料で、公開されているのは抄録のみです。したがって以下は抄録に書かれている範囲であり、「何%増えたか」という具体的な数値は公開されていません。
設計
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 59〜76歳の男女 35人 |
| 割付 | 2群にランダム割付 |
| 種目 | 膝関節の伸展運動・屈曲運動 |
| 負荷 | 両群とも 50%1RM(低強度) |
| LST群 | 3秒かけて下ろす・3秒かけて上げる・1秒の等尺性収縮、反復の間に休みを入れない |
| LN群 (通常速度) | 1秒で上げる・1秒で下ろす、反復の間に1秒の休みを入れる |
| 頻度・期間 | 週2回・12週間(準備期間2週+介入10週) |
設計として重要なのは、両群の負荷が同じ50%1RMだという点です。重さは揃えたうえで、動かし方だけを変えています。したがって差が出れば、それは重さの差ではなく動かし方の差ということになります。
結果(抄録に書かれている範囲)
| 大腿の筋厚 | 等尺性の膝伸展・屈曲筋力 | |
|---|---|---|
| LST群(スロー・休みなし) | 有意に増加 | 有意に増加 |
| LN群(通常速度・休みあり) | 肥大効果は限定的 | 有意に増加 |
抄録の結論部分は次のようになっています。「これらの結果は、高齢者においてもLSTが筋量と筋力を得るための有効な方法となり得ることを示す」。
読み取れることを整理すると、筋力はどちらの動かし方でも伸びた、筋肉のサイズに差がついた、という2点です。「ゆっくりやらないと意味がない」わけではなく、「ゆっくり・休みなしのほうが筋肉のサイズが増えた」という結果です。
では、どれくらい増えたのか──日本語の総説から数値を拾う
2013年の高齢者の論文は数値が読めませんが、同じ研究グループが若年男性で行った実験の数値は、先ほどの谷本氏の講演記録に書かれています。
若年男性による膝伸展運動の介入実験では、週2回、3か月間の実施により膝伸展筋群の筋横断面積(+5.4±3.7%:平均±標準偏差)、アイソメトリック最大膝伸展筋力(+8.3±6.1%)がともに有意に増加した。
3か月で筋横断面積が+5.4%、等尺性の最大筋力が+8.3%。ここで注目したいのは、後ろについている標準偏差のほうです。
- 筋横断面積 +5.4 ± 3.7% ——ばらつきが平均の約7割
- 最大筋力 +8.3 ± 6.1% ——ばらつきが平均の約7割
平均は増えていますが、個人差が大きい、ということです。標準偏差がこの大きさだと、ほとんど変わらなかった人も、平均の倍以上増えた人も同じ集団の中にいた計算になります。「誰がやってもこれだけ増える」という数字ではありません。
2型糖尿病の高齢者10人・16週間
LSTを患者に適用した研究が、2019年に Journal of Diabetes Investigation に発表されています(Takenami E ほか、最終著者=石井直方。PMC6400238)。こちらは全文が無料で読めます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 2型糖尿病の患者 10人(68.2 ± 9.7歳) |
| 介入 | LSTを週2回・16週間 |
| 対照群 | なし(全員が同じ介入を受ける単群前後比較) |
| 測定 | 体組成、筋のサイズと筋力、HbA1c(ヘモグロビンA1c) |
結果として報告されているのは次の通りです。
- 1回のLSTによる血液指標の急性変化はいずれも小さく、糖代謝に有害とは考えられなかった
- 16週間で大腿の筋厚と筋力が有意に増加
- 体脂肪量とHbA1cが有意に低下
- HbA1cの変化は、高角速度(180°/秒)で測った等尺性膝伸展ピークトルクの変化と有意な負の相関を示した
最後の項目は、「素早く力を出す能力が伸びた人ほど、HbA1cがよく下がっていた」という関係です。論文はこの背景として、速筋線維の収縮機能に関わる可能性に触れています。
ここは慎重に読む必要があります。この研究には対照群がありません。10人全員がLSTを行い、その前後を比べています。16週間のあいだには、季節も変わり、食事内容も変わり、通院による生活指導も入り得ます。HbA1cが下がったこと自体は測定された事実ですが、それがLSTによるものだと、この設計からは言い切れません。n=10という規模も、結論を一般化するには小さすぎます。
研究チーム自身が報告した、LSTの望ましくない側面
ここからが、この記事で最もお伝えしたい部分です。
LSTを推進してきた同じ研究グループが、LSTには望ましくない副作用があり得ることを自ら検証し、報告しています。2009年の Journal of Strength and Conditioning Research の論文(Tanimoto M, Arakawa H, Sanada K, Miyachi M, Ishii N。PMID 19826286)です。
抄録に、研究の動機がはっきり書かれています。「LSTは非常に特殊な動作であり、スポーツ活動や日常生活の自然な動作とは異なる。したがって、動的なスポーツ動作に何らかの望ましくない影響を及ぼす可能性がある」——だから調べた、という論文です。
設計
- 自転車に乗る習慣がなく、定期的なレジスタンストレーニング歴もない健康な若年男性24人
- 3群にランダム割付(各n=8)
- LST群:約60%1RM、3秒で上げ・3秒で下ろし、脱力の局面なし
- HM群:85%1RM、1秒で上げ・1秒で下ろし・1秒の脱力
- CON群:座位対照
- 垂直スクワットを3セット、週2回・13週間
- 前後で、ペダリング動作中の外側広筋の筋電図波形と踏力の変動係数(CV)を測定
結果
| 群 | 整流筋電図のCV | ペダル踏力のCV |
|---|---|---|
| LST群 | −21%(p<0.05) | −18%(p<0.05) |
| HM群(高強度・通常速度) | 有意な変化なし | 有意な変化なし |
| CON群 | 有意な変化なし | 有意な変化なし |
変動係数が下がるとは、波形が平坦になったということです。ペダリングは本来、踏む瞬間に力を集中させ、それ以外の局面では力を抜く動作です。ところがLSTを13週間行った群では、筋活動も踏力も「ずっと同じくらい出し続ける」パターンに変わっていました。
谷本氏の講演記録では、この現象がより平易に書かれています。
LSTの実施によって大腿四頭筋の筋放電パターンが瞬間的なものから持続的なものに、ペダル踏力パターンも平坦なものに変化することが観察された。このような動作の変化はエネルギー効率という点から望ましくないものと考えられる。
そして結論として、「LSTを中高齢者の生活機能やアスリートの競技力向上に活かすには、動作を改善させる別のトレーニング処方と組み合わせることが理想的である」と述べています。
つまり——LSTは筋肉のサイズを増やす手段としては成立するが、それだけをやっていると動作の質のほうが引っ張られる可能性がある、というのが研究チーム自身の見解です。この点は、スロトレを紹介する記事ではあまり触れられません。
2026年の最新研究:「休みを入れない」ことが本体だった
最後に、2026年に 体力科学 に掲載されたばかりの原著論文を読みます。順天堂大学の緒方雄介氏・町田修一氏による研究です(体力科学 75(3):155-161, 2026、日本語・全文無料)。
この論文が立てた問いが鋭いところです。
スロートレーニングにおける生理学的効果が、1回あたりの動作時間の延長によるものなのか、あるいは休止局面を設けない連続反復によるものなのかについては、先行研究から必ずしも明確ではない。
「ゆっくり動かすこと」と「休みを入れないこと」は、これまでセットで扱われてきました。どちらが本体なのか、を切り分けにいった研究です。
設計
- 健康な若年成人男性10人を募集し、3人を除外して7人を解析(平均27.7 ± 3.4歳)
- 除外理由:2人は規定のリズムに合わせた動作が困難、1人は高強度運動を習慣的に行っていた
- 自体重(器具なし)のスロースクワットを、2条件でクロスオーバー実施(順序はランダム、間に1週間以上のウォッシュアウト)
- CON条件:3秒の遠心性+3秒の求心性を連続。膝は軽度屈曲位(約30°)で維持し、張力を持続させる(=従来のLST)
- FEA条件:3秒+3秒に加えて1秒の休止局面を設定。この間は膝を完全伸展位にして力を抜くよう指示
- いずれも疲労困憊まで実施。動作範囲は膝屈曲120°まで
- 順天堂大学の研究倫理委員会承認(承認番号2023-5)、2023年10月1日〜11月30日に実施
結果
| 指標 | CON(休みなし) | FEA(1秒の休みあり) | 統計 |
|---|---|---|---|
| 疲労困憊までの回数 | 57.6 ± 12.0回 | 120.6 ± 18.4回 | p<0.001(約2.1倍) |
| 大腿直筋の%EMG(1〜40回) | 41.9 ± 12.1% | 33.1 ± 9.6% | p<0.01 |
| 外側広筋の%EMG(1〜40回) | 50.1 ± 15.4% | 46.6 ± 20.1% | p=0.45(差なし) |
| 主観的疲労度(Borg scale) | 16.6 ± 1.4 | 15.9 ± 1.5 | p=0.37(差なし) |
読み方の中心はここです。Borg scaleに差がなかった——つまり主観的なきつさは同じところまで追い込んだのに、そこに到達するまでの回数が2.1倍必要だった。論文はこれを「同程度の疲労感に達するまでに要した反復回数が多かったFEAの方が、単位時間あたりの運動強度は低かったと推察される」と書いています。
1秒力を抜くだけで、運動強度が実質的に下がった、ということです。「スロースクワット」という同じ呼び名でも、膝を伸ばしきって一瞬休むかどうかで別の運動になっている。
なお、大腿直筋だけに差が出て外側広筋には出なかった理由について、論文は膝関節を完全伸展位に近づけると大腿直筋のモーメントアームが急激に減少すること、および外側広筋のほうが速筋線維が少なく低酸素状態の影響を受けにくいことを挙げています。
この一連の研究が言えないこと
ここまでの内容を、「言えること」と「言えないこと」に分けます。
1. 中心となる高齢者のRCTは、本文が読めない
2013年の35人のランダム化比較試験は有料論文で、公開されているのは抄録だけです。筋厚が何%増えたのか、筋力が何%伸びたのか、脱落者が何人いたのかは、一般には確認できません。この記事に出てくる「+5.4%」「+8.3%」は若年男性の別の実験の数値であり、高齢者の数値ではありません。混同しないでください。
2. すべて小規模である
35人、24人(各群8人)、10人、7人。この記事で扱った研究の規模はこの通りです。特に各群8人・7人といった規模では、たまたまその集団でそうなっただけ、という可能性を排除できません。
付け加えると、2026年の論文は7人のクロスオーバー(同じ7人が両条件を実施)ですが、本文中の統計値は t(12) と記載されています。対応のある検定の自由度(6)とは一致しないため、この数値の読み取りには注意が必要です。
3. 糖尿病の研究には対照群がない
前述の通りです。HbA1cが下がったのは事実ですが、LSTのおかげだとは言えません。
4. 動作の質への影響は、研究チーム自身が指摘している
LSTだけを続けると、素早く力を出して素早く抜く、という動作パターンが鈍る可能性があります。これは筋肥大とはトレードオフの関係にあり得ます。研究チームは「動作を改善させる別のトレーニング処方と組み合わせること」を提案しています。
5. 高齢者のデータを若年成人から外挿できない(逆も同じ)
2026年の論文は、自らの限界としてこう書いています。「対象が健康な若年成人であったため、本研究の結果を高齢者や疾患・障害を有する者に直接適用することは難しい」。同じことは逆方向にも言えます。
6. 「安全」を意味しない
低強度であることは、整形外科的な負担が相対的に小さい可能性を示唆しますが、心血管系への負担が小さいことを意味しません。むしろ張力を維持し続ける動作は、いきみ(怒責)を伴いやすい形式です。血圧やその他の持病がある方は、開始前に主治医にご相談ください。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
資料から素直に読み取れる範囲を挙げると——
- 「ゆっくり」だけでは設計の半分。谷本氏の定義も、2026年の研究も、力を抜く局面を作らないことを中心に置いています。膝を伸ばしきって一息つくかどうかで、運動強度が変わります。
- 負荷の目安は「その動かし方で8回程度が限界」。谷本氏はこれが50%1RM程度に相当すると書いています。回数を数えるより、動かし方を先に決めて、それで8回できる重さを探すほうが定義に忠実です。
- 追い込みすぎを避けたいときは、あえて休止を入れるという選択肢があります。2026年の研究が示したのは、1秒の脱力で強度が下がり回数が伸びるという事実です。リハビリテーション場面での強度調整として提案されています。
- これ一本にしない。動作の質への影響が報告されている以上、素早く動く種目や実際のスポーツ動作と組み合わせるほうが、研究チームの提案には沿っています。
まとめ
スロートレーニング(筋発揮張力維持法・LST)は、日本の研究者が体系化し、日本人を対象に検証してきた数少ないトレーニング法のひとつです。50%1RMという軽い負荷でも、高齢者において筋厚と筋力の両方が増加したというランダム化比較試験の報告があります。
一方で、その中心となる論文は有料で数値が読めず、研究の規模はいずれも小さく、糖尿病の研究には対照群がありません。そして研究チーム自身が、LSTが動作の質に望ましくない影響を及ぼし得ることを検証し、報告しています。2026年の最新研究は、「休みを入れるかどうか」という一見些細な違いが運動強度を大きく変えることを示しました。
「軽い重量でもゆっくり動かせば筋肉は増える」——この要約は間違ってはいませんが、一次資料が語っている内容はもう少し複雑で、そして、もう少し正直です。