この記事の要点
- 東京大学の石井直方先生の研究グループが行った、加圧トレーニング(血流制限をかけながら行う運動)に関する3つの試験を一次資料で読みます。
- ①男性7人の左右の脚で比較した試験では、すでに70%1RMという高い負荷で筋トレをしている場合、運動後にさらに加圧(100〜150mmHg・5分)を追加しても、筋肉の厚さ・筋力ともに上乗せ効果はありませんでした。
- ②健康な男性10人を対象に、軽い負荷(30%1RM)の運動に加圧(150〜160mmHg)を組み合わせた試験では、血液を固まりやすくするマーカーの増加は確認されませんでした。
- ③未経験の男性15人の試験では、片方の腕を鍛えている間、もう一方の脚に加圧をかけて運動させたところ、加圧をかけたその脚に、通常なら起きないはずの筋肥大が起きました(鍛えていない反対側の腕そのものには変化なし)。
- 3つの試験は条件がそれぞれ異なり、直接比較できるものではありません。この記事では設計と数値をそのまま並べます。
「加圧トレーニング」(血流制限トレーニング)は、専用のベルトやカフで腕や脚の血流を制限しながら運動する方法です。軽い負荷でも効果が出るとされ、日本発祥の方法として広く知られています。田園生活では以前、石井直方先生のスロートレーニング研究や加圧トレーニング全般を解説した記事も紹介しました。今回は同じ石井先生の研究グループが行った3つの試験を一次資料まで確認し、「効果があるのか」「安全なのか」という2つの疑問に絞って読みます。
読む一次資料
| 資料 | 対象・期間 | 検証した論点 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| ① Madarame H, Nakada S, Ohta T, Ishii N. Clin Physiol Funct Imaging 2018;38(3). 東京大学 | 健康な男性7人・8週間+その後8週間の休止 | 高負荷トレーニングに運動後の加圧を追加すると上乗せ効果があるか | 有料(要旨のみ) |
| ② Madarame H, Kurano M, Takano H, Iida H, Sato Y, Ohshima H, Abe T, Ishii N, Morita T, Nakajima T. Clin Physiol Funct Imaging 2010;30(3). 東京大学 | 健康な男性10人(25.1±2.8歳)・単回の運動 | 低強度の加圧運動が血液を固まりやすくするか | 有料(要旨のみ) |
| ③ Madarame H, Neya M, Ochi E, Nakazato K, Sato Y, Ishii N. Med Sci Sports Exerc 2008;40(2). 東京大学 | 未経験の男性15人・10週間 | 加圧運動の効果は鍛えていない反対側の部位にも及ぶか | 有料(要旨のみ) |
3本とも本文が有料で、公開されているのは要旨のみです。以下の数値・記述は、要旨に明記されている範囲に限っています。3人とも著者の一人に石井直方先生の名前があり、共著者にはMadarame氏(3本すべての筆頭著者)とSato Y氏の名前が繰り返し登場しますが、氏名の漢字表記は一次資料からは確認できないため、本文では研究チームとして扱います。
試験① すでに高負荷で鍛えている人が、加圧を足す意味はあるか
加圧トレーニングは「軽い負荷でも効果が出る」ことが売りの一つです。では、すでに高負荷でしっかり鍛えている人が、さらに加圧を追加したらどうなるのでしょうか。この試験は、同じ人の左右の脚を使って、その問いに答えようとしたものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 健康な男性 7人 |
| 設計 | 同一人物の左右の脚を使う(片脚は運動のみ、もう片脚は運動+加圧) |
| 種目 | 片脚ずつの膝伸展運動 |
| 負荷 | 両脚とも 70%1RM・3セット |
| 加圧の方法 | 運動終了直後に、太もも付け根をエア圧カフで100〜150mmHgの圧力で5分間圧迫(運動中ではなく運動後) |
| 頻度・期間 | 8週間のトレーニング後、さらに8週間のディトレーニング(休止)期間を追加 |
| 測定 | 膝伸展筋群の筋厚・筋力 |
⚠️この試験の加圧は、運動中ではなく運動後にかけている点に注意が必要です。一般に知られる加圧トレーニングの多くは運動中に加圧しますが、この試験は「運動後加圧」(要旨の表現では postexercise blood flow restriction)という、やや異なる方法を検証したものです。
結果
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 時間の経過による変化 | 両脚とも筋厚・筋力が有意に増加 |
| 条件(加圧の有無)による差 | 交互作用なし・条件そのものの主効果もなし |
| 結論 | 筋厚も筋力も、加圧を追加した脚と追加しなかった脚で同程度に増加した |
要旨の結論はこう書かれています。「この結果は、運動後の血流制限が、高負荷筋力トレーニングへの適応の初期段階において、少なくとも有効なトレーニング方法ではないことを示唆する」。すでに70%1RMという高い負荷で鍛えている場合、運動後に加圧を追加しても、それ以上の上乗せは確認されませんでした。
試験② 加圧トレーニングは血液を固まりやすくするか
加圧トレーニングをめぐっては、「血流を制限した状態で運動すると血栓ができやすくなるのではないか」という懸念がしばしば語られます。この試験は、その懸念を実際の血液マーカーで検証したものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 健康な男性 10人(25.1±2.8歳) |
| 種目 | レッグプレス・4セット(1セット目30回、続く3セットは各15回) |
| 負荷 | 30%1RMという軽い負荷 |
| 加圧 | 150〜160mmHgの圧力をかける条件と、かけない条件を同じ人で比較 |
| 採血 | 運動前、運動後10分・1時間・4時間・24時間の計5回 |
| 測定した指標 | トロンビン生成のマーカー(プロトロンビンフラグメント1+2、トロンビン・アンチトロンビンIII複合体)、血管内での血栓形成のマーカー(Dダイマー、フィブリン分解産物)、血漿量の変化 |
結果
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 血漿量の減少 | 加圧ありのほうが有意に大きい(P<0.05) |
| トロンビン生成マーカー | 運動後に増加せず |
| 血管内凝固マーカー(Dダイマー・FDP) | 運動後に増加せず |
要旨の結論は「低強度の加圧筋力トレーニングは、健康な人において凝固系を活性化しない」というものです。血漿量が減る(=血液が一時的に濃縮される)こと自体は加圧ありの条件で大きく起きていましたが、それが実際の血栓形成マーカーの上昇にはつながっていなかった、という結果です。
試験③ 鍛えていない反対側の部位にも効果は及ぶか
3つ目の試験は、加圧運動でしばしば話題になる「離れた場所への波及効果」を検証したものです。片方の腕を鍛えている間、もう一方の脚に加圧運動をさせたら、鍛えていない腕にも変化が起きるのか、という設計です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | トレーニング未経験の男性 15人(加圧群8人・通常群7人) |
| 共通の運動 | 利き手または非利き手のどちらかを無作為に選び、50%1RMのアームカールを3セット×10回(加圧なし) |
| その後の脚の運動(加圧群) | 反対側の脚に、加圧をかけながら30%1RMのレッグプレスを3セット×15〜30回 |
| その後の脚の運動(通常群) | 同じ脚の運動を加圧なしで実施 |
| 頻度・期間 | 週2回・10週間 |
| 測定 | 腕(訓練した側・していない側)と脚の筋横断面積・等尺性トルク、運動直後のノルアドレナリン・成長ホルモン・テストステロン濃度(別途5人ずつで測定) |
結果
| 部位 | 加圧群 | 通常群 |
|---|---|---|
| 訓練した腕 | 筋横断面積・等尺性トルクともに有意に増加 | 有意な変化なし |
| 訓練していない反対側の腕 | 有意な変化なし | 有意な変化なし |
| 加圧をかけた脚 | 筋横断面積・等尺性トルクともに有意に増加 | 有意な変化なし |
⚠️ここで結果を正確に読む必要があります。要旨の結論は「低強度筋力トレーニングは、他の筋群に対して加圧をかけた筋力トレーニングを組み合わせることで、筋肉のサイズと筋力を増加させる」というものです。つまり効果が波及したのは、加圧運動そのものをかけた脚であって、「訓練していない反対側の腕」自体に有意な変化があったわけではありません。「反対側の脚にも波及した」という言い方はやや不正確で、正しくは「腕の運動に、加圧をかけた脚の運動を組み合わせると、脚のほうにも通常なら起きない筋肥大が起きた」という結果です。
ホルモンの測定では、加圧をかけた脚の運動後にノルアドレナリン濃度の増加が通常運動より有意に大きくなっていましたが、成長ホルモンとテストステロンには有意な差がありませんでした。要旨は「何らかの循環因子が、この運動の遠隔効果に関与している可能性が示唆される」と述べるにとどまっており、メカニズムそのものは特定されていません。
3つの試験を並べて見えること
3つの試験は検証している条件がそれぞれ異なります。整理すると次のようになります。
| 試験 | 負荷 | 加圧のタイミング | 分かったこと |
|---|---|---|---|
| ①上乗せ効果 | 70%1RM(高負荷) | 運動後 | 上乗せ効果なし |
| ②安全性 | 30%1RM(低負荷) | 運動中 | 血栓マーカーの増加なし |
| ③波及効果 | 30%1RM(低負荷) | 運動中 | 加圧をかけた部位に効果あり |
①と③は一見矛盾しているように見えますが、条件が違います。①はすでに高負荷で鍛えている人が運動後に加圧を追加したケースで、③は最初から低負荷の運動に加圧を組み合わせたケースです。要旨からは、加圧トレーニングが力を発揮するのは「低負荷の運動と組み合わせる」場面であって、「すでに高負荷で鍛えている運動への上乗せ」としては効果が確認されなかった、という整理ができそうです。
この研究が言えないこと
1. 3つの試験は直接比較試験ではない
それぞれ独立に実施された別の試験です。対象者も条件も異なり、同一の集団で条件だけを変えて比較したわけではありません。①と③を並べて「加圧トレーニングは低負荷でしか効かない」と断定することはできません。
2. いずれもn=7〜15と少人数で、要旨に記載のない数値がある
3本とも本文が有料で、具体的な変化率(%)やホルモン濃度の実測値は要旨に記載がありません。統計的な有意差の有無は分かりますが、効果の大きさまでは確認できていません。
3. 対象は健康な若い男性のみ
女性・高齢者・持病のある人を対象にした試験ではありません。血栓のリスクを扱った②は特に、対象を広げたときに同じ結果になるとは限りません。
4. 安全性の検証は運動直後から24時間以内に限られる
②は単回の運動後、最大24時間までの血液マーカーを見たものです。加圧トレーニングを長期間・繰り返し行った場合の血栓リスクを検証したものではありません。
5. 加圧の圧力設定は実験用のエア圧カフによるもの
100〜160mmHgという圧力は、研究で使われた専用のエア圧カフによるものです。市販の加圧トレーニング機器やベルトが同じ圧力・同じかけ方をしているとは限りません。
6. ③のメカニズムは特定されていない
ノルアドレナリンの増加は確認されましたが、成長ホルモンとテストステロンには差がありませんでした。要旨は「何らかの循環因子」としか述べておらず、何が実際に働いているのかは分かっていません。
7. ①は「加圧トレーニング全般が無意味」という結果ではない
①が検証したのは「すでに高負荷で鍛えている人が運動後に加圧を追加する」という限定的な状況です。低負荷の運動に加圧を組み合わせる本来の使い方(③のような条件)まで否定するものではありません。
8. いずれも2008〜2018年発表の研究
現在市販されている加圧トレーニング機器やプロトコルを直接検証したものではなく、当時の実験条件に基づく結果です。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- 3つの試験を並べると、「加圧トレーニングは万能の上乗せ手段ではない」ことと「低強度の加圧運動そのものは血栓マーカーを増やさなかった」ことの両方が見えてきます。すでに高負荷でしっかり鍛えている人が、運動後に加圧を足す意味は、この試験の範囲では確認されませんでした。
- 血栓の懸念については、②の結果は安心材料の一つにはなりますが、対象は健康な若い男性10人・単回の運動に限られます。持病がある人や、繰り返し長期間行う場合まで一般化はできません。
- ③の「離れた部位への波及」は、正確には「加圧をかけた部位に効果があった」という結果であり、「加圧していない部位にまで魔法のように効果が広がる」という話ではありません。この違いは見落とされやすいところです。
- 加圧トレーニングを検討する場合は、専門知識のある指導者のもとで、適切な圧力設定と時間管理のもとで行うのが基本です。この記事はその是非を判断する材料の一つとして読んでいただければと思います。
まとめ
東京大学の石井直方先生の研究グループが行った、加圧トレーニングに関する3つの試験を読みました。すでに高負荷で鍛えている場合、運動後に加圧を追加しても筋肥大・筋力の上乗せは確認されませんでした(①)。一方、低強度の加圧運動は、少なくとも運動後24時間以内の血液マーカーを見る限り、血栓を作りやすくする方向には働いていませんでした(②)。そして加圧をかけた部位には、通常なら起きないはずの筋肥大が確認されました(③)。
3つの試験は条件が異なり、単純に一つの結論にまとめることはできません。ただし、加圧トレーニングの効果と限界を考えるうえで、それぞれが具体的な材料を提供していることは確かです。
出典(一次資料)
- Madarame H, Nakada S, Ohta T, Ishii N. "Postexercise blood flow restriction does not enhance muscle hypertrophy induced by multiple-set high-load resistance exercise." Clin Physiol Funct Imaging 2018;38(3). europepmc.org/article/MED/28448687
- Madarame H, Kurano M, Takano H, Iida H, Sato Y, Ohshima H, Abe T, Ishii N, Morita T, Nakajima T. "Effects of low-intensity resistance exercise with blood flow restriction on coagulation system in healthy subjects." Clin Physiol Funct Imaging 2010;30(3). europepmc.org/article/MED/20175789
- Madarame H, Neya M, Ochi E, Nakazato K, Sato Y, Ishii N. "Cross-transfer effects of resistance training with blood flow restriction." Med Sci Sports Exerc 2008;40(2). europepmc.org/article/MED/18202577
※3本とも本文は有料で、要旨のみ公開されています。本記事の数値・記述は要旨に明記されている範囲に限っています。①の資金は日本学術振興会(JSPS)科研費(課題番号24700645)。②③は要旨に資金源の記載がありません。