研究ノート・低強度筋力トレーニング

軽い筋トレでも筋肉は増える?高齢者2つの実験

公開日: 2026-09-07 · 約9分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • 東京大学の石井直方先生の研究グループが、高齢者を対象に行った2つの筋力トレーニングの試験を一次資料で読みます。いずれも「筋発揮張力維持法(LST、通称スロートレーニング)」を、通常より軽い負荷や器具なしの条件で試したものです。
  • 60〜77歳18人に膝伸展運動を30%1RM(自分の最大筋力のおよそ3割という軽さ)で行わせた試験では、ゆっくり・休みなしの群で大腿四頭筋の断面積が5.0%増加(p<0.001)。通常速度の群は1.1%の増加にとどまり(p=0.12=有意でない)ました。
  • 活動的な高齢者39人に器具を使わない自重運動だけで16週間行わせた試験では、上下肢の筋力と脚のパワーはどちらの群も有意に向上しましたが、筋肉のサイズはどちらの群も変化しませんでした
  • 同じ研究の流れの中で、「筋肉は増えた」試験と「筋肉は増えなかった」試験の両方があります。この記事では両方の設計と数値をそのまま並べます。

以前この田園生活で、50%1RMのスロートレーニングで高齢者の筋肉が増えた試験を紹介しました。今回はその続きです。同じ研究グループが、負荷をさらに軽くしたらどうなるか、器具を一切使わずに自重だけで行ったらどうなるかを検証した、2つの試験を読みます。

読む一次資料

資料対象形式入手性
Watanabe Y, Madarame H, Ogasawara R, Nakazato K, Ishii N.
Clin Physiol Funct Imaging 2014;34(6):463-70.
(最終著者=石井直方先生)
60〜77歳の高齢者18人ランダム化比較試験・12週有料(抄録のみ)
Watanabe Y, Tanimoto M, Oba N, Sanada K, Miyachi M, Ishii N.
Geriatr Gerontol Int 2015;15(12):1270-7.
(谷本道哉先生ら共著・最終著者=石井直方先生)
活動的な高齢者39人ランダム化比較試験・16週有料(抄録のみ)

両方とも本文が有料で、公開されているのは抄録のみです。したがって以下は、抄録に明記されている範囲の数値と記述に限っています。

試験① 30%1RMという軽い負荷でも、ゆっくり動かせば筋肉は増えるのか

石井直方先生の研究グループは以前、50%1RMのスロートレーニングで高齢者の大腿の筋肉が増えることを報告していました。この試験は、その負荷をさらに下げて30%1RMにしても同じことが起きるのかを検証したものです。

項目内容
対象60〜77歳の高齢者 18人
割付2群にランダム割付
種目膝の伸展運動
負荷両群とも 30%1RM(自分の最大筋力のおよそ3割という軽さ)
LST群3秒かけて下ろす・3秒かけて上げる・1秒の等尺性収縮、反復の間に休みを入れない
CON群(通常速度)1秒で上げる・1秒で下ろす、反復の間に1秒の休みを入れる
頻度・期間週2回・12週間
測定1RM、等尺性・等速性の筋力、MRIによる大腿中央部の筋横断面積

ここでも、50%1RM試験と同じ設計思想が使われています。両群とも負荷は同じ30%1RMにそろえたうえで、動かし方(ゆっくり・休みなし vs 通常速度・休みあり)だけを変えています。

結果

大腿四頭筋の断面積筋力(等尺性・等速性)
LST群(スロー・休みなし)+5.0%(p<0.001)有意に増加(p<0.05)
CON群(通常速度・休みあり)+1.1%(p=0.12=有意でない有意に増加(p<0.05)

抄録の結論部分には、こう書かれています。「これらの結果は、負荷が30%1RMという低さであっても、LSTは健康な高齢者の筋肉サイズと筋力の両方を増加させうることを示す。総収縮時間の長さが筋肥大・筋力増強と関係している可能性がある」。

読み取れることを整理すると、筋力はどちらの動かし方でも伸びた筋肉のサイズに差がついたのはゆっくり・休みなしの群だけだった、という2点です。50%1RM試験と同じパターンが、30%1RMというさらに軽い負荷でも再現されています。

試験② 自重だけで16週間、それでも筋肉は増えるのか

次の試験は、器具を一切使わない自重運動のみで、同じ「ゆっくり・休みなし vs 通常速度」の比較を行ったものです。谷本道哉先生(当時・近畿大学生物理工学部)も共著に入っています。

項目内容
対象活動的な高齢者 39人
介入自重の筋力トレーニング5種目+プライオメトリクス運動4種目、各1セット
スロー群3秒の求心性・3秒の遠心性・1秒の等尺性、反復の間に休みなし(LST型)
通常速度群1秒の遠心性・1秒の求心性、1秒の休みあり
頻度・期間16週間
測定筋肉のサイズ、筋力、身体機能(上下肢筋力・最大下肢伸展パワーなど)

この試験の狙いは抄録にそのまま書かれています。「自重を使った筋力トレーニングにスロー動作を適用できるかを検討した。あわせて、プライオメトリクス運動を組み合わせることで身体機能全体を改善するプログラムとした」。

結果

指標結果
上肢・下肢の筋力両群とも有意に改善
最大下肢伸展パワー両群とも有意に改善
筋肉のサイズどちらの群も変化なし
群間の差いずれの指標にも有意差なし

抄録の結論はこう締めくくられています。「自重による筋力トレーニングとプライオメトリクス運動を組み合わせたこの介入プログラムは、各種目1セットのみであっても高齢者の身体機能を改善しうる。ただし、筋肥大効果の増強は見られなかった。筋肥大を促すには、セット数を増やすなどのさらなる工夫が必要だろう」。

試験①とは対照的に、今回はスロー・通常速度のどちらでも筋肉のサイズは増えませんでした。動かし方を変えても、筋力とパワーは伸びる一方で、筋肥大という点では両群に差がつかなかったということです。

2つの試験を並べて見えること

ここまでの3つの試験(50%1RM・30%1RM・自重)を並べると、次のようになります。

試験負荷ゆっくり・休みなし群の筋肥大通常速度群の筋肥大
50%1RM(既出50%1RM有意に増加肥大効果は限定的
今回①30%1RM+5.0%(有意)+1.1%(有意でない)
今回②自重(相対値不明)変化なし変化なし

この並びだけを見ると、「負荷を下げていくと、あるところで筋肥大効果が消える」という物語に見えます。ただし、これは3本の別々の試験を並べただけであり、同じ集団・同じ条件で負荷だけを段階的に変えて比較した試験ではありません。この点は次の「言えないこと」で詳しく扱います。

一方で、はっきりしていることもあります。3つの試験すべてで、筋力は動かし方によらず向上しています。筋肉のサイズが増えるかどうかと、筋力が伸びるかどうかは、別の話として扱う必要があるということです。

この研究が言えないこと

1. 3つの試験は直接比較試験ではない

50%1RM・30%1RM・自重の3つは、それぞれ独立に実施された別の試験です。対象者も年齢層も期間も異なり、同一の集団を対象に負荷だけを段階的に変えて比較したわけではありません。「負荷を下げると筋肥大が消える」という因果関係を、この3試験の並びだけから断定することはできません。

2. 自重試験の相対的な負荷(%1RM)が不明

自重運動がどの程度の1RM相対値に相当するかは、抄録に記載がありません。30%1RMより軽いのか、対象者によって差が大きいのかも分かりません。30%1RM試験と自重試験を単純に「負荷の大小」で並べて比較することはできません。

3. 30%1RM試験はn=18、自重試験はn=39と、いずれも中規模〜小規模

両試験とも大規模とは言えない人数です。個人差の大きい効果を検出するには限界があります。

4. 自重試験の対象は「活動的な高齢者」

すでに一定の運動習慣がある集団が対象です。運動習慣のない高齢者にも同じ結果が当てはまるかは、この試験からは分かりません。

5. 介入内容が完全には揃っていない

30%1RM試験は膝伸展運動という単一種目、自重試験は筋力トレーニング5種目+プライオメトリクス4種目という複合プログラムです。自重試験で筋肥大が見られなかった理由が、負荷の軽さによるものか、種目数が多く1種目あたりの刺激が薄まったためかは、この設計からは切り分けられません。

6. 期間も異なる(12週間 vs 16週間)

自重試験のほうが4週間長いにもかかわらず筋肥大が見られなかったという事実はありますが、期間の違いそのものが結果に影響した可能性を完全には排除できません。

7. 筋肉のサイズの測定方法が両試験で異なる可能性がある

30%1RM試験はMRIによる断面積測定と明記されていますが、自重試験の抄録には測定方法の詳細が書かれていません。同じ「筋肉のサイズ」という言葉でも、測定の精度や部位が違う可能性があります。

8. 筋肥大が起きなかった=運動に意味がなかった、ではない

自重試験では、筋力と脚のパワーはどちらの群も有意に改善しています。「筋肉が大きくならなかった」ことと「体力が向上しなかった」ことは別の結果です。高齢者の実用的な体力という観点では、この試験はむしろ肯定的な結果を報告しています。

実践の視点から

筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。

まとめ

東京大学の石井直方先生の研究グループが高齢者を対象に行った2つの試験を読みました。30%1RMという軽い負荷でも、ゆっくり・休みなしで動かした群では大腿四頭筋の断面積が5.0%増加していました(通常速度の群は有意な増加なし)。一方、自重のみで16週間行った試験では、筋力とパワーは両群とも向上したものの、筋肉のサイズはどちらの群も変化しませんでした

同じ研究の流れの中に、「筋肉が増えた」試験と「筋肉は増えなかった」試験の両方があります。この記事では、その両方をそのまま並べました。3つの試験を単純比較して結論を出すことはできませんが、動かし方や負荷を工夫しても、必ずしも筋肥大につながるとは限らないという事実は、そのまま受け止める価値があると考えます。

よくある質問

30%1RMという軽い負荷でも筋肉は増えたのですか?

はい。60〜77歳の高齢者18人を対象にした試験で、ゆっくり動かして休みを入れない群(LST群)は大腿四頭筋の断面積が5.0%増加しました(p<0.001)。通常速度の群は1.1%の増加にとどまり、統計的に有意ではありませんでした(p=0.12)。

自重トレーニングでも筋肉は増えましたか?

この試験(活動的な高齢者39人・16週間)では、スロー群・通常速度群のどちらも筋肉のサイズには変化がありませんでした。一方で、上下肢の筋力と脚のパワーはどちらの群も有意に向上しています。

なぜ自重の試験では筋肉が増えなかったのですか?

抄録からは断定できません。負荷が軽すぎた可能性、5種目+プライオメトリクス4種目という複合プログラムで1種目あたりの刺激が薄まった可能性、セット数が1セットのみだった可能性などが考えられます。研究チーム自身も『セット数を増やす工夫が必要』と述べています。

この2つの試験は直接比較できるのですか?

できません。対象者・年齢層・期間・介入内容がそれぞれ異なる独立した試験です。自重試験の負荷が何%1RMに相当するかも分かっておらず、『負荷の大小』で単純に並べて比較することはできません。

筋肉が増えなくても、トレーニングの意味はあるのですか?

あります。自重試験では筋肉のサイズは変わらなかったものの、筋力と脚のパワーはどちらの群も有意に改善しています。筋肥大と体力向上は別の結果として扱う必要があります。

この研究は日本人を対象にしていますか?

はい。いずれも東京大学の石井直方先生の研究グループが日本人の高齢者を対象に行った試験です。ただし対象人数は18人・39人と限られており、結果を高齢者全体に一般化するには注意が必要です。

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