この記事の要点
- 東京大学の石井直方先生の研究グループが、高齢者を対象に行った2つの筋力トレーニングの試験を一次資料で読みます。いずれも「筋発揮張力維持法(LST、通称スロートレーニング)」を、通常より軽い負荷や器具なしの条件で試したものです。
- ①60〜77歳18人に膝伸展運動を30%1RM(自分の最大筋力のおよそ3割という軽さ)で行わせた試験では、ゆっくり・休みなしの群で大腿四頭筋の断面積が5.0%増加(p<0.001)。通常速度の群は1.1%の増加にとどまり(p=0.12=有意でない)ました。
- ②活動的な高齢者39人に器具を使わない自重運動だけで16週間行わせた試験では、上下肢の筋力と脚のパワーはどちらの群も有意に向上しましたが、筋肉のサイズはどちらの群も変化しませんでした。
- 同じ研究の流れの中で、「筋肉は増えた」試験と「筋肉は増えなかった」試験の両方があります。この記事では両方の設計と数値をそのまま並べます。
以前この田園生活で、50%1RMのスロートレーニングで高齢者の筋肉が増えた試験を紹介しました。今回はその続きです。同じ研究グループが、負荷をさらに軽くしたらどうなるか、器具を一切使わずに自重だけで行ったらどうなるかを検証した、2つの試験を読みます。
読む一次資料
| 資料 | 対象 | 形式 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| Watanabe Y, Madarame H, Ogasawara R, Nakazato K, Ishii N. Clin Physiol Funct Imaging 2014;34(6):463-70. (最終著者=石井直方先生) | 60〜77歳の高齢者18人 | ランダム化比較試験・12週 | 有料(抄録のみ) |
| Watanabe Y, Tanimoto M, Oba N, Sanada K, Miyachi M, Ishii N. Geriatr Gerontol Int 2015;15(12):1270-7. (谷本道哉先生ら共著・最終著者=石井直方先生) | 活動的な高齢者39人 | ランダム化比較試験・16週 | 有料(抄録のみ) |
両方とも本文が有料で、公開されているのは抄録のみです。したがって以下は、抄録に明記されている範囲の数値と記述に限っています。
試験① 30%1RMという軽い負荷でも、ゆっくり動かせば筋肉は増えるのか
石井直方先生の研究グループは以前、50%1RMのスロートレーニングで高齢者の大腿の筋肉が増えることを報告していました。この試験は、その負荷をさらに下げて30%1RMにしても同じことが起きるのかを検証したものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 60〜77歳の高齢者 18人 |
| 割付 | 2群にランダム割付 |
| 種目 | 膝の伸展運動 |
| 負荷 | 両群とも 30%1RM(自分の最大筋力のおよそ3割という軽さ) |
| LST群 | 3秒かけて下ろす・3秒かけて上げる・1秒の等尺性収縮、反復の間に休みを入れない |
| CON群(通常速度) | 1秒で上げる・1秒で下ろす、反復の間に1秒の休みを入れる |
| 頻度・期間 | 週2回・12週間 |
| 測定 | 1RM、等尺性・等速性の筋力、MRIによる大腿中央部の筋横断面積 |
ここでも、50%1RM試験と同じ設計思想が使われています。両群とも負荷は同じ30%1RMにそろえたうえで、動かし方(ゆっくり・休みなし vs 通常速度・休みあり)だけを変えています。
結果
| 群 | 大腿四頭筋の断面積 | 筋力(等尺性・等速性) |
|---|---|---|
| LST群(スロー・休みなし) | +5.0%(p<0.001) | 有意に増加(p<0.05) |
| CON群(通常速度・休みあり) | +1.1%(p=0.12=有意でない) | 有意に増加(p<0.05) |
抄録の結論部分には、こう書かれています。「これらの結果は、負荷が30%1RMという低さであっても、LSTは健康な高齢者の筋肉サイズと筋力の両方を増加させうることを示す。総収縮時間の長さが筋肥大・筋力増強と関係している可能性がある」。
読み取れることを整理すると、筋力はどちらの動かし方でも伸びた、筋肉のサイズに差がついたのはゆっくり・休みなしの群だけだった、という2点です。50%1RM試験と同じパターンが、30%1RMというさらに軽い負荷でも再現されています。
試験② 自重だけで16週間、それでも筋肉は増えるのか
次の試験は、器具を一切使わない自重運動のみで、同じ「ゆっくり・休みなし vs 通常速度」の比較を行ったものです。谷本道哉先生(当時・近畿大学生物理工学部)も共著に入っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 活動的な高齢者 39人 |
| 介入 | 自重の筋力トレーニング5種目+プライオメトリクス運動4種目、各1セット |
| スロー群 | 3秒の求心性・3秒の遠心性・1秒の等尺性、反復の間に休みなし(LST型) |
| 通常速度群 | 1秒の遠心性・1秒の求心性、1秒の休みあり |
| 頻度・期間 | 16週間 |
| 測定 | 筋肉のサイズ、筋力、身体機能(上下肢筋力・最大下肢伸展パワーなど) |
この試験の狙いは抄録にそのまま書かれています。「自重を使った筋力トレーニングにスロー動作を適用できるかを検討した。あわせて、プライオメトリクス運動を組み合わせることで身体機能全体を改善するプログラムとした」。
結果
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 上肢・下肢の筋力 | 両群とも有意に改善 |
| 最大下肢伸展パワー | 両群とも有意に改善 |
| 筋肉のサイズ | どちらの群も変化なし |
| 群間の差 | いずれの指標にも有意差なし |
抄録の結論はこう締めくくられています。「自重による筋力トレーニングとプライオメトリクス運動を組み合わせたこの介入プログラムは、各種目1セットのみであっても高齢者の身体機能を改善しうる。ただし、筋肥大効果の増強は見られなかった。筋肥大を促すには、セット数を増やすなどのさらなる工夫が必要だろう」。
試験①とは対照的に、今回はスロー・通常速度のどちらでも筋肉のサイズは増えませんでした。動かし方を変えても、筋力とパワーは伸びる一方で、筋肥大という点では両群に差がつかなかったということです。
2つの試験を並べて見えること
ここまでの3つの試験(50%1RM・30%1RM・自重)を並べると、次のようになります。
| 試験 | 負荷 | ゆっくり・休みなし群の筋肥大 | 通常速度群の筋肥大 |
|---|---|---|---|
| 50%1RM(既出) | 50%1RM | 有意に増加 | 肥大効果は限定的 |
| 今回① | 30%1RM | +5.0%(有意) | +1.1%(有意でない) |
| 今回② | 自重(相対値不明) | 変化なし | 変化なし |
この並びだけを見ると、「負荷を下げていくと、あるところで筋肥大効果が消える」という物語に見えます。ただし、これは3本の別々の試験を並べただけであり、同じ集団・同じ条件で負荷だけを段階的に変えて比較した試験ではありません。この点は次の「言えないこと」で詳しく扱います。
一方で、はっきりしていることもあります。3つの試験すべてで、筋力は動かし方によらず向上しています。筋肉のサイズが増えるかどうかと、筋力が伸びるかどうかは、別の話として扱う必要があるということです。
この研究が言えないこと
1. 3つの試験は直接比較試験ではない
50%1RM・30%1RM・自重の3つは、それぞれ独立に実施された別の試験です。対象者も年齢層も期間も異なり、同一の集団を対象に負荷だけを段階的に変えて比較したわけではありません。「負荷を下げると筋肥大が消える」という因果関係を、この3試験の並びだけから断定することはできません。
2. 自重試験の相対的な負荷(%1RM)が不明
自重運動がどの程度の1RM相対値に相当するかは、抄録に記載がありません。30%1RMより軽いのか、対象者によって差が大きいのかも分かりません。30%1RM試験と自重試験を単純に「負荷の大小」で並べて比較することはできません。
3. 30%1RM試験はn=18、自重試験はn=39と、いずれも中規模〜小規模
両試験とも大規模とは言えない人数です。個人差の大きい効果を検出するには限界があります。
4. 自重試験の対象は「活動的な高齢者」
すでに一定の運動習慣がある集団が対象です。運動習慣のない高齢者にも同じ結果が当てはまるかは、この試験からは分かりません。
5. 介入内容が完全には揃っていない
30%1RM試験は膝伸展運動という単一種目、自重試験は筋力トレーニング5種目+プライオメトリクス4種目という複合プログラムです。自重試験で筋肥大が見られなかった理由が、負荷の軽さによるものか、種目数が多く1種目あたりの刺激が薄まったためかは、この設計からは切り分けられません。
6. 期間も異なる(12週間 vs 16週間)
自重試験のほうが4週間長いにもかかわらず筋肥大が見られなかったという事実はありますが、期間の違いそのものが結果に影響した可能性を完全には排除できません。
7. 筋肉のサイズの測定方法が両試験で異なる可能性がある
30%1RM試験はMRIによる断面積測定と明記されていますが、自重試験の抄録には測定方法の詳細が書かれていません。同じ「筋肉のサイズ」という言葉でも、測定の精度や部位が違う可能性があります。
8. 筋肥大が起きなかった=運動に意味がなかった、ではない
自重試験では、筋力と脚のパワーはどちらの群も有意に改善しています。「筋肉が大きくならなかった」ことと「体力が向上しなかった」ことは別の結果です。高齢者の実用的な体力という観点では、この試験はむしろ肯定的な結果を報告しています。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- この2つの試験が示したのは、「負荷が軽くても、動かし方次第で筋肉は増えることがある」試験と、「自重だけでは筋肉は増えなかったが、筋力とパワーは伸びた」試験という、対照的な2つの結果です。
- 器具を使わない自重トレーニングでも、筋力や実用的な体力(歩く・立ち上がるといった動作に近いパワー)を伸ばす効果は確認されています。「筋肉を大きくする」という目的と、「日常動作に必要な力を伸ばす」という目的は、分けて考える必要がありそうです。
- 研究チーム自身が、自重試験の考察で「セット数を増やすなどのさらなる工夫が必要」と述べています。1セットだけでは筋肥大の刺激として不十分だった可能性は、著者らも認めているところです。
- 3つの試験を並べて「負荷の下限はこのあたり」と一般化するのは、この記事の範囲を超えます。あくまで、同じ研究グループが異なる条件で行った試験を、そのまま紹介したものです。
まとめ
東京大学の石井直方先生の研究グループが高齢者を対象に行った2つの試験を読みました。30%1RMという軽い負荷でも、ゆっくり・休みなしで動かした群では大腿四頭筋の断面積が5.0%増加していました(通常速度の群は有意な増加なし)。一方、自重のみで16週間行った試験では、筋力とパワーは両群とも向上したものの、筋肉のサイズはどちらの群も変化しませんでした。
同じ研究の流れの中に、「筋肉が増えた」試験と「筋肉は増えなかった」試験の両方があります。この記事では、その両方をそのまま並べました。3つの試験を単純比較して結論を出すことはできませんが、動かし方や負荷を工夫しても、必ずしも筋肥大につながるとは限らないという事実は、そのまま受け止める価値があると考えます。