この記事の要点
- 筋トレをすると、運動が終わったあとも安静時より高い状態でカロリー消費が続きます。これを「運動後過剰エネルギー消費」(アフターバーン効果とも呼ばれます)と呼びます。
- 早稲田大学の実験は、筋トレ経験のある男性13人に同じ内容の筋トレを、別の日の朝と夜にそれぞれ行わせて比較しました。
- 運動後2時間の「上乗せ分」は、単純に数えると朝49.8kcal・夜30.1kcalで朝の方が多く、統計的にも差がありました。
- しかし1日の中でもともと代謝が上下する「概日リズム」の影響を差し引いて補正すると、朝と夜の差は統計的にはっきりしたものではなくなりました(朝47.3kcal・夜31.4kcal、補正後は有意差なし)。
- 安静時に消費するカロリーや、筋トレの運動中に消費するカロリー自体には、朝と夜で差はありませんでした。
「筋トレは朝やった方が痩せやすい」「夜の筋トレは代謝が上がりにくい」といった話を耳にしたことがあるかもしれません。運動をすると、終わったあとも体はしばらくの間、安静時より多くの酸素とエネルギーを使い続けます。これは「運動後過剰エネルギー消費」と呼ばれる現象で、運動後もカロリーを消費し続けることから「アフターバーン効果」と俗に呼ばれることもあります。運動で使った筋肉の修復や、体温の上昇を元に戻す働きなどが背景にあるとされています。
では、同じ筋トレをするなら、朝と夜のどちらがこの「運動後の上乗せ分」を多く得られるのでしょうか。早稲田大学スポーツ科学学術院の研究チームが、この問いに正面から取り組んだ実験を一次資料で読みます。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | An N, Watanabe D, Miyachi M. "Excess of post-resistance exercise energy expenditure: a comparison between morning and evening." European Journal of Applied Physiology. 2026;126(9):4891–4901. doi:10.1007/s00421-026-06268-9 |
| 実施機関 | 早稲田大学スポーツ科学学術院(責任著者:宮地元彦先生) |
| 入手性 | オープンアクセスで全文が読める(PMC13541996) |
| 一次資料 | PMC全文(PMC13541996) |
設計——同じ13人に、同じ筋トレを朝と夜にやらせて比べる
研究チームは、18–35歳の筋トレ経験がある健康な男性14人を集め、1人を除く13人分のデータを解析しました(体調管理が十分でなく、エネルギー消費の測定値が不正確になったため1人を除外)。この実験の設計上の工夫は、同じ人に、同じ内容の筋トレを、別の日の朝と夜それぞれにやらせて比較する「クロスオーバー」方式にあります。朝と夜のどちらを先にやるかはくじ引きのように無作為に決め、2回の実験の間は5–10日空けました。同じ人どうしで比べるので、体格や体力の個人差が結果に紛れ込みにくいという利点があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 体脂肪率10–30%・筋トレ経験のある健康な男性13人(平均23.3±4.9歳) |
| 朝の実験 | 8:30–12:40。前夜21:30–22:30に統一の食事を摂り、当日は空腹の状態で来所 |
| 夜の実験 | 17:00–21:10。当日朝6:00–7:00に統一の食事を摂り、以後は絶食して来所 |
| 筋トレの内容 | アームカール・ランジ・ラットプルダウン・シーテッドロー・ベンチプレス・スクワットの6種目を、あらかじめ測定した最大挙上重量(1RM=1回だけ挙げられる重さ)の60%の負荷で、10回×3セット |
| 測定 | 呼気ガス分析による安静時・運動中・運動後2時間のエネルギー消費、鼓膜温、心拍数・心拍出量、尿中のコルチゾールと酸化ストレスの指標 |
ここで使う重量(60%1RM)は、朝の予備測定で決めた1RMをもとに、朝と夜で同じ絶対重量を使っています。1RM自体が朝と夜で変わりうることが知られているため、この点は結果を読むときに留意が必要です(後述)。
もう一つの工夫は、単純な運動後の測定値だけでなく、「概日リズム」の影響を差し引いて補正した数値も同時に算出したことです。人の安静時代謝は1日の中でも一定ではなく、明け方に最も低く夕方に最も高くなる、というゆるやかな波(概日リズム)を描くことが知られています。研究チームは、この波の形をあらかじめ数式(サイン関数)で表しておき、朝と夜それぞれの測定値からこの波の影響を差し引いた「補正後の数値」も算出しました。
結果①——安静時のカロリー消費と運動中のカロリー消費には、朝夜で差がない
| 指標 | 朝 | 夜 | 統計的な差 |
|---|---|---|---|
| 安静時のエネルギー消費(10分あたり) | 12.1±2.6 kcal | 13.0±2.1 kcal | なし(P=0.225) |
| 概日リズムを補正した安静時の消費 | 12.3±2.6 kcal | 12.6±2.1 kcal | なし(P=0.591) |
| 運動中のエネルギー消費(34分40秒あたり) | 159.4±29.8 kcal | 159.0±28.7 kcal | なし(P=0.923) |
| 安静時の鼓膜温 | 36.3±0.5°C | 36.6±0.3°C | 朝の方が低い(P=0.002) |
まず押さえておきたいのは、「筋トレそのものの最中に消費するカロリー」は、朝も夜もほぼ同じだったという点です。差が出たのは、このあとに見る「運動が終わったあとの上乗せ分」です。なお安静時の体温(鼓膜温)は朝の方が夜より0.32°C低く、これは後述する朝夜の差を説明する候補の一つとして考察されています。
結果②——運動後2時間の「上乗せ分」は朝の方が多かったが…
| 指標 | 朝 | 夜 | 統計的な差 |
|---|---|---|---|
| 運動後2時間のエネルギー消費(補正前) | 195.1±27.5 kcal | 186.3±32.6 kcal | なし(P=0.069) |
| 概日リズムを補正した運動後の消費 | 194.4±27.5 kcal | 183.5±32.2 kcal | 朝の方が高い(P=0.030) |
| 運動後の「上乗せ分」(補正前) | 49.8±21.0 kcal | 30.1±18.8 kcal | 朝の方が高い(P=0.049) |
| 概日リズムを補正した上乗せ分 | 47.3±20.8 kcal | 31.4±18.9 kcal | なし(P=0.100) |
ここが本研究の核心です。「運動後の上乗せ分」(安静時の消費量を差し引いた正味の増加分)を単純に比べると、朝は夜よりおよそ20kcal(2時間あたり)多く、統計的にも意味のある差でした(P=0.049)。この数値だけを見れば「筋トレは朝の方が消費カロリーを稼げる」と言いたくなります。
ところが、1日の中でもともと代謝が上下する「概日リズム」の影響を差し引いて補正すると、朝と夜の差は縮み、統計的な有意水準を割り込みました(P=0.100)。つまりこの実験の結果は、「朝の筋トレは運動後のカロリー消費が多く見える」ことと、「その差には、1日のうちで代謝がもともと変動していることの影響が含まれている」ことの、両方を同時に示していると言えます。論文の著者らも、先行研究(食事誘発性体熱産生を朝食・昼食・夕食で比べた研究)では概日リズムを補正すると差が完全に消えたのに対し、今回の運動後の上乗せ分では補正後も差が完全には消えなかったと述べています(表の数値で引き算すると差は約16kcal相当まで縮んでいます)。単純に「差はなかった」と結論づけてもいません。
あわせて測定された尿中の酸化ストレスの指標(クレアチニンで補正した値)は、安静時から運動後にかけての変化量が朝の方が有意に大きく(P=0.019)、朝の筋トレは夜より体への負荷(酸化ストレス)が大きい可能性も示されています。心拍数・心拍出量には朝夜で差はありませんでした。
この研究が言えないこと
- 研究チームが最も重視した指標(運動後の上乗せ分)は、補正の仕方によって「統計的に意味のある差」と「そうでない差」の両方の顔を見せています。単純な数値では朝が有意に高い(P=0.049)一方、代謝の日内変動を補正すると有意水準を割ります(P=0.100)。「朝の筋トレの方が優れている」と言い切れるほど強い結果ではありません。
- 測定は運動後2時間に限られています。それ以降もこの差が続くのか、逆転するのかは、この実験からは分かりません。
- 対象は18–35歳の健康な男性13人のみです。女性や高齢者、筋トレ未経験者に同じ結果が当てはまるかは、論文の著者ら自身が「一般化には限界がある」と明記しています。
- 朝と夜で同じ絶対重量(朝に測った1RMの60%)を使っています。1RMそのものが朝と夜で変わりうることが先行研究で知られており、もし夜に改めて1RMを測って負荷を決めていれば、結果が変わっていた可能性があると著者らは述べています。
- 参加者は13人と少なく、統計的な検出力が十分でない可能性があります。特に概日リズムを補正した上乗せ分では、著者ら自身が「参加者を増やせばより明確な時間帯の効果が見える可能性がある」と述べています。
- 約20kcal(2時間あたり)という差の大きさが、日々の体重管理にとってどれほどの意味を持つかは、著者ら自身も「不確か」としています。1回の筋トレで生じるこの程度の差は、食事内容のわずかな違いなどで簡単に相殺されうる範囲です。
- 中強度(最大挙上重量の60%)の筋力トレーニングのみを扱った実験です。より高強度の筋トレや、有酸素運動など他の運動形式に同じ結果が当てはまるとは限りません。
- 参加者が「朝型」か「夜型」かを判定する標準的な質問票は使われていません。個人の体内時計と実験で割り当てられた時間帯がずれていた参加者がいた可能性を、著者ら自身が限界として挙げています。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
この実験を素直に受け止めると、「筋トレは朝にやると運動後のカロリー消費がわずかに多く見える」という観察と、「その差の少なくとも一部は、1日の中でもともと代謝が変動していることの影響である」という指摘が、同時に成り立っているという理解になります。「朝トレが夜トレより優れている」と単純化するのは、この研究の結果を超えた読み方です。
むしろ実務的に参考になるのは、論文の考察で触れられている視点です。著者らは「パフォーマンスを重視するアスリートであれば、神経筋の出力がピークに近づく時間帯(多くは夕方以降)にトレーニングを合わせる方が理にかなう」とも述べています。つまり目的次第で最適な時間帯は変わりうるということで、消費カロリーだけを基準に朝トレを推奨する根拠にはなりません。何より、多くの人にとって「朝と夜どちらが継続しやすいか」の方が、20kcal程度の差よりもよほど大きな影響を持つはずです。
まとめ
- 筋トレの後は、安静時より多くカロリーを消費し続ける時間帯(運動後過剰エネルギー消費)があります。
- 早稲田大学の実験では、同じ筋トレ経験者13人に同じ内容の筋トレを朝と夜それぞれ行わせたところ、運動後2時間の上乗せ分は朝49.8kcal・夜30.1kcalで、単純な比較では朝の方が有意に多い結果でした。
- しかし1日の中の代謝リズム(概日リズム)を差し引いて補正すると、この差は統計的にはっきりしなくなりました(朝47.3kcal・夜31.4kcal、補正後は有意差なし)。
- 安静時や運動中そのもののカロリー消費には、朝夜で差はありませんでした。
- ⚠️対象は健康な男性13人のみ、測定は運動後2時間まで、1RMは朝の値を朝夜共通で使用、という複数の限界があります。