この記事の要点
- 順天堂大学と森永乳業の研究チームが、ロコモ(ロコモティブシンドローム=運動器の衰え)予防を目的にした12週間・週2回の低負荷な自重+ゴムバンド筋トレに参加した中高年43人を対象に、歩く速さと血液中のたんぱく質の状態の変化を調べました。
- ところが、通常の歩く速さも最大の歩く速さも、統計的に有意な変化は確認されませんでした(それぞれP=0.241、P=0.079)。
- 唯一はっきり変化したのは、血清アルブミンの「質」を表す指標f(HMA)(還元型アルブミンの割合)で、これは有意に増加しました(P=0.006)。一方でアルブミンの「濃度」そのものはむしろ有意に低下しました(P<0.001)。
- 「f(HMA)の変化率」と「最大歩行速度の変化率」のあいだには相関が見られましたが(P=0.004)、これは個人差についての相関関係であって、筋トレが歩く速さを底上げしたことを示す結果ではありません。
「筋トレをすればお年寄りでも歩くのが速くなる」という話はよく聞きます。今回読むのは、順天堂大学がロコモ予防運動プログラムの一環として実施している調査に、森永乳業ヘルスケア&ニュートリション研究所が加わり、中高年43人の12週間の筋トレの前後で、歩く速さと血液検査の数値がどう動いたかを調べた論文です。タイトルには「筋トレは身体機能に効果があり、それは血中アルブミンの酸化還元状態の変化と関連する」とありますが、実際に表の数値をたどると、歩く速さそのものの変化は思ったよりも地味だったことが分かります。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Shibasaki T, Nakamura H, Kurosaka Y, Sawada S, Miyaji K, Machida S. "The effect of resistance training on physical function is associated with changes in serum albumin redox state in middle-aged and older Japanese adults: a Quasi-experimental study." Frontiers in Physiology. 2025;16:1649300. doi:10.3389/fphys.2025.1649300 |
| 実施機関 | 順天堂大学スポーツ健康科学部・大学院スポーツ健康科学研究科/森永乳業株式会社 ヘルスケア&ニュートリション研究所 |
| 研究の種類 | 対照群のない単群の前後比較(quasi-experimental study) |
| 入手性 | オープンアクセスで全文閲覧可能(PMC12485620) |
設計──ロコモ予防運動プログラムに参加した中高年48人、完了は43人
参加者は地域のチラシ・ポスターで募った健康な中高年の日本人で、当初48人(男性11人・女性37人)が同意しましたが、採血できなかった2人・自己都合で辞退した2人・体調により継続できなかった1人を除く43人(男性10人・女性33人、平均年齢67.3±8.0歳)が12週間のプログラムを完了しました。
トレーニングは週2回・12週間、専門スタッフの監督下で実施され、スクワット・腕立て伏せ・クランチ・ヒップリフト・かかと上げ・スプリットスクワット・ゴムバンドを使ったシーテッドロー/ショルダープレス/アームカールの計9種目で構成されています。最初の2週間は4種目を8回×3セットから始め、2週間ごとに種目数・回数を増やし休憩時間を短くして負荷を高めていく方式でした。動作は3秒で下ろし3秒で上げる、いわゆるゆっくりとした動きが指示されています。
測定したのは、10m歩行にかかった時間から算出した「通常の歩く速さ」と「最大の歩く速さ」、血液検査(総タンパク・アルブミン・f(HMA)・遊離アミノ酸・血糖・脂質など)、簡易型の食事調査票(BDHQ)によるタンパク質・脂質・炭水化物の摂取量、体組成(体成分分析装置)です。
結果① 歩く速さそのものは、平均で見ると有意には変わらなかった
| 項目 | 介入前 | 介入後 | P値 |
|---|---|---|---|
| 通常の歩く速さ(m/s) | 1.44±0.17 | 1.41±0.16 | 0.241(有意差なし) |
| 最大の歩く速さ(m/s) | 1.90±0.21 | 1.95±0.24 | 0.079(有意差なし) |
| アルブミン(g/dL) | 4.5±0.2 | 4.3±0.2 | <0.001(有意に低下) |
| f(HMA)(%) | 71.29±3.81 | 72.84±3.58 | 0.006(有意に増加) |
| HDLコレステロール(mg/dL) | 64.3±16.9 | 67.3±16.7 | 0.041(有意に増加) |
| 1日のタンパク質摂取量(g/kg/日) | 1.54±0.43 | 1.51±0.48 | 0.427(有意差なし) |
数値は平均値±標準偏差。論文Table 1より抜粋。f(HMA)=血清アルブミンのうち還元型(メルカプトアルブミン)が占める割合。
この論文のタイトルだけを見ると「筋トレは身体機能を改善する」という前提で書かれているように読めますが、実際に表を確認すると、通常の歩く速さは平均でわずかに遅くなり(1.44→1.41m/s)、最大の歩く速さもわずかに速くなった(1.90→1.95m/s)ものの、どちらも統計的に有意な変化ではありませんでした。有意に変化したのはf(HMA)・アルブミン・HDLコレステロールの3つの血液指標と、体重・体脂肪などの体組成の一部(論文の別表)のみで、身体機能の直接の指標である歩く速さは、平均としては動きませんでした。
結果② トレーニング前の時点で、f(HMA)の高さと歩く速さには関連があった
| 血液の指標 | 通常の歩く速さとの関連(β) | P値 | 最大の歩く速さとの関連(β) | P値 |
|---|---|---|---|---|
| f(HMA) | 0.326 | 0.045(有意) | 0.331 | 0.036(有意) |
| アルブミン濃度 | 0.079 | 0.640 | 0.000 | 0.999 |
| 総タンパク | −0.058 | 0.732 | −0.090 | 0.587 |
年齢・性別で調整した多変量回帰分析。論文Table 2より抜粋(遊離アミノ酸・分岐鎖アミノ酸は本文参照)。
介入を始める前の時点で、f(HMA)が高い人ほど通常の歩く速さも最大の歩く速さも速いという関連が見られました。一方、アルブミンの濃度そのものや総タンパクの濃度には、歩く速さとの関連が見られませんでした。論文はこれを「f(HMA)は、アルブミン濃度よりも身体機能に敏感な指標かもしれない」という仮説の根拠にしています。
結果③ 12週間の変化のうち、相関したのはf(HMA)の変化率と最大歩行速度の変化率だけ
| 血液の指標の変化率 | 通常歩行速度の変化率との関連(β) | P値 | 最大歩行速度の変化率との関連(β) | P値 |
|---|---|---|---|---|
| f(HMA) | 0.176 | 0.282 | 0.456 | 0.004(有意) |
| アルブミン濃度 | 0.092 | 0.565 | 0.006 | 0.969 |
| 総タンパク | 0.111 | 0.493 | −0.220 | 0.181 |
年齢・性別で調整した多変量回帰分析。論文Table 3より抜粋。
ここが論文の核心部分です。12週間でf(HMA)が大きく増えた人ほど、最大歩行速度の伸び率も大きい、という相関が確認されました(通常歩行速度との相関は有意ではありませんでした)。ただしこれは「集団平均として歩く速さが上がった」という結果ではなく、「43人の中での個人差の話」です。前の章で見たとおり、集団全体で見ると最大歩行速度の変化自体は統計的に有意ではなかった(P=0.079)ため、この相関は「伸びた人と伸びなかった人の差」を説明する材料であって、「筋トレをすれば歩行速度が伸びる」ことを証明するものではありません。
資金と利益相反
- 資金は科学技術振興機構(JST)のCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラムと森永乳業株式会社から提供されています。
- 著者6人のうち3人(第一著者を含む)は森永乳業の社員です。論文は「資金提供者(森永乳業)は研究デザイン・データ収集・分析・解釈・論文執筆・投稿判断のすべてに関与した」と明記しています。
- 共同責任著者は2名で、町田修一先生(順天堂大学スポーツ健康科学部 教授)と、森永乳業ヘルスケア&ニュートリション研究所に所属する研究者(ローマ字表記のみ確認でき、漢字は未確認のため氏名は伏せます)です。
この研究が言えないこと
- 対照群のない単群の前後比較です。加齢・季節・測定への慣れなど、筋トレ以外の要因を除外できていません。著者ら自身も「今後は対照群を設けた研究が必要」と述べています。
- サンプルサイズは43人と小さく、女性33人・男性10人と女性に大きく偏っています。年齢・性別を調整変数には入れていますが、性別ごとの詳しい分析(サブグループ解析)は「人数が少なく実施できなかった」と論文が明記しています。
- 肝心の「歩く速さ」そのものは、通常歩行速度も最大歩行速度も、12週間の前後で統計的に有意な変化が確認されませんでした(それぞれP=0.241、P=0.079)。血液の指標と相関したのは、あくまで個人ごとの変化率のばらつきです。
- アルブミンの濃度がなぜ低下したのか、論文自身も原因を明らかにできていません。「低下後も臨床的な基準値(3.5g/dL)を下回っていない」とは書かれていますが、理由は推測にとどまっています。
- f(HMA)の変化が筋トレそのものによるものか、栄養状態など他の要因によるものかを切り分ける実験設計にはなっていません。食事のタンパク質摂取量は介入前後で有意に変化していない、と報告されていますが、酸化ストレスの直接の指標(活性酸素関連マーカーなど)は測定されておらず、なぜf(HMA)が増えたのかのメカニズムは論文の考察でも推測の域を出ません。
- 対象は「健康で運動プログラムに自発的に参加した、地域在住の中高年」です。フレイルやサルコペニアがすでにある人、体力的にもっと衰えた人にも同じ結果が当てはまるかは分かりません。
- 参加者はもともと歩く速さが比較的速い集団でした。平均で通常歩行速度1.44m/s・最大歩行速度1.90m/sは、AWGS(アジアサルコペニアワーキンググループ)2019年基準の歩行速度低下の目安(1.0m/s未満)を大きく上回ります。すでに高い数値はそれ以上伸びにくい「天井効果」が働いていた可能性があり、歩行速度が目立って変化しなかった一因かもしれません(ただしこれは論文に明記された解釈ではなく、記事側の推測です)。
- 資金提供元の企業(森永乳業)の社員が著者6人中3人を占め、資金提供者が研究デザインから投稿判断まで関与したと論文自身が開示しています。不正を疑う根拠ではありませんが、読む際は念頭に置く情報です。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
今回のデータで一番印象的なのは、「12週間の筋トレを行っても、歩く速さの平均値そのものは目立って変わらなかった」という点です。ロコモ予防のための軽い負荷の運動を週2回・12週間行っても、通常歩行速度の平均はほぼ横ばい(1.44→1.41m/s)、最大歩行速度もわずかな伸び(1.90→1.95m/s、有意差なし)にとどまりました。
ただし、これは「筋トレに意味がない」ということではないと考えます。この研究の参加者はもともと歩く速さがかなり速い、比較的元気な中高年でした。すでに高い数値からさらに伸ばすのは難しい(天井効果)可能性があり、歩行速度がもともと遅い人・体力が落ち始めている人であれば、また違う結果が出たかもしれません。実際、論文が引用する先行研究では、フレイルの傾向がある高齢者を対象にした筋トレ介入で歩行速度が伸びたと報告されている例もあります。
血液の質的指標であるf(HMA)が、見た目の体力の変化よりも先に反応していたかもしれない、という見立ては仮説としては面白いところです。ただし、これをもって「筋トレの効果を血液検査で先取りできる」と言い切るのは早計です。対照群のない43人の予備的な研究であることを踏まえ、あくまで「今後の研究で確かめるべき仮説」として読むのが妥当だと感じます。
まとめ
- 順天堂大学と森永乳業の研究チームが、ロコモ予防を目的にした12週間の低負荷筋トレプログラムに参加した中高年43人を対象に、歩く速さと血液中のアルブミンの状態の変化を調べました。
- 通常の歩く速さも最大の歩く速さも、集団平均としては統計的に有意な変化が確認されませんでした。
- 有意に変化したのは、血清アルブミンの「質」を示す指標f(HMA)の増加(P=0.006)と、アルブミン濃度そのものの低下(P<0.001)でした。
- 「f(HMA)の変化率」と「最大歩行速度の変化率」には相関がありましたが(P=0.004)、これは個人差についての相関であり、筋トレが歩行速度を底上げしたことを示す結果ではありません。
- 対照群のない単群研究・サンプルサイズ43人・資金提供元の社員が著者に含まれる、といった限界を踏まえて読む必要があります。
出典(一次資料)
- Shibasaki T, Nakamura H, Kurosaka Y, Sawada S, Miyaji K, Machida S. The effect of resistance training on physical function is associated with changes in serum albumin redox state in middle-aged and older Japanese adults: a Quasi-experimental study. Front Physiol. 2025;16:1649300. doi:10.3389/fphys.2025.1649300 全文(PMC12485620)