この記事の要点
- ブルガリアンスクワット(後ろ脚を台に乗せて行うスプリットスクワット。論文内の呼び方はRFESS)と、通常の両脚のバックスクワット(DLBS)を、それぞれ10RM(10回がぎりぎり反復できる重さ)という同じ相対的な強度で比べた研究です。国際武道大学と順天堂大学の共同研究で、男子大学ラグビー選手8人が対象です。
- 股関節を伸ばす方向に働く負荷の指標(股関節伸展モーメント)は、最下点でRFESSのほうが44%大きく、動作中のピーク値では47%大きいという結果でした(いずれもp<0.01)。
- ここが意外な点です。RFESSは片脚で支えるぶん扱える重量そのものは軽くなるのに、股関節への負荷はむしろ増えていました。
- 股関節を外に開く方向(外転)・外にねじる方向(外旋)のモーメントも、最下点ではRFESSのほうが大きい結果でした。
- 論文はこの理由を「両脚で支えるDLBSでは、股関節が発揮できるモーメントの大きさそのものが、本来の筋力から期待される値より抑えられている可能性がある」と考察しています。
- 対象は男子大学ラグビー選手8人のみで、両種目とも4か月間トレーニングに組み込んだあとの測定です。数値の一般化には注意が必要です。
「ブルガリアンスクワットはお尻に負荷が乗りやすい種目」という説明は、フィットネス系の記事や動画でよく見かけます。以前の記事では、その理由の一つとして後ろ脚そのものが抵抗を生んでいることを、国際武道大学と順天堂大学の研究チームが実測した結果を読みました。
今回読む研究は、同じ研究チームによる別の論文です。切り口が少し違います。ブルガリアンスクワット単体を分解するのではなく、普通の両脚のバックスクワットと直接比べたら、股関節への負荷はどちらが大きいのかを測っています。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Arakawa H, Mori M, Tanimoto M. “Greater Hip Moments in Rear-Foot-Elevated Split Squats Than in Conventional Back Squats With the Same Relative Intensity of Loads.” J Strength Cond Res 2023;37(5):1009-1016. doi:10.1519/JSC.0000000000004351 |
| 所属 | 国際武道大学体育学部(荒川裕志先生・論文発表時の所属。現在は亜細亜大学健康スポーツ学部教授)、順天堂大学スポーツ健康科学部(谷本道哉先生) |
| 対象 | 男子大学ラグビー選手8人 両種目とも4か月間、負荷を漸増させながらトレーニングに組み込んだうえで測定 |
| 測定 | 3次元モーションキャプチャ+フォースプレート(床反力計)。得られたデータから逆動力学(=身体の動きと外力から、関節にかかる力を逆算する計算方法)で関節モーメントを算出 |
| 入手性 | 非オープンアクセス(抄録のみ確認。本文は購読が必要で、絶対値の数値や統計手法の詳細、資金源の開示は確認できていません) |
谷本道哉先生は、近畿大学生物理工学部を経て、現在は順天堂大学スポーツ健康科学部の教授を務めています。この論文の発表時(2023年)は同学部の先任准教授でした。
設計=「同じ相対強度」で比べる
この研究の核心は比較のしかたにあります。RFESSとDLBSを、同じ絶対重量ではなく同じ相対強度(それぞれの種目での10RM)で比べています。
これは実際のトレーニングに近い設定です。誰かがジムでRFESSとバックスクワットを両方やるとき、同じ絶対重量を担ぐわけではありません。それぞれの種目で「10回がぎりぎりの重さ」を選ぶはずです。RFESSは片脚で支える分、同じ10RMでも扱える絶対重量はDLBSより軽くなります。
被験者は男子大学ラグビー選手8人。3次元モーションキャプチャとフォースプレートを使い、それぞれの種目で10RM負荷を担いだときの3回の反復を計測し、逆動力学の手法で膝関節・股関節にかかる3方向のモーメントを計算しています。
結果① 最下点の股関節伸展モーメント:RFESSが44%大きい
| 比較 | 結果 | 統計 |
|---|---|---|
| DLBS(通常のバックスクワット) | 基準 | p<0.01 |
| RFESS(ブルガリアンスクワット) | 44%大きい |
スクワットの一番深い位置(最下点)で、股関節を伸ばす方向に働くモーメントを比べると、RFESSのほうが44%大きいという結果でした。統計的にも有意な差です(p<0.01)。
抄録には割合の数値のみが示されており、Nm単位での絶対値は記載されていません。この記事では論文が報告している割合の範囲でお伝えします。
結果② 動作中のピーク値:RFESSが47%大きい
| 比較 | 結果 | 統計 |
|---|---|---|
| DLBS | 基準 | p<0.01 |
| RFESS | 47%大きい |
最下点だけでなく、動作全体を通じたピーク値(調和平均という統計処理をした値)で比べても、RFESSのほうが47%大きい結果でした。最下点とピーク値、どちらで見てもRFESSが上回っています。
結果③ 外に開く・ねじる方向の負荷もRFESSが上回る
| 方向 | 意味 | 結果 |
|---|---|---|
| 股関節の外転モーメント | 股関節を外側に開く方向への負荷 | 最下点でRFESSのほうが大きい |
| 股関節の外旋モーメント | 股関節を外側にねじる方向への負荷 | 最下点でRFESSのほうが大きい |
抄録にはこの2方向について具体的な割合は書かれておらず、「DLBSより大きかった」という記述のみです。伸展方向の負荷が増えるだけでなく、股関節を安定させる周辺の筋にもより多くの仕事が要求されている可能性があります。
論文はこれらの結果から、「両脚で支えるDLBSでは、股関節伸展筋が本来の筋力から期待されるほどのモーメントを発揮できていない可能性がある」と考察しています。片脚に集中する種目のほうが、股関節の伸展筋をより強く働かせる、という解釈です。ただしこれは考察であり、筋電図などで直接確かめられたものではありません。
この研究が言えないこと
1. 男子大学ラグビー選手8人のみの結果
被験者は8人、全員が男子大学ラグビー選手です。女性、高齢者、他競技の選手、トレーニング未経験者に同じ差が出るかどうかは、この研究だけでは分かりません。
2. 「同じ相対強度」の比較であって「同じ重量」の比較ではない
これは冒頭に書いた設計上の特徴ですが、限界としても働きます。RFESSのほうが股関節への負荷が大きいという結果は、絶対的に扱う重量が軽いという条件のもとでの話です。RFESSとDLBSに同じ絶対重量を載せた場合にどうなるかは、この研究の対象外です。
3. 上体の傾きの違いが交絡している可能性
RFESSはDLBSより上体が起きた姿勢になりやすい種目です。上体の起こし方の違いが結果にどこまで影響しているのかは、この論文の設計だけでは切り分けられません。姉妹研究(後述)では上体の角度を意図的に変えて比較していますが、今回の論文は自然な動作どうしの比較です。
4. 力学的な負荷の測定であって、トレーニング効果の測定ではない
測定されたのは、10回のうち3回の反復における関節モーメントという力学的な指標です。この負荷を続けたときに筋肉がどれだけ増えるか、筋力がどれだけ向上するかは、この研究では一切調べられていません。「負荷が大きい」と「効果が大きい」は別の話です。
5. 十分に慣れたあとの測定
両種目とも、測定前に4か月間トレーニングに組み込まれています。動作に慣れていない人が同じ種目を初めて行った場合に、同じ差が出るとは限りません。
6. 膝関節の詳細な比較は抄録に記載がない
論文は膝関節のモーメントも測定していますが、抄録には「DLBSでは股関節のモーメントが制限される傾向がある」という考察の文脈で触れられているのみで、膝関節側の具体的な数値やRFESSとの比較は書かれていません。
7. 抄録だけでは確認できないこと
非オープンアクセスのため本文を確認できず、Nm単位の絶対値、被験者の体格や競技レベルの詳細、資金源や利益相反の開示は、この記事の時点では確認できていません。
姉妹研究との関係=もう一つの視点
同じ研究チーム(荒川裕志先生・谷本道哉先生ら)は、ブルガリアンスクワット単体を対象にした別の研究も発表しています。そちらは自重のみで、上体の角度とスタンス幅を変えながら、前脚の股関節にかかる抵抗のうち後ろ脚が生む分を分解した研究でした(後ろ脚由来の抵抗が62〜98%を占めていたという結果)。
今回の研究は、その後ろ脚を上げる動作そのものを、通常のバックスクワットと直接比較しています。対象も自重ではなく10RMの外的負荷、被験者も男子大学ラグビー選手という点で条件が異なります。二つの研究を重ねると、「後ろ脚を上げる」という一つの動作変更が、股関節への負荷を複数の角度から増やしている可能性が見えてきます。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- 同じ10RMという強度で比べても、ブルガリアンスクワットは股関節への負荷が大きくなる可能性があるという結果でした(最下点44%・ピーク値47%)。
- ただし扱う絶対重量そのものは軽くなります。バーベルに乗せる重量の数字が小さくなることに抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、この研究の結果を踏まえると、その軽さと股関節への負荷は必ずしも一致しません。
- 股関節を中心に働かせたいときの選択肢の一つとして考えられますが、これは力学的な負荷の話であり、筋肥大や筋力向上を保証するものではありません。
- 股関節の外転・外旋方向の負荷も増えている可能性がある点は、片脚でバランスを取る種目特有の負荷として、股関節周辺の安定性を求める場合には意識してよい情報だと思います。
- 数字そのものは男子大学ラグビー選手8人・十分に慣れたあとの測定値であり、そのまま自分に当てはまるとは限りません。
まとめ
同じ相対強度(10RM)で比べたとき、ブルガリアンスクワット(RFESS)はバックスクワット(DLBS)より股関節伸展モーメントが最下点で44%、ピーク値で47%大きいという結果でした。扱う絶対重量が軽くなるにもかかわらず、股関節への負荷は増えるという、直感に反する結果です。
一方で、対象は男子大学ラグビー選手8人のみ、上体の傾きの違いという交絡因子も残っており、測定されたのは力学的な負荷であってトレーニング効果そのものではありません。「股関節への負荷が大きい」と単純に言い切れる結果ではなく、そこまで含めて読む必要がある論文だと思います。