この記事の要点
- スクワットの左右差を、左右の足それぞれの下に力板を置いて測った東京大学の研究です。対象は走幅跳選手18人。
- 床反力(踏んでいる力そのもの)には左右差がありませんでした。垂直方向も水平方向も、どの負荷でも差なしです。
- ところが股関節の最大屈曲角度とピークトルクには、全ての負荷条件で有意差がありました(p<0.05)。90%3RMでは足関節のトルクにも差が出ています。
- つまり「同じだけ踏んでいるのに、関節にかかっている負担は左右で違う」。外から見えない左右差です。
- 同じグループの別研究では、等速性の膝筋力そのものには左右差がなかったのに、その左右差の指標が片脚ジャンプの動作の左右差と有意に相関していました。
- いずれも競技者を対象とした少人数の研究で、抄録のみの公開です。一般のトレーニング実践者にそのまま当てはまるとは言えません。
スクワットをしているとき、自分が左右均等に力を出せているかどうかを確かめる方法はあるでしょうか。
よくある確認方法は「バーが傾いていないか」「左右にぶれていないか」を見ることです。それで問題がなければ均等だと考えたくなります。
今回読む研究は、その前提を静かに崩します。踏んでいる力は左右同じなのに、関節にかかるトルクは違っていたという結果だからです。
読む一次資料
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文① | Kobayashi Y, Kubo J, Matsuo A, Matsubayashi T, Kobayashi K, Ishii N. “Bilateral asymmetry in joint torque during squat exercise performed by long jumpers.” J Strength Cond Res 2010;24(10):2826-2830 |
| 論文② | Kobayashi Y, Kubo J, Matsubayashi T, Matsuo A, Kobayashi K, Ishii N. “Relationship between bilateral differences in single-leg jumps and asymmetry in isokinetic knee strength.” J Appl Biomech 2013;29(1):61-67 |
| 所属 | 東京大学大学院新領域創成科学研究科(①の筆頭著者)、国立スポーツ科学センター(②の筆頭著者) |
| 共著者 | 小林寛道(東京大学名誉教授)、石井直方 |
| 入手性 | いずれも有料(抄録のみ) |
2本とも有料で、読めるのは抄録だけです。以下の内容はすべて抄録に書かれている範囲であり、それ以上の詳細(左右差の実数値、選手の記録水準など)は確認できません。その前提でお読みください。
共著者の小林寛道氏は東京大学名誉教授で、動作の質(QOM)に着目した認知動作型トレーニングマシンの開発で知られる研究者です。石井直方氏についてはスロートレーニングの記事でも扱いました。
① 設計──足ごとに力板を置く
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 走幅跳選手18人 |
| 課題 | スクワット3回を、3RMの50%・70%・90%の3条件で実施 |
| 動作計測 | Vicon モーションキャプチャシステム |
| 力の計測 | 力板2枚(左右の足の下に1枚ずつ) |
| 算出 | 逆動力学により股・膝・足関節の角度とトルクを計算 |
設計の勘所は力板を2枚使ったことです。1枚だと左右の合計しか分かりません。2枚に分ければ、右足と左足がそれぞれどれだけ踏んでいるかが別々に取れます。
対象が走幅跳選手であることにも意味があります。走幅跳には踏切脚と非踏切脚という、明確に役割の違う2本の脚があります。左右差が生じているとすれば見つけやすい集団です。
② 床反力には差がなかった
| 指標 | 踏切脚 vs 非踏切脚 |
|---|---|
| 床反力のピーク(垂直方向) | どの負荷条件でも差なし |
| 床反力のピーク(水平方向) | どの負荷条件でも差なし |
50%でも70%でも90%でも、左右の足が地面を押している力は同じでした。
体重計を2台並べてスクワットをしたら、左右で同じ数値が出る、というイメージです。ここだけを見れば「左右均等にできている」と判断してしまうところです。
③ 関節トルクには差があった
| 指標 | 結果 |
|---|---|
| 股関節の最大屈曲角度 | 全ての負荷条件で有意差(p<0.05) |
| 股関節のピークトルク | 全ての負荷条件で有意差(p<0.05) |
| 足関節のピークトルク | 90%3RMでのみ踏切脚が非踏切脚より大きい |
同じ力で踏んでいるのに、股関節の曲がり方が左右で違い、股関節にかかるトルクも違っていた。
力が同じでもトルクが違うのは、力のかかる方向と関節の位置関係(モーメントアーム)が左右で違うからです。同じだけ踏んでいても、体の使い方が違えば、どの関節にどれだけ負担が来るかは変わります。
さらに、足関節の差は90%という最も重い条件でのみ現れました。重くなるほど左右差が表に出やすい、という読み方ができます。
論文の結論はこうです。「走幅跳選手がスクワットを行うとき、関節トルクは左右非対称になり得る。傷害リスクを下げようとする際には、この点を考慮すべきである」。
④ 筋力に左右差がなくても、動作には出る
同じグループの2013年の研究は、別の角度から同じ問題に迫っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 男性11人 |
| 測定 | 等速性の膝筋力/腕振りなしの片脚ジャンプの動作解析 |
| 解析 | 各指標について左右非対称性指数を算出 |
| 結果 | 内容 |
|---|---|
| 膝筋力そのもの | 利き脚と非利き脚で有意差なし |
| 左右差どうしの相関 | 180度/秒の膝筋力の非対称性指数と、片脚ジャンプの最大屈曲角度・平均膝関節トルクの非対称性指数に有意な相関 |
| ジャンプ高との関係 | 膝筋力とジャンプ高の間に関係は見られなかった |
筋力の絶対値を左右で比べても差は出ない。ところが「左右差の程度」という指標で見ると、それは動作の左右差と結びついていた。
そしてジャンプの高さは膝筋力とは関係していませんでした。パフォーマンスの指標だけを見ていても、左右差の問題は見えてこない、ということになります。
この2本が言えないこと
1. 左右差がどれだけ悪いのかは調べていない
これが最も重要な限界です。①は「左右差が存在する」ことを示しただけで、その左右差が実際に怪我につながったかどうかは追跡していません。結論の「傷害リスクを下げる際に考慮すべき」は、あくまで示唆であって、因果関係の証明ではありません。
2. 左右差をなくす方法は示していない
どうすれば左右差が減るのか、減らすと何が良くなるのかは、どちらの研究も扱っていません。介入研究ではないからです。
3. 対象が特殊
①は走幅跳選手です。踏切脚と非踏切脚が明確に分化している集団で、一般のトレーニング実践者とは前提が違います。②は男性11人で、競技レベルは抄録からは分かりません。
4. 人数が少ない
18人と11人です。特に②は11人で、相関の検定としては小さな規模です。相関があったからといって、片方がもう片方を引き起こしているとは言えません。
5. 女性が含まれていない
②は男性のみ、①は抄録に性別の記載がありません。
6. 抄録のみ
左右差の実数値(何%違ったのか)が確認できないため、差の大きさが実践上どれだけ意味があるのかは判断できません。「有意差あり」は「差がゼロではない」という意味であって、「差が大きい」という意味ではありません。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- 「バーが傾いていないから均等」とは言えない。この研究では床反力が左右同じでも、股関節のトルクには差がありました。外から見て分かる情報には限りがあるということです。
- 重くなるほど差は出やすいかもしれない。足関節の左右差は90%3RMでのみ現れました。ただし1つの関節での1つの所見です。
- 筋力測定で左右差がなくても安心はできない。②では膝筋力そのものに左右差はなく、それでも動作の左右差と相関する指標がありました。
- 左右差の程度には個人差があります。抄録には実数値が載っていないため、どの程度の差だったのかは確認できません。有意差があったことと、差が大きかったことは別だとされています。
- とはいえ左右差が悪いとは示されていない。ここは慎重に読むべきところで、この2本はいずれも「差がある」ことを示したにとどまります。左右差の是正が怪我を減らすかどうかは、別の研究が必要です。
まとめ
走幅跳選手18人が3RMの50〜90%でスクワットを行ったとき、左右の足が地面を押す力には差がありませんでした。一方で股関節の最大屈曲角度とピークトルクには、全ての負荷条件で有意な左右差がありました。90%では足関節のトルクにも差が出ています。
同じグループの別研究では、等速性膝筋力そのものに左右差はないのに、その左右差の指標が片脚ジャンプの動作の左右差と相関していました。
対象は競技者、人数は18人と11人、いずれも抄録のみ、そして左右差が怪我につながるかは調べられていません。それでも「同じだけ踏んでいても、関節への負担は左右で違い得る」という一点は、スクワットという動作の見方を少し変えてくれると思います。