この記事の要点
- スロートレーニング(LST)は高強度トレーニングの「代わり」になるのか。谷本道哉・石井直方らが同じ被験者群で直接比較した3本の論文を読みます。
- 2006年の研究には、答えの鍵になる第3の群がありました。同じ軽さで、普通の速さで、仕事量まで揃えた群です。この群は筋肉も筋力も有意に増えませんでした。効いていたのは「軽さ」ではなく「動かし方」だった、と読めます。
- 全身5種目・13週間の比較では、筋厚がLST+6.8%/高強度+9.1%、1RM合計がLST+33.0%/高強度+41.2%。論文は「同等」と結論していますが、平均値では一貫して高強度が上です。
- 同じ36人での血流測定では、大腿の安静時血流がLST+18%、高強度+35%。論文自身が「LSTの増加は高強度の約半分に相当する」と書いています。
前回の記事では「軽い重量でもゆっくり動かせば筋肉は増えるのか」を扱いました。答えは概ね「増える」でした。
しかし実践者が本当に知りたいのは、その次の問いだと思います。どれくらい増えるのか。高強度の代わりになるのか。
この問いに、同じ研究グループが正面から答えている論文が3本あります。いずれも高強度群を同時に走らせた直接比較です。
読む一次資料
| # | 論文 | 設計 | 入手性 |
|---|---|---|---|
| ① | Tanimoto M, Ishii N. J Appl Physiol 2006;100(4):1150-1157 | 若年男性24人・3群(n=8ずつ) 膝伸展のみ・週3回・12週間 | 有料(抄録のみ) |
| ② | Tanimoto M, Sanada K, ほか, Ishii N, Miyachi M. J Strength Cond Res 2008;22(6):1926-1938 | 若年男性36人・3群(n=12ずつ) 全身5種目・週2回・13週間 | 有料(抄録のみ) |
| ③ | Tanimoto M, ほか, Ishii N, Tabata I, Miyachi M. Clin Physiol Funct Imaging 2009;29(2):128-135 | ②と同じ36人の血流測定 | 有料(抄録のみ) |
3本とも有料で、読めるのは抄録だけです。以下の数値はすべて抄録に記載されている範囲であり、脱落者の詳細や食事管理の内容までは確認できません。その前提でお読みください。
① 鍵は「第3の群」にあった
2006年の研究で最も重要なのは、群が2つではなく3つだったことです。
| 群 | 強度 | 動かし方 |
|---|---|---|
| LST(スロトレ) | 約50%1RM | 上げ3秒・下ろし3秒・1秒静止、脱力の局面なし |
| HN(高強度・通常速度) | 約80%1RM | 上げ1秒・下ろし1秒・1秒の脱力あり |
| LN(軽い・通常速度) | LSTと同じ強度 | HNと同じ速さ。さらに仕事量までLSTに合わせた |
LN群の存在が効いています。LSTと同じ軽さで、同じ仕事量で、動かし方だけが違う。この群がどうなるかで、「軽い負荷でも変化が起きた理由」が絞り込めます。
膝伸展を3セット、週3回、12週間。結果はこうでした。
| 群 | MRIによる筋横断面積 | 等尺性最大筋力 |
|---|---|---|
| LST | 有意に増加(p<0.05) | 有意に増加(p<0.05) |
| HN | 有意に増加(p<0.05) | 有意に増加(p<0.05) |
| LN | 有意な変化なし | 有意な変化なし |
同じ軽さでも、普通に速く動かして脱力を挟めば、12週間やっても有意な変化は出なかった。効いていたのは負荷の軽さではなく、力を抜かずに持続させる動かし方だったという読み取りになります。
抄録には、その場で測った生理学的な指標も書かれています。筋電図と近赤外分光法の分析で、LSTを1回行うと3つの中で最も長く筋活動が持続し、最も大きな筋の脱酸素化が起きた。論文は「筋内の酸素環境が運動による筋肥大にとって重要である可能性を示唆する」と結論しています。
② 全身5種目で13週間──数字を並べる
2006年の研究は膝伸展だけでした。「1種目・1つの筋群」の話です。そこで同じグループは、36人・全身5種目(垂直スクワット、チェストプレス、ラットプルダウン、腹筋、背筋伸展)で13週間の比較を行いました。
| LST | HN(高強度) | CON(対照) | |
|---|---|---|---|
| 強度 | 約55-60%1RM | 約80-90%1RM | — |
| 人数 | 12人 | 12人 | 12人 |
| 全身の筋厚(6部位の合計) | +6.8 ± 3.4% | +9.1 ± 4.2% | 変化なし |
| 1RMの合計(5種目) | +33.0 ± 8.8% | +41.2 ± 7.6% | 変化なし |
論文の結論は「全身のLSTは、高強度トレーニングと同等に筋肥大と筋力向上に有効である」です。
ただし数字を素直に見れば、平均値は2項目とも高強度が上です。筋厚でLSTは高強度の約75%、1RM合計で約80%に相当します。「同等」という言葉は、統計的に有意な差が出なかったことを指しています。「まったく同じだけ増えた」という意味ではありません。
そして、どちらの群も平均反復回数は8RMでした。50-60%1RMでも8回で限界が来るように動かしている、ということです。ここは見落とされやすい点だと思います。スロトレは「楽な方法」ではなく、軽い重量で8回が限界になるまで追い込む方法です。
③ 血流では約半分だった
3本目は、②と同じ36人を対象に大腿の安静時血流を測ったものです。
| 群 | 大腿の安静時血流 |
|---|---|
| LST | +18%(p<0.05) |
| HN(高強度) | +35%(p<0.05) |
| CON | 変化なし |
抄録は明確です。「LSTとHNによる増加の間に有意差はなかった。ただしLSTの増加はHNの約半分に相当した」。
「有意差はなかった」と「約半分だった」が同じ文に並んでいる。研究者としては誠実な書き方ですが、読む側は両方を持ち帰る必要があります。統計的に差と言えなかったことは、実際に同じだったことを意味しません。
この3本が言えないこと
1. 対象がすべて「トレーニング未経験の若年男性」
3本とも、定期的なレジスタンストレーニングの経験がない健康な若い男性です。未経験者は何をやってもある程度伸びます。経験者で同じ差になるかは、この3本からは分かりません。女性も高齢者も含まれていません。
2. 人数が少ない
①はn=8×3群、②③はn=12×3群です。「有意差が出なかった」という結論は、この人数で検出できなかったという意味を含みます。差がないことの証明ではありません。
3. 期間が12〜13週間しかない
3か月弱です。半年、1年と続けたときに差が広がるのか、縮まるのか、頭打ちになるのかは調べられていません。
4. 「LN群が増えなかった」は条件付き
LN群は仕事量をLSTに揃えられていました。つまり「軽い重量を、限界まで反復させたら」どうなるかは試されていません。近年は軽い重量でも限界まで追い込めば筋肥大が起こるという報告もあります。この研究のLN群は「軽く、速く、しかも量も少なめ」という条件です。
5. 血流の意味までは示していない
③が測ったのは安静時の血流量です。それが健康上どんな帰結をもたらすかまでは、この研究は追跡していません。
6. 3本とも抄録のみ
本文が読めないため、脱落者、食事、トレーニング以外の身体活動といった交絡の扱いは確認できていません。
実践の視点から
筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。
- 「代わりになるか」への一次資料からの答えは、「かなり近いところまでは行くが、平均では届いていない」。筋厚で約75%、1RMで約80%、血流で約50%です。
- 効いているのは軽さではなく動かし方。同じ軽さで速く動かしたLN群は12週間やっても有意な変化がありませんでした。ゆっくり動かすこと自体ではなく、脱力の局面を作らないことが設計の核心です。
- スロトレは楽ではない。両群とも8RM相当で追い込んでいます。「軽いから安全で楽」という理解は、この研究の設計とは違います。
- 高強度を扱えない事情がある人には有力な選択肢。関節に不安がある、重い器具が使えないといった条件下で、8割前後の効果が見込めるなら十分意味があると思います。
まとめ
谷本道哉・石井直方らの3本を並べると、スロートレーニングの位置づけが数字で見えてきます。筋厚+6.8%対+9.1%、1RM合計+33.0%対+41.2%、安静時血流+18%対+35%。いずれも統計的な有意差はつかず、論文は「同等」と結論しています。それでも平均値は一貫して高強度が上でした。
同時に、同じ軽さで速く動かしたLN群が12週間で有意な変化を示さなかったという事実は、この方法の核心を教えてくれます。重さを下げてよいのは、力を抜かない限りにおいてです。
対象はトレーニング未経験の若年男性のみ、期間は3か月弱、人数は各群8〜12人。ここから断定できることは多くありませんが、「どれくらい代わりになるか」を数字で持っておく価値はあると思います。