研究ノート · スロートレーニング

スロトレは高強度の代わりになるのか──谷本道哉・石井直方らの直接比較3本を一次資料で読む

公開日: 2026-08-20 · 約6分で読めます

ヒロ

執筆・編集:ヒロ

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この記事の要点

  • スロートレーニング(LST)は高強度トレーニングの「代わり」になるのか。谷本道哉・石井直方らが同じ被験者群で直接比較した3本の論文を読みます。
  • 2006年の研究には、答えの鍵になる第3の群がありました。同じ軽さで、普通の速さで、仕事量まで揃えた群です。この群は筋肉も筋力も有意に増えませんでした。効いていたのは「軽さ」ではなく「動かし方」だった、と読めます。
  • 全身5種目・13週間の比較では、筋厚がLST+6.8%/高強度+9.1%、1RM合計がLST+33.0%/高強度+41.2%。論文は「同等」と結論していますが、平均値では一貫して高強度が上です。
  • 同じ36人での血流測定では、大腿の安静時血流がLST+18%、高強度+35%。論文自身が「LSTの増加は高強度の約半分に相当する」と書いています。

前回の記事では「軽い重量でもゆっくり動かせば筋肉は増えるのか」を扱いました。答えは概ね「増える」でした。

しかし実践者が本当に知りたいのは、その次の問いだと思います。どれくらい増えるのか。高強度の代わりになるのか。

この問いに、同じ研究グループが正面から答えている論文が3本あります。いずれも高強度群を同時に走らせた直接比較です。

読む一次資料

#論文設計入手性
Tanimoto M, Ishii N.
J Appl Physiol 2006;100(4):1150-1157
若年男性24人・3群(n=8ずつ)
膝伸展のみ・週3回・12週間
有料(抄録のみ)
Tanimoto M, Sanada K, ほか, Ishii N, Miyachi M.
J Strength Cond Res 2008;22(6):1926-1938
若年男性36人・3群(n=12ずつ)
全身5種目・週2回・13週間
有料(抄録のみ)
Tanimoto M, ほか, Ishii N, Tabata I, Miyachi M.
Clin Physiol Funct Imaging 2009;29(2):128-135
②と同じ36人の血流測定有料(抄録のみ)

3本とも有料で、読めるのは抄録だけです。以下の数値はすべて抄録に記載されている範囲であり、脱落者の詳細や食事管理の内容までは確認できません。その前提でお読みください。

① 鍵は「第3の群」にあった

2006年の研究で最も重要なのは、群が2つではなく3つだったことです。

強度動かし方
LST(スロトレ)約50%1RM上げ3秒・下ろし3秒・1秒静止、脱力の局面なし
HN(高強度・通常速度)約80%1RM上げ1秒・下ろし1秒・1秒の脱力あり
LN(軽い・通常速度)LSTと同じ強度HNと同じ速さ。さらに仕事量までLSTに合わせた

LN群の存在が効いています。LSTと同じ軽さで、同じ仕事量で、動かし方だけが違う。この群がどうなるかで、「軽い負荷でも変化が起きた理由」が絞り込めます。

膝伸展を3セット、週3回、12週間。結果はこうでした。

MRIによる筋横断面積等尺性最大筋力
LST有意に増加(p<0.05)有意に増加(p<0.05)
HN有意に増加(p<0.05)有意に増加(p<0.05)
LN有意な変化なし有意な変化なし

同じ軽さでも、普通に速く動かして脱力を挟めば、12週間やっても有意な変化は出なかった。効いていたのは負荷の軽さではなく、力を抜かずに持続させる動かし方だったという読み取りになります。

抄録には、その場で測った生理学的な指標も書かれています。筋電図と近赤外分光法の分析で、LSTを1回行うと3つの中で最も長く筋活動が持続し、最も大きな筋の脱酸素化が起きた。論文は「筋内の酸素環境が運動による筋肥大にとって重要である可能性を示唆する」と結論しています。

② 全身5種目で13週間──数字を並べる

2006年の研究は膝伸展だけでした。「1種目・1つの筋群」の話です。そこで同じグループは、36人・全身5種目(垂直スクワット、チェストプレス、ラットプルダウン、腹筋、背筋伸展)で13週間の比較を行いました。

LSTHN(高強度)CON(対照)
強度約55-60%1RM約80-90%1RM
人数12人12人12人
全身の筋厚(6部位の合計)+6.8 ± 3.4%+9.1 ± 4.2%変化なし
1RMの合計(5種目)+33.0 ± 8.8%+41.2 ± 7.6%変化なし

論文の結論は「全身のLSTは、高強度トレーニングと同等に筋肥大と筋力向上に有効である」です。

ただし数字を素直に見れば、平均値は2項目とも高強度が上です。筋厚でLSTは高強度の約75%、1RM合計で約80%に相当します。「同等」という言葉は、統計的に有意な差が出なかったことを指しています。「まったく同じだけ増えた」という意味ではありません。

そして、どちらの群も平均反復回数は8RMでした。50-60%1RMでも8回で限界が来るように動かしている、ということです。ここは見落とされやすい点だと思います。スロトレは「楽な方法」ではなく、軽い重量で8回が限界になるまで追い込む方法です。

③ 血流では約半分だった

3本目は、②と同じ36人を対象に大腿の安静時血流を測ったものです。

大腿の安静時血流
LST+18%(p<0.05)
HN(高強度)+35%(p<0.05)
CON変化なし

抄録は明確です。「LSTとHNによる増加の間に有意差はなかった。ただしLSTの増加はHNの約半分に相当した」。

「有意差はなかった」と「約半分だった」が同じ文に並んでいる。研究者としては誠実な書き方ですが、読む側は両方を持ち帰る必要があります。統計的に差と言えなかったことは、実際に同じだったことを意味しません。

この3本が言えないこと

1. 対象がすべて「トレーニング未経験の若年男性」

3本とも、定期的なレジスタンストレーニングの経験がない健康な若い男性です。未経験者は何をやってもある程度伸びます。経験者で同じ差になるかは、この3本からは分かりません。女性も高齢者も含まれていません。

2. 人数が少ない

①はn=8×3群、②③はn=12×3群です。「有意差が出なかった」という結論は、この人数で検出できなかったという意味を含みます。差がないことの証明ではありません。

3. 期間が12〜13週間しかない

3か月弱です。半年、1年と続けたときに差が広がるのか、縮まるのか、頭打ちになるのかは調べられていません。

4. 「LN群が増えなかった」は条件付き

LN群は仕事量をLSTに揃えられていました。つまり「軽い重量を、限界まで反復させたら」どうなるかは試されていません。近年は軽い重量でも限界まで追い込めば筋肥大が起こるという報告もあります。この研究のLN群は「軽く、速く、しかも量も少なめ」という条件です。

5. 血流の意味までは示していない

③が測ったのは安静時の血流量です。それが健康上どんな帰結をもたらすかまでは、この研究は追跡していません。

6. 3本とも抄録のみ

本文が読めないため、脱落者、食事、トレーニング以外の身体活動といった交絡の扱いは確認できていません。

実践の視点から

筆者はトレーニング歴約40年の実践者ですが、公的な資格は保有していません。以下は資料を読んだうえでの整理であり、指導ではありません。

まとめ

谷本道哉・石井直方らの3本を並べると、スロートレーニングの位置づけが数字で見えてきます。筋厚+6.8%対+9.1%、1RM合計+33.0%対+41.2%、安静時血流+18%対+35%。いずれも統計的な有意差はつかず、論文は「同等」と結論しています。それでも平均値は一貫して高強度が上でした。

同時に、同じ軽さで速く動かしたLN群が12週間で有意な変化を示さなかったという事実は、この方法の核心を教えてくれます。重さを下げてよいのは、力を抜かない限りにおいてです。

対象はトレーニング未経験の若年男性のみ、期間は3か月弱、人数は各群8〜12人。ここから断定できることは多くありませんが、「どれくらい代わりになるか」を数字で持っておく価値はあると思います。

よくある質問

スロートレーニングは高強度トレーニングの代わりになりますか?

全身5種目・13週間の比較では、筋厚がスロー+6.8±3.4%に対し高強度+9.1±4.2%、1RM合計がスロー+33.0±8.8%に対し高強度+41.2±7.6%でした。論文は統計的な有意差がなかったため「同等」と結論していますが、平均値では一貫して高強度が上回っています。筋厚で約75%、1RMで約80%に相当する水準です。

軽い重量でも筋肉が増えるのは、重量が軽いからですか?

2006年の研究には、スロー群と同じ強度・同じ仕事量で普通の速さで行う第3の群(LN群)がありました。この群は12週間で筋横断面積も筋力も有意な変化を示しませんでした。効いていたのは負荷の軽さではなく、脱力の局面を作らずに力を持続させる動かし方だったと読めます。

スロートレーニングは楽な方法ですか?

研究の中では楽ではありません。スロー群も高強度群も平均反復回数は8RM、つまり8回で限界が来る条件に設定されていました。50〜60%1RMという軽い重量でも、脱力せずに動かし続けることで8回が限界になります。

スロートレーニングで血流も増えますか?

36人を対象にした研究で、大腿の安静時血流がスロー群+18%、高強度群+35%と、いずれも有意に増加しました(対照群は変化なし)。両群の増加に有意差はありませんでしたが、論文自身が「スロー群の増加は高強度群の約半分に相当した」と記しています。

この結果は誰にでも当てはまりますか?

当てはまるとは言えません。3本とも対象は定期的なレジスタンストレーニングの経験がない健康な若年男性で、人数は各群8〜12人、期間は12〜13週間です。女性、高齢者、トレーニング経験者は含まれておらず、より長期間続けた場合の差も検証されていません。

「有意差なし」なら同じと考えてよいですか?

同じという意味ではありません。有意差なしは「この人数とばらつきでは差があると言い切れなかった」という意味です。各群8〜12人という規模では、実際に差があっても検出できないことがあります。実際、平均値は3つの指標すべてで高強度が上回っていました。

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